手渡されたボトルに口をつけて、一気に飲む。乾いた喉へと冷たい水が流れていくのがわかる。太陽の光が眩しくて目を
閉じているので、余計にそれを感じる。 「お疲れ様」 「・・・」 横からの声に真田は黙ってボトルを渡した。傍に立てかけてあったテニスラケットを手に取ると、 そのままコートへ歩いていく。 「自習練?」 「先に帰れ。遅くなる」 「・・・。わかった、じゃねっ」 明るい声で元気よく去っていく姿を、けれど真田は見送らなかった。 彼女とは高校に入学してすぐ付き合い始めた。よく気の付く少女で、また真田の性格もよく知っていた。 真田にとっては良い恋人で、さらに彼女は可愛かった。 告白してきたのは、彼女の方だった。一度試しに付き合って、嫌なら遠慮なく断ってくれてもいい、と言う彼女に、 何故かその時真田は承知した。そして、そのまま今に至る。 パアン 真田は一人コートでサーブを打つ。返してくれる相手はいない。 だが、真田には見えていた。 パアン その相手に向けてサーブを打つ。その瞬間、彼の脳裏には相手がそのボールを返す様子が浮かんだ。 そのフォームは、誰よりも綺麗だった。 パアン (何故奴らは俺の所に来たんだ?) パアン (何かと思えば、去年手塚と話した内容を訊くし・・) パアン (あいつは・・手塚は不二たちの今日のことを知っているのか?) パアン 「・・・」 (いや、おそらく知らんな。あいつは・・・) サーブを打つのを止めて、真田はボールを拾い始める。辺りはシンとしていた。 (あいつは、誰に対しても気を遣う。不審な行動にも注意する。そうだ・・・) 手塚はどうしようもなく不器用で優しい。 「!!」 そう思った瞬間、真田は何故か驚いた。 不意にたった一度見たことのある手塚の表情が脳裏に浮かんだ。 伏せがちな目は静かで、僅かに笑みを形作るその表情に、彼の深い深い優しさを感じた。彼に大切にされたら、 その相手はどんなに幸せを感じることが出来るだろう。 そこに、少しの嫉妬を真田は持った。 |
続きを頂戴しました。 だんだんとお話は佳境に入って参りましたね。 さ、真田の彼女登場で、あたしゃイジイジです。 |