愛しい時間の数々よ!
オープニング・タイトルの桜の絵に呼応するかのように、ラストで唐突に咲く桜の花。それが夢の入口と出口。本作の主人公である悟にとっては、「一寸法師の墨江少名彦との冒険」という夢が桜の絵とともに始まり、桜吹雪の中の別れで終わるのだ。少名彦にとっては、その別れこそ、自らの住処であるお伽話という夢へと帰る入口になる。夢の出口が夢の入口、何て素敵なことだろう。
その夢の中に散りばめられた、それぞれの登場人物の時間がとても愛おしい。たとえぱ、まだ自分の価値に気がついていない少女たちの時間。あるいは、息子に共感を寄せる父の時間。夢見る知世先生と悟の図書室と林の中での会話。もちろん、薄暗い図書室には窓からぼんやりとした光がさし、木々の間には風が吹き渡る。「悟と少名彦の冒険」という主筋からはずれた、しかし、いかにも大林監督らしい愛しい時間の数々こそ、本作の大きな魅力である。
それにしても、黒澤明を連想させる生のセリフが多くて、微笑ましくなってしまった。で、案の定、「お説教うんぬん」の批判もあるようだが、私はそのセリフの数々に涙々(「大丈夫です。僕には勇気がありますから」というセリフに、今年の名セリフ賞をあげたい)。当たり前のことを当たり前に言う、こんな映画があってもいい。その精神性において、黒澤監督のあとを継ぐという、これは大林監督の決意表明なのではないだろうか。
ラスト、「もののふに涙は禁物です」と言いながらも、見交わす視線の切なさはどうだ。少年が少年に「おじいさーん、おじいさーん」と呼びかけるシーンに、何か不思議な感動を覚え、生命の連なり、生の連環にまでふと思いをはせた、そんな奥の深い作品でもあった。
「東宝の夏休みお子さま映画」というので、若干の危惧を抱きながら望んだ本作、しかしというか、さすがにというか、その悪条件をこそ逆手に取って、思う存分、自分の想いをこめた作品に仕上げた大林監督に拍手、拍手!!
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