五十米深藍(2001.12)


一個人去旅行


君はひとりで旅に出ると言った しかし帰る日取りは約束しないまま
アドリア海の海辺 風の中にギターの音
持って行くのは青ざめた記憶
けれど出会えたことには感謝していると言った
心から離れない 異郷の夜にひとりぼっちで目覚める君が

ふたりの単調な生活は要らない 自由を捜したいのだと
疑いもなく愛を信じて 僕は自分を見失った

このまま去ればよい 捨てればよい 他郷を旅する人よ
そのまま去ればよい 捨てればよい ひとりで生きるのだ

君はひとりで旅に出ると言った 瞳に暗い雲影を宿したまま
隠し切れない君の秘密に気づき 空には雨が舞うだろう
持って行くのは一冊の日記
けれどもう思い出を抱いていたくはないと言った
心から離れない 異郷にひとりぼっちで目覚める君が

ふたりの単調な生活は要らない
もう波に流されるままではいやなのだと
疑いもなく孤独を信じて 待ち続ける僕をそっと捨て去った

このまま去ればよい 捨てればよい 他郷を旅する人よ
そのまま去ればよい 捨てればよい 僕を孤独にさせたまま


このまま去ればよい 僕を捨てればよい 孤独な旅人よ
このまま僕から去ればよい 僕を捨てればよい 僕を孤独にさせたまま


僕もひとりで旅に出よう 帰る日取りを約束できればよいのだが
誰もが僕に尋ねる 自由な君を捜し出すことができるのかと
アドリア海の海辺 他郷の人 そして風の中にギターの音
心から離れない 君がひとり異郷で孤独に目覚めることが


・・・・僕は君を連れて帰る


Vivien's note :
寄せては返す小波のようなリフレイン。「このまま去ればよい 捨てればよい」。そう言いながら、捨てきれないのはお前じゃないか(笑)。自ら去って行った女性を、ひとりぼっちで泣いているのではないかと、余計なお世話をする主人公。陳昇の真骨頂ですね。思えば「人生は長い旅」。ひとり旅は、この歌詞からみる限り、道草みたいなものなのかな。でも、Vivien はひとり旅で、充分満足しているし、時にはとても幸福です(笑)。そんな Vivien を、もしかしたら不憫に思っているのかあ(笑)。

歌詞はシンプルで、それだけに複数の解釈ができる部分もありますよね。正直にいうと、この訳詞はあまり気に入っておりません。




緑樹與知了


Everybody wants to escape from their own body

ある日零度の寒風の中
私はぼんやりと目を覚ました
陽光がなかったので
季節がいつだったか忘れてしまったのだが
一匹の蝉 彼が私の肩にすがって最後の歌を歌い出した
私の脚に引っ掛かっていたのは脱ぎ捨てられたばかりの殻だった

Everybody wants to escape from their own body


Everybody wants to escape from their own body

蝉よ 君はきっと寝過ごして
そうして寒風の中泣きながら目覚めたんだね
時は過ぎ去ることに気づかなくては
常に変わることのない足取りで
不思議に思ってはいけない
誰もがどこかに姿を消してしまったことを
北風が吹き出せば
私の枯れて黄ばんだ枝や芽も疎らになってしまうのだから

私はここに長い間立ち続け
数え切れない寒暑を重ねてきたが
歳月について尋ねられたとしても
私にも答えることはできないのだ
今私は目を閉じるから
君も私の肩で心安らかに眠りにつけばよい
もしも友達が必要だというのなら
それなら歌を歌えばよい

Everybody wants to escape from their own body

Everybody wants to escape from their own body

人はみな自分の体から逃げ出すだろう

人はみな自分自身から逃げ出すことが必要なのだ

しかし もしかしたら明日という日はないのかも
それなら なおさら自分自身を大切にしなければ・・・・・


Vivien's note :
「思念人の屋」の付録CDに収録されていた曲に、新たに中文の詞をつけたもの。うーむ、哲学的な詞ですね。陳昇は蝉に自分を重ねているのかな。たとえ自分がひとりきりになってしまったとしても、死ぬまで歌い続ける蝉に。それなら Vivien は緑の木になりたいです。

2001年9月の「台南演唱會」でのこと。音響の具合が悪くて、スピーカーがジジッという音を立てたとき、陳昇がすかさず「今年最後の蝉の声」と冗談を言ったのを思い出しました。関係ないですけど・・・・・。




漫遊2002


Hey Stanley
あんたの予測したことは完全に誤りだったというわけではない
だけど賭けてもいい
あんたには分っていても言わなかったことがあるんだろ
僕だって書きたい お馬鹿さんの好きな他愛ないラブソングも
だけどいつも憂鬱な気持ちを抱えているんだ

ソ連が解体したあの日からゆっくり話し始めるべきだと思う
西洋はまた低能を大統領に選び中国を封鎖しようとした
それでもみんな思ってた 世界はみな兄弟 新世紀には希望がある
しかし新しい銃砲が我が家の門口に据え付けられたというわけさ

審判は予言する 明日はない 天地には異常現象 しかし誰も気にかけない
伝説の中の伝説 耳打ちされた恐怖の言葉 もう遠い話ではなさそうだ

オゾン層は破壊され いつも皮膚ガンになってしまったような気分
核廃棄物は達悟の祖先の墓に山となり しかし気にかける人もない
誰もが上海に行きたがる お妾さんを囲いお前は言うことを聞いてくれるか
商人の眼中に祖国はないと誰が言おう


南から来た四人の賎しい客よ 僕らの子供に害を及ぼしただろ
テレビを見終えて人を「F」と罵る 意味なんて分らない
大学寮のパソコンでCDに焼き付けているのは呻く肢体
高尚な大学生は今いずこ


これだけ言っても いったい分るのか 分らないのか
ちょっと頭の門を叩いてみよう まだ開かないと自覚する
君の頭の門を叩いてみろよ 頭の門を叩いてみろよ
これだけ言っても いったい分るのか 分らないのか


哈日哈美それでも足りずに今度は朝鮮にまで手を伸ばす
親愛なる同胞諸君の自信はどこにあるんだ
浅薄で下品な連中が国会で国際競争力を論じ
恐怖におののく子供が土石流に呑まれてしまった

数千億元はたいて買ったクズ鉄に外国人がエビス顔
そのうえ一千万米ドルの援助で八流国家の友好を買う
総統を選挙するならまず家族を移民させなきゃならない
逃げ出そうする連中は僕を何だと思っているんだ

百以上のテレビのチャンネルに僕の精神は方向を失い
巨乳の女が言う「運命を占いなさい あなたは情緒不安定よ」
絶えず人に注意するなよ いつ金寶山に行くべきかなんて
こんな日々 どうして腹を立てずにいられよう


これだけ言っても いったい分るのか 分らないのか
君の頭の門を叩いて開け 自覚をしろよ 自覚を
君の頭の門を叩いて開け 開くか開かないか自覚しろ
これだけ言っても いったい分るのか 分らないのか
天地には異常現象 異常な現象 異常な現象
いったい分るのか 分らないのか

一国二制度二国一制度 一二三四死に体の庶民を誰が気にかける
僕の望みはただ家を出ても渋滞もなくハッピーになれること
それでも人々はいったいどれだけ限りない欲望を抱えているのか
そして恨み憎しみはいったいいつまで続くのだろう

Hey Stanley 僕をだますなよ
猿と人間には本当に関係があるなんて
漫遊しながら20世紀も終わり それでも人は互いに傷つけあっている
Stop telling me something's wonderful there
僕は疑っているんだ 人類は高貴なのかと


Vivien's note :
Stanley : Stanley Kubrick (1928年〜1999年)。アメリカの映画監督。
達悟 : 蘭嶼島にある地名。
南から来た四人の賎しい客 : アメリカ製のテレビアニメ「South Park」(中文タイトルは「南方四賤客」)のことを指しているようです。確か映画版もありましたよね。予告編を見たことがあります。
哈日哈美 : 哈日は日本大好き、哈美はアメリカ大好きということですね。
クズ鉄 : 以前の解釈は Vivien の完全な勘違いでした。フランスやアメリカから買い取った二流の兵器のことだそうです。
金寶山 : 墓地。テレサ・テンのお墓もあります。

陳昇が「The greatest movie」と呼ぶ「2001年宇宙の旅」をモチーフにした曲。陳昇がここで歌っているのは主に台湾のことですけれど、似たようなことは日本にもあるわけで、こういうことを考え出すと、暗澹たる気持ちになりますね。だから、普段は忘れたふりをしています。でも、陳昇の立場にあるような人が絶えず言い続けることには、意味も価値もあると思います。大頭のママやレコード会社がいやがったとしても。

ところで Vivien は、キューブリックの映画だと、「時計じかけのオレンジ」が一番好きなんです。えっ、誰もそんなこと聞いてないって。失礼いたしました。「2001年宇宙の旅」は大学時代にリバイバル上映で見ました。木星だか土星だかに突入する時のサイケデリック(わっ、懐かし!)な映像が印象に残っております。あっ、冒頭のモノリスと猿もはっきりと記憶しています。あのシーンを思い出すと、頭の中に「ドーン」という音が響きます(モノリスの屹立する音。笑)。アーサー・C・クラークの原作も読みました。けっこう HAL には泣かされたような気がするんですけど、細かいことは二千光年の彼方に・・・・・(笑)。陳昇はこの HAL にインスパイアされたと覚しき小説も書いています。「等待新世界」、これはそのうち訳すつもりでおります。(訳しました → 「鹹魚的滋味」




50米深藍


親愛なるママが笑いながら 何てことだ 僕の彼女にこう言った
あんたの男はまだ大人になりきっていない
高校にあがる年頃でも 時々おねしょでベッドをぬらしてた
親愛なる女性よ あなたには分らない 男性には多くの悩みがあるのだ
いつも悪夢にうなされ小便もらし とたんに自分が誰かも忘れてしまう


理想はいつも遥かに遠く 僕だって何でも一番というわけには行かない
ありがたいことに僕には憂さ晴らしの方法がある
水深50mのディープブルー 僕はそこに身を隠そう


親愛なる社長が笑いながら 何てことだ 僕の同僚にこう言った
こんな男はどうしたものか どうしたものか
毎日パソコンとにらめっこ いいつけた用事はいつも上の空
親愛なる社長よ あんたには分らない 凡人には多くの悩みがあるのだ
僕はちょっとボンクラで要領を得ない時もあるけれど
小金を持ってるからって自分が誰なのか忘れないでくれよ

親愛なる Money が泣きながら 何てことだ 夢枕でこう言った
こんなご主人様では本当に不甲斐ない
ゴキブリでさえお手上げでベリーズへ移民しようという家では
親愛なる Money よ お前には分らない ゴキブリには多くの悩みがあるのだ
彼らが恥を知っているなら 必死で金を儲けようとはしないはず
自分が誰かも分ってはいないのさ

Hey 君には分らない 分らないんだ
水深50mのディープブルー 僕はそこに身を隠そう


Vivien's note :
インターネットでこの曲の短縮版MTVを初めて見た時、何やってるんだろと、首をひねったんですけれど、なるほど、歌詞を読んで納得。陳昇らしい皮肉と諧謔味の利いた詞。それにしても「50米深藍」というタイトルが抜群のセンス。

ベリーズ : 中央アメリカ、メキシコの下にある小さな国。Vivien はこの詞で初めてこの国のことを知ったのですが、台湾は多額の経済援助を行っており、また移民した台湾人もたくさんいるようです。




柴魚


また同じさよなら また人の波に消えて行く
真夜中の街頭 誰もが同じ表情
みんな何を探しているのだろう

もしかしたら僕は魚 缶の中に詰められた味気ない魚
真夜中の地下鉄が 僕の蒼白な今日を乗せて走り去る
そして明日の僕は冷たい干魚

都会には人がひしめき 感情はよそよそしいものに
もう僕は自分自身と他人を見分けることができない
溢れるラブソング What a silly love song
僕だって手に入れたい 温かい家を

だけど満足もしている 時にはとても幸せだ
疾駆する地下鉄が 僕の蒼白な今日を乗せて走り去る
そして僕は冷たい 冷たい干魚


都会には人がひしめき 感情はよそよそしいものに
もう僕は自分自身と他人を見分けることができない
溢れるラブソング What a silly love song
どうやって自分自身を抑えたらよいのだろう

花園はいらないと君は言う 欲しいのはピンクの一本の薔薇
けれど僕はこう思うだけ 花はすぐに枯れてしまう
人に必要なものはただそれだけではないはずだ

だけど僕は魚のようだ 愛に対して臆病な干魚
冷々とした地下鉄が 僕のものじゃない体を乗せて走り去る
分ってる 今夜の君は また泣くのだろう
そして それでも僕は冷たい干魚のまま


Vivien's note :
今回、この詞が一番訳しやすかったです。以前の陳昇を思わせるところがあって、馴染みやすかったようです。ピアノの音がとても好きです。地下鉄の音効も利いていますね。間奏部、そのピアノと地下鉄の音に何かを思い出しそうになるのですが・・・・・。

このアルバム、正直にいうと、「思念人の屋」ほどのインパクトはなかったのですが、聞き込むにつれて味わいが増してきました。アルバム全体の主題は、陳昇自身が監督したMTVを見ていて思ったのですが、「都会(現実と言い換えてもよい)からの逃走」ではないでしょうか。この曲にも出て来る「冰冷的地鉄」はすなわち、都会を象徴する記号ですよね。人のあふれる都会、無関心な人々、僕はここでいったい何を追い求めているのだろう。これは陳昇自身が常に抱いている疑問のひとつであるように思います。「一個人去旅行」や「小南門」のヒロインのように、何もかも捨てて陽光の中を旅することができたら・・・・・。Vivien も切実にそう思います。しかし、つかの間の休息としての旅は可能ですが、永遠に旅し続けることなんて誰にもできない。いつかは現実の中に戻らねばならない。しかし、そこにひとつの答え。心の奥深くには誰も邪魔することのできない自由な空間があるのではないか。水深50メートルのディープブルーは、実は自分自身の心の奥深くにあるのではないか。Vivien には、陳昇がそう言っているように思えます。




活該 Ni 是單身漢


なんで椅子がみんな テーブルの上に這い上がってるんだい
(お客さん 看板です)
脚の生えてる物はさ 俺に会えば降参しなきゃならないんだぜ
お前もいちいち注意しなくていい 何てうるさいヤツなんだ
なあ同級生よ 今日は正常じゃないよなあ

愛は黄ばんだ写真のように色を失い 引出しに詰め込まれ
事業はまるで砂漠に降る細雪 あんたそれをどう思う
俺のように有為な青年が 絶えず Complain
Oh この世界はきっと盲目になっちまったんだ

Oh 親愛なるおねえちゃん ホント君には泣かされ悩まされる
(お客さん 本当に看板です)
俺のことだから君には 母さんによりも優しくしてあげる
俺のところに来ないかい 気持ちよくちょっと寛ぎなよ
君のためにお利口猫ちゃんのまねをしたっていい
名前は「多多(トゥオトゥオ)」って言うんだぜ

布団をはねのけ便所に向う 俺の目は死んだ魚みたいと気づく
寝返りを打ってるうちに突然忘れちまったんだ
君はもう俺のそばにはいないってことを
君が残した唯一の家族 金魚の「多多」も何日か前に昇天した
どうやら俺にはホントに何の取り柄もないようだ


Oh 親愛なるおねえちゃん 俺をせかすなよ
ホントに俺は口に出せないほどやるせないのさ
顔だって悪くない そのうえ実際心だって優しいのに
夜も帰ろうとせず もう尊厳だってなくしちまいそう
だけど分からないんだ  何を待っているのか

姿の見えないネットのお友達 君は今どこにいる
男だって君は言うけど どうして名前は小甜甜(ティエンティエンちゃん)
俺だって君が思っているほど私生活は自堕落じゃない
寝る時に微笑んでくれるお相手は色つきのVCD


時には自分を眺めてみる 実際見れば見るほどカッコいい
なぜこの世界の人々は 永遠に相手にしようとしないんだ

俺はただうっかり君に魅入られ目をなくしちまったのさ
俺のような青年にも 同じように明日はあるのだ


Vivien's note :
何やら訳のわからないところもございますが、何分、酔っ払いの繰言ですので、大目に見てやってください。「SUMMER」「給我」に続く、ダメ男シリーズ第三弾。もう、勝手に言ってなさい(笑)。ベースの音が奇妙に気持ちよい曲でございます。

小甜甜はアメリカのアイドル歌手ブリトニー・スピアーズの中華圏での愛称のようです。




大頭日記


大頭のママは阿昇の情歌が聞きたいと言う
ただレコード会社の企画不足なのだと思い込んで
いつもアルバムに情歌が足りないようだと感じ
捏造するのに力を入れろと阿昇に無理強いする
そこで気がとがめつつも他愛ない恋情など交錯させてみる
真もあれば嘘もある 嘘もあれば真もある
作った阿昇にもはっきりとは区別できない
それは一体音楽と何か必然的な関係があるのだろうか
仕事仲間が阿昇に言う
大頭のママは阿昇の情歌が聞きたいのだと
僕にどうして分るだろう
大頭のママにはどんな言葉にならない心の傷みがあるのか
阿昇の情歌で慰めることが必要な失落感があるのか
僕に分るのはただ
阿昇にだって自分自身の言葉にならない惑いがあるだろうってことさ
今でも「恨情歌」を覚えているかい
「恨」でさえ情歌になるからには
それじゃ 天気 旅行 睡眠 ご飯 何であれ
どうして情歌にならないというのだ
大頭のママはどんな情歌が聞きたいのか僕には分らない
レコード会社はどんな情歌が必要なのかも分らない
阿昇はただ一生懸命に歌を書いているだけだ
それが情歌であるかどうかということになると
阿昇にもどう答えたらよいのか分らない・・・・・


Vivien's note :
「恨情歌」の主題を今回は独白で語っています。文章を書いたのは、このアルバムの企画も担当している劉静徳。「思念人の屋」には参加していませんでしたが、また戻って来たんですね。よかった。




熱浪T恤


ロゼッタの夢の中には島がひとつ
そこは四季を通じて雨が降らない
大空から飛行機が新しい客を乗せて来る
無気力な愛の足りない人々を
女の子が着ているのはピンクのTシャツ
熱波のような身体を隠し切れない
恐いのは夢から醒めて 味気ない一生を送ること

虚しいなんてもう言うなよ 缶詰にされた小魚のように
自由に深呼吸するほんの小さな空間も探し出せないなんて
君だってTシャツの伝説を聞いたことがあるんだろ
君だって熱波のような身体を持っているんだ
神さま 悪夢から彼女を目覚めさせないで

相手をしてくれる人がいなくても
熱波のような身体を揺り動かすのだ
砂浜では僕だけが君とともに踊ってあげる
Bella Bella Bella のTシャツ
身にまとった虚偽という衣を脱ぎ捨て
ピンクの Bella のTシャツに着替えるんだ


見開かれた大きなふたつの瞳
泡立つビールを滴らせないで
波しぶきの中ぐるぐる回るTシャツ
それは子供には許されないこと
Tシャツの色には性別があるのかも
琥珀色の肌に息がつまりそう
神さま 美しい夢から僕を目覚めさせないで

相手をしてくれる人がいなくても
熱波のような身体を揺り動かすのだ
砂浜では僕だけが君とともに踊ってあげる
Bella Bella Bella のTシャツ
身にまとった虚偽という衣を脱ぎ捨て
ピンクの Bella の記憶に着替えるんだ


身にまとった虚偽という衣を脱ぎ捨て
熱波のような身体を揺り動かすのだ
僕だけが君とともに踊っている
ピンクのTシャツ
相手をしてくれる人がいなくても
熱波のような身体を揺り動かすのだ
僕だけが君とともに踊っている
虚偽という衣 君とともに踊っている


Vivien's note :
何かもう、やぶれかぶれという感もあるのですが、このラテンの熱さに Vivien は浮かれ出してしまいそう。血が騒ぐという感じなのです。しかし、この曲も「都会からの逃走」を唆しているような気がします。「虚偽という衣」、この言葉がいかにも陳昇らしい。唆されてしまおうかな。今年の夏はピンクのTシャツ・・・・・(笑)。




小南門


君は僕の人生に現れた悪童
旅に出るということを聞かない
窓の外に陽光があふれているので
喜んでベッドの上を飛び跳ねる

こら 夢から覚めた時に驚かすなよ
そのうえギターが習いたいと大騒ぎ
もしいつか僕を嫌いになったら
自分で旅に出ると言う

砂浜 緑樹 ココナツジュース
孤島をさすらうラフマニノフ
藍色 想い 藍色
瞳を細めたモディリアニ

Even if you take it out of my life
Even if you break my dream
都会に僕はひとり住み
僕の中には何が住むのだろう


冬はもう小南門の外まで散歩に行った
秋 君は出発してはだめなんだ
窓の外に陽光があふれているので
自分で旅に出ると言った

都会 無関心 冷々とした地下鉄
What am I chasing for ?
激情 微風 Gin Tonic
I don't wanna be alone

Even if you take it out of my life
Even if you break my dream
都会に僕はひとり住み
僕の中に住んでいるのは何だろう

Even if you take it out of my life
Even if you break my dream
僕の心にはひとりの人が住み続ける
その人の心の中に 住んでいるのは何だろう


Vivien's note :
このアルバムの中で一番好きなのがこの曲です。間奏のギターの音が何とも可愛いですね。「一個人去旅行」と同じく、言葉がシンプルな分、訳すのは難しかったです。いろんな解釈が可能なんですよね。これはだからひとつの試案。みなさんがそれぞれの物語を紡いでください。何度も出てくる「住む」という言葉が、日本語としては座りが悪い気もするのですが、原詞を尊重しました。




BaBa 的年代


阿文の父さんの銅のラッパ 壁に高く飾られた色あせたラッパ
酒を飲むと必ず興奮して話し出す雪の舞い散る冬の物語 昔の物語
何と偉大な時代 激動の民国三十七年

息子よ わしの夢はあの狂った時代に戦火とともに失われた
取り戻せないんだ もう二度と
老兵は死なずと言うけれど 時とともに落ちぶれて行くのもいやだ
忘れられないことがある 忘れることなんてできない
そして栄光に満ちた昨日 どうしても忘れられない歳月

わしのために歌ってくれ あの父さんの時代を

ぼんやりと灯る街燈 阿文は分れ道で立ち止まる
家に帰るべきなのだろうか 家に帰るべきなのか
適当に友達に電話でもして 生活の貧しさを話してみるべきなのかも
阿文 くよくよするなよ 父さんは眠ったのか

少しばかり罪悪感を感じ しかしどちらへ向えばよいのか分らない
過去の物語を聞いていると実際我慢できなくなってしまうのだ
親父には親父の時代があり 昔の物語を無視するわけにも行かない
しかし俺の明日は永遠に精彩を欠いている

また話が始まった ぬかるんだ塹壕の中わしは自分の兄弟を見ている
兄弟は叫んでいる「行ってはだめだ 行かないでくれ 行かないで」
なあ兄弟 今度ばかりはもう二度と故郷に帰れそうもないな
遥かな江南の故郷へ 江南の故郷へ
秋の日の黄河 月の光があんなにきれいだった

時は長い河
どうしても忘れられないことがある
麦の穂波が風の中で揺れているぞ 父さんは思い出の中で眠りにつく

一喜一憂するやるせなさ 父親に対する愛情を絶えず疑いながら
夜ため息を耳にして今更に気づく 父の頭も白髪混じりになってしまったと
帰って来ると分ってるんだ 門を押し開きそこにいることを知らせたいんだ
しかし互いの思いやりも言い争ったあとまた打ち捨てられる

「お前の年頃にはもう背丈よりも長い鉄砲を下げていた」
長江の南北をあまねく歩き回ったと また怒って話し始める
どこで間違ったのかいつも分らない どうすればよいのかも分らない
互いへの愛はただ瞼の奥に鎖してしまう
父さん

父さん 俺は帰って来たよ
父さん 俺は帰って来たよ

ごうごうと黄河は果てしない東方へと流れ
父さんは悪夢の中で泣き始める 泣き始める
いつかお前が連れて戻ってくれるだろう 兄弟のように江南の故郷へ
わしの母さんを尋ねて わしの母さん
激動の歳月 父さんの偉大な時代

暖かい南風の中に漂う稲の香り それからかすかに空に響く軍楽隊の音
阿文の父さんは彼の胸の中に横たわり 子供が尋ねる「じいちゃんは寝たの」
心安らかに眠ったんだね 父さん 俺はもう大人だ

忘れられないことがある
父さん 俺は承知した
俺たちはもう二度と子供を悲しませることはないだろう


Vivien's note :
陳昇は外省人の老人もよく題材にしています。たとえば「老Die的故事」「温柔的迪化街」など。この歌では、さらに父と息子の葛藤も加えて、奥行きのある物語にしています。実は、Vivien、この曲には号泣しました。父さんが大陸へと思いをはせる後半部、陳昇の歌い方もあいまって、こみあげてしまいました。美しい月の光、風に揺れる麦の穂、南風の中に漂う稲の香、そしてかすかに響く軍楽隊の音。情景が目に浮かぶようです。心の中にそんな情景を思い描きながら、ついに帰還できなかった父さん。ううっ、こう書いているだけで、また泣けてきます。それにしても余韻を残そうとしない終わり方が切ないなあ。私たちは父さんとの約束を守ることができるのでしょうか。守れればよいのだが・・・・・といった終わり方ですよね。

こういう歌を聞くと、また考えてしまいます。なぜみんな、男女の愛を歌ったラブソングばかり聞きたがるのかと。陳昇の大きさ、優しさはこんな歌の中でこそ際立ちます。Vivien は「魔鬼的情詩T」のような初期のラブソングはそれほど好きじゃないんです。もちろん、嫌いというわけではありません。それらの歌の中にも心を動かされる部分はあります。一行の歌詞に泣いたこともあります。ただ、他にもっといい曲があるじゃないかと思うわけです。陳昇も「魔鬼的情詩T」「魔鬼的情詩U」を「自選集」と呼んでいましたね。「精選集」と呼んだら、他の作品に対して不公平じゃないかと・・・・・。同感でございます。




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