それからの行動は早かった。
後ろも見ずに駆け続けろとだれもが叫んだ。何れ第三波と合流するはずだから、ただ逃げろと。背後からの圧力は
あまり感じなかった。最後尾についた王騎士のアカギが、応戦しながらも部隊を撤退させるしんがりの役目を十二分に
果たしてくれているからだろう。
なだらかな丘を幾つも越え、祖国カーマライドからどれほど離れたか分からないころになって、遅れていた援軍が
目の前に現れた。地鳴りを上げ自分に向ってつき進んでくる馬群とはためく王旗を、これほど感慨を持って眺めたことは
ない、とカエデは思った。ただあれは祖国を取り戻すための軍ではない。自分たちを守るための鳴動だ。
王師としての体裁を整えたその軍は馬足を止めることなく、主従をやり過ごし、カーマライド方向へと駆けてゆく。
その姿を見送ってカエデがもう一度だけ後ろを振り返った。どこにも祖国の姿はない。土煙に紛れた草原だけで、
その目線を追って真横に並ぶセンドウは少しだけ馬足を緩めた。これに敏感に反応を返すのはカエデだ。
「余計なことすんなっ」
「なんのこと? 馬が疲れてきてるんだよ」
射るような視線にすっとぽけてセンドウは聞いてもいない説明を始めた。
さっきすれ違ったのはね、王騎士のミツイさんたちだよ。思ったよりもずっと早かったね。これでしんがりを努めるアカギ
さんたちが少しはラクになるだろう、と懸命にはぐらかすが、カエデの不興を買っただけのようだ。
フジマが休息の合図を出したのは、ミツイたちをやり過ごし、一行が見晴らしのよい丘に到着したほどなくのこと
だった。
天幕が張られ真っ先にルカワ王がそこに運ばれた。怪我人の手当てを一番に、文字どおりの野戦病院だ。血の匂いと
呻き声に混じって乾燥肉を焼く匂いも漂ってくる。英気を養い体力を取り戻すために、吐き気を堪えて、あとでそれを
かっ込まなければならない。
まずは水分の補給とばかりに水袋を傾けていると、重症のセンドウ卿には付きっ切りでお世話させていただきますと、
衛生兵が待機していた。なるほど、甲冑の継ぎ目辺りの腕と肩をざっくり斬られている。これじゃ痛いはずだ。煮溶かされた
薬草を塗りこめられて、初めて呻き声が出た。ほんとうに斬りつけられるより痛いのだ。
ムリヤリ薬湯も呑まされて、躰が青臭くて仕方がない。
ひとしきり治療を終え野営地を見渡した。しゃがみ込んで治療の順番を待っているミヤギとサクラギの姿があった。
「ものスゴイことになってるな。大丈夫なのか?」
「たりめーだ。こんな傷、大したことねー」
「かすり傷ばっかだぜ。見たとこ、おまえの方が重傷じゃん」
「けっ。意外とドンくせーの」
「サクラギぃ。ぶっ倒れかけたとき、助けてやった命の恩人はいったいだれかな?」
「アレは滑っただけっつってんだろうがっ!」
同年だからミヤギが気安いのは分かるが、年下のサクラギにまでタメで話されるとは。身分の差はどこへいった?
見習い従騎士と王騎士さまだぜ。オレって、どっか、威厳に欠けるものがあるんだろうか。けれどふたりとも、だらけた格好ながら
も視線が強い。本当に大事はないようだ。近くにカエデの姿が見えないところから、ルカワ王と同じ天幕の中だろう。
当然王もそこにおわす。
まだ思い足掻いている部分に決着をつけなければならない。外科的手術が必要なのだ。それよりもなによりも、ただ、
傷ついたあの瞳に会いたい。惹かれるようにセンドウは王の天幕へと足を運んだ。
ちょうど衛生兵が湯を張った真鍮の盆を抱えて出てきたところだった。哨戒兵の礼を受け、幕を開きかけたセンドウの
手が止まった。
「父上の容態は?」
カエデの声だ。ボソボソと聞き取りにくい一本調子に、すぐさま返る声が柔らかい。
「案ずるな」
「ほんとうのこと、言ってほしい」
そのあまりの返答の早さにカエデは訝ったのだろう。声は小さくても詰る色を含んでいた。
「そうだな。おまえにはウソは言うまい。予断は許せない。心の臓が弱りきっているらしい。ソールズベリまで持つか
どうかだ。覚悟しておけ」
「分かった、じゃねー。……がと……ます」
とたん、弾けたようなマキの笑い声が響き渡った。入り口に佇むふたりの哨戒兵が顔を見合わせている。その間に挟まれた
センドウも、思わずこめかみを押さえ込んだ。なんなんだ、この気安い会話は。顔見知り程度じゃないだろう。親愛
以上のなにかに触れて、まるで苛烈な質の王の弱みを握った気分になる。弱みはすなわち執着に他ならない。懸念は疑惑へとさま
変わりする。センドウの中のカエデと王が、カタチを変えだした。
眩暈を覚えそうな会話はまだ続いていた。
「舌を噛みそうな敬語だな。無用だ、カエデ。それに、おまえに礼を言われるには及ばんと言ったはずだが」
「けど」
「まぁ、よい。それで、怪我の具合はどうだ」
「全然。どってことねー」
「おまえの、どってことない、ほどアテにならないものはないからな。いつだったか覚えているか。模擬刀で打ち合った
ことがあったろう。おまえの聞き分けがないから、手首に打ち込んでしまったんだ。どってことない、とか言うから
冷やしただけにしておいたら、翌朝、倍ほどに腫れあがっていた。あのお優しいルカワ王の、あんな雷を頂戴したのは、
後にも先にもオレだけだろうよ」
「んな。子どもんときのことじゃねーか」
「よくあったという話だ」
ちょっと待てと言いたかった。センドウがカエデに最後に会ったのはわずか四年前だ。センドウの父とルカワ王は旧知の
間柄だった。生国を出奔したセンドウが一番最初に頼った地がカーマライドで、事情を知ったルカワ王は快く彼の滞在を
許してくれた。
当時、なん人かいた上の姫たちはとっくに輿入れされて、ルカワ城に残っていた子どもはひとり。カエデは末っ子だと
紹介された。
出逢ったその日から目を奪われ悶々としていたある日、お昼寝明けから目覚めテラスに下りたばかりのカエデ姫を
捕まえて求婚した。キョトンと目を見開いた表情があまりにも稚くて、そのまま口付けたのだ。センドウにとっては、
その後の放浪の寄る辺。心のオアシス。この恋に一生殉じると誓った。あれを忘れてしまえたのか。あんなもの、衝撃でも
なんでもなかったのか。
そして、オレのアレはすっきりと忘れて、王と打ち合って怪我した話を覚えてるってどーゆ
ーことだ。怒りは殺気となって天幕内に入り込んだようで、
「そんなところでなにをしているんだ、センドウ」
と、中から声がかかった。ばっちりバレていたようだ。
「失礼します」
諦めて足を踏み入れた天幕内は、たっぷりと暖を取っていても薄暗がりに満ちていた。目がなれた温かい室内で、さらにセンドウの
血圧は一気に沸騰する。幕内の一番奥、本来ならば王が休む寝台には昏々と眠り続けているルカワ王。そしてその前の簡易寝台の
クッションに上体を預けたカエデが、こちらに顔を向けていた。
先ほどのアレでは会えたといえない状況だったし、ましてや重装備だ。ギラギラと滾った殺気も一緒にまとっていたから、
洒落にならないほど雄雄しかった。それでもひと目を惹くほど整った容貌を晒していたのだ。その美貌が、いまは治療も
終え身奇麗にされ、安堵から躰じゅうの力総てが抜け落ちたような危なっかしさで、潤んだ穏やかな目を向けてくる。
――可愛いじゃないかっ。
ただ痛み止めの薬草が効きすぎて、意識不明一歩手前だったという事実なんか、センドウにはどうでもいいことだろう。
思えば四年前もそう。お昼寝明けの子どもなんか、仔ライオンですら十分愛らしい。掛け違ったボタンはドンドンと傷を広げて
ゆき、いまに至るというわけで。
けれども、可愛いものは可愛いのだ。
血糊とドロに塗れていたときも驚くほど白かった肌は、青みを帯びて凄みさえある。だから余計にふっくらとした唇の赤
が扇情的で、なのに、先ほどよりも幾つも幾つも幼いアンバランスさがセンドウをわし掴みにした。
真っ先に聞かなければならない具合よりもなによりも、ここにマキがいなければ、抱きしめて押し倒してキスの雨を
降らせていただろう。
返す返すも残念だがここはマキの天幕だ。当たり前に彼はいた。
しかもっ。
夜目にも明らかな白皙に手を添えて、王はカエデが躰を横たえている寝台に腰掛けているのだ。右手はカエデの
額から耳朶の辺りを何度も彷徨い、横髪をかき上げる仕草というよりも愛撫に近く、本人もその手を陶然と受け止
めているように見える。
決闘だっ、と怒り出さなかった自分の理性とやらが、センドウはキライになった。
「盗み聞きとは感心せんな」
ゆるやかにマキは笑った。余人を介しても指の動きを止めようとはしない。そこにばかり目がいって、返した言葉は機知に
とんだセンドウにしては平凡なものだ。
「おふたりがあまりに親密そうに話されているので、ご遠慮申し上げたんですよ」
「科白と表情があっていないぞ。そんな怖い顔をするな」
「あれほどはっきりとオレのものだと申し上げたのに、忘れっぽくていらっしゃる王が悪いんでしょうが」
恨めしげに口を尖らせると、ニンマリ哂って頭を垂れる殊勝な仕草。それでもその特等席を譲ろうとはしない。だから
センドウはカエデの枕元に膝をつくしかなかった。
「加減はどう?」
「だから、どってことねーよ」
プイと顔を背けられ、同じ『どってことねー」でもなんでこうも響きが違って聞こえるのか。センドウの嫉妬は頂点に
向ってその場にトグロを巻いていた。こんな思いにもどこかに帰着点を見つけなければならない。けれど、いったいどこに
落ち着けるというのか。
カエデの、顔を背けたその顎のラインが、初めて出会ったあのときと重なった。
――……これが末っ子のカエデだ。カエデ、ちゃんご挨拶をしなさい。
――初めまして。オレはベンウィックのセンドウっていいます。
――っす。
――これ、カエデ! なんという返事をするのだっ。
――かまいませんよ、ルカワ王。とても恥かしがりやさんなんですね。姫。長旅の末に会えたその美しさは、ある意味
罪です。決めました。オレは一生あなたの僕です。だからちゃんとわたしの方を向いてください。オレの名を呼んでくだ
さい。あなたの美しさの虜になったオレを哀れに思うなら。
思い出すだにこっ恥かしい赤面ものの科白だが、哀れもなにもあのときのカエデもアホらしいとばかりに、そっぽを
向いて横顔を晒していた。ふたりを引き合わせたルカワ王は、そのときちょうど側近に耳打ちされていて、急転直下、
フォーリンラブな告白は聞こえる状態じゃなかった、と。
そう言えばまともに目があったのは、しばらくして
口付けたときだけで、いっつもオレを見ようとしなかったんだよな、と思いは馳せる。あの冷ややかさを読み違えるとは、
センドウアキラ一生の不覚。恥かしがっていたもんだと、いままで引きずってきた結果がコレで。
だから、その視線が欲しくて。
カエデの頬に添えてあったマキの手を恭しく外し、そしてニッコリ笑うとセンドウは、上掛けの上からカエデの股間を
鷲づかみにした――。
「あ、やっぱ、あった」
センドウ落胆の声にその場が凍りつく。右にマキの息を呑む音。左にカエデの血圧が上がる音。真っ赤に染まった
白皙がわななき、希望どおり視線を一身に集め、
「なにしやがんだっ。このドヘンタイ!!!!」
果敢にもセンドウは、自らの初恋を自らの手で粉砕した。
それからの逃げ足は早かった。
意味不明な罵声と手当たり次第に投げられる装飾品の雨をくぐって、ふたりは天幕を追い出された。なんでオレまで、
とマキがひと睨みいれる。せっかく塞がった傷が開いちゃったかなとセンドウが笑うと、マキの拳骨が横からやってきた。
背後を振り返り肩をすくめて、とばっちりを食ったマキはその場にしゃがみ込むしかない。
デミーティア王ともあろうものが情けない話だ。それもこれも全部コイツのせいで、ふつーするか、あんなこと。
けれどふたりとも、こみ上げてくるものを押さえられないでいた。ひとしきり哂ったあと、マキはその場に仰向けに
寝転んだ。センドウは座ったまま両手を後ろについて、雲の流れを楽しんでいる。
「おまえ、なかなかいい根性してるな。どこまでもすっ惚けてるから、まだ気づかないおめでたいヤツだと思ってたが」
「薄々気づいてましたよ。いくらなんでもバカじゃないんだから。けど、誰かに指摘されて知るのは、もっとバカみたい
じゃないですか。自分で確かめた方がマシでしょ」
「そんなもんかね。で、いつ気づいたんだ? 出撃前は姫だ、唯一の貴婦人だと、ほざいていたと記憶するが?」
「兜を取ったときが決定的ってのが正直なところなんですけどね」
「なるほどな。あの髪だからな。しかし、あそこまでする必要があったのか? 姫か王子か。それを聞けば済む話だろうに」
「散々アテられた意趣返しですよ」
「オレへのか? それはさぞかし溜飲も下がったろうが、『湖の』騎士センドウ卿は美少年の股間を触る趣味がおありだと
ウワサがたって大変だな」
「だれが流すんです? あなたしかいないじゃないですか」
「カエデの視線も痛いぞ」
「そーなんですよねぇ。ま、それはオイオイ考えますよ」
「なにを考えるんだ? 分かってたんなら、オレのものだの、忘れっぽいだのと牽制する話じゃないぞ」
「坂の傾斜が急だったから、転がり出した石ころは簡単に止まれないんですよ。ところで、お話、聞かせていただいていい
ですよね? オレが会ったとき、あの子は間違いなく姫でした。っていうか、ドレスを着てました。でしょ?」
そうだったな、とマキは目を閉じた。
「王家に生まれた男子は育たないと思われていたんだ。ルカワ王の心痛は深く、実際、カエデが生まれたとき、たった
二つの世嗣の王子が身罷られたあとだった。それ以前にも本腹妾腹に問わず、王子はおふたり亡くなっている。だから余計に、
魔よけの意味と願いを込めて姫として育てた。よくある話だ」
「よくある話なんですかね。だったらそう言ってくれてもよかったのに、ルカワ王。オレにはなんの説明もなかった
ですよ」
「みなに広まってしまえば天を欺く意味がないだろう。オレだって聞いたわけではない。感じとったんだ。小さいころ
からアレは十分苛烈な質をしていた。違うと全身で抗い続けていた。オレの父はルカワ王からご相談を受けていたのだと
思う。だから父の言葉の端々からそう確信したというわけだ」
「ひでぇ話。けど、アレが女装って、信じらんないくらいに、めちゃくちゃ可愛かったですよ。そう思い込んで
心を奪われたのってオレだけじゃないでしょうに。求婚したのだってオレだけだとは思えない」
「だな」
「だな、ですか?」
「そう。だが、カエデは二、三年前に髪を切ったと言っていた。十をひとつふたつ越えたまでくらいの幼女だったら、
まさか終生の愛を誓うお調子ものも現れるまいと、ルカワ王はお思いだったんだろう」
お調子もので悪かったですね、という科白は明後日の方角へ流れていった。なにもかも承知した上で慈しみを見せていた
王に、張り合ってしまう自分は、ただ慣性の法則で転がっているだけなのか。坂はまっ平らだから、転がるにはそれなり
の力が必要になる。ふたりの間に火花なんか散らない。それほど子どもでもない。これはただの牽制球だ。
なんのための。
「オレ、カエデ姫をお嫁さんにするって、キスしたんだよな」
「だから、子どものころの他愛のない約束だろう。時効だ、時効」
「オレが約束したのって、後にも先にも彼女ひとりで、唯一の貴婦人ってホントなんですから」
「その唯一って言い切るところに無理があるんだ。おまえ、いま、過去のご乱交を都合よく抹消しただろう」
「ご乱交だなんて人聞きの悪い。恋の駆け引きを楽しんだことは認めますよ。でもこれも騎士のたしなみでしょ」
「人非人が」
「マキさんに言われたくないですよ。なにやら近頃は人妻キラーで名を馳せているそうじゃないですか。そんな地下に
潜るような恋をされてるから発覚しにくいんだ。オレのはただ開けっぴろげなだけでしょ。婚姻から逃げ回ってるって、
アカギさんは怒ってましたけどね。ソールズベリに帰ったら、また再燃しますね。あの話」
「イヤなことを思い出させるな」
マキの思考がなにかに思い当たったようだ。小さく呟き、眉間に皺が寄り、次の瞬間には満足げな笑みが浮かんでいた。
またぞろ、なにかロクでもないことを思いついたかと、センドウは身構える。その予感に張り巡らさせる危機管理と心の
防御は絶対に間違いない。
「なるほど、婚姻、か」
「王?」
「その手があったな」
「なに考えてるんですか?」
「いまオレの正妃候補の筆頭がだれだか知ってるか?」
マキは小枝をつかむと、大雑把なブリテン島の勢力地図を書き出した。たてに長い袋のような形状。北方はノーザンブリア
などのケルトの血が濃い地域。東海岸はもっと早い時期にサクセン人の手に落ちたカンタベリー、ボーチェスターなどが
ある。そして島の中央から南部に渡る――コーンウォール、サマセット、ウェイルズ、カンブリアなどが依然として
ブリトン人文化の牙城として残っていた。
「知ってますよ。ヴェニドシア(北ウェイルズ)のモリシゲ王のいち姫さまでしょ。オレがお会いしたあのときから、劇的
に変わっていらっしゃらなかったとしたら、まぁ、なんつうか、その、チョー個性的なお姫さまですよね」
「婉曲なもの言いはするな。はっきり言って、かなり、アレだ。オレ好みではない」
「アレ、ですね。オレもちょっとご遠慮したい。けど、正妃さまに関しては選り好みはできないでしょ。第一に家柄が優先
される。ましてやヴェニドシアはお隣の大国だ。両家が縁戚関係を結べばこれほど心強いものはないし、足がかりにもなる。
願ったり叶ったりってヤツ。取り合えず立后さえしていればだれも文句は言わないんだから、婚儀のあとの一夜だけちょっと
我慢して、あとは見目麗しい愛妾方とよろしくやってればいいじゃないですか」
「無論そうだ。だが仮初めの婚姻相手だとしても美しいほうがいいじゃないか? 仮にもデミーティアの王妃として
オレの横に並ぶのだからな」
カラカラ笑っていたセンドウの表情が凍りついた。話の道筋が見えてきたのだ。
「ってっ! なに考えてんですかっ。お、男でしょ。男の正妃を立ててどうするんですか!」
「ダメか?」
「ダメに決まってますっ」
「いや、男であってもアレはソソるぞ」
「イヤですっ。カエデはオレのもんなんだからっ」
「ほう、おまえのもの、ね」
「いや、その――」
おまえ、知らないだろう、とマキはその浅黒い端正な顔をめ一杯近づけて、劇的に言い放った。
「カエデが女だったら、オレの后になるはずだった。これはオレの父とルカワ王の取り決めで、所謂、生まれる前
からの許婚ってヤツで。だからアレに関してはオレの方が優先権がある」
悪いな、という声をセンドウは遠くの方で聞いていた。
continue
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