他に聞かれたくないとの真田の要望に、手塚はテニスコートから随分離れた中庭へと案内した。休日なので
クラブ員以外の生徒はいない。そのクラブ員も中庭から離れたグラウンドなどをつかっていて、こちらに来ることは
まずない。 「単刀直入に言う」 周辺に人がいないことを確かめて、真田がおもむろに話を切り出してきた。手塚はベンチに座って彼を見上げ るように見ている。 「手塚、俺はお前が好きだ」 「!!」 目を見開いて驚く手塚に、真田はなおも言う。 「始めはただのライバルだと思っていた」 「・・・」 「ところが最近・・・特に先日不二たちがこっちに来た時から、何か苛立って仕方がなくなってきた。何に対してな のかわからなかった」 僅かに揺れているような瞳に見入りながら、真田の口は動き続ける。 「そのうち夢を見るようになった。そして、数日前に吉野・・・俺が付き合っていた奴なんだが・・・」 吉野のことを言った時、手塚の瞳が辛そうに揺れたのを真田は見逃さなかった。 「そいつが・・・俺に言ってきたんだ。本当に好きな人のところへ行け、と。お前もまた俺のことが 好きなんだ・・っ!?手塚っ!?」 言い終わらないうちに走り出した手塚を、真田は慌てて追いかけた。その反応に驚きながら。 「手塚っ!待て!」 バンッ 「手塚っ、開けろ!」 ドンドン 「手塚っ」 「・・・」 「・・・・ハァ」 しばらくして深いため息をついた真田は、ぐるりと辺りを見て、ここが体育館裏の一番人気のない倉庫の前だと いうことを知った。そして、錆びた鉄製の扉の向こうには、手塚がいる。 何を思って手塚がこんなことをしたのかわからない。ただ、吉野の言うことは本当だったのだと真田は思った。 |