「なんだこりゃ・・・」

 騒ぎの原因は一目でわかった。

「ヌゥ、ヌゥヌゥ」 「ヌゥ!」 「ヌゥーーー!!」

 3人の全身タイツを着た男達が、意味不明の奇声を発しながら、八百屋の野菜でキャッチボールをしていたのだ。

 辺りに他の人影はない。すでに避難したのだろう。

「えーと・・・ヒラオ長官?なんかすごいことになってるんですけど・・・」

『ふむ・・・今回の我々の目的はその事態の収集なのだが・・・ どうやら君のほうが実働部隊より先に着いてしまったらしいな』

「じゃあ、しばらく隠れときます」

 Nモトは、今だ一心不乱にキャッチボールを続ける男達から身を隠した。

「で、なんなんです?アレ」

 インカムに問うNモト。しかし、ヒラオから答えは返ってこない。

「長官・・・?」

『Nモト君・・・まずいことになった』

 やっと返ってきたヒラオの声は、Nモトの問いに対する答えではなかった。

「どうしたんですか?」

『今、実働部隊から連絡があった。そちらへの到着がかなり遅れるらしい』

「どのくらいですか?」

『少なくとも、後1時間はかかるらしい・・・
 しかし、それだけの時間このまま商店街を放置しておくことは、寝屋川経済の破綻につながりかねん・・・』

「そんなこともないような気がしますが・・・」

 しかし、Nモトのツッコミは軽く流された。

『そこで君に、ヤツら・・・ア・サヌゥの排除を頼みたい。無論、全力でバックアップはする』

「マジっスか!?だって僕、見学者ですよ!」

『大丈夫だ。そのジャージとシューズの力を使えばやれるはずだ・・・』

「ジャージと・・・シューズの・・・力?」

 ワケがわからなかった。ついさっき、着替えさせられた真っ青なジャージとスニーカー。一見普通の、いや普通よりもカッコ悪いとさえ思えるコレに一体何の力があるというのか。

『落ち着いて・・・私の言うとおりにするんだ。
 まず、顔の前辺りで両手を握るように合わせろ』

 言われたとおり、顔の前で手を合わせる。

『背筋伸ばして胸を張れ。腹は引っ込めるんだ。』

「はい」

『そして、腹から声を出して叫べ!  Set Up!!』

「Set Up!!」

 叫びと共に、Nモトは青い光に包まれた。

 光が収まると、Nモトの全身をジャージと同じ青のスーツが包んでいた。頭もフルフェイスヘルメットのようなもので覆われている。

「な、なんじゃぁこりゃーーー」

『よくやった!今から君はドリブルーだ!』

「ドリ・・・ブルー・・・」

 不思議な気分だった。新鮮なような、懐かしいような。落ち着くような、高揚するような。相反する感覚が身体を駆けめぐる中、これだけは確信できた。今なら、ヤツらを倒せる。

「行くぞぉ!」

 Nモト=ドリブルーは、雄叫びを上げて3体のア・サヌゥに突進した。

「トォッ!」

 こちらに背を向けている1体に、強烈な跳び蹴りをくらわす。一撃でその1体は活動を停止した。

 残りの2体は、仲間がやられてようやくブルーの存在に気付いたらしい。少し距離をとってこちらを威嚇してくる。

 近づいて初めてわかったが、ア・サヌゥは恐ろしくマヌケな顔をしていた。どこを見ているのかわからない虚ろな目。だらしなく開いた口。

「ヌゥー」  「ヌゥ、ヌゥ」

 その開いたままの口からでる奇声は、これまたマヌケな響きだった。

『右手を前に出して、ブルーボトルと言ってみろ』

 ヒラオの声に従い右手を前に出す。

「ブルーボトル!」

 声とともに、手の中にどこからともなくビール瓶が出現した。そこへ、ア・サヌゥの1体が大根を振りかざして飛びかかる。

「フン!」

 しかし、大根がブルーの身体に届く前に、無造作に振り下ろしたブルーボトルの一閃がア・サヌゥの頭蓋を打ち砕いた。

「あと一つ・・・ん?」

 残っているはずの最後の1体が、いない。

 次の瞬間、背後に気配が生まれた。とっさに振り返る。視界に映ったのはカボチャを振り上げたア・サヌゥの姿だった。

「ちぃっ」

 油断だった。2体目が突貫したスキに背後に回りこんでいたのだ。マヌケな顔からは、想像できない動きだった。

(やられる!)

 ア・サヌゥがカボチャを振り下ろす。しかし、カボチャはブルーに炸裂する寸前で砕け散った。ア・サヌゥの背後から放たれた、ピンクの光線に貫かれて。

「おおおっ!」

 すかさずブルーは、何が起こったのか理解できていないア・サヌゥに向かって、右手のボトルを横なぎに振るった。 ボトルはア・サヌゥの脇腹をとらえ、八百屋の奥まで吹き飛ばした。

「終わった・・・」

 ブルーは軽くため息をつくと、自分を救った光線の発せられた方に顔を向けた。そこには、ブルーと同じようなスーツとヘルメットに身を包んだ、4人の人影があった。4人それぞれスーツの色は異なっている。レッド、ブラック、イエロー、ピンク。

『彼らが、我がDVが誇る実行部隊ドリレンジャーだ』

「ドリレンジャー・・・」

 静かにたたずむ4人の向こうに沈みゆく夕日を見ながら、Nモトは、自分がすでに逃れられない大きな流れに巻き込まれているのを感じていた。

第1話 了


あとがき、いいわけ、その他諸々

 終わった、やっと終わった。  いやーごっつぅ疲れましたわ・・・。

 ある時はK−1対猪木軍を見ながら、またある時はチャットをしながら・・・。なんだかんだで何とか書き上げる事ができました。いやー書きにくかった。何が書きにくいって、この中途半端にシリアスなノリがもうどーしよーもない。

 次回からはいよいよ戦隊モノらしい展開でバリバリにいくので、もっと軽いノリになることでしょう。いや、ヘタしたら文体すら変わるかもしれん・・・。

 とにもかくにも、私が茨木で車をサバキながら構想を練り。担当のノリスケ氏のさいそくメールにつつかれながら書き上げたこの一品。頼むから最後まで読んでちょうだい。お願いします。


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