大阪めぐり










夕闇迫る電車に揺られながら、ふと窓の外を見ると、大阪城が見えた。

大阪市内から京都市内までノンストップの特急なので、
車内は、普通の電車と違って、新幹線のような二人がけの席が並んでいる。
その1ボックスに座ると、疲れがどっと押し寄せてきた。



あの後、顔を真っ赤にしたは、退場の始まった場内を、人ごみに紛れて走り去ってしまった。

しばらく呆気に取られ、我を忘れていたまどかだったが、ハッと気づいた時には、彼女の姿は、影も形もなく、
科学館が併設された、それはそれは広い館内を、必死の思いで探す羽目になった。
地元はばたき市ならいざ知らず、こんなところに置き去りにしては、完璧に迷子になってしまう。

広い上にそこそこ客が入っている館内を、目を皿のようにしてくまなく探し回ったのだが、
1時間以上経っても見つからず、途方に暮れつつロビーまで戻って来た時、
ようやく売店の前にボーっと立っている彼女を見つけた。

「あ〜、よかったぁぁ・・。」

の方も、気が動転して走り去ったものの、次第に心細さが増していたのだろう、
まどかを見て、安堵と喜びの混ざった表情を見せた。

だが。
時間が経つにつれ、その原因を思い出して、お互いなんとなく気まずい。
ここは一発、ギャグでもかまして盛り上げたいところであるが・・・。

(あかん・・・な〜んも思い浮かばへん・・・・・ねむ〜・・・。)





「ほんとに・・・ごめんね、まどかくん・・・。」

その声にふと気がつくと、がシュンとしながら、こちらを見ていた。

「あ〜、気にせんでええから・・・。あちこち歩き回って、ええ運動になったし・・・?」

一瞬寝ていたらしいが、おかげでずいぶんすっきりした。
まどかは、座ったまま頭上に腕を伸ばすと、う〜んと伸びをした。

「うん・・・・って、そうじゃなくて・・・。あ、それももちろんなんだけど・・・。」

は、なにやら言いにくそうに澱みながら、視線を外した。
そうして、しばらく両手の指をこねくり回していたが、やがて思い切ったように顔を上げた。

右手がスッと伸びてくる。

「・・・え・・・。」

「痛かった・・・よね・・・・。」

そのまま、の手の平は、まどかの左頬を包み込んだ。
その柔らかさに、ほんの少し残っていたチリリとした感覚が、溶けていくような気がした。

「俺の方こそ・・・ゴメンな。 あんな、寝込み襲うようなことして・・・。
ちゃんに恥かかしてしもたし・・・。」

まさか、あんなにタイミングよく(いや、最悪のタイミングで)上映が終わるとは、思ってもみなかった。

そういえば、は、どちらに怒ったのだろう。
寝込みを襲ったことなのか、恥をかかされたことなのか・・あるいは両方か。

「・・・両方・・・やろな・・。」

それと引き換えに殴られたのだから、仕方ない。

「ええって。気にせんといて。俺が悪いんやから。」

まどかは、頬に触れていたの手を取って、離そうとした。





決して、強く引っ張ったわけではなかった。
ただ、彼女の手を頬から離した・・・それだけだった。

だが、それを合図にしたように、まどかに引き寄せられるようにの体がスッと近づいた。

窓の外を映していた視界が遮られる。

「・・・・・・・・?」

何が起こっているのか、認識できるまでにずいぶん・・・いや、ほんの一瞬のことだったのかもしれないが・・、
時間がかかったように思えた。


甘い香りと、柔らかな唇の感触。



「・・・ちゃ・・・ん・・・。」

「・・・・お詫び・・・・のしるし・・・・・///。」

唇が離れるとは慌てて、下を向いた。


しばらく言葉が出てこなかった。
嬉しいとか、そういう感覚もなく、ただただ驚いていた。

ちゃんて、意外と積極的なんやな〜。電車の中やのに・・・客は少ないけど。)

そんなどうでもいいことを、頭の隅で考えていたような気がする。
その沈黙をどう受け取ったのか、が不安そうな顔で、こちらをちらっと見た。

(はっっ・・・! あかんあかん、なにをボ〜ッとしてんねん! 女の子に恥かかしてしまうやんけ!)

まどかは頷くように下を向き、その一瞬の間に表情を整えた。
『男前な笑み』の中に『熱いまなざし』を湛える。

(これで、女の子はイチコロ・・・ああ、いや!ちゃんはめっちゃ特別な子やけどっ・・。)

こんな時に限って、余計なことばかり考えるのは何故だろう。

(ごほんごほんっ!)

頭の中で咳払いをして、邪念を追い払う。
その間も、表の顔が表情を崩さなかったのは、我ながらエライと思う。

ちゃん・・・。」

そっとささやくと、は顔を赤らめながら、少し身を固まらせた。

(めっちゃかわいいやん・・・。)

なんとか純粋な想いだけに浸りながら、再び唇が触れた・・・・・その時。




ごん!

何かがぶつかったような鈍い音がした。

「・・・・・・・・・?」

薄目を開いて見ると、窓の風景が止まっていた。
どうやら、京都市内の最初の停車駅に着いたらしい。

だが、この駅で乗り降りする客は少ないらしく、車内に動きはほとんどない。
もう少し・・・・そう思って、再び目を閉じかけた時。

ごんごん!!

誰かが何かを、殴っているような・・・?

ごんごんごんごんっっ!!

(なんやねん、一体・・・・。)

何気なく顔を上げたまどかだったが、次の瞬間、目がテンになった。

「・・ヒ・・・ヒムロッチ・・・!?・・・・・げっっ!!」

はばたき学園の制服をたまたま見つけた氷室が、
ホーム側から、二人が座っている席の窓を、握りこぶしで思い切り叩いていたらしい。
そして、まどかの顔を確認するや否や、電車のドアに向かって走っていった。

「やっばっっ! ちゃん、逃げるで!!」

まどかは、慌てての腕を引っ張って立ち上がると、反対方向のドアに向かって駆け出した。

「待ちなさい、姫条まどか!! これは特急ではないかっ、何ゆえこのような列車に乗っている!?」

車内に入ってきたらしく、後ろの方から声が響く。
座席に座っている客が、何事かと一斉に振り向いた。

「ふ・・・伏見稲荷に行っとったんですぅ〜〜!」

逃げながら、一応弁解してみる。

「これは、そのような中途半端な駅には止まらんはずだ!」

「中途半端て・・・先生それ、お稲荷はんに失礼ですて〜〜!」

なんとか話を逸らすべく、悪あがきもしてみる。

ドアまで、あと少しだ。
「ドアが閉まります」という車掌のアナウンスが聞こえている。

「待てと言っているだろう! 姫条と・・・そこの女子!」

ドアが閉まりかけている。
その間をすり抜けたまどかは、その勢いのままをぐいっと引っ張った。

ぱたん。

彼女の足の先が通り抜けた瞬間、ドアが閉まった。
反動でよろめいているをしっかりと受け止める。

「あ、ありがと・・・でも、逃げたりしたら余計にまずいんじゃない・・?」

が、不安げに顔を上げ、電車を振り返ろうとした。

「動いたらあかん。」

その動きを胸の中に封じ込める。

「・・・きっ・・・姫条ぉぉぉ〜〜〜!」

今度は車内から、どんどんと扉の窓を叩いている氷室。
だが、そんな彼も、動き出した電車とともに線路の彼方へと消えていった。

「あ〜あ、あんなに大騒ぎして〜。今頃、電車ん中でひとり、め〜っちゃ恥ずかしいで〜。」

言いながら、を抱きしめていた腕を解く。
氷室には、の顔は見られなかったはずだ。

「ま、後でお小言貰ってくるわ〜。ちゃんのことは言わへんから、安心しとき。」

「まどかくん・・・ごめん・・・・私がわがまま言ったから・・・・。」

が涙目になっている。

「あ〜、そういう顔も可愛いなあ〜。かまへんって。その代わり・・・・。」



今度のデートは、野暮ったい制服なんかじゃなく。

少しフレアのかかった短めのスカートに、シンプルめのキャミソール。
(カーディガンは透けてるヤツなら可。)
もちろん生足に、ミュール履き。

そして、人気のなくなった夕暮れの海岸線で、今度こそ、心ゆくまで熱〜い口付けを・・・・♪
(キスだけで終わらなかったときは、ご愛嬌ってことで。)



「あ〜、楽しみやなぁ〜!」

「怒られるのが・・・?」

が怪訝な顔で見ているが、そんな甘いデートの為なら、ヒムロッチの説教など屁でもない。

「さてと・・・ここからはバスで帰ろか。次の駅で待ち伏せされてるやろし。」

そのまま、はばたき市まで帰ってしまいたい☆

氷室の怒った顔もどこへやら・・・転んでもタダでは起きない。
気分はすっかりルンルンのまどかだった。




〜fin〜















まどか創作第3弾ですが、
響さんのリクで「前作の続きで今度の舞台は大阪に・・」ということだったので、
こんな話になりました(笑)

前作でキスしそこなったまどか、今回は頑張ってリベンジをかけておりますが・・・
なんで甘くまとまらないんだろう・・・?(大汗)
(氷室先生、ごめんなさい・・・またしてもギャグキャラにしてしまいました><)

そうそう、ほんとはもっと大阪らしいデートスポット、ということで
「関西空港」、「海遊館」あたりに行ってもらおうと思っていたのですが、
『アホか、なんぼかかると思ってんねん!』という、怒鳴り声(?)が聞こえてきて
敢え無く却下・・・どこにでもあるプラネタリウムに行ってしまいました(笑)

あ、ちなみに私は、プラネタリウム大好きなので、絶対に寝たりしませんv
彼氏も放ったらかしにして、夢中になります!
(う〜ん、やっぱり甘い方向へ行かない・・・^^;)

ということで、23332キリ番創作でした☆

(2005.6.24)




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