子供を伸ばすポイント 第1部 基本編

①あきらめない、怒らない「もう勉強なんかしなくていい」、「塾なんかやめたら」
 できれば避けたいと分かっていても、つい、こんなセリフが口をついてしまう。
 灘校の倉石教頭先生も、「親の仕事」について、
 1 子どもの失敗や不振に対して、「何よ、これ!」は、子どもの感情ではなく親の感情でしかない。長く生きてきた人間のすることではない。「聴いてやって共感して」子どもの能力を引き出すことが基本。
 2 子どもと対話する。尋ねながら子どもの気持ちを引き出して導いていく。目標に向かう筋道を立ててやる。
 3 「三つ子の魂」を大切にする。子どもの育っていく環境こそ大切であり、子どもには親の生き方が大きく反映される。
と、講演されている。
 親自身が、大きな目標に向かってあきらめずに「信じて」進んでいなければ、その不信感・不安感は子どもにすぐに伝染してしまう。親は、とにかく、信じているしかない。少なくとも、信じきって微塵も不安がないような顔ができれば一番いい。
② 無駄な鉄砲も撃ち続ける子どもが何に興味を示すのか、何に熱中するのかは、全く予測できない。親がよかれと思って与えても、本人がそれをどう感じてどう活用するかは、まさに「神のみぞ知る」世界。せいぜい、「悪くない」と思われるものをいろいろ触らせてみて好奇心を引き出し、そのうちどれか一つでも「ビンゴ」が出ればいいといったところかもしれない。
 同じく、灘中の倉石教頭先生も、
 親や教師が子どもたちの好奇心の芽を摘むことも多いので注意。未知のものに立ち向かうことや1つの境界を超えようとする冒険などには、恐怖を伴うことがあるが、子どもが独りでチャレンジすることが重要であり、親は後ろで見守りバックアップする役割でしかない。また、親がそういうチャレンジに恐怖心を持つと、子どもが前進することを嫌がることもある。
という意見だ。
 自分の子どもが、運動を好むのか、喜んで本を読むのか、お絵描きに集中するのかなどなど、とにかくあらゆる可能性にかけるべきだ。
 そのためには、無駄な鉄砲を数撃つことになり、「家計に響く」というかなり頭の痛い問題も起こり得るだろうが、親の知恵と工夫でやり繰りし、子どもの前にいろいろなものを提示したいものだ。
 もちろん、プレッシャーを与えないようにいろいろ試すことが大切だ。

③ よその子どもとの比較子育てをしていると、よその子どもが立派で、一方自分の子どもが伸び悩むなど、「ライバルがみな自分の子より偉く見える」ような、頭の痛くなることも多いが、よその子どもと比べても、自分の子どものプラスになるわけではない。
 受験生生活を送っていると、さらにこの傾向は強くなるが、「受験」というある種不条理な世界では、恵まれた子どもが必ずしも成功するとは限らない。
 厳しい受験戦争の渦中にいると、自分の子どもが、他のライバルたちより劣っているのではないかと不満・不安に思われることも多いが、表には出てこなくても、誰もが人知れず悩みや苦しみを抱えているのが実情だろう。
 もちろん、安易に、いつもいつも自分の子どもの弱点を大目に見てしまって、成長するタイミングを逸するわけにはいかないが、よその子どもと比べることで、親子共々ストレスをため込んでしまうことも怖い。
 とにかく、基本的には、
 「いろいろ悩むより、1問でも先に進んだ方がまし」
と前向きに考えるべきだ。「我が家は我が家なりの道を進む」しかないのだ。
④ 親が肩の力を抜く自分の子どもが初めて学校や塾に通うようになると、あるいは、家族で受験を志すようになると、どうも親の方が「シャカリキに」なり過ぎてしまう傾向がある。
 親にとって、自分の子どものために精一杯協力することは大切だが、子どもより親の頭の方が熱くなってしまっては、上手くいくものもいかなくなってしまう。
 勉強であろうと、受験であろうと、あるいはスポーツや習い事であろうと、親は、子どもに対して適切な刺激を与え続けてやる「脇役」でしかないし、頑張っている子どもの努力を認めてやる「応援者」でしかない。
 子どもがどのような成績を取ってこようと、どこの学校に合格しようと、あるいは、結果的に受験に失敗しようと、「もたらされた結果が子どもにとってよかったのかどうか」は、長い目で見なければ分からないことなのだ。
 親の方が肩の力を抜いて、最後は、「子ども自身の人生」だという、一歩引いた感覚を持つことも必要だ。
⑤ 幼稚園の役割どこの幼稚園に通ったらいいのかを気にする親は案外多いようで、インターネットの掲示板にも、その種の内容がしばしば書き込まれるが、「幼稚園」の教育内容に特別な期待をもっても仕方がないようだ。
 実際に、灘中学に通っている生徒の何人かに、
 「幼稚園で何か特別なことを習った覚えがある?」
と尋ねたことがあるが、
 「○○の時間があったような気がするなあ」
程度の返答が多かった。
 また、中学受験を終えた父兄に聞いてみても、結果的に、幼稚園は小学校に進むための単なる「通過点」に過ぎなかったという感覚が実情に近い。
 「○○小学校附属幼稚園」で、小学校受験が有利になることを期待する以外は、幼稚園が何か独自の「教育」を売り物にしていても、それが、将来の「受験」に直結することは期待薄。そんなことより、日常の親子の会話の中で、
 「この漢字はどう読むの?」、「掛け算って何?」
などのやりとりがあれば、その時々に、親子で、一緒に考えてみればいい。そのようなことの積み重ねは有効で、それが結果的に、算数や国語という「勉強」に対する興味につながるのなら、まさに結果オーライである。ただし、そのように始まった「勉強」が、将来の難関中学受験に直結するかもしれないなどと、焦って先を見過ぎないことも親の役割だろう。
 中学受験に向けて伸びるか伸びないかは、小学生の低学年できちんと毎日学習する習慣付けができ、勝負の高学年をいい形で迎えることができるかどうかが大きなポイント。
⑥ 大きな机
最近の学習机は華美で豪華になる一方だが、子どもの机は、「物を書く面」がとにかく大きいほどいい。特に小さいうちは、整理整頓が行き届かずに乱雑になりがちだが、いつもいつも親が手を出して片付けていても仕方がないし、また、机の上が散らかっているからといって、
 「まずお片付けからしましょう」
では、何かを始めようとする子どもの気持ちをそぐことになりかねない。整理整頓の習慣は大切だが、そればかりに気をとられるのも残念。
 また、リビングやダイニングに大きなテーブルがあるのも子どもには効果的だ。隣に、あるいは、さりげなく離れて座って、親子で一緒に本を読んだりするのもいい。
 インターネットの掲示板にも、しばしば、
 「国語が苦手だが、どうしたらいいだろうか」
という書き込みがあるが、やはり読書の習慣があるのとないのとでは大きな違いがあるようで、小さい頃から、座って本を読んだり、静かにお絵描きをしたりする時間を持ちたいものだ。
 とはいえ、子どもに、
 「じっと座って、本を読んでいなさい」
などといっているばかりでは、そうそう上手くはいかない。子どもに強制するのではなく、ほんのひと時でもいいので、親も一緒に座って何かに集中している姿を見せることこそ、最良の手本である。

⑦ 解答・解説の利用
どんな問題に取り組むにしても、まず自分の力で解こうとする姿勢が大切であるが、自分の解いた答えが正解かどうか確かめられないのは落ち着かないものだ。
 問題を解いていて、答え合わせがすぐにできるかどうかは子どものストレスにかなり影響があるし、しばらく考えても解法の糸口が見つからない問題では、それ以上悩んでいても非効率的なので、解説を利用して解き方を理解したほうがいい。
 きちんと考える前に解答を見てしまうようでは論外だが、受験勉強に限らず、普段の学校の予習・復習においても、問題集の解答・解説をうまく利用できるようになることはとても大切だ。
 学校や塾の先生の中には、子どもに解答・解説を渡すことを嫌がる人もいるが、できることなら、問題集やテキストは解答・解説を付けた状態で子ども本人に管理させた方がいい。それこそ、本当の自主性だ。

⑦ 得点・○の数が子どものはげみ
子どもは、「頑張った結果」が目に見える形の方が集中力が持続する傾向が強いので,特に幼少時や小学校低学年では、解答欄が大きくて、直接書き込むことができる問題集を使うといい。
 学年が上がってくれば、小ぶりの問題集のままでノートなどに解いて、できた問題・できなかった問題をチェックしていくのも十分可能だが、小さいうちは、赤ペンの○が並んで、得点をはっきり確認できる形式がよい。自分の書き込んだ答えに大きな○がつけば,ますますやる気が出てくるものだ。
 また、B4大で、1枚1枚バラバラのプリント式がお奨め。
 塾オリジナルの問題集やテキストには、B4の用紙を綴じたものも多いが、国語の読解の問題などでは、問題のページと解答用紙のページが別々になっている場合もある。このようなものは、解答を書き込んでは前のページに戻ったりと、集中力が途切れやすいので、ホッチキスを外して、思い切ってばらしてしまうのもよい方法だ。
 書き込みやすく、一枚終わったら次のプリントへという感覚は、特に低学年の子どもにとっては、勉強を進めやすいようだ。解き終わったプリントが机の上にたまっていくのが励みになるし、達成感を感じやすい。


⑧ コピー機の活用
学校が配布する問題集やプリントは、解き始める前にコピーしておきたい。
 「繰り返し学習」の効果を万人が認める通り、一度解くだけで完璧になることは少ないし、テストの前などに、もう一度やり直したくなることもしばしばである。
 もちろん、市販の問題集であれば、同じものを2冊購入するのも1つの方法だが、学校でまとめて購入する問題集などは、個人で購入できないものが多いので、例えば、まとめの問題のページだけでもコピーしておくのが手っ取り早い。
 また、B5版の分厚い参考書や問題集などでは、開いても全部は開かず、真ん中あたりが読みにくかったり書き込みにくかったりするものがある。このような場合も、拡大コピーを取るなどして、書き込んだりチェックしたりをしやすくするのも効果的な方法だ。