製作・マザーボード・ロジック編
次に問題になるのがハードウエア的な仕様です。ソフト的な仕様を決める以前にこちらは煮詰めてあるはずなのですが、プログラム製作の進行と共にハード側にも小変更が必要になってきます。最初に気がついたことは、pgmの表示に関する問題です。通常スイッチをpgm切り替えに使用する場合、ccとは違った表現が必要になります。つまり、オンになるスイッチは常に一箇所で、選択されているプリセット番号を表し、残りの部分は入力毎に消灯側にリセットされなければなりません。残念ながらセンサ基盤を殆ど完成させてしまっていたので、新たに回路を付け加えることは困難です。そこで、HC74のアプリケーションノートを検討、リセット端子を利用して表示回路を構成することにしました。ただし、この場合もスイッチ入力回路の構造からダブルクリック動作が必須となってしまっています。センサ基盤の設計段階で修正が必要だった事柄なので、この段階での対応は不可能。とりあえずはこのままの仕様でいくことにします。それでも、センサ回路からの引き出し線は2本増え電源、グランド、スイッチ信号出力、スイッチのステイタス設定入力、pgm表示用外部回路へのセンサ信号の出力、リセット入力の計6本が必要になりました。

各センサ基盤は、メタルキャンタイプのセンサ筐体そのものを、アルコール系のネジ止め剤を接着剤代わりに使って固定します。このネジ止め剤はアルコールで溶かすことが出来るので、サービス時には容易にセンサ部を本体から取り外すことが出来ます。この時にセンサ入力(高インピーダンス)周辺にケアを怠ると、センサの感度が極端に落ちるので注意が必要です。なお、接着には24時間を要します。

マザーボード、及びスイッチング電源はボックスの裏蓋にスペーサーを使ってネジ止めします。ボックス裏側には、各センサの特性設定用のディップスイッチ、及び6桁の

MIDI設定用デジタルスイッチが実装されています。

実装は各部品が立て込んで、ボックス内部がかなりタイトな状態になるので、破損やショートに注意して行います。

実装が完了したら試運転です。この場合問題になるのが、ソフトウエアによるバグか、ハードウエア結線上の不手際による誤動作なのかの見極めで、判断が非常に難しくなります。特に今回のような試作品の場合は結線の問題が起こりがちです。簡易な回路変更を可能にするため、今回はプリント基板を使用せず、ラッピング接続で回路を実装したので、かなりの時間を結線不良の対処に費すことになりました。次回は全回路をプリント基板に起こしなおして、機構をシンプルにする予定です。

さて、電子的な機構が問題なく動いたので、次は物理的なチューニングに入ります。このスイッチはいわゆる機械接点を持たず、LEDの反射で距離を測定するタイプのものです。このため、物理的なチューニングは動作の安定に大きく影響します。試作品のため機械工作精度はあまり高くないので、各センサの実装部分の誤差はそれぞれ修正が必要です。まず、各センサの感度を白い紙を使って大まかに測定します。本来はバーコードリーダーとして設計されたセンサーなので、反射率が紙よりも高い、例えば光沢のある金属面などは反応が過剰になるので使用できません。本体のセンサ部はボックスの踏面からそれぞれ深さ5mmに配置されているので、ボックスに紙を当てることで容易に動作をチェックできます。ここで大まかなセンサのばらつきを測定し、次にO-ringを実装します。この上にセンサの反射面になる王冠状のキャップを取り付けます。王冠の内側は距離が出せるように掘り込んであります。また、O-ringとの接触面は曲面にテーパーを切り、密着度があがるようになっています。この王冠の内側に円形の紙シール(文房具屋さんで、マーキング用のシールとして入手が可能です)を数枚貼り付け、感度のチューニングを行います。感度調整はシール一枚単位で行う必要があります。

ここにきて、明らかになった問題はバネ及び、ダンパー兼用として使っているO-ringのバネとしての物理特性でした。当初の懸案はO-ringの変形率があまりに低く、センサに必要な稼動距離を稼げないのではないか?ということだったのですが、センサの感度および立ち上がりが予想より敏感だったため O-ring 単体でもスイッチングが可能でした。ただ、O-ringの変形するスピードが圧縮時と伸展時で異なり、リリース時に必要なスピードが得られ無いことが発覚。そこで、この問題を解決するために王冠内部にバネを実装することになりました。当初は単純な圧縮バネを発注したのですが、作動距離が7mmと極端に短いことから、バネの外周が王冠内径と接触してしまい、バネとして機能することが出来ません。そこで、このバネを接触面が9mmになる円錐形に巻き直すことで、(円錐バネ)問題を解決しました。結局、自動車のサスペンションに似た構造に落ち着いたことになります。

実際の運用は12月20日のライブで行いました。会場は気温が0度近い真冬日の野外でしたので、O-ringの動きが渋くなってしまい、機械的な面で動作が確実ではなかったことが惜しまれます。機材運搬のために王冠を外す必要があったのですが、これら王冠を再配置したあと、O-ringとの物理的な安定状態を得るには半日あまりの時間が必要であることが確認されました。ボックス内部にヒーターを実装、またはO-ringの材質を変更する等、ある程度の対策を講じる必要がありそうです。ちなみに、20度以上の温度環境では、ほぼ問題なく動作を確認することができました。


以上、おおまかですがmidiデバイスの製作過程をレポートしました。実現には丸一年かかったことになりますが、今回のケースは、かなり運がよかったと思います。普通の環境でこのようなプロジェクトを実現することは難しいでしょう。しかし、ある程度頑張れば、まだまだ自分専用の「楽器」またはその周辺の機器を製作することは可能です。規模の大小が問題になりますが、小規模なちょっとした工作は昔より簡単に行えます。資料はWebで、部品も通販で容易に入手できます。冒頭にも書きましたが、楽器を含めたデバイスの製作は立派な音楽表現の手法だと思います。是非トライされる事をお勧めします。



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