「くそぉ。こんなことなるなら、あのときさっさとモノにしておけばよかったっ」
ソレは違うだろう、第一あのときは無理だろうと思いながらも、マキの告白を聞いて真っ先に口をついたのがそんな科白で、
どーやってモノにするんだと想像してセンドウは絶句した。自分の右手が目に入って開いて握ってアノ感触が蘇って、また、
呆然。血圧の乱気流が激しくて、立っていられない。
思えば大胆な真似をしてみせたものだが――っていうか、きっと蛇蝎の如く嫌われちゃったろうし(くすん←
そりゃそうだ)――己の思い描いた結果からかけ離れたとはいえ、このまま指を咥えて見守っていいのか。あの王はヤると
言ったら絶対にヤる。男だろうが幼女だろうが魔女だろうがひとでなかろうが――いや、最低限、ひとではあるだろう――
そんなものなんの障害にならない。
そこに政治的な思惑が存在しないかと必死になって探して失敗した。そんな政策、聞いたこともないし、これは
間違いなく趣味と好みと嫌がらせの問題だ。カエデが頷くはずがないと分かっていても、万がいちということもある。
狡猾さと場数ではふたり、比べようがない。なし崩しって言葉が一番ぴったりくる。
なにか手はないかと思案して思いついたのが、手に手を取っての愛の逃避行。
正式名称、駆け落ちだ。
けれど、したはいい。駆け落ちして、それからどうする。ふたりだけの王国でも築くのか? 第一、
カエデがついてくるわけがない、という現実に立ち戻ってたちまちのうちに頓挫した。
王に決闘を申し込むという手も、その切欠があれでは立会人が認めてくれないだろう。それに、王に引く弓をセンドウは
持ち合わせていない。言い合いひとつしたくない相手なのだ。これでカエデが本当に姫で王が彼女を希い、唯一の
貴婦人を守るためにあのひとと戦える気概があったんだろうかと想像して、自分の薄情さに涙した。
王に挑みかかる姿がまったく想像できない。
アレもダメ。これもダメ。いったいどーすりゃいいの、と頭を抱えたそのとき、
「遅参いたした。まことに申し訳ないっ」
と、野太い声がかかった。
しんがりを努めていた王騎士アカギと、最後に合流した援軍を指揮していたミツイの登場に、ひと息ついていた野営地は
湧き上がった。マキが立ち上がって彼らを労う。三者の抱擁にまた大きな喝采が起こった。
「苦労をかけた。見たところ大きな怪我はないようだが」
「ご心配めさるな。王はわたしを信頼してしんがりの命を下さった。これ以上の喜びがござろうか」
「ま、正直、追討軍は数だけが頼りの軍だったからな。威張れるような大した武勲でもねーよ」
無骨なもの言いはアカギのもの。いかにも騎士然とした巨躯と存在感と信頼性から、大抵は王の一番間近を守る禁軍
将軍。対照的に王に対しても気安いのはミツイだ。弓弩の名手で、だからこちらも最前線で戦う戦士ではなかったりする。
今回の出撃は、王がイの一番に飛び出したことによる、かなりイレギュラーな布陣だったのだ。
「相変わらずだな。少しは泡を食って引き上げてくる姿を想像していたのだが?」
「だれにもの言ってる」
「ミツイ、口を慎め。しかし、今回は王の決断の早さがものをいいましたな。あの獰猛なアイルランド兵が、虚をつかれて
慌てたんでしょう。大した追撃の気概を見せなかったのですから」
「そうなるとオレもアレだな。あまり深く物事を考えないほうが上手くいくのかもしれん」
「そういうことだ、っつうか。それがあんたじゃねーか。長年付き合ってくと、だいたい分かってくるぜ。思慮深げは
フリだってな。現に、ここへの親征を決めたんだって、思いつきと勢いだしよ」
「ミツイっ」
「まぁいい。なによりも、おまえたちに大事がなくて、ほんとうによかった」
闊達に笑う彼らに目礼してセンドウは、にんまりと笑った。
王に意見できる適役がここにいるじゃないか。
横紙破りには誠心誠意の心の言葉でひとの道を説いてもらおう。
ソールズベリ宮廷最後の良心。常識と良識と社会
正義が甲冑を着て歩いていると称される王騎士アカギがあの話を聞けば、怒り狂うこと間違いなし。王国の安寧をなに
よりも願っているひとなのだ。セコイし他力本願だけど彼を巻き込むしかないと、センドウは心の中で手をあわせた。
首都ソールズベリに帰還する前に、大事になる前に、公表される前に、なんとしてもアカギを捕まえなけばならない。
休息と整備と進発の準備という慌しさの中、ようやく彼と話をする機会を得ることが出来た。
なのに、王がなそうとする荒業を直訴しようとした矢先、見ていたかのように進発の命が下った。「実は王が――」
としか説明させてもらえず、切羽詰まった表情のセンドウに気遣いながらも、社会正義のひとアカギは、当然時間にも
厳しかった。
「後日、伺おう」と去ってゆく広い背中を見送りながらセンドウは、自分の作戦が後手後手に回った事実を思いしら
される。当然ながらふたりともそれぞれの軍を率いているから、のんびりと道中、馬に
揺られて四方山話というわけにはいかず、しかも先発と後発というふうに、日程も一刻ほどズレていて、途中の休息
でもなぜかカチ会うことはなかった。
センドウがだれを頼ろうとするか、読まれていたかもしれない。
時々合う瞳の奥が笑っている。
やはり、敵は策士だ。
カエデになにもかもブチまけて警戒させるという手段も、そんな隙がないという事実が邪魔をした。何度かの休憩のとき
もピタリと王が寄り添う鉄壁のディフェンス。センドウの重い嘆息に反して、ソールズベリへと向う道すがら
のお天気は快晴だった。
いまは王も騎士たちも重い甲冑を外し、身軽さを重視した軍装だ。王の出で立ちは、長めの黄褐色のチュニックに紫と
金の刺繍入りチュニックを重ねた、珍しく華麗なもの。さらに金属製のスカートと茶色の長靴。二本の槍を馬に装備し
愛剣エクスカリバーを腰に佩き、革で覆われた大きな丸い盾を手にしていた。
他の騎士たちも同様で、ただカエデだけが同じようなチュニックの重ね着に、布製のネックガードの長い兜で目から
下をすっかり覆っていた。まだまだ風が冷たいから寒さ対策と、もうひとつ、別の意味があったと知るのは少しあとのこと
だ。
ひたすら馬を駆け続ける長の道中の救いといえば、騎士長センドウが王の警護にあたり間近に詰めている関係から、
その傍にいるカエデを見守っていられたという点だ。まぁ、当然、全身の毛並みを逆立て、ものスゴイ顔で睨まれ、構える
槍の穂先で阻まれて、とてもとても近寄ることは出来ない。微笑むだけでご婦人たちを腰砕けにすると定評のある笑みを浮かべたら、
疾走中にも関わらず木の盾が飛んできた。落馬もせずナイスキャッチ出来たのは、ただ、己の身体能力の高さが成せる技で、
それでも、遠く引き離されてしまうよりはマシだろう。
なんて健気なオレ。
「お側にいるのは命がけだな」
周囲の目線も気にせずにカエデの盾を抱きしめた。己の所業を棚に上げて口を尖らせると、すかさずマキに突っ込まれた。
「自業自得だろ」
「ご尤もです」
思い出は美しすぎてってよく言うけれど、自分でぶっ千切ってなお拘る理由はたぶん、あのとき抱きかかえたカエデの
振るえにある。故郷を失い寄る辺を失い生まれ育った場所を追われ、ただ為政者の、マキの温情にすがって生きてゆくしか
ない不甲斐なさを呪った声なき慟哭に、計らずしも触れてしまったからだ。
センドウは己の意思で生国を出奔した。帰ろうと思えば帰れないこともない。不肖の息子の突然の帰郷に父王は怒髪天を
ついて怒るだろうけど、故郷はある。だが彼は違う。
己に力があればと思う。センドウが預かる禁軍第一軍はマキから譲り受けているもの。マキに忠誠を誓うものたち。
センドウの意のままはならない。緩やかな丘の稜線と織り成す緑に囲まれた穏やかで美しい国を、取り戻してやりたいと
願っても、そんな力はない。
また、カエデにすれば出逢ったばかりの不届きモノにそんな熱情を傾けられても、嬉しくもなんともないだろう。
出逢ったばかり、か。
思えば、相当、ショックだったのだ。あんな行動に走ってしまうくらい。
でも、思いどおりにならないからってなにもかもブチ壊してしまうオレって、いったいなに。まったく子どもの癇癪
じゃあるまいし。いったい何度目かもう分からない撃沈を果たした。
グルグル回って、カッコ悪いったらない。
あーあ、と、目に痛いくらいの青い空を仰ぐと目に入ったのは、こちらに飛来してくる一羽の猛禽類の姿だ。
この親征の間も、飛来してきた鷹が二度ほどフジマの腕に止まったことがあった。あれは各国に配置したフジマ
子飼いの草たちからの密書で、城にいるときでも出先でも、王の軍事顧問はああやって情報収集しているのだ。
いまも足首に結わえられた伝書に目をとおし、ひとことふたことなにかを告げるために王に身を寄せた。王から返事は
返らない。頷いただけだ。それだけで伝わるものがあるのだろう。納得したフジマは鷹の口に餌を含ませると、返信も
つけずに解き放っている。
風の流れに逆らうような勢いで上空まで達した鷹は、あっという間に肉眼では取らえられない高さまで飛んでいった。
どちらにせよ、キナ臭い情報はフジマの元に集まり騎士たちに図られ王が吟味する。その図式は揺るぎないのだが、
いま、あの鷹が飛び立った方角はカーマライドではない。あの地を占拠したアイルランドの動向ではなかった。
まるっきり逆だ。
サクセンに動きがあったのだろうか。
ドーバー海峡をはさんだ欧州大陸を席巻している彼らは、虎視眈々とこのブリテン島を狙っている。
サクセン人だけではない。戦いの火種はどこにでも落ちているし、導火線は何処にでも延びている。気が休まる日など
一日もないのだけれど。
「見えてきたぞ。ソールズベリ城だ」
センドウの思惟を遮るように、マキの声がかかった。
マキを挟んだ向こう側で馬を駆っていたカエデが、伏せがちだった視線を上げた。そこには、なだらかな丘陵が続き川や
小川が幾筋も走る沼沢地が広がっていた。その左右には肥沃さを伺わせるような美しい麦跡がある。収穫時期には黄金色の
麦穂が一斉に頭を垂れるのだ。
平原を見渡す格好で広がる大きな小高い丘が、彼らの眼前に浮かび上がってきた。朝の光を受けた丘の中央に、大地を
気象をひとのうごめきを、その総てを見極めんとするかのような威容を誇る城がある。それがソール
ズベリ城だった。
領内に入ってからも馬速を緩めなかった主従が、ようやくひと息つけたと肩の力を抜いた。
「改めてあの優美なルカワ城と比べると、無骨も無骨。なんの面白みもない城だな」
「まったくですね。王のお人柄そのものって感じの実用一辺倒だから」
「花を愛でる情緒も欠けているし?」
「音楽もね。楽士も揃ってませんよ」
「そりゃ、悪かったな」
と、硬い表情のままのカエデを気遣えば、
「んなもん。落ちてしまえばどーしよーもねーだろ」
と、低い地を這うような声で吐き捨てられた。どうやら、王も騎士長も、まだこの少年の性格を掴みきれていない
ようだ。肩をすくめたまま、あとどうやって取り繕ったらよいか惑う間に、一行は帰城した。
城下を構築する町や村のあちこちに、隆起陥没した溝は大昔の土木工事の名残だ。
道路や下水道などが整備された巨大な都市を築こうとした偉業を成したのは、残念ながらブリトン人ではなかった。
百年ほどの昔、ブリテン島を占拠したローマ人たちの功績だ。
だが構築そのものよりも維持し続ける方がずっと困難なのは明らかで、工事を推し進めるための資金や物資がローマ
から得られなくなると、それらは次第に風化しだした。ときの流れも無情だ。あれほどの栄華を誇ったローマ帝国に、
それだけの力がなくなっていった結果なのだから。
デミーティアとマキ王に、その風穴が開いたような遺跡の跡に、手を入れる余裕が出来たのはここ数年の話だ。
「どうやら我が寝ぐらは無事のようだな」
「当然ですよ。優秀な騎士たちが後詰めに残ってくれましたからね」
「しかしなぁ。その優秀な騎士たちがなぁ……」
王が言いよどむ。センドウは思い当たる節があったのか苦笑いしているが、カエデにすればそれどころではなかった。
そのころになると後発のアカギたちも合流したようだ。
風景が変わり平原が途切れると、古い石畳の道が平らで
広大な丘に向って伸びている。その背後、高く隆起した尾根が丘の周縁を
幾重にも巡っていた。それは敵の襲来を受けた際の自然の防壁だ。敵に向って一方向しか開かれていない上に、
その眼前が見渡す限りの広々とした原野。見晴らしがいい。敵襲が一目できるほどに。
三方が壁だから日当たりは当然よくない。城というよりは砦に近い。確かに謙遜でもなんでもなく、故郷の城と比べると
あまりにも殺伐とした印象を受ける。けれどこれが敵の襲来への備えのためなのだと知った。
領土と領民を守る城に優美さなど必要ないのだ。
初めて見る他国の建造物は王子としての彼の目をも圧巻するものばかりだ。
王の帰城を知った領民たちが頭を垂れる。門前の哨戒兵が槍を掲げた。
「ようこそ、ソールズベリへ。我が城はお気に召したかな」
先に下馬した王が馬上のカエデに向って手を差し伸べた。いや、手を添えようとした、といった方が当てはまる。
まるで貴婦人に接するときのマナーのそれで、アカギは眉をひそめセンドウは息を呑みカエデは瞳を何度も瞬いた。
その扱いに気づいたカエデの視線が尖る前に、王は彼にすっと歩み寄り小声でささやいた。
「いまはオレの言うとおりにしろ」
「あんた、王だろ。なに考えてんだ」
「いいから」
「怪我なんか、たいしたことないのに」
そう誤解して、これがわが国の賓客を持て成す礼儀だとはぐらかされ、なるほどと思ったカエデも世間知らずだが、
そんな彼を丸め込み、この後に控える計画の布石にした王の厚顔も相当だ。帰城の寿ぎの声を上げる領民や兵士たちの目には、
王自ら手を取ったカーマライドからの客人がただの客人とは映らないだろう。
それだけではない深い意味合いも。
やはり、王は本気だ。
カエデだけに被せた兜も、ザンバラに切られた髪を隠してくれる。
ことの異質さをアカギも感じ取ったのか顔が険しい。だが、もう手遅れかも知れないと、アカギの視線に気づきながらも、
センドウは愛馬の手綱を、出迎えた従騎士の少年に預けた。
要塞正面の二階建てほどの高さの木製の通用門が厳かに開かれる。哨戒兵が槍を掲げる中、一行は城内へ
進んだ。驚くほどに大きな中庭の真ん中には、幾つもの石像が設置してある噴水があった。左右には同じ石で出来た
オブジェが無造作に据えてある。その石像のお陰で真正面が見渡せない。これも防御上からの構造だ。
中庭をはさんだ向こう側には、居館らしい建物が幾棟にも渡って建っていた。それぞれ趣向を凝らした貴族の屋敷
ひとつ分ほどの建物がずらりと並び、その中央にあるのは一際厳しいつくりの館だ。装飾は華美ではない。けれどその
迫力と豊かさと重厚さ総てがカエデを圧倒した。
すっかり呑まれたカエデはまだ気づかなかった。王に手首を引かれたままだということに。
尤も、指を絡ませているわけでも、腕を組んでるわけでも、手を添えているわけでもないが、肩と肩がぶつかる
ほどに近い位置なのは違いない。口さがない宮廷の女官たちが見れば、まぁ、ご覧になって。王があれほどに仲睦
まじく寄り添っていらっしゃる方はどちらの姫さまでしょう。どうして殿方の格好をなさっておいでなの。
きっと尊い身分を明かせないのですわ。王ったら隅におけないのね、な状況なのだ。
王の居館にまでは、王騎士と言えども許可がない限りついてゆくことは出来ない。あとは近衛兵に任せ、その状態の
ふたりが扉の向こうへ消えてゆくのを頭を垂れて見送ってから、アカギはセンドウの腕を、痛いほどに握り込んだ。
「あれはどういうことだ」
「イテテ。ちょっと手を緩めてくださいよ。何度もアカギさんにお話しなくちゃって思ったんですけど、機会がなかった
んだ」
「そんなことはどうでもいい。どういうことだと聞いている。アレでは、まるで――」
「そう。貴婦人扱いですよね。王は、カエデを正妃として迎えようとなさってる」
なんの衒いもなく直球を放り投げて、それでもポカンと締まらない顔をさらした王騎士の、そのときのアカギの表情を、
平時ならば珍しいものを拝ませてもらったとからかうのだけれど、そんな余裕はセンドウにもなかった。
「それでは、アレは、あの方は、ほんとうは姫なのか?」
「いえ、正真正銘の王子さまです」
「ならば、ならば、なぜなのだっ。マキ王の、お気は確かかっ」
センドウ、知っていたならなぜ止めないと、首根っこを掴まれ、逆にその手を取ってセンドウは、アカギを建物の
影まで引っ張って行った。ここではあまりにもひと目につき過ぎる。
「至って正常で、歓喜に耐えないくらいにご健勝でいらっしゃいます。オレでは無理だったんだ。アカギさんにご相談
しようとしても機会がなくて、なのに王は着々と地固めをなさって」
「なにを考えておいでなのだ、王はっ」
「王の御心なんて、畏れ多くて、オレなんかに計り知れるもんですか」
「冗談ではないぞっ。センドウっ」
「分かってますよ、そんなこと」
「王の、その、性癖が、そうだとは、聞いたこともないのだが、おまえは知っていたのか」
「オレだって知りません」
「カーマライドの王子はそれでよしとしているのか?」
「そんなわけないでしょ。まさか水面下でそんな画策が進められてるなんて夢にも思ってないし、知れば当然怒るに
決まってる。けど、さっきのアレ、見たでしょ。カエデは貴婦人としての扱いを受けたなんて、これっぽっちも感じて
ないんだ。いいように言い含められて、気づいたら婚礼の儀で司教が前にいた、って状況、十分に考えられますって」
「バカなのか?」
「マキさんが、あざといんですよっ」
「マズい。マズ過ぎるぞ、センドウっ。こんなことが他国に知れたら、我がデミーティアの威信はガタ落ちだ。うつけもの
の王だと誹りを受けるぞ。そんなこと、そんなこと、オレには耐えられん!」
「同感に決まってますっ」
「センドウっ」
「アカギさんっ」
と、手に手を取り合ったわけじゃないが、まったく別の観点から出発して同じ位置に到着したふたりは、同時に同じ
事実に気がついた。
「ルカワ王は、病篤く、臥せっておいでだ」
「そう。もしものことがあれば、カエデは三年、喪に服さなきゃならない」
「その前に?――」
「その前に。王なら絶対にそうするっ!!」
確かめるよりも先にふたりは走り出していた。
continue
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