かすみ色の花ふぶき









〜十




「勝負しろい」



 月白の空にホウーと象どられた呼気が流れてゆく。
 木の間を漏れる月光が額裏を施した流川の羽織の上に葉影を落とし、まるで落ち葉を散らしたように見えた。
――月の影こそ木の間より落ち葉衣と身にうつりけれ、と後撰集は詠う。
 しかし、視覚的な幻影から、流川のキリと引き結んだ精悍さが幽玄の河岸から引き戻してくれる。
 確固たるもののふの姿だ。
 だれにも割り込めない沈黙がふたりの間を隔て、葉と枝を揺らす霊木のたわみから風が出て来ているのが分かるのに、 なぜかそこだけ切り取られた空間のように空気の振動すら耳に届かない。
 それでも流川の声だけが生あるものの総てで、その事実を別段不思議とも思えず仙道は口の端を上げた。
「そうこなくちゃよ」
 いまの自分にとって、どんな種類の言葉をかけられるよりもそのひとことが嬉しかったと、口に出して言えやしないし、 出来れば真剣よりも竹刀の方がよかったなんて願いは倣岸かもしれない。流川が本気なら身を投げ出す覚悟なのはもとより だが、このかけがえのないひとときを少しでも長く引き伸ばしてやることくらい、贅沢な望みでもないだろう。
 もう会えないと思っていた。二度と打ち合えないと諦めていた。なのにどちらもが突き動かされ、提灯ひとつ持たず に闇の落ちた町を互いが彷徨った。仙道にしても、願掛けのつもりはなかったが、辿り着いた場所がこの名刹の本殿 の前だったのだ。
 砂利を踏みしめ流川が近づく。間合いをあけた立ち姿に月の光が鋼を弾く。叩きつける剣気が陽炎にように揺れていた。
 初めて手合わせしたときも感じたが、隙がないというよりも足の配りや腕の備え が柔らかく、機に応じてたわめる躰を持つ遣い手だ。守にも攻にもひとながれの動きで転じられる速さで相手の機制を 削ぐ。先を制する。陵南道場で見たときの流川はそのひとことに尽きた。だが、願い描いた相手が目の前にいるのに、 仙道は刀に手をかけようともしない。焦れて流川が一歩詰める。厭って仙道は後退した。流川の瞳が怒気に揺らめく。 なぶるつもりは毛頭ないが、せっかく会えたのだからもう少しこのままでいさせて欲しいと思うわけだ。
「吉通さまをほんとうに紀伊が手にかけたのかって、もう聞かないのか?」
 試しに世間話並みの調子で逃げると、その分だけ流川はにじり寄った。そして意外にも言葉を返してくる。
「てめーが直接手を下したのか」
「違う。気づいたときには遅かった」
「だったらいい」
 足元から沸き立つ殺気に比べ放り投げたような物言いに、一体なにがいいのかだれが教えてくれ、と珍しく仙道の眉間 に皺が寄った、両家の確執は彼の中で昇華できたのか。できてるわけがない。この殺気だ。もしくはこの会話自体が必要ない という意味か。
 ほんの僅かな間に想像できるなんとおりもの答えを思い浮かべていると、当の流川は一番痛いところを抉ってきた。
「もういいから。吉宗の首、持ってこい」
 低く唸って、言葉になるよりも早く地を蹴り五間ほどの距離から懐に斬り込んできた。仙道は刀を鞘ごと引き抜き 水平に構える。ガツンと目が醒めるような金属音をたて、流川の一の太刀を眉間の辺りで防いだが、相変わらず納刀した ままだ。その衝撃を受けて流川は背後に飛びのいた。
 月明かりだけの陰影に縁取られた白皙は、思うほどを越え吐息すら触れる間近にある。刀身と一体化してしまいそうな稀有な 美貌は、まるで実像を伴わない金烏からの御使いのようだった。だが、殺気というよりも純粋な怒り。それそのものが 流川の存在を現実のものとして伝えくる。
 抜刀しない男にも、意のままにならない身のうちも、奇怪に入り組み憎悪の種を育てはぐくむ家系にも。
 その怒りはスっと仙道の胸にもおちた。
 しかし、まだ抜刀しない。
「弁解とか話し合いの余地はないのかな」
「ねー」
「オレはおまえを傷つけたくはない。言うとおりにするからひと思いにヤちゃってくれ、って言ったら怒る?」
「丸腰の相手に剣が振るえるか。抜刀しろ」
「イヤだ。一度抜いてしまったら我が身を守るためにつき動ちまう。抜いちまったら黙って殺されるわけにもいかねー。 オレまでもがおまえを傷つけるわけにはいかないんだ」
「てめーの余裕、奪うことくらいできる」
「余裕から言ってるんじゃない。オレもおまえも無事じゃすまないよ」
 流川は下げていた剣先で砂利を擦るように引き上げて、仙道、知ってるかと呟いた。
「あいつら、剣を取ることを止めちまってる」
「あいつら、って?」
「尾張も紀伊もだ。つまんねー真似ばっかに長けやがって」
「流川――」
「そんなに憎いんなら剣で遣り合うんが筋だろ」
 ああ、そうだな、と仙道は流川の理論にいまさらながら納得した。
 尾張も紀伊も散々命の遣り取りしてきたくせに、当事者同士が一度も剣を交えて戦っていないのは可笑しいと、彼は 気短なりに思い至ったわけだ。武士が憎いヤツを殺すのにだれかに肩代わりさせたり、薬物に頼ったり。そんなものは 腰に大小の業物を下げてる資格はない。
 だから剣を振って身に纏わりついたしがらみを斬って捨てるしかないと。
「おまえとオレとで、これで決着をつけるんだな」
「うん」
 血で血を洗う諍いにどっぷりと飲み込まれ、互いが次期だと称され、それが分かってもただひとつの望みは もう一度遣り合えること。そこから始まったものは、そこに終着させなければならない。闇の中でもなお、周囲の状況 にまったく左右されない流川の瞳は、月をも弾く強さでそう語っていた。
「そうだな」
――確かにおまえの言うとおりだ。
 話し合いで解決する問題じゃないし、流川はそれでは納得しない。
 ふたり同時に羽織を落として、仙道は防御に徹していた業物から鞘を取り払った。



 仙道は右足を後ろに引いた陽の構え。流川は低い位置の八双。刀を振り下ろす際の反動は小さくても速さの勝負に 出たとみた。ジリジリと足先だけで立ち位置を変え砂利地にふたりの軌跡が残る。
 長い膠着状態は流川の得意とするところではない。間違いなく先に地面を蹴る。一の太刀はあの位置から肩か腕か、 と推測するよりも早く、風も起きない疾さで流川の剣は仙道の脇に伸びてきた。熱い捻れる奔流が後から追いかけ、仙道 は流川の剣を受け流してすれ違った。
 視線が絡み肩越しに相手を捕らえ、振り向きざま偶然に同じ型を取ったまま挑みかかり、息もかかろうかという 距離で剣を交えた。ギっと厭な金属音。譲れない力勝負で互いに呼吸を整えあう。と、同時に離れたのは同じように 回復しえたからだ。
 様子見はこれで終わりだとばかりに、あとはただ己の躰近くで相手の剣を弾き合った。流川の速度は落ちない。 惹かれるように雪崩れ込むように互いが互いを目指す。
 自ら動こうとせず相手の一撃をいなしてかわす仙道の剣運びにも徐々に変化が現われ出した。誘うように足を送り隙を 見せつける。それに乗せられるのではない。迎え待つ余裕を見せる相手の間隙につけ込めると思ったから流川は打ちに出た。 仙道が鬢を揺らして後ろに飛びのく。それでも間隙はなかなか広がらない。
 仙道は守勢で相手を圧倒できる遣い手だ。
 剣を習い始めたころから防御が弱いとよく指摘された。いま少しそちらに気が向かれたら、さぞや厳しい遣い手になら れましょうと、笑ったのは指南役だった安西師。指導から離れていく久しい。攻撃からの防御でなく、防御からの一撃。 向かい合う相手にとってどちらが怖ろしいかは言うまでもないとは、この男に会って始めて実感した。
 もっと深く、もっと強く。受けて弾いて、かわしてやり過ごして。剣と剣とが立てる軋みが境内を覆い尽くし、その 真っ只中に存在出来る幸運を、ただ、ありがたいと思った。
 流川の着る薄二藍の五つ紋と仙道の黄枯ら茶の袷が、交差し合いまた離れ、次第にふたいろが滲むように見えてきたとき、 仙道の手がサックリとした手応えを覚えた。
「つっ、あ――」
 流川の細血が蜘蛛の糸のように宙を舞い、それに気取られて初めて仙道は己の鞘が滑るわけに気づいた。前腕に焼ける ような痛み。いつ斬られたのか覚えていない。対していま衝撃を与えたばかりの流川の袷の袖は半分を失っていた。
 互いが下げた切っ先から鮮血がしたたり神聖なる境内の砂利に文様を刻みつける。どこを斬られたのかもう分からない。 複数かもしれない。それよりも呼吸する肺の方が鉛を含んだように押しつぶされて痛い。仙道は努めて複式に変えてみた。 吐く方に留意しなければ意識を持っていかれる。指先が痺れる。握力がなくなってきている証拠だと唇をかみ締めると、 先に流川の刀が右手から零れていた。
 カツンと乾いた音をたてて業物が砂利に横たわる。と、同時に流川の膝が崩れた。
「く、はっ!」
 竹刀で向き合うよりも真剣それは精神的な消耗がより激しい。そして凄まじい勢いで体力を奪ってゆくのは当然だが、 流川は斬られた傷よりもなによりも胸をかきむしっていた。
「流川っ!」
 刀を放り投げて駆け寄り、冷や汗の滲んでいる少年の背を支えるが、体温が急激に下がり躰はカチコチに強張っている。 爪が食い込むほどに握られた拳は、解かそうと思っても指一本入り込める隙はない。我慢しろ、と仙道は、喉を晒して 吸うに喘いでいる口元を片手で覆った。
 瞳を剥いて流川は暴れ出すが、過呼吸を起こしかけているのだ。肺に取り込みすぎた酸素が出るに出れない状態。 放っておくと意識を失ってしまう。口を塞いででも呼吸量を調整しなければならない。しかしそれを言い聞かせてそうか と大人しく頷く男でも、そんな悠長なことを言っている場合でもなかった。
 腕の中で抗議の声を躰で現している少年に仙道は――純粋な治療のためだけでなく、文字どおり呼吸を奪うつもりで唇を 押し当てた。



 なにしやがると思うよりも先に視界が歪み、肺を満たしていた溢れかえった酸素が、一度仙道に飲み込まれそれが流川に 返される。口づけというよりも濃密な呼気の遣り取りは、息苦しいなんてものではなかった。それでも鼻腔をとおして 取り込める僅かな酸素量が次第に一定の調子を取り戻し、先ほどよりも肺の痛みが 薄れてくると、自然と強張った躰から力が抜け出した。自分から開くことすら出来なかった掌も、緩く開閉できるよう になってきた。
 胡坐をかくように砂利の上に座り込んだ流川の背を支え、覆いかぶさっている仙道も片膝をついたままだ。意識が戻り でん部に当たる石の感覚がいい加減に痛いと感じられるようになってもまだ、
 まだ。
 仙道は流川を離そうとはしなかった。
 流川の呼吸が安定したのを知って一度唇を解放するが、それは角度を変えるためだけのものだった。戦慄く唇の隙間 からソロリと侵入する生暖かいもの。自分のものがそれに触れて喉奥に逃げ込むと、呆気に取られるほど唐突に離れて いった。
 ひとの隙をつくのが本当に上手い。こんなところにも現われている。ホッとしたのも束の間、浅く侵入を見せたそれは ゆったりとした動きで流川の歯列をなぞり始めた。
 艶かしい動きで口腔内でうごめく尖った舌先。点と点がひとつの線になり、やがて思いもよらなかった快楽の波が 面体となってその存在を流川に示してくる。そんなところになにが潜んでいたのか。そこをなぞられてなぜ膝が震える のか分からないまま、殴りつけるつもりの拳が仙道の袖口に皺を刻むしかなくなってゆく。
 僅かな合間しか与えられない息継ぎが鼻に抜けるような音に変わり、流川をうろたえさせる。片方の手を後ろ手につき 仙道の体重の半分を一本では支えきれなくなって、ガクリと地面に仰向けになった。袷の背中越しに砂利が当たって 背骨が軋む。苦業の表情を浮かべた流川に気づいたのか、仙道の手が背と地面との間に割り込んできた。
 そんな緩衝材の役割をして欲しかったわけじゃない。もう片方の手で流川の頬を撫でていた仙道の手が、快楽 を煽るようにゆるりと肩を滑った。辿った先、サックリ斬られた一筋の裂け目から生暖かいものに触れて、流川の悲鳴が 仙道の喉下に飲み込まれる。
「――!」
 ここに至って互いの躰に走る幾筋もの刀傷に気づき、仙道はようやく唇を離した。
 溢れる銀糸が吐息と共に頬を伝う。ヌルリと濡れた執着の跡は生々しく、互いが互いのそこに目を奪われ、それでも 先に気を取り戻した仙道が流川の脇に手を差し込んで引き起こす。五つ紋の袷の背中は砂利の押し付けた跡も痛々し かった。
 仙道に任せるままの流川が呆然と立ち上がると、彼はものも言わずに足早に手を引き出した。もつれる舌で、どこへ 行くと問うても返事は戻ってこない。寡黙な質であり得ない男の沈黙に、黙って手を引かれているわけにはいかないと、 取り戻そうとするが、がっしりと握られた手首はびくともしなかった。
 そろそろ九つ(午前零時)を数えるころかもしれない。
 境内を過ぎて月明かりだけの闇の町を、裂傷で無残な姿を晒す二本差しが絡まりながら駆ける姿は、不審以外のなにもの でもないが、それを見咎める通行人の姿もない。どのみち見つかれば、この姿では私闘云々の言い訳も出来ず、身分上番所 どころの騒ぎではなくなる。両家に、いやご公儀に知られでもしたら、間違いなく正真正銘の戦争だ。とにかく身を隠す より他はなかったが、流川は仙道の意のままというのが許せない。
「離せ!」
 押せども引けどもビクともしない。なにを思い何処へ誘おうとしているのか。泰然自若を地でゆく男の強張った表情が、 流川をさらに落ち着かなくさせた。
「離せっつってんだろ!」
「煩い。ちょっと静かにしてろ」
「どこ、連れてく気だ!」
「心配しなくても紀伊の藩邸じゃないから。瑕の手当て。刀傷は厄介だからな」
「んなもん、必要ねー!」
「これ以上煩く言うと番所にたたっ込むぞ。暗いじめじめした牢獄にひと晩捨て置かれてみろ。腐っちまって、腕、斬り 落とさなくなっちまうが、おまえ、それでもいいのか」
 真面目な顔をしてもの凄い脅しだ。
 番所に連れて行かれてお咎めを受けるのはふたりとも同じなはずなのに、役人を丸め込んで煙に巻いて、ひとりだけ 解放される仙道という図式がすんなり目に浮かび、流川はたちまち大人しくなった。
 腕に支障を来たすのはもっと厭だ。その一念だったのだ。



 町家の灯りひとつない中をひた走り、川のせせらぎと水の匂いのする一角に出てきた。主の訪いを待つ妾宅といった 風情の寮がひとつふたつ。提灯に煌々と火が灯るさまは、ある種淫靡でさえある。仙道はそのうちのひとつ、粗い生垣と 簡素な笠門を持つ邸宅に流川を誘った。敷地に広さはなくてもあちこちに粋人の手が感じられる。離そうとしない手にまだ 引かれながら左右に視線を飛ばす流川を促して、仙道は樫で出来た堅牢な門扉を押した。
 幅一間ほどの径路が門からまっすぐに伸びていた。両脇に植わるケヤキの幹が圧迫感を感じさせる。 邸内からは灯影ひとつ漏れていない。無人のようだ。仙道はそのまま玄関をくぐることなく右に折れて、くぐり戸から 勝手場に進んだ。
 墨を落とし込んだ真っ暗な土間に入ると、入り口で流川を置き去りにした仙道は、闇に慣れたような速さで灯りを落として 戻ってきた。シンと冷えきったそこは水周りと竈が並び、框を上がった向こう側には六畳ほどの囲炉裏の部屋がある。 行灯の灯りはそこからのものだった。
「ここは?」
 ハッと我に返った流川を框の上に座らせ、仙道は焼酎の入った鉄釉の壷を持って戻ってくる。答えより先に流川の袷を 肌蹴け帯の位置まで落とすと、肩、二の腕、脇と、左側に集中した刀傷に向け、口に含んだ焼酎を噴霧のように吹き 付けた。
「つ、ったぁ!」
「我慢しろ」
 特に瑕の深い二の腕には指で広げるようにしてその間に垂らしこんだ。脳天に突き抜ける激痛に思わず背が仰け反るが、 今度はどうにか悲鳴を飲み込んだ。これ以上、この男の前で醜態を晒していられない。涙目ながら上体だけは勇ましく保つ流川に 苦笑を漏らし、仙道は金創の薬を塗り油紙を敷いて晒しで縛り上げた。
 他の瑕は浅い。放っておいても大丈夫だろうと、薬だけの治療を終えた仙道の手を掴み流川は聞いてくる。
「あんたは!」
「え?」
「あんたの瑕は!」
「あぁ、こんなの舐めときゃ治る」
 その物言いも気に入らなければ、前腕に綺麗に一直線に伸びた刀傷を、ほんとうにペロリと舐めて見せるひとを食った 態度。ブチっとなけなしの理性の尾っぽが切れる音を聞き、それで治る程度の打撃しか与えられなかった己を呪いながら 流川は、焼酎の壷を片手に仙道に挑みかかった。
「動くな!」
 同じような手口で仙道の腕を焼酎塗れにし、五割増しな手荒さで瑕を洗い流していると仙道は本気で泣きを入れてきた。
「いででででっ!」
「喧しい! 大人しくしろ!」
「る、おま、おまえ! くっ付きかけてる瑕を広げてどうすんだ!」
「刀傷はきちんと手当てしなきゃ、マズイんだろ。感謝しやがれ!」
 これで真剣に意趣返しのつもりだから哂えてくる。なんでこうなんだろうね。なんで流川なんだろうと、仙道は焼酎 塗れにされた腕を伸ばし、行灯の灯りの元、白さをくっきりと浮かべた流川の躰を抱きしめた。
 大騒ぎしていた躰が虚をつかれ、束の間大人しくなる。この体勢を許されている事実に面食らうのは仙道の方だ。 ありがとうと、なぜかそんな言葉がまろび出た。
「あんな凄まじい剣戟の中で、よくこれだけの怪我ですんでくれた」
 一度剣を抜いてしまったらどちらかが地に伏せるまで終わりのない遣り取りが続く。それを、よくあそこで終わらせる ことが出来た。流川にしてみれば己の体力のなさが恨めしいだけの話しかもしれないが、もう一合打ち合っていたら、 倒れていたのは仙道の方だったのだ。
「オレは、おまえを――」
 素肌をとおして互いの鼓動を聞き、そのあとの言葉が続かず、戸惑う流川を置き去りにした仙道は、肩先に鼻を埋め 酒精でベタつく肌膚に唇を寄せた。




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