天の雨 地の光 〜1





 手渡されたボトルに口をつけて、一気に飲む。乾いた喉へと冷たい水が流れていくのがわかる。太陽の光が眩しくて目を 閉じているので、余計にそれを感じる。
「お疲れ様」
「・・・」
 横からの声に真田は黙ってボトルを渡した。傍に立てかけてあったテニスラケットを手に取ると、 そのままコートへ歩いていく。
「自習練?」
「先に帰れ。遅くなる」
「・・・。わかった、じゃねっ」
 明るい声で元気よく去っていく姿を、けれど真田は見送らなかった。



 彼女とは高校に入学してすぐ付き合い始めた。よく気の付く少女で、また真田の性格もよく知っていた。 真田にとっては良い恋人で、さらに彼女は可愛かった。
 告白してきたのは、彼女の方だった。一度試しに付き合って、嫌なら遠慮なく断ってくれてもいい、と言う彼女に、 何故かその時真田は承知した。そして、そのまま今に至る。



                  パアン


 真田は一人コートでサーブを打つ。返してくれる相手はいない。
 だが、真田には見えていた。



                  パアン



 その相手に向けてサーブを打つ。その瞬間、彼の脳裏には相手がそのボールを返す様子が浮かんだ。
 そのフォームは、誰よりも綺麗だった。



                 パアン



(何故奴らは俺の所に来たんだ?)



                  パアン



(何かと思えば、去年手塚と話した内容を訊くし・・)



                 パアン



(あいつは・・手塚は不二たちの今日のことを知っているのか?)



                 パアン




「・・・」
(いや、おそらく知らんな。あいつは・・・)
 サーブを打つのを止めて、真田はボールを拾い始める。辺りはシンとしていた。
(あいつは、誰に対しても気を遣う。不審な行動にも注意する。そうだ・・・)



 手塚はどうしようもなく不器用で優しい。



「!!」
 そう思った瞬間、真田は何故か驚いた。
 不意にたった一度見たことのある手塚の表情が脳裏に浮かんだ。



 伏せがちな目は静かで、僅かに笑みを形作るその表情に、彼の深い深い優しさを感じた。彼に大切にされたら、 その相手はどんなに幸せを感じることが出来るだろう。
 そこに、少しの嫉妬を真田は持った。




 〜続く〜


続きを頂戴しました。
だんだんとお話は佳境に入って参りましたね。
さ、真田の彼女登場で、あたしゃイジイジです。