第1話「Set Up!ドリレンジャー!」


 21世紀最初の年も残り数日となったある日。Nモトは行き交う人々をぼんやりと眺めながら寝屋川の町を歩いていた。

 特に行くあてがあるわけではない。家でゴロゴロしているつもりだったが、掃除のジャマだと母親に追い出されたのだ。

(さて、どこでヒマを潰そうか・・・)

 考えていると、目の前に突然紙キレが差し出された。街頭のチラシ配りらしい。Nモトは思わず反射的に受け取ってしまった。

 チラシには落書きのような絵と共にこう書かれていた。

<キミも市民を守るヒーローになってみないか?見学者大歓迎!!  秘密結社DV>

(なんだこりゃ・・・ヒーロー?っていうかなんで秘密結社がチラシ配ってんだよ・・・)

 そう思いながらも、Nモトの足は自然とチラシの案内図の場所へと向いていた。

(まあ、いいヒマ潰しができたか・・・)

 彼はまだ気付いていない。この決断が、自分の運命を大きく変えるものだということに・・・。 

 そこは3階建ての古めかしい建物だった。チラシによるとここの2階の1室がその秘密結社らしい。

 1階は大衆食堂になっていた。ラーメンと焼飯のセットや各種定食が売り物らしいが、「ズワイガニのカニクリームコロッケカレー」などという胡散臭い メニューもいくつか見られた。

 階段を上がって2階にでる。薄暗い通路には、いくつかの扉がならんでいた。ここのフロアには、様々な事務所が入っているらしい。

 Nモトはその中のひとつの前で足を止めた。扉の横に掛けられた古ぼけた木製の看板に、目的の文字を見つけたのだ。

ー(株)秘密結社DVー

(株式会社・・・?)

 多少の疑問を感じながらも、とりあえず扉をノックし声を掛ける。

「すいませーん。見学に来たんですけどー」

「・・・入りたまえ」

 答えは少し間を開けて返ってきた。

「失礼しまーす」

 重い鉄の扉を開けると、そこはさして広くもない部屋だった。

 部屋の周りには棚やらロッカーやらが所狭しと並び、そのいずれにも溢れんばかりにモノが詰まっている。中央にはいくつかの机が固めて置いてあり、そのうち一番立派な事務机に1人の男が座っていた。

「よく来てくれた。私がDV長官のヒラオだ」

 部屋にはヒラオと名乗ったその男以外に、人の気配はない。

「1人・・・ですか?」

 思わず疑問が口をつく。

「まさか・・・。メンバーはあと4人いるのだが、あいにく今は外出中なのだよ。じきに戻ってくるだろう。
 まずはこれに着替えてくれ」

 言いながらヒラオは、原色の青いジャージとそろいのスニーカーを差し出した。

「着替えるんですか?」

「うむ。少し体験的なこともしてもらおうと思っているのでな。
 トイレで着替えてくるといい。部屋を出て左だ」

「はあ・・・」

 正体不明の秘密結社で、一体なんの体験をさせられるというのか?

 なんとなく釈然としないモノを感じながら、Nモトは言われた通り更衣をするべく部屋を出た。

 Nモトが部屋を出た少し後。

 ジリリリリ・・・ジリリリリ・・・。

 ヒラオの机に据えられた電話が鳴り出した。ヒラオは静かに受話器を取った。

「・・・私だ。・・・・・・・なに、場所は?・・・・・・・わかった、緊急出動をかける。それと、たった今5人目が見つかった。そいつも向かわせよう。新人の方が先に着くだろうが、実地訓練だと思えばいい。・・・・・・うむ、切るぞ」

 ヒラオは受話器を置くと、薄く笑みを浮かべた。

「いよいよだ・・・。これで、市民は救われる。」

 しばらくすると、扉が開いてNモトが入ってきた。

 Nモトがジャージとスニーカーを履いているのを確認すると、ヒラオは満足そうにうなずいた。

「うむ、よく似合っている」

「はぁ、どうも・・・」

 Nモトは、少しとまどっているようだった。まあ、ロクな説明もなしにアレをやれ、コレをやれと言われているのだからとまどうのも仕方のないことだろう。しかし、今は説明しているヒマは無い。いや、まだ説明するわけにはいかないのだ。

「では、早速我々の活動を見学してもらおう。これを付けたまえ」

 言いながらNモトにインカムを手渡す。

「行き先は、そのインカムで指示する。きっと良い体験ができるよ」

「はぁ・・・じゃあ行ってきます」

 言ってNモトは、部屋を出ていった。

 ヒラオは、閉じられた扉を見つめ、つぶやいた。

「君には悪いが、これも市民のためなのだよ・・・」

 インカムから聞こえるヒラオの声に従って町を行くNモト。やがて、見えてきたのはとある商店街だった。

『その商店街が目的地だ』

 インカムを通し、ヒラオの声が告げる。インカムには小型カメラが搭載してあり、Nモトの視界が本部でモニターできるようになっているのだ。

「なんか、変な雰囲気ですよ?」

 商店街は日常的な賑わいとは違った、異様な喧噪に包まれていた。

『大丈夫だ、突入したまえ』

「はい・・・」

 少なからず不安を抱きながらも、Nモトは商店街に足を踏み入れた。

 

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