レザボア・ドッグス
野良犬にだって野良犬なりの、いや、野良犬だからこその矜持がある。
ひとつの裏切りから生まれる疑心暗鬼、葛藤、そして破滅へと至る過程で「野良犬たち」が見せる人間性、それが最大の見所ではあるが、本作の魅力はそれだけにとどまらない。
まず、冒頭の食堂でしゃべり続けるシーンがいい。一見、無意味に思えるそのシーンから、男たちの個性があぶり出されてくるのだが、それはあとに起こる惨劇をも予告しているのだ(と、二度目に見た時に気づいた)。それに続く、何ともカッコいいタイトルのあとに、突然、始まる阿鼻叫喚の衝撃がすごい。何度か繰り返される、このような予期せぬアクションのインサートは、平手打ちを食らったような快感(!?)で、何とも小気味よい。
さらに、現在も小過去も大過去も、あるいは作り話さえリアルに併存するフィルム上の時の流れ。それは正に緩急自在の波に乗った興奮を与える一方で、室内から外界へと移る繋ぎ目で大きな解放感を生み出す。たとえば、 Pink の逃走シーンでの疾走感。あるいは、メモを読む Orange を包む外光の突き抜けた明るさ。これらの身体的といってもよい快感が、本作の大きな魅力になっている。
そして、観客にだけ明かされる真相。そのプレリュードともいうべき Blond のワンマンショーも、誰が何といったって、やはり「お楽しみ」には違いない。さりげなく加えられる抑制が利いているのだから、なおさらだ。この過激ではあるが、美的な暴力描写が、巷に氾濫する単なる見世物としての暴力シーンより、はるかに快いのは当然なのである。
あとは破滅に向って一直線。それにしても、ラストの鮮やかさはどうだろう。空白となった画面に一発の銃声。それに数発の銃声が続き、少しの余韻も与えずにエンドタイトルが始まる。しかしその時、私の心の中には確かに White の叫びがこだましていた。「お前ひとりを死なせはしない」という、 Orange の告白と謝罪への答えが・・・・・。
そして、いうまでもなく、この空白画面は、ワンマンショーでの空白画面の反復であるが、 Blond がそのサディズムを露わにしようとした時、目をそむけるように横に移動したカメラが、ここでは上方へと移動する。まるで神に助けを求めるかのように。それとも、 White の行為を祝福しているのだろうか。とにかく、死に行く男たちへの共感が胸に迫る、何とも心憎いラストシーン。久々に泣ける「男の世界」だ。
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