「神と聖ミカエル、聖ジョージの御名に依って、我、汝を騎士となす。勇ましく礼儀正しく、そして忠実なれ」
西暦にして五世紀から六世紀の前後。王がいて騎士がいて僧職者
がいて、そして魔法使いがほんとうに存在していた時代。彼らの冒険譚は、吟遊詩人や恋歌作者たちによって代々語り
継がれていたものに過ぎなかった。なぜならまだ書物がなく貴族や君侯たちですら文盲であった時代だからだ。さらにヨーロッパに
おいては、おびただしい数の方言に別たれ、まだスペイン語やイタリヤ語は形成されていなかった。数多ある方言の中で、
ノルマン人によって英国に移され、いずれ現代フランス語の源となってゆくことになるローマン・フランス語がこの時代の
主流だったという。
その言葉に乗って人々が熱狂した王たちの物語や伝説は、真偽が交じり合い分断され統一され、奇怪な歴史として編纂
されてゆく。ロマンス(物語)の語源は西ヨーロッパにおけるラテン語と土着語が交じり合い、ローマン語と名づけられた
事実まで遡ることができる。
英国という統一国家はまだなく、ブリテン島の一部族の領袖であった王と、その傍らに侍る騎士たちが名誉と恋をかけて
織り成す、これは、そんな時代のロマンス。
地が揺れる。なだらかな稜線の向こうからまず先に土煙が舞い上がった。遅れて蹄が地を蹴る爆音。三十騎ほどの
騎馬が一塊となって大気を切るように疾走し揺るがす音だ。この一団、払暁も待たぬ間に王城を出て、いまはまだ下草の朝露も
取れていないころ。春霞も深く彼らのゆく手が煙っている。なだらかに見えても人智の及ばない茫々たる原野だ。下生えが
馬の胴辺りまで伸びた悪路もあった。
しかし霞さえ晴れれば、ゆく先を遮る草木の一本も見えない。向う地まで、ただ一直線だ。逸る気は抑えようがなく、
それでも人馬たちの足並みが乱れたり狂うことはなかった。
彼らの陣形は、真ん中の一頭を頂点
とした三角形の二辺に似た鋒矢の構え。
そのまま大きく隊列を崩さずに馬脚を緩めない辺りこの騎士たち、並の手綱さばきとは思えない。馬の蹄が土くれを舞い上げ、
さらに鞭をかって声を上げる。だれの愛馬も首を左右に小さく振っていた。知らずそのたてがみをわし掴んで諌めて
しまう。疲弊しきっている馬体にさらに鞭打って、無謀と分かっていても、彼らは馬脚を緩めるわけにはいかなかったのだ。
「間に合うのかっ」
騎馬の中央、先頭を走る男よりも半馬身ほど右後ろを走る男が姿勢をさらに低くし、だれにともなく叫んだ。それに答え
を返したのは、同じように先頭から少し下がり、彼の左逆を走るひとりだけ軍装を見につけていない、黒衣のローブを纏った軽装の男だ。
「急使の知らせを受けて、取るものも取り敢えず駆けつけているんだ。これで間に合わなかったら、かの、カーマライド王の
運がなかっただけ。諦めるんだなっ」
「諦めろ? オレはなにか他に手立てはないのかと聞いてるんですけどね。間に合わなければなんて、あんたはいったい
なんのために天からその力を授かっているんです?」
「これはこれは、いつも沈着冷静な『湖の騎士』センドウとは思えない取り乱しようだな。いや、ただの八つ当たりか。はた迷惑な話だ。
どちらにせよ私の力は万能ではないし、ひとより少し先が見えるだけ。それも我が王の危難を回避するためだけにしか
作用されないし、するつもりもない。王の右側に侍る権利を有するおまえならば周知であろう」
センドウと呼ばれた騎士は、黒衣の男に冷ややかな視線を送った。
「同盟国カーマライドの危機は我が国の危機。それすなわち、あなたが唯一傅く王の危難じゃないとでも?」
「おまえは私の能力を誤解している。それも都合よく、ね。援軍要請の急使を受けて駆けつける。それ以外の方法が
他にあるのか? あればこちらが教えてほしい」
「我々よりもカーマライドに近く、もっと早く参じられる国があったでしょうに。焚きつければよかったんだ」
「それはあるだろうさ。ディナス、カーウェントなどなど。おまえが言うように、お隣に位置するあの国々が救援に向かいさえ
すれば、我々が北上するよりも半日は早く駆けつけられる。けれど、同じように急使の知らせを受け取っているはずなのに、
いまだ進発の報告がなされないのは、援軍を出すか否か、出してなんの利があるかないかで、貴族たちと議論きゅうきゅう
の真っ最中だからだろう。まぁ、それも無理からぬこと。相手は蛮勇で名を馳せているアイルランド王だからな。
カーマライド一国を救うに、二の足を踏むのも頷けよう。当たり前に、どの国も我が王ほどケツの座りが軽くない。
なんの思惑があってか、寝入りばなを叩き起こして、ろくすっぽ議論も交わさないで、王師の整うのも待たず、君侯自ら
先触れの先頭を走る酔狂ものなんか、ブリテン広しといえど、我が王くらいだからな」
「王よ、あなたの最高顧問はあんな言い方、してますよ」
センドウは騎馬の中央、真っ先に先陣を切る酔狂ものに向ってカラカラと叫んだ。受けて王は肩をすく
める仕草をしただけだ。
「それともなにか、『湖の』。魔を宿す身らしく、大気の中に潜む夢魔
をかき集め、同盟国君侯をその気にさせろとでも? 冗談じゃないぞ。オレをなんだと思ってる。そんなものが備わっていたら、
我が王はとっくの昔にブリテンに君臨しているだろうが」
漆黒のローブをはためかせ、軽装の男はさらに言い重ねる。温かみのある言葉を期待していなかったのか、
実際に八つ当たりだったのか、嫌味の応酬でもしていないと不安に押しつぶされそうだったのか、センドウは小さく
舌打ちしたあと、自分のさらに右後方を走る男に視線を移した。
「アイルランド王に動きは」
「カーマライド王都を包囲して持久戦の構えとのことですっ」
「敵の数に変化はないか」
「斥候からそのような報告はありませんっ」
センドウ、といままで黙って成り行きを傍観していた彼らの主君が、ハラの底からしぼるような声を出した。大声を
張り上げたわけでもないのに、周囲にいるものを射すくめる響きが他を圧倒する。一際重厚なつくりの鎧に身を包んだ
男が、片頬だけを晒しゆったりと言葉を紡いだ。
「カーマライドまであと一刻ほどの道程だ。気を散じるなよ」
センドウはクイと、ひとつ顎を引き前を走る主君に目線を送った。
頭には竜を象嵌した黄金の兜を戴き、肩には聖処女の絵姿を描いたプリウェンと名づけた盾を投げかけている。そして
その腰にはかの名刀エクスカリバー。またがる愛馬は黒鹿毛ドゥン・スタリオン。元はデミーティア
(南ウェールズ)地方シルリアのいち領袖。しかしブリテン諸王の中でも至高と称された
王だけに与えられる尊称、ペンドラゴンの名を持つユーサーの息子、デミーティア王マキそのひとだ。
「オレは、別に、散じてなんか――」
「状況によっては斥候の報告を待つ間もなく戦闘に入る可能性だってある。勇猛果敢な『湖の』騎士どのには存分に働いて
もらわなければならないからな。だから気を散じるなと言っている。カーマライド王とは懇意だったというおまえの気持も
分からんでもないが、フジマに食ってかかっても手応えはない。むなしいだけだからやめておけ」
センドウには聞こえるはずもないのに、左横を走る黒衣の男――フジマがクスリと哂ったような音がした。
「王までその呼称の連呼は止めてくださいよ。とてつもなくバカにされた気分になる」
「そうか? ソールズベリの見目麗しき大輪の花たちが姿を認めて一様に、このオレよりも先に頬を染めるセンドウ卿の
ふたつ名だ。臆することはあるまい。それに気後れするタマでもなかろうに」
聞いてセンドウは前を睨み据えたままさらに上体を低く沈めた。
「王よ。僭越ながらいま少し馬速を上げてください」
「珍しく余裕がないな。これ以上の無茶は馬が潰れかねないぞ。そんな状態で駆けつけて、いったいなにを救うと
言うんだ」
「分かってます。けど一刻の猶予もない」
「センドウ?」
「オレは――オレはなにがなんでもカエデ姫を守らなきゃならないんだっ」
北大西洋に浮かぶブリテン島。アイリッシュ海を挟んだ西からアイルランド王国が侵略の機会を虎視眈々と狙い、
そしてドーバー海峡の東に位置するヨーロッパ大陸からは、常にサクセン人たちの脅威にさらされていた。さらに
一丸となって防がねばならないブリトン人同士が、いまだに領土を血で染め上げての諍いに終始している。隣国からの
脅威に備えるには、統一された王国がどうしても必要なのだ。
その名乗りを上げるに相応しい君侯であろうと、勝手気ままに諸国を漫遊していた剣士センドウは、放浪を解いて
デミーティア王マキに膝を折り、士爵の叙勲を受けた。
それ以来、王の右腕として常に傍らに居続けている。
マキが掌中に納めるデミーティアはブリテン島の西南に位置し、アイリッシュ海を挟んでアイルランドと対峙している。
残念なことにブリテン島の西南突端の国、ゲルトホルム、コイガンはアイルランドの属国と成り果てていた。一旦国許
に引き上げていたアイルランド王が昨日未明に強襲したのは、その東に位置するカーマライドだ。デミーティア王マキに
とっては盟友。しかも位置的にいって、これ以上アイルランドの版図を広げさせるわけにはいかない。
ただ騎士センドウにしてみれば、それだけの意味ではなかった。
無論、これ以上の国土の目減りと蹂躙は耐えられない。
そしてなによりも。
彼女を守らなければならない。
カーマライドの姫を。
四年前――。
贅をつくしひとの手が存分に入ったかの城の庭園で、愛おしげにその名を呼ぶと少女が振り返った。激情の赴くまま心から
の言葉を告げる。そして礼にならってひざまずき、小さな手の甲に唇を押し当てた。彼女の白皙の中に朱が混じり、漆石を
宿した意思の強そうな瞳が束の間見開かれた。惹かれたように立ち上がり、上質の絹を思わせる頬に両手を添え――。
そして。
センドウはハッと我に返った。
なだらかな丘を幾つも越えた一群の眼前が突然開けた。彼らが立つ丘から緩やかな傾斜で見下ろせる牧草地の中に
荘厳と姿を現したのは、カーマライド、ルカワ王の居城だ。歴史の重みに耐えぬいた佇まい。優麗にして厳粛。
デミーティア地方いち美しい景観と称された目線の先には、アイルランド国旗を押し立てた大軍が、いま
まさにその威容を見せつけんばかりに動き出していた。
「カエデ……」
センドウはマキの真横に並ぶ。マキはその隣のフジマに目線を送った。
「ルカワ王の手勢はおよそ七百。対するアイルランド王は千。加勢する我々の軍勢は三十といったところですか。
正義感に厚いセンドウ卿は、まさかこの勢力の差で真正面から突っ込むおつもりじゃないでしょうね」
「出来るものならそうしたいですけどね、心情的には。先にも申し上げたとおり、オレは王の騎士である前にカーマライド
のカエデ姫の『愛の僕』ですから、王の許しがなくても姫の元に駆けつけなくてはならない。それがどんな窮地であって
も。この身が切り裂かれても」
「カエデ、姫?」
「そうです。オレの唯一の貴婦人だ」
「センドウ、アレは――」
うっすらと思慕を走らせていたセンドウにマキの訝る声が重なる。しかし当のセンドウの視線は目の前の情景から
外れない。穏やかで柔和な性質の男の中から滲み出る激しい情念の炎。こんな顔もするのかと見入ってしまう。
平時の際はソールズベリ城で貴婦人たちの間を優雅に闊歩し、流した浮名は数知れず。享楽を優先させ耽溺
するかと思えば、瞬時に、見るものの肌が粟立つほどの冷静さと豪胆さを発揮する男だったのだ。マキが知るセンドウの
日常からすれば、唯一無二の貴婦人が存在していたとは笑わせる話だが、いまのこの状態ならば本気で、それこそ単騎
だろうが敵の真っ只中に斬り込んでゆくだろう。
「フジマ」
マキ王は黒衣の男の名を呼んだ。彼は委細承知とばかりに続ける。
「かしこまりました。では、その貴婦人を救うべく立場にある騎士どのに先陣をお任せするとして、王にはこの場に留まっていただきます。
あたかも後続が控えているようにね。実際、後発軍が到着するのにまだ半日ほどかかりましょう。それまでの時間稼ぎに
なればよろしいのですが。我々の姿を認めてアイルランド王が撤退すればよし。しかし、そのまま戦闘となれば『湖の』
騎士どのには寡兵で血路を切り開いていただかねばなりません」
マキが鷹揚に頷く。センドウは馬上のままで頭を下げた。
「もとより承知。先陣を賜り、ありがたく存じます」
「実際、死地へ赴くようなものだが、勇猛果敢なセンドウ卿の元で、己が勇気を王に示さんとする騎士は前に出るがよろし
かろう」
言い放つフジマの言葉に騎士たちの間でザワっと動揺が走った。しかし瞬時に、ひとりふたりと愛馬を前に誘うものがいた。
神速を誇る王の馬足についてこれるものという理由から選ばれた、若い騎士見習いたちもその中に含まれていた。
「ようやくこのオレさまの実力が試されるときが来たってことだなっ。千人だろうが万人だろうが、束になってかかって
来いっ! 天才サクラギハナミチ、向うところ敵ナシだっ」
「おー、しっかりケツにチカラ入れてがんばれ。うるせーおめーが敵を引き付けてくれてるうちに、オレは大将狙いと
行くかな。首級上げたら、すぐにでも叙勲、戴けますよね?」
「あ? ああ」
「ぬっ。リョーちん。その戦法は卑怯だぞっ。大将首はオレのもんだっ。オレさまが騎士だっ」
大言癖のある赤毛の大男がサクラギハナミチ。対して小柄でも目つきの厳しい男がミヤギリョータだ。
デミーティアはショウホクという種族の出身。どちらも騎士の称号を受ける二十一には年齢が足りない見習いだが、
果敢さと俊足という点においては人後に落ちない。ただ連携に不安が残るというか、抜け駆け上等というか、なんと
いうか。
年齢が足りないという部分においてはセンドウも同様だ。一昨年、十八にして騎士の叙勲を賜ったのは異例中の異例。
ふつう貴族の子弟は七、八歳を過ぎると親元を離れ王や君侯の下で騎士見習い期間に入る。そして二十一で晴れて称号を
受けるまで主君のもとで鍛錬に励むのだが、その途中で生国を出奔し、放浪の剣士と成り果てた男の人柄と剣の腕に
ほれ込んで、お気楽に恩恵を授けた王も近隣に並び聞こえた変わりものだった。ただ稀に見る現実主義者、実力主義者
なだけで。
「我が王よ。しばしの間、御前を離れるをお許しください」
士は己を知るもののために死ねるという。センドウは一礼したあと、自分に注がれている主君の視線を受け止めた。
これが今生の別れとは思わない。きっと生きて還ってまたあなたの御前に侍りましょうと、ニッコリ笑った男に、
王は言い放った。
「行け」
センドウたちが馬腹を蹴るや、残った主従は王城に向けて突き進んでくるアイルランド軍に矢を番った。ほぼ半数が
センドウに付き従い、この場から援護射撃を行えてもこんな数だ。長距離用の弩もない。ただ、ひとりでもふたりでも敵の
数を減らしてやるしか手はなかった。
「フジマよ。半刻だ」
強弓で鳴らした腕前を存分に発揮しながらマキは傍らのフジマに告げた。
「はい?」
「半刻待って援軍が到着しなければ、オレは討って出る」
フジマは呆れたように目を見開いた。
「到着しませんよ。するわけがないじゃないですか。確かに王がご出陣遊ばしたお陰で、アカギ卿やミツイ卿はそれこそ
戦場さながらの修羅場で軍備や糧秣を整えておいでだ。かの御仁たちのこと、我々が思っている以上に早く到着するでしょうよ。
それでもモノには限度があります」
マキはふくよかに笑う。フジマは知らず睨みつけていた。
「畏れながら申し上げますが、半刻しか待てぬと仰せでは、いまセンドウ卿たちと一緒に出撃されても同じことと存じ
ますが?」
「そうでもあるまい。ヤツに花を持たせてやろうと思ってな。なにせ、ヤツの、唯一無二の貴婦人の窮地を救う戦い、
だそうだからな」
「なるほどね。そうだとすれば、それをたむける先は墓標でしょうに。いまのままアイルランド軍が引かなければ、
カーマライドもろとも彼らは全滅です。そんな戦に我が君をおだしするわけにはいかない。半刻とはなんです? 見殺しに
されるのか、ご一緒に討ち死にされたいのか、いったいどちらをお望みなんです?」
「千対七百。意外と持ちこたえるかもしれないぞ、アイツなら」
「本気でお考えですか?」
「そうだ。アレはオレの騎士だからな」
だから半刻は高みの見物だ、とマキは顎を上げて笑う。眉根を寄せたフジマは祖国の方角へと視線を飛ばした。
アイルランド軍がセンドウたちの姿を認めたようだ。騎馬歩兵の一部が彼らに標準を合わせる。向ってくる。双方が
接近しすぎて、これ以上矢は放てない。半刻、持つのかというのが正直な感想だった。背後から援軍にカーマランド側も
気づいたようだ。彼らに合図を送り、なのに組み込まれることなく、センドウたちは盾となって広がった。驚いたアイル
ランド兵の足が止まる。
しばしの沈黙のあと、センドウは腰に佩いていた剣をぬき払う。
それが合図だった。
だれかの咆哮。敵味方が入り乱れる。剣戟と馬の嘶きが激しくなった。真正面に位置していた騎士の槍を叩き落し、
センドウはそのまま進まず真横に展開した。左にいるのはあのサクラギだ。思っていた以上の膂力で敵をねじ伏せている。
斬るというより叩き潰す。技もなにもあったものではない。だが、太刀風ひとつで相手のバランスを崩させるなんて、そんな
騎士もいないのではないかとセンドウは思った。
ここでむざむざ散らすには惜しい命だ。
ひとりふたりなぎ倒しても、まさにきりがない。この圧力にいつまで耐えられるのか。押し返すことが出来なければ、
ルカワ王親子を守って撤退するしかない。センドウは大声で呼ばわった。
「ルカワ王はどちらにおられるっ」
罵声と怒号にかき消され、どこからも答えは返らない。たとえ聞こえていたとしてもだれにもそんな余裕はなかったろう。
焦れたセンドウはミヤギの名を呼んだ。
「ミヤギっ。ルカワ王をお探し申し上げてくれっ」
「この混戦の中でかよっ」
「頼むっ。おまえが一番、小回りがきく」
「小回りだぁ! チビだとバカにしてんのかっ」
「そうじゃない。援護するからっ。頼む、このとおりだ」
「てめー、この貸しは高くつくぞっ」
叫んだミヤギは馬上で身を屈め疾走した。見回しても王旗と近衛兵が見つからない。まさかこの期におよんで
城に立て篭もっているわけじゃないだろう。騎馬も歩兵も関係なくつき進んだ。援護につくと豪語しただけあって、
背後からの圧力がまったくない。前だけを気にしていればすむ。いったいなん人で守ってくれているのか。
王旗が見えた。敵騎馬兵に取り囲まれている。ミヤギは叫んだ。
「センドウっ。いたぞ!」
「ルカワ王っ」
方向を急転回させセンドウの馬が棹立ちになった。すぐに諌め剣を払って馬腹を蹴る。彼に付き従った仲間たちがついて
来るのが分かった。敵の一団に向ってまずミヤギが斬りかかった。二太刀目を与える前に、もうセンドウが
真横にいた。遅れてサクラギ。それが波状攻撃となって敵の包囲網を突き崩してゆく。
「王っ」
敵の陣形が崩れてルカワ王主従の姿が彼らの眼前にあらわになった。十数騎の近衛騎兵に守られた年ふりた王は、兜もなく、
荒い息と返り血に塗れた胡乱な目を向けてきた。いまにも膝が崩れそうな有様だ。センドウがかつて見知っていた、典雅
な王の姿はそこにはなく、圧倒的な兵力の差を見せつけ突き進んできた行軍の脅威に、戦闘開始前から手折れてしまった
感がある。王と呼ぶには余りにもお優しい人柄だったのだ。
「ご無事でしたか、ルカワ王。センドウです。お助けに参りましたっ」
「センドウ……ベンウィックのバン王の息子、センドウか?」
途切れがちな声に頷いて、センドウは騎兵たちの前に出た。ミヤギたちもそれに倣う。
「はい。お久し振りです。ご安心ください。マキ王がおいでです。すぐに援軍もかけつける。なれど、この場
は劣勢です。一旦退却したのち、兵力を再集結させた方がよろしいかと。しんがりを努めます。マキ王と合流してく
ださい」
「んなことできるかっ」
近衛騎兵の間から思いもよらない声が上がった。ひとりだけ違う種類の甲冑をまとった若い男だ。兜の
瞼甲を槍の先で押し上げて、射るような瞳を向けてくる。
センドウに激しい既視感が襲った。知っているのだと。自分はこの強い瞳を。それは王からの呟きによって確信と
なった。
「カエデ。ここはセンドウの申すとおりにせよっ」
「イヤだっ」
「聞き分けるのだ、カエデ。自分がなにを言っているか、分かっているのかっ」
「父上っ!」
え――。
「カエデ……姫?」
これが――。
continue
またまた時代もお国も吹っ飛んで遊んでます。
なんかとてつもなく王さまな牧さんが書きたくなって、(方向性がヤバイかも)書きかけのお話の
中で、一番出来上がっていないコレを優先させました。かなりおちゃらけてますv(汗)でも、少しは楽しんでいただけたら、
いいかな〜〜
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