天の恋 地の愛 〜3



「手塚」
「帰ってくれ・・・」
 やっと返ってきたその声は、何かを耐えているかのような声で、泣いているのかもしれない、と思った。
「帰ってくれ・・お願いだ・・・」
 その後に静かな泣き声が続いた。
「帰らない。お前から答えを聞くまでは」
「俺はお前など・・・っ・・・お前などっ・・」
 手塚は「嫌いだ」と言おうとして、出来なかった。
 叶わぬ想いだとわかっていても、なお彼は真田を嫌うことが出来なかったのだ。何度も何度も喉から 口へ出そうとするが、出来ない。
「手塚、吉野はそれを俺に言って別れを申し出てきた」
「・・・」
「俺は、承諾した。だから、吉野とはもう恋人関係ではない」
「・・たくない」
「手塚?」
「この想いにお前を巻き込みたくない」
「・・・?」
「お前のそれは・・・錯覚だ」
「手塚っ」
「俺とお前は、どちらも男だぞ?」
 そう言った手塚の声は、まるで別人だった。
 自嘲した声だった。
「男同士なんて、可笑しすぎる。・・狂っているのは、俺だけでいい」
「手塚・・・」
「お前は俺に同情しているだけだ。お前は優しい。だから、余計に俺は・・・」



 ドンッ



「いい加減にしろよ、手塚」
 低いドスのきいた真田の声に、倉庫の中の手塚はビクリと驚いた。
「何故お前に錯覚だとか同情なんだと決めつけられなければならんのだ。いいご身分だな」
「・・・」
「いい加減、俺もお前も同性愛者だと認めてしまえ。ぐずぐずと悩むのも、目の前でそれを見せられるのも 俺は好かん。さっさと観念しろ、手塚」
「・・・」
「お前の気持ちはどうなんだ?」



 バンッ



「・・・っ・・」
 飛び出してきた体を受け止め、抱き締めながら、真田は苦笑した。
「やっと天の岩戸から出てきたか」
「・・・真田・・・」
「さぁ、聞いてやる。お前の気持ちは?手塚」




 〜続く〜