「手塚君〜っ!」 会場の向こうから声をかけて走ってきた少女に、手塚は振り返った。 「吉野さん」 「次、手塚君の試合でしょ?頑張ってね!」 「ああ、ありがとう」 明るくて可愛い吉野は、かつて中学のインタビューで答えた手塚の理想そのままの少女だった。自然、対応も 丁寧になる。それは、手塚の恋人の元彼女だったからでもあるのだが。 「真田君はもう少ししたら来るよ。まだ少し試合があるから」 「あいつ・・・」 また無理を他の者に押し付ける気だな、と思って怒る手塚に、吉野はくすくすとおかしそうに笑う。 「真田君ね、やっぱり手塚君はライバルだと思っているから。ね?」 吉野の言うことはもっともで、手塚は言い返すことが出来ない。いつも彼女に免じて許してしまうのだ。それだけ、 吉野は二人のことを良く心得ている。 「あ、手塚君。もし真田君に飽きたり、嫌になったら、いつでも私が付き合ってあげるからね!」 「え?」 「私、今真田君とは『ライバル』なの。恋のね」 「・・・」 (この人には・・・敵わないな・・) ふっ 手塚の笑みに吉野は一瞬呆けてしまった。もっとも、手塚はそれに気づいていなかったが。 「・・・私、手塚君に会えてよかった」 同じように優しく笑って吉野が言うと、手塚もそれに頷く。 『シングルス1、前へ』 二人の横のコートから声がかかる。手塚がゆっくりとその左手にテニスラケットを握った。 「いってらっしゃい」 彼女の前から去っていく手塚は、既に一人のテニスプレイヤーだった。 そのすっとした後姿を見送りながら、吉野は微笑む。 彼女は知っていた。 去年のあの日、真田が去った後の手塚を。 始めは驚いて。時に男同士ということに嫌悪と嫉妬を抱いたが。 それでも吉野は、二人が好きだった。 まだ同性愛については理解しがたいと思っている。 それでも、二人の幸せそうな、必要以上に控えている姿を見て、二人の想いが本物で純粋なことを知って いるから。 これからも決して二人を嫌悪することはないと言える。 (何より、この二人のテニスを見ているのが最高に好きなのよね!) 手塚のプレーを見ながら、吉野は心底嬉しそうに心の内でそう呟いた。 朝霧の中に浮かんだ あなたへの想いつのるばかり 置き去りにされし恋心 万里も追いかける 逢いたくて逢えない夜には せめてこの夢の中だけでも 訪れて静かなる契り かわして見ゆるまで 幾重に吹く風は 紡ぎながら やさしく ゆらめく 棘を抱き締めた この愛しき想いをとどけて・・・ 恋をしただけ それだけのことを もっと言わせて もっとわがままにして あなたの愛に 包まれた日から ココロもカラダも ねぇ、 全部狂おしい 風の果て・・・ はだすすきの穂に咲き出でぬ ひそやかなる恋実らせたい ただ一目でもかまわぬほど 面影は消えずに 静かにおだやかな 愛は胸で はかなく 燃えゆく 冷めやらぬ体温(ぬくもり) 夜空を駆けぬける風になる 恋をしただけ それだけのことを もっと言わせて もっと愛を印して 絡み合う指 つながった糸は 風をまとい空の果てに 舞いあがって 永遠に・・・ 見渡せば 花も椛もなかりにけり 胸に咲き誇る 紅い紅い花 散ることのない花 恋をしただけ それだけのことを もっと言わせて もっとわがままにして あなたの愛に 包まれた日から ココロもカラダも ねぇ、 全部狂おしい 風の果て・・・
RUI 「風の果て」より
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<<あとがき>> はじめまして、または改めまして、美濃 上総と申します。 ここまで読んでいただきありがとうございます。 そして、こんな駄文を載せてくださった木島様に心から感謝します。 こんな作品ですが気に入ってくださると泣いて喜びます。 では、本誌でも、アニメでも、どこでも部長と真田が幸せでありますように・・。 |