さて、9月に入ってから有り難いことに2件の発注を頂いた。何れも基本的な構造はプロトタイプの派生モデルであるが、今回製作した筐体は廃物利用ではなく、壱から組み上げるオーダーメイドという形となった。

写真はアフリカン・ブラックウッドという木材を使った生産番号2番。銀色の筐体はAC電源。6ピンのコネクターを経由してムビラスキー本体に±電源を供給する。電源の仕様は±12Vとなっている。



こちらが、直射日光下で撮影した2号モデル。ブラックウッドは密度が高く硬いので工作性はすこぶる悪く、電動工具の導入が必須であった。ただし、堅牢でソリッドな材のため、仕上げは楽だった。筐体の構造はセミソリッドという感じで、音質もよりエレクトリック寄りの印象となった。生音を楽しむよりもアンプリファイア専門といったところか。



画像下はアルミのケースを筐体に使った3号モデル。トップにはエッチングが施されている。アルミは木に比べて材が均一で、薄くて剛性の高いハコを作ることが出来る。従って、このモデルは先に紹介した木製のムビラスキーよりも意外に思えるだろうが「アコースティック」な生音重視の構造となっている。ムビラスキー程度のマスでは、ハコの材質よりもその構造が直接その出音に影響を与えるようだ。本体裏側には両手中指を使ってハコの共振周波数をコントロールするための小穴が2箇所空けられている。表側中央にサウンドホールが開いている。

現在は、筐体に黒い焼き付け塗装が施されたブラック・ムビラスキーを製作中。ブレード数は31本となっている。

一方で、ボディーの材質の実験を各種素材を使って行っているが、グラスファイバーを使った際の生音の音質はイマイチのようである。ただし、サウンド・センシング/レインフォースメントを使用用途の主眼とした場合は、生音に拘泥する必要は殆どない。 その場合は、ボディー材質の要件として「加工の容易さ」や「堅牢性」および「剛性」を重視すべきだろう。 反対に、楽器の「鳴りがよい」ことが、センサーにそれなりの影響を及ぼすこともあるようだ。 つまり、ハコが鳴ることで、ブレード本来の振動に色が付くのだ。これは良い方に転んだ場合は楽器の個性となるが、共振するポイントによっては該当するブレード出力にフィルター効果による段差が生じることになる。 従って、エレクトリック・カリンバとしてニュートラルな特性を持たせたい場合は、極力ソリッドな構造を選択するべきで、これはエレキギターの構造のあり方と本質的には同じものと言えるだろう。



10月からのロットでは、ブリッジがRev.2に移行している。ブレード数は4本増えて31本となった。デザイン的には27本の方がまとまりがあったと思うが、Rev.2からはブレード1レイヤーで2オクターヴの音域をカヴァー出来ることになった。頻繁にチューンを実験出来るように、スクリューは長さ4oのボタンネジに変更している。そのため、LowerLayerのブレードにはBuzzを装着していない。装着を行うにはニップルを加工する必要があるだろう。



Rev.2のブリッジからは、底面にわずかにスラントをつけている。これによって、演奏時のブレード・ボディー間のクリアランスが改善されたことになる。

ただしこの変更でブリッジの取り付けをアップサイドダウンすることが不可能となってしまった。このことで、オリジナルのムビラ的な低音優先チューニングを行う際のキャパシティーに問題が生じる恐れがある。

一番懸念された音質であるが、これは問題なく継承出来たようだ。

楽器にとってのプレイヤビリティーと音質は必ずしも相関関係にある訳ではないので、今回は運が良かったというところだろうか。
この黒いボディーのムビラスキーにはトラッドな「ムビラ」のチューニングを元に、ブレードの配置を行っている。

カリンバの場合は、オルタネイトに音階が配置されているが、ムビラの場合はピアノと同様に、隣り合うブレードが連続した音階となる。

このチューニングでは基本的にアッパーレイヤーには半音階を配置することで、自由な転調を可能としているが、予定外だったのは共振による音の濁りであった。クロマティックなチューニングを施したムビラスキーに汎用性を持たせることは難しいようだ。
そして次の作品は〜