ケンカなんてしていない。

先日は初めて、お互いの役目を考えずプライベートとして二人きりで出かけたし、
それからも勝真は、毎日のように屋敷に誘いに来てくれる。

むしろ、自分が一方的に避けようとしているだけなのだ。

「やっぱり避けてたのか。で? 何が原因なんだよ?」

イサトの相変わらず単刀直入な問いに、花梨はしどろもどろになった。
彼のこういう竹を割ったような性格は好きだし、友達感覚でちょっとした悩み事も相談できる。
だが。

今抱えている悩みだけは言えない。

「なんでだよ!?」

イサトがムッとするのが伝わってくる。

「・・・男の子だから。」

「はあ!?」

「イサト君がお姉ちゃんだったらな・・・。」

あるいは聞いてもらう気になったかもしれない。

「おまっ・・!気持ち悪いこと言うな!!」

イサトはすっかり気分を害されたらしく、そっぽを向いてしまった。
そんな様子に、申し訳ないとは思いつつ、くすりと笑ってしまう。

「神子殿、勝真殿が原因で悩んでおられるのなら、直接ご本人とお話されたほうが良いのではありませんか?」

イサトがリタイアしたのを見て、幸鷹が口を挟んだ。
心配げに、少し小首を傾げている。

「逃げているだけでは何の解決にもなりませんし、避けられている勝真殿もお気の毒ですよ。」

正論である。
彼の言うことが解決への一番の近道であることは、間違いない。
でも。

それが出来ないから、悩んでいるのだ。




勝真と初めてデートしたあの日、キスを求めてきた彼にその先まで進まれそうになって
ものすご〜く焦った。
結局、徹夜続きだった勝真はそのまま眠ってしまい、ホッとしたのだが・・・。

彼につられて眠ってしまった夢の中で、あろうことか、その続きを見てしまったのだ・・・///

目が覚めた直後はすっかり忘れていたのに、夜になって夜具の中に入ったときに、ふとその一端が甦ってきた。
とんでもない情景に唖然となったせいか、その夜はなかなか寝付かれず、
ようやく眠れたと思ったらもう朝で、目はしょぼしょぼするし、
その下には、くっきりとクマが出来ていて、どうみても人前に出られる状態ではない。

そこへ勝真がふらりと現れたものだから、パニックになり慌てて追い返してしまった。


あれからすでに数日。
勝真は毎日のように来てくれていたが、顔を合わせるのがどうしても気恥ずかしくて
なんだかんだと、もっともらしい理由をつけては避けている。

勝真が気の毒だ、というのはもっともなことだと思う。
花梨が勝手に見た夢のせいで避けられているのだから、きっと訳がわからないことだろう。
でも・・・。

(私、女の子なのに・・・。)

知識として知ってはいるが、今までにそんな経験などもちろんない。
それなのに、あのリアルさは何だったのだろう。

恥ずかしいどころの話ではない。
穴があったら入りたい。
それも縦に掘った穴の底から、更に横穴を掘って中に入り、蓋をしたい気分だ。

そんな状態で、勝真に会えるはずもない。






「神子殿、また無口になりましたね。」

黙りこくってしまった花梨をみながら、幸鷹がイサトに小声で囁いた。

「知るかよ、どうせまた、勝真がどうしたとか考えてんだろ? ・・ったく、何が『お姉ちゃん』だよ!
せめて『お兄ちゃん』くらいには思えよ!」

「イサト、怒りの矛先がずれていますよ? 神子殿は『お姉ちゃんだったらいいな』と仰っただけで・・・。」

「わかってるよ! いちいち正論ぶつな!」

小さな通りから、大路に入りそのまま真っ直ぐ歩き始める。
するとその三人の前方に、見覚えのある数人の姿が見えてきた。














一体、いつから読まれていたのだろうか?


冷や汗をかきながらこちらを凝視している勝真の様子を見ていたイサト(式神)が、にやりと笑って言った。

『おまえが思い出した夢の内容、全部。』

「なっ・・・!? お、おまえ・・・! やっていいことと悪いことがあるぞ!!」

人の心の中を覗くというのも言語道断だが、
勝真が夢の中で見た花梨まで見られていたのだとしたら、許せない。

照れ隠しと、「自分だけの大切な彼女」を見られた悔しさがごちゃ混ぜになって、
勝真は、顔がかあっと熱くなるのを感じた。

思わずイサト(式神)に詰め寄るが、泰継に腕をがっちりと抑えられているので、身動きが取れない。

「離せ、泰継! 一発殴らせろ!!」

だが泰継は、勝真の片腕を掴んだまま、口の前で指を立てて小さく呪を唱えた。








「あそこにいるのは・・・勝真じゃないか?」

「え・・・・!?」

イサトの声に、胸の奥がドクンと音をたてる。

逢いたい・・・・声を聞きたい、本当は。だけど・・・。
やっぱり逃げたい!

花梨の足取りは急に重くなった。
だがイサトと幸鷹の二人はそのまま歩き続けたので、花梨の斜め前に出たが、
二人ともそれには気付かず、前方に注意を向けていた。

「そのようですね、横にいらっしゃるのは・・・泰継殿ですね、何かもめているようですが・・・。」

「ああ。泰継ともめているっていうより、もう1人のヤツに怒ってるような・・・え?」

「きゃっ。」

少し前を歩いていたイサトが急に立ち止まったせいで、花梨は彼の肩にぶち当たりそうになった。

「イサトくん、どうした・・・・ええ!?」

鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして前を凝視しているイサトを見て、
その視線をたどった花梨も、彼と同じように呆気に取られて立ち止まった。

「あれはイサトですね、どう見ても。イサトに双子の兄弟がいたとは知りませんでしたよ。」

そんな二人を横目に、幸鷹がめがねを直しながら、にっこりと微笑んだ。
さすがに現実的な見解である。

「ええ!なんだ、そうだったの? 全然知らなかっ・・・。」

「・・・・んな訳ねえだろ! 勝手に納得すんな!!」

言うなりイサトは、自分(?)に向かって走り出した。
慌てて、花梨と幸鷹も続く。

だが次の瞬間、もう1人のイサトの姿はゆらりと歪み、霧にとけるようにスッと消えた。








「また壊されては困るからな。」

泰継は勝真の腕を放すと、形代に戻した式神を拾い上げた。

「・・・・!?」

だが、頭に血が上っていた勝真はそれに気付かず、慌てて辺りを見回した。
そして、ぐるっと見回した先にその姿を見つける。



「あれ? 消えちまった・・・?」

そこにいたイサトは、どういうわけか先ほどとは打って変わって、きょとんとした表情をしているが、
今の勝真にその意味を考える余裕など、全くなかった。

「イサト・・・! 今度ばかりは許さねえ!!」

「え・・・? 勝真、どうした・・・・うわっっ!」











「・・・ったく、俺が何したってんだよ。」

勝真に思い切り殴られた頬に、幸鷹が持参していた水で濡らした、花梨の手拭い(ハンカチとかいうらしい)を当てながら
イサトは恨みがましく、勝真を睨んだ。

「悪かった・・・。すまん、イサト!」

イサトは、腰を降ろして大路沿いの土壁にもたれている。
勝真は、その前に屈みこんで、パンッと手を合わせて頭を下げた。
不可抗力と言えなくもないが、イサト本人には否は全くないのだから、ここは謝るしかない。


「不幸な出来事だったと言うしかないな。」

座り込んだ二人を見ながら、立ったまま腕組みしていた泰継が、ふと呟いた。
その他人事のような口調に、それを聞いた二人が、ピクリと反応する。

「や、泰継・・・。」

「元はといえば・・・・。」

「「おまえが原因だろうが!!」」

一通りの説明を聞いていたイサトと勝真の声が、見事にユニゾンとなって響いた。

「私は、勝真の気が乱れた訳を教えて貰おうと思っただけだ。イサトの式が具現化したのは偶然だ。」

だが泰継は全く動じず、何が悪いのだ?とばかりに二人を見比べた。

「だいたい、勝真、おまえは何をあんなに怒ったのだ?」

皆の気を自分からそらせよう・・という思いが、泰継にあったわけでは決してないのだが、
結果的に、皆の気が勝真に向いた。

「・・・そういえば、そうだな。」

イサトを始め、4人の視線が勝真に集まる。

泰継に文句を言っていたはずなのに、なんで自分が注目されるのか
勝真は、ものすごーく理不尽なものを感じたが、
この人数に取り囲まれると、さすがに答えざるをえない気にさせられる。

「な、何って・・・・・。イサトが・・・いや式神が、俺の見た夢を覗きやがったから・・・。」

とはいえ、あまり大っぴらに言えることではないので、小声でぶつぶつと呟いたが、
皆の意識は勝真に集中していたので、残念ながら、聞き逃されることはなかった。

「ゆめぇーー?」

そんなことで殴られたのかと、イサトが思いっきり不快感を顕わにする。

「そういえば、口づけがどうとか、男なら仕方がないとか言っていたな。」

「なんですか、それは・・・。」

泰継の言葉に、幸鷹をイサトの間に呆れムードが漂う。
だがひとり花梨だけは、顔が赤くなったり青くなったりしながら、立ち尽くした。

「ゆ、夢・・・・/// 」

「・・・? 神子、どうかしたか?」





前回UPしてから半年も経ってしまってました・・・(大汗)
忘れてたわけでは決してないのですが、一体何をしていたのだろう〜〜(><)
申し訳ありません・・・///

・・・気を取り直して・・・。

今更ですが、隠し創作がネタになってる話なので
ご存じなければ通じない部分も多々あるかと思いますが・・・(^^;
まあ、何があったかはだいたい察していただけるかと思いますので、
深く考えないで下さいませv(笑)

さて、あと一話で終了予定です・・・年内にUPできるよう頑張ります〜♪

(2004.11.30)



























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