おかえりなさい(アオシマMUSES-Cの製作)

日本時間2010年6月13日22時51分、7年間の長旅を終えたMUSES-Cはサンプルを封入したカプセルを分離の後大気圏に突入。その使命を全うしました。
数々のトラブルに見舞われながらも、関係者の不屈の努力と数多くの応援がMUSES-Cに届いたのか、その最後まで人々を感動させたミッションは日本が世界に誇るべき事業といえるでしょう。MUSES-Cについては、さまざまなメディアで取り上げられており事細かく説明する必要はないと思いますが、私がその存在を知ったのは2001年のSF大会の企画「小惑星の歩き方」でした。
実際に研究者からから話を聞くことが出来た機体だけに打ち上げ前のイベントなども楽しんでいたのですが、トラブルの連続で有名になってしまったのは。素直に喜べなかったりする所です。
しかし、波乱万丈な旅のおかげで知名度も上がり、日本の衛星としてペーパークラフトやガレージキットなどではなく、アオシマ文化教材より初めてプラモデルとして立体化されました。

というわけで6月8日に発売となったキットですが、7年間の旅より帰ってくるMUSES-Cを迎える為に作っていきました。
キットについて
 
はっきり言って素で組むなら非常に簡単です。
なんせ、ランナー2枚でパーツ総数25ですから、今のガンプラどころか昔ガムのおまけについていたダグラムやボトムズ・ビッグワンガムよりも簡単に作れます。
ただ、塗装をする必要があるので、プラモデル経験のない人やガンプラのパチ組みのみといった経験だと、塗装は少々大変かもしれませんが。
組み立て
大まかに分けて、このキットは衛星バス・アンテナ・太陽電池の3つに分けられます。
まず衛星バスですが、箱組みして化学エンジンやサンプラーホーンなどの細かいパーツを取り付けるだけです。
試しにパーツを切り出して仮組みして見ますが、パーツの合いも上々でパテなどを使う必要はありません。異常のない事を確認したら接着剤で固定した上にアンテナや化学エンジンのパーツを取り付けていきます。この時、化学エンジンのノズルをピンバイスで穴を開けると完成時の見映えも大きく変わります。
ただ、ここで気をつけないといけないことは、成型の都合上、センサー部分の一部パーツが肉抜き状態になっているので、ここはパテ埋めしなければいけません。
そして、気になった箇所としてイオンエンジン基部のモールドが省略されているのです。イオンエンジンは、±5度傾ける事で推力軸の調整が可能となっており、ここは蛇腹構造になっています。
しかし、ここが平面になっているので、2ミリ幅に切ったのOHPフィルムを更に薄く研いでエンジン基部に貼り付けます。そして、塗装で蛇腹らしく見せるようにします。
 
ちなみに、完成後に資料写真を見つけることが出来ましたが、この蛇腹部分をモールドで再現するにはモールドを細かく彫る必要があるので、エッチングソーを横向きにして再現するという方法が使えるかもしれません。とりあえず、次に作るときはこれを試してみる予定です。
続いてはソーラーパネル。キットを見ると格子状のモールドでパネル部分が再現されていますが、パッケージなどの画像を見ると一部にはソーラーパネルの貼られていない所もあり、パネル部分のモールドも結構適当で縁の部分などは途中で切れているような状態になっています。
いっその事モールドを全部削って自作デカールで再現したい所ですが、さすがにそこまで余裕がないので、パネルが貼られていない箇所のモールドを削ってしまい、あとは塗り分けで仕上げる事にします。

他にもアンテナなどのパーツがありますが、塗装などの順番を考えて最後に取り付けていきます。
塗装
MUSES-Cは、組むのは簡単ですが塗装および仕上げが非常に難しい、単純なだけに塗装と仕上げにいかにこだわるかで難易度とクオリティは大きく変わります。
そして、大気中と真空の宇宙では光の具合も異なるので見え方にも大きな差が出来てしまい、どうアレンジするかというのも難しい所です。
説明書の説明どおりに塗っても間違いではないでしょうが、MUSES-Cに限らず人工衛星の類は、その殆どが塗装でなく素材の色で目立っているので、仕上げをどうするかが難しいと言えます。
人工衛星等ではサーマルブランケットの金色が目立ちますが、金をシートに蒸着しているだけに通常の塗料ではその輝きを出すことは出来ませんし、太陽電池も青色一色でベッタリというわけにはいきません。模型屋などでタミヤの工作セットにあるソーラーパネルを見るとよくわかります。
あと、細かいところについての資料が欲しかったのですが、MUSES-Cの画像はCG等では大量にありますが、飛行状態の実物の画像というのは皆無に近いです。当然といえば当然ですが。
書籍を見ても衛星の細部まで描かれた物はなく、恐らくMUSES-Cについて一番書かれているであろう「現代萌衛星図鑑」は、機体やミッションの説明については申し分ないものの、萌えキャラ・擬人化のおかげで模型製作の資料としての価値はありませんでした。
結局、可能な限りはネットで画像を探したものの、塗装の色分けはボックスアートと説明書準拠の上光線具合による変化を自分なりにアレンジして進めていくことにします。
 

まず、シルバーでベース塗装を行いますが、真空中では空気や塵による光の散乱はないのでコントラストが高くなります。例えるなら常に強い光が当っている状態と言ってもいいかもしれません。その考えから明るい所は指定よりも明るめにすると設定して、Mrカラーのシルバーにシャインシルバーを少量混ぜエアブラシで全体に吹いていきます。
画像04
そして、ベース塗装の済んだ衛星バスにマスキング塗装を施すのと平行して、太陽電池部の塗装を開始します。
先に、衛星バスと共にシルバーで塗装していたので、ジョイント部分と端のソーラーセルが貼られていない部分についてはマスキングを行い、全体をエアブラシで塗装します。
説明書では太陽電池部分の色はにキャラクターブルーを使用とありますが、反射の具合によって色味の変わるソーラーセルに単色というのは何か違うような気がするので良さそうな色が無いか考えた結果、Mrカラーの原色シアンにホワイトパールを混ぜて色味に変化を持たせ、なおかつシルバーの下地に薄く重ね吹きする事で、光の具合で色味の変わる青が出来ました。裏面をつや消し黒吹いてやります。
 
続いてはハイゲインアンテナ。
ハイゲインアンテナの塗装は、白一色での指定となっています。
しかし、実物は細かいメッシュになっていますが、ここはモールドで表現されています。
このため、指定どおりの塗装にすると白いお椀となってしまいます。
対応策としては、白にシャインシルバーを加える事でアンテナに当る光が反射しやすくなり、擬似的にですが反射光でアンテナが白く見えるという表現を狙ってみました。

そして、ここからが一番困難な箇所となります。
人工衛星や探査機のサーマルブランケットですが、実物の機体に使用しているサーマルブランケットは皺などがあり、平滑な塗装ではどうしても実物のようにはなりません。代用品として登山用のサバイバルシートと使うという手もありますが、これは貼り付け時に細かい調整がやり辛いので、断念しました。
使えそうなアイテムを探したところ、ハセガワから発売されているトライツール ゴールドミラーフィニッシュは色味は申し分なく曲面にも貼る事ができるためこれを使用することにします。また、イオンエンジン基部の蛇腹再現も同じタイプのシートを使用することにしました。
このシートの利点は、ミラーフィニッシュなので通常の塗装と違い、塗装よりも実物に近い仕上げが可能で、貼り付け時に伸ばす事が出来るので細かい箇所にも対応しやすいのです。また、先に折り曲げたりすると貼り付け時に皺のついたシートとなるので、実物らしく見せることも出来ます。
 
ただ、細かく複雑な形状の多いキットでは、場所によっては貼り付き辛く重ね貼りが必要となり、凹凸が出やすいという欠点もあります。
というわけで、ミリ単位でシートを切り出して集中力の続く限り衛星バスに貼り付けていきます。隙間を詰め、曲面にあわせ、余分な所はカットしてと、とにかく眼の疲れる作業ですが、ここで更に問題点が見つかりました。
サーマルブランケットで覆っているところはシートの金色で問題ないのですが、よくよく調べてみると、収集したサンプルを収める再突入カプセル部分については、金色ではあるもののサーマルブランケットに覆われておらず、金色でも色味が異なるものとなっていました。
そこで、カプセル部分については改めて金色で塗る事となりましたが、先にここを組んでしまった事は痛恨のミスとも言えます。
ここは別パーツだったので、塗装終了してから組んでしまえば、マスキングの手間もかかりませんし、何よりシートの貼り付け時に折り曲げで苦労する事も無かったのに…
とはいえ、やってしまったものを今更どうこう言っても仕方ありません。
色の乗りが良くて比較的鮮やかなものが無いかと探してみましたが、いろいろ試しているとガンダムカラーのゴールドが色の乗りや発色が良い事がわかり、カプセル部分の塗装に使う事となりました。
また、シートと色味がいくらか異なるものの、ワンポイント程度のタッチアップに使うなら十分馴染んでくれるので、シート部分のちょっとした隙間を誤魔化すにも良く、なかなか使えるアイテムです。
結局、全体作業時間の半分以上をシート貼りに費やして塗装は完了しました。
仕上げ
シート貼りが終わった所で、衛星バスにソーラーパネル・ハイゲインアンテナ・サンプラーホーンなどのパーツを組み込みMUSES-C本体は完成となります。
そして、MUSES-Cを飾る台座ですが、台座は小惑星イトカワをモチーフとしているものの、全体的にのっぺりとしています。
ここにタミヤの情景テクスチャーペイントからライトグレイを使用して、全体をざらつかせ、ここにMUSES-C搭載のマイクロローバーMINERVAを配置、これで全てが完成しました。
 
まとめ

当初、MUSES-Cのキットは6月下旬に発売の予定だったのですが、予想よりも早く発売されたという事で、「これを作って帰還を待とう」と暴走してしまいました。
急いで作ったのでいろいろとアラも出ていますが、サーマルブランケット部分の金色を塗装ではなくシートで表現したのでなかなかいい感じに仕上がったのではないかと自画自賛しています。
なお、私がここまで苦労する事になったのはシートを使ったからなので、全体を塗装で仕上げるのならもっと楽に仕上げられるはずです。
初心者でも作りやすいようにパーツ数を減らしたのはいいやり方だと思いますが、個人的にはシート仕上げやディテールアップを考えるなら、もう少しスケールを大きくしてパーツ数を増やしてもよかったのではないかと思います。
これは想像ですが、1/32スケールのスペースクラフトシリーズと銘打っているので、今後出る可能性のある大型衛星のサイズを考えて、スケールを下げたのかもしれません。
今後の予定ですが、第二次生産分についても予約しているので、あえて簡易な塗装でどこまで再現できるかを試してみたいと思います
なお余談ですが、今回の完成品は大阪日本橋のボークスホビースクエアに完成例として展示させていただいております。
店の方ではサンプル品を製作していましたが、トライツール ゴールドミラーフィニッシュを使用した場合などとの比較参考になればと思っていたのですが、二次生産品の予約紹介を兼ねて結構派手に展示していただき、一寸焦っていたり。
ちなみに、今後作るバージョン違いも出来たら持って行くと約束していたり…

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