本当に困った・・・、まったく困った・・・。
一世一代の覚悟を決め、京の泰継の元に残ろうとした花梨だったが今たたずんで居るのはどういう訳か現代の鴨川・・・。
しかもめちゃくちゃ怪しい目で見られていた。
目の前に突然現れた不思議な格好をした少年少女・・・。 しかもそれが5人もいるから驚きだ。 あえて付け加えるなら、女の人からの恨みがましい視線が痛い。
何せ、明らかに『水も滴るいい男集団』の中に迷い込んだ所在無き一匹のアメンボ状態だからだ・・・。
何故こんな事態に陥ってしまったのか・・・。
あの時神泉苑で確かに龍神の声を耳にした。
何度も聞いた覚えのある鈴の音が高らかと脳内に鳴り響き眩い光に包まれたと思ったら今の状況に至る。 確かに花梨は龍神に『泰継の傍に・・・』っと願った。 家族や友達を捨てる結果となったとしても、彼と一緒にいられるのならどちらでもよかった。 誰に恨まれようとも、悲しませる結果になろうとも・・・。
だが龍神は泰継と一緒だとはいえ、他の者とも一緒にこの故郷である現代へと送り返したのだ。
未だに事態を把握しきっていないいい男軍団の背を強引に押し、とある人気のない神社の境内へと場所を移した。
「みみみ神子!!!これは一体どういうわけなのですか?!」 幸鷹が滅多見られないようなあわてた態度で狼狽している・・・。
そんな、どういうわけかと聞かれても花梨にその問いがわかるはずもない。
声もなくブンブンっと首を振って答える花梨だったが続け様に今度はイサトの怒涛の質問攻めにあう・・・。
「現代ってなんなんだ?!ここは花梨の世界なんだろ?この世界にも鴨川があるのか?! しかも、さっき川岸にいた無数の男女はなんだ?!着てる服も髪形も何だか可笑しかったぞ!!
それに人目もはばからずベタベタとくっついて・・!」
やはり混乱気味のようだ・・・。 ただ一人真っ青な顔をした泉水は思ったよりは冷静なようだった。
「と、とにかく神子殿や幸鷹殿はともかく、私たちは見の振り方を考えなければ・・・。
何とかもとの世界に戻れる方法を・・・!」
そうだ・・・。
こちらの世界に来たのがもし花梨と泰継だけだったにせよ、まさか高校生の立場で『私これからこの人と暮らすvvv』 ・・・っと、親に紹介できるはずもない。
しかも、今は4人なのだ。
幸鷹は元あった自分の家に帰ればいいとしても、何年もの間行方不明になっていた事になる。 いきなり友達を連れて『ただいまvvv』・・っという訳にもいかない。
現代の人間がいきなり時空を超えた過去の世界に放り出されるのと、過去の人間が現代に放り出されるのでは勝手が違う・・・。
下手をすれば挙動不審、発言不審でいきなり精神病院に叩き込まれる事だって無きにしもあらずだ。
あちらでは色々助けてくれた大事な仲間・・・。
今が彼らから受けた恩に報いることの出来る絶好の機会なのだと、花梨は心に強く決意をしていた。
ひとまず彼らが生活できる場所を探さねばならない。 花梨には一つだけ心当たりがあった。
それは花梨の祖父が一人で管理する寺。
特別檀家が多いわけではない普通の寺よりこじんまりした寺ではあるが、昔から評判のよい優しい住職であり花梨が小さい頃には孤児を育てていたこともあった自慢の祖父である。
どんなに可愛がってくれた祖父でも、事情を話した所で全てを信じてくれるとは大抵思えない。 しかし花梨は心のどこかで『おじいちゃんならもしかしたら・・』と思う気持ちがあった。
賭けでもあるがこのまま神社の境内に身を隠しているわけにもいかない。
「とにかくこのままじゃまずいから私についてきて!」
花梨の心強い、されど優しい眼差しに先ほどまで慌てていた三人の顔に少し安堵の表情が浮かんでいた。
なんとかかんとか、人通りのきわめて少ない道を選びながら花梨は普段より足早に祖父の寺へと続く道のりを急いでいた。
が!!!
やはりと言うか、思うようには先に進めない・・・。
幸鷹は久しぶりの現代を懐かしむように、事あるごとに足を止めるし、他の3人は物珍しく『止まれ』の標識やら、道端に止めてある車やら、でかい建物などがあるごとに足を止めていた。
そう・・・、気持ちはもの凄くわかる。 自分も京の都にいた時はそうだった。
だが一刻も早く今の格好を何とかしなければ怪しくて仕方がない。
「なあなあ、花梨!!この箱型の小さい家みたいなのなんなんだ??」 興味津々に瞳を輝かせたイサトが花梨に問いかける。
「はぁ〜・・・、イサト君。今は急いで行かなきゃならないところがあるんだって!」
「わかってるけどものすご〜く気になるんだよ!!何なんだよこれ!!」
「それは『自動車』っていって、イサト君なんかの世界で言うなら牛車みたいなものよ!」
「はぁ〜?!牛なんかいね〜じゃん!!どうやって動くんだ?!っていうか牛がいね〜んだから動くわけねえ!」
「・・・説明してもわからないよ。とにかくそれは牛車と一緒で移動手段なの!!」
「じゃあこれで移動すればいいじゃね〜か♪」
「誰でも乗れるわけじゃないんだよ!」
「な〜んだ、お前神子のくせに庶民なのか〜!(笑) こっちでも貴族しか乗れないようなものもあるんだな〜♪」
・・・・・・・・・知らないとはいえ、何だかムカつく(怒)
「もう!!!気になる事や知りたいことは後でいくらでも説明するから今は急いでよ!!!」
珍しく大声を上げて怒った花梨に、4人はハッと今置かれている状況を思い出し、ぴったりとついて歩き出した。
やっとの思いで到着した祖父の寺は、なんら変わりはなかった・・・。
そう、確かこちらからあの世界に飛んだのは紅葉真っ盛りの秋から冬にかけてだったはずだ。 なのに寺の敷地内の楓はその姿を真っ赤に染め、いまだその枝にしっかりと居座っている。
時が進んでいない???
いや、むしろ進みすぎているのか? 混乱する花梨を心配そうに見つめる八葉・・・(4人だから四葉になるのか?)
「おや?花梨・・・、二日続けてなんてめずらしいな!今日はどうした?」
そうこうしてるうちに、寺の裏手から住職である花梨の祖父が顔を覗かせる。
二日続けて???
花梨があちらの世界に飛んだ日の前日、花梨はこの寺に法事の手伝いに出向いていた。 花梨にとっては一番最近に祖父の寺に来た記憶はそれが一番新しいものだ。
「お、おじいちゃん!!あ・・あの、さ?私昨日ここに・・・来た・・んだよね?」
花梨にとってはこの状況を確認するための当たり前な発言だったが、祖父はフッっと鼻で笑った。
「何を言っておる?ボケるには少々早いぞ!(笑) 昨日の事も忘れたのか??」
やはり思ったとおり時間が経過していない・・・。
いや、していないというよりは龍神が、ここを出発した時間と同じ時間に戻してくれたようだ。 花梨は心の底からホッとしていた。
ホッとした・・・?
自分はあのまま京の都に残ったとしても後悔などしないと思っていた。 だがこんな状況になって今、ホッと胸を撫で下ろしている自分がいる。
そんな思いを泰継さんと龍神には見破られていたと知った。
ならばこれからどうするべきか花梨は悩んでいた。
このまま自分たちはこの世界に残るのか、皆と共にあちらの世界に帰るべきなのか。 そもそも彼らをどうやったら帰してあげられるのか・・・。
先ほどから龍神に何度『あっちの世界に帰して』と祈ったことか。
だが龍神は花梨の思いは叶えてくれなかった・・・。
花梨は『何も疑わず、ただしばらく私の話をきいて?』っと、包み隠さず今までの状況を説明した。
住職はしばらく考え込んでいるようだったが、一つため息を付き『そうか・・・。』と、優しい笑みで5人の顔を見渡した。
「そりゃ〜皆驚いたことだろうな。気にすることはない、帰る方法、もしくは自分らだけで この世界で生きていける方法が見つかるまでうちの寺にいるといい!」
そんな住職の発言に驚いたのはもちろん花梨だけではなかった。
「え?!・・信じてくれるの?おじいちゃん・・・。」
「あたりまえじゃ!お前がわしに嘘などつけんことくらいわかっておる。」
花梨と他の4葉は拍子抜けしたとばかりの豆鉄砲をくらった顔でお互いを見あう。 最初に呆然とした空気を破り声をかけたのは泉水だった。
「わ・・私とて神子殿が初めて私たちの世界に来た時はなかなか信じることが出来ませんでした・・・。
そして何故こんな状況におかれているのか未だに理解できません。
たとえ大事なお孫からお願いされたとはとはいえ、何故そのような優しい言葉を私たちにかけて下さるのですか?」
「この子は昔からどんな嘘も付けない子なんだ。ついてもすぐにそれが嘘だとわかってしまう・・・。 不器用で、時々損をすることも多いがその純粋さゆえに、周りの者はほおって置くことが出来ん! そんな子だからこそ君らはそうやって花梨の事を優しい眼差しで 見守っているのではないのかね?」
そういって住職はまた優しい眼差しで泉水達を見やった。
「兎にも角にもこの世界にいる間は君らは私の孫と思っていて欲しい。必要な知識は教えるし、生活に関しても何も心配はいらん。・・・・・ただ・・・。」
「た・・ただ何?」
「『こやつなら・・』っとわしが認めることの出来るものにしか花梨は嫁にやらんからな?」
そういって祖父は面白そうにウィンクをした。
泉水、イサト、幸鷹は目を輝かせ皆にわからぬように各々気合を入れていたようだったが泰継と花梨は呆然とするほかなかった・・・。
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