橋本和明彫刻展
Hashimoto Kazuaki the works 2000 “ontology“ in Wakayama
1999年度(平成11年度)和歌山県文化奨励賞受賞
和歌山県民ギャラリー ・2001年1月25日−29日
橋本和明の彫刻:影の展開

 一貫して人体彫刻を作り、存在の不思議さを問い続ける橋本和明は、現代>に生きる人間の証しとして語れるものを捜し、独自の手法で造型へとつなげている。
 橋本が活動の集大成として、美ヶ原高原美術館の野外展示場で展覧を試みたのが1997年。その翌年から“影”の展開が始まった。「存在論」と名づけられた一連の作品である。
 実際には、97年以前より影の出現を示唆する傾向は、断片的に見られた。
 橋本の人体彫刻の特徴的な所は地山とつま先の接点で、かかとが上がっていることから常に浮遊間を漂わす。と同時に、頭部はうつむき加減である場合が多く、腕の置き方からも内省的な印象を与える。彼の作品には、上昇と下降の相反する二つの要素が微妙なバランスで共存していた。
 しかし近年、それぞれが別な形体で派生してきている。羊水に浮かぶ胎児と、地に写る影を取り込んだ人体である。人間存在の根源に触れようと自身の内部に探索機を降ろし続ける橋本の行為は、記憶の回帰として胎児に至った。そして、影を存在証明のメタファーと考え、影をも含んだ人体表現を試みたことは必然的な結果であろう。また、作品のタイトルが97年以降、「存在論」に絞られてきたことにも思索の方向性がみられる。例えば、胎児の形をとった「はじまり」(1996) は、99年には「存在論?ー影のはじまり」に発展した。
 影の考察が始まってから彼は、「影だと思って造っているものと、実体である人体が、イメージの中で逆転しそうになる」と言っている。平坦であった影が、近年、棺型に移行していることを裏付ける。人間を多角的あるいは多元的にみつめ、存在の意味を明らかにしようとする橋本の彫刻は、次第に新たな領域へ入り込んでいる。

           彫刻の森美術館 黒河内 卓郎



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