それは、俺やユージーン、そしてハロルドが

 道化師というものに存在一致する前のことだ。







 









 



 確かに、"俺"は彼らよりも遠くにいた。


 多分、誰よりも最も近い場所にいたはずなのに

 結局、その事実を知ったのは

 何年も後の話で、




  果たして、"彼"がその事実を知っていたのかは
 しらない。

 "彼"は俺が嫌いでけれど、俺は"彼"が決して嫌いでは
 なかったのに


 それでも後悔というものは決して先には存在しないもので




 
 その事実にどうしようもなかった。
 その事実を少しでも変えようという努力もわからなかった。


 
 だから自分を入れ替えたり、偽ることで


 "俺たち"はそこにありつづけた。

 


































光で焼け死にそうだった。









理由くらいわかっている。

別に真夏なわけでもないし、異常気象と言うわけでもない。

短に、俺が太陽の光に慣れなかっただけだ。

もっと簡単に言うなら何ヶ月ぶりの外だったといえば
分かってもらえるかもしれない。


仕事の関係上仕方がないことだった。

本当ならこんなゆっくりと外に出てる暇があるなら

少しは寝ろと上司は苦笑するだろう。



別に今の仕事にも上司にも不満はない。

ただ… 光で焼け死にそうだった。 靴音が近づいて来て、すぐ後ろでとまる。

「…や、久しぶり。ルドルフ」 振り返らなくてもそれが誰なのか。解っていた。 光で焼け死にそうだった。 それでも

太陽が恋しかった。

half-canaval
 








「怪我、また増えたんじゃないか」


これだけ顔が包帯で埋まっているなら別人が変装しても解りはしない。
しかし、俺を騙したところで何のメリットにもならない。
せいぜい自己満足程度。
「そう?…そうかも…」
包帯で覆っていないほうを撫でながら「…もう慣れっこだからなぁ…」
と苦笑する気配がある。

「…のんきな奴…」

俺を訪ねてきたこの包帯男、

彼はユージーン。

元々、それが本名ではないのだが
オレがまだ、家族と一緒に暮らしてた頃、
家にやってきた彼を3歳にもならない妹が
うまく彼の名前を呼べずユージーンになってしまった。


 意外にしっくりきたその名前に



何時の間にか

彼をユージーンと呼び、彼もそれを了承していた。







お湯を沸かしながら久しぶりに会った友人の顔をぼんやりと見つめて
思わずため息が出た。
「?…何か顔についてるか?」
ユージーンは相変わらず暗い部屋だなと呟きながら動かしていた目を
はっきりと俺に向けた。 いつ会っても顔の怪我が治っていることはない。 顔の半分近くが包帯で隠れてしまっているがそれでも、 眼だけがはっきりと彼であることを教える。 普段は笑ってばっかりで糸のように細い眼がとある瞬間に 別人のように見える。 今はどちらかと言うと前者である。 不意にちらつかせる、俺が一番好きな眼。 …この眼が後者。 多分、時々するから好きなのだろう。毎回なら気に掛けない。 包帯を巻いているから余計だ。 一度は綺麗に包帯を取っている顔を見たいと思うことも多々あった。 しかし、今ではどうでも良い。 ただ早く傷が治れば良いと思う程度で…それでも こちらに来ている間に直るかと思えば増やして帰るという始末。 しかも理由が大抵一言で言いきれる。 「転んだ」から始まり。 「…滑った」 「躓いた…」 「…蹴った」 「伸びた…」 「…折った」 「打った…」 「…落ちた」 「飛んだ…」 「…撥ねられた」 と実にバラエティに富んでいる。 「で?今回のその傷は?」 沈黙。 「コーヒーでも飲んどけ」 煎れたてのコーヒーを差し出す。 「ルドルフは優しいな」 思わず、コーヒーを噴出す。 どこをどう間違えれば、そんな台詞が出るのだろう。 相手はそんなオレにはお構いなしにコーヒーを飲んでいた。 彼がコーヒーを飲むのを眺めながら 相手に聞こえないように舌打ちした。 敢えて聞かなかったのは…多分。 俺自身がその秘密に触れたくないと思っているから。 理由は簡単。 掛けてやるべき言葉はない。 力になってやれるわけでもない。 ひたすら自分の無力さを知るのが嫌なだけで… そして多分、迷っている本人に対しても悪意を感じて 相手を傷つけてしまうだろうから。 信念が違うから並べられていく現状に対する態度は 当然ながら違ってくる。 わかっていても自分と相手の差と言うものに苛立ちを感じる。 それは本当に些細なことなためにめったに外に出てくることはない。 あるいはだからこそ厄介なのかもしれないが。 それでもこの友人だけは傷つけまいと決めた。 「ルドルフ」 「…ん」 いつまでたっても切り出そうとしない。 顔も包帯でほとんど覆われていて表情が読めない。  包帯の間から、ちらつく瞳。 檻の隙間から空を覗く鳥のような目。 確かに今も空を見上げている。 けれど、そこは檻ではなく、 もっと…奥深い… 「実はね」































「もしもし?ルドルフ?」

高くも低くもない。

特に癖のある声ではないのだが、
ある程度の嫌悪感や不可思議な感情の渦は拭い切れない。


その理由もわかっていた。


「元気?」

ホンの数時間前に似たような台詞を聞いた。

「そこそこには」

俺にできることはせいぜい感情を出さないで
相手に接することだけだった。
「珍しいな。どうした?」


世間話を長々と話しつづけそうな電話の相手に
先に釘をさすと彼は黙った。

「一体何の用なんだ…ハロルド?」

なかなか話し始めそうにない相手に焦れて聞いてやると
とんでもないことを言い出した。






















「ユージーンが…」





































数時間前に見た微笑みが












「お別れを言いにきたんだ」


急速に冷たくなっていくのを感じた…。
















































積み上げられた木片の一角など




簡単に崩れ落ちていく。












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