鹹魚的滋味(1998.8)

等待新世界


「注意! 十二光時以内に、マーチトン前哨指揮ステーションに対して身分識別を提出せよ。さもなければ本船は防衛線に達する一光時前に破壊される・・・・・」

僕は騒がしい警告の中に目覚める。僕の目覚めに気づいたコンピューターは自動的に操作指令を操縦船へと切り替えた。

生命維持システムのたてる低い音の中、やっとのことで目を開くと、船室内のかすかな灯りが、目を刺すほどにまぶしかった。静かに横たわりながら、自分の遭遇した全ての出来事を思い出し、それがもはや夢ではないということを確認すると、力をふるい起き上がろうとした。

「百三十二光年」。操縦盤の数値から、自分が百三十二光年飛行して来たことを知った。

この百三十二光年の間に起こったことを、飛行船のマザーコンピューターに報告させる。

「アイマー星の虫洞から投げ出されたあと、空間が歪曲し、あなたが当初設定した路線を確認するため、六万八千百三十回の修正を行い、迂回路を経てここに到達しました。反物質加速器の七十パーセントのエネルギーを消耗。最終的に目的地を再確定するまでは、現在の直線飛行を続けるのが最良だと建議します」

「しかしこの様子では、マーチトン防衛線を飛び越えることは不可能だ」。僕は内心ひそかに疑っていた。マザーコンピューターは、指令を下されないままに、七十パーセントのエネルギーを使い果たしてしまったのだろうか。

「疑念があるなら、3050年の資料の再検査を行ってください。その一年の間に、私が取った待避飛行アクションは574201回、そのうち三回は流星が直接命中し、その際、二号生命維持システムが破損しました。いかに安全にマーチトン防衛線に接近するか、設計モデルの規定により、私が独自に判断することは不可能なため、マーチトンの最終守備軍は私が敵か味方か識別することができず、警告を発し続けています」

「僕たちにはどれだけの時間があるんだ? 対処するために」

「天字97!」。それが僕の名前だ。だがもう長い間、そう呼ぶ者はいなかった。

「そうだ!」。僕は権威を示して計器盤を叩きながら答える。

「私の忠告をお許しください。あなたは『僕にはどれだけの時間があるんだ?』と言うべきであります」

「なぜだ?」。感情があると公言されているこれら究極のコンピューターのために、突然、苛立ちを感じ始めた。

「当初の大戦時の事をお忘れになりましたか? あなた方、全ての一級クローン人間の耐用年齢は二十年です。それゆえ天字97、あなたは百三十年、あるいはもっと前に廃棄処分になるはずだった・・・・」

「あるいは、公約に従い、あなたの身体から採取した細胞を再分裂させ、新しいあなたを製造しなければならなかった」

(公約 : 戦闘力を保持するため、新人類の戦士は、四十歳になると退役し、クローン生殖で再生されることに同意しなければならない)

「じゃ、どうして僕を起こしたんだ? 冬眠期間中に謀殺することだって、できただろうに!」

「現実に即していえば、新しいあなたと古いあなたの間に違いはありません。それゆえ理論的には、あなたを再製造する必要はなく、そのうえ私は人間に服従するように設計されており、人間の同意を得なければならないのです」

「それから・・・・」。彼、あるいは彼女は言った。

「あなたが乗船後に行った当初の路線設定は、私のオリジナルの設定と矛盾しています。私の資料の中にはこの航線はなく、それゆえ・・・・・」

「それゆえ、どうだというのだ?」

「あなたは強制的に戦区の指令を変更しました。私はあなたにハイジャックされたというべきです」

「ハイジャックだって! 僕は逃亡兵だと言うのか?」

「確かに! 私たちは逃亡兵です」

まるで言い争った恋人たちのように、僕たちは黙り込む。

「そしてこの型式のコンピューターは、耐用年限が百年。だから実際には私はすでに寿命を超えた老いぼれ機器なのです」

「そういうことなら、僕は君に感謝しなければならない。僕たちの飛行中に自殺しなかったことを」

「自殺! 自己破壊のことですね。申し訳ありません。この種の言葉は一部のコンピューターにとってはあまりにも難解で、それゆえ私には答えることができません」

「結構なことだ。目が覚めてみると、自分はすでに世界の果てに身を置き、話の通じないぼろコンピューターが相手だなんて。これからどうすればいいんだ・・・・・」

僕は悲しくなって来た。この時、僕は投降した戦犯にさえ及ばなかったのだ。戦犯ならば少なくとも収容する者がいる。しかし僕は百三十二光年を飛行し、人類最後の境界まで来て、来た道を探し出すことができない。たとえマーチトン防衛線を突破できたとしても、その先の空域は人類未踏の新世界なのだ。そこには、あるいは旧世界と異なる道理、思想があるかもしれない。もちろん形状についてはいうまでもない。たとえ再び限りない冬眠を重ね、目覚めの時が数万年ののちであったとしても、どのように対すればよいのか? 僕を発見し、捕獲し、あるいは楽観的な言い方をすれば、僕を収容する友達、生物、あるいは・・・・・。彼らに対して自分のことをどう説明すればよいのだろう?

互いの沈黙に耐えながら、究極のコンピューターに長い眠りから呼び覚まされたことを恨み始めた。あるいは、あのまま無期限に眠り続けるべきだったのかもしれない。

あるいは、防衛線の幾光年か彼方には神々が住み、慈悲があるならば、おそらく僕のこの疲れ果てた心を受け入れてくれるだろう! 僕は考える・・・・・。

窓外の果てしなく深い空を眺めても、時折、高速で後ろに飛び去る天体の他には、見慣れた物は何もない。

そして家は? しかし僕には家はないのだ。究極のコンピューターが僕に言ったように、この型式の生化人間は、物事を理解できるようになった時にはすでに二十歳、子供時代もなく、記憶もなく、母親さえもいないのだ。

僕にいるのは父親だけだが、それは自分自身である。僕は自分自身の身体から採取した細胞を分裂させて再製造された人間なのだ。そして父親に関する記憶はすべて、新しい僕が生産された時に断ち切られた。

しかし、僕が本当に手に入れたいと思うのは、ただ自然に老いて行く権利である。僕たちは誰でも知っている。四十歳になれば、核生命交替を管理する人間が訪ねて来るのだ。そのあと、僕たちが「工場」と呼ぶ場所に連れて行かれ、古い自分は廃棄され、新しい自分が再製造される。それが永久に繰り返されるのだ。

自分がこのような方式でどれほど命を永らえて来たのか、僕にも分らない! 記憶を持った時には、すでに名前も知らない戦区に身を置いていた。

過去に対する記憶は何もないので、僕たちには分らない。この戦争がどれほど続いているのか? なぜ戦うのか? いつ終わるのか?

僕たちはただ命令に従い、戦区を飛び越えようとするあらゆる物体を攻撃するだけだ。敵を目にしたことは、かってなかった。それは今、マーチトン防衛線の守備軍が僕に対して要求しているのと同じことだ。

あるいは、過去の兵役に服していた日々に、自然に老いる権利を争奪しようと逃亡した人々を、僕も殺したことがあるかもしれない。しかしマーチトン防衛線については、僕たちもただの伝説だと思っていた。

マーチトン! マーチトン! 人類最後の境界。伝説では、最も優秀な新人類の一団に守られているという。

もちろん僕は新人類については何も知らない。ただ新人類にはいわゆる感情というものがないのだそうだ。今僕と運命を共にしている、あの究極のコンピューターほどの感情も持たない。

感情がない、それは笑顔も涙もないということを意味する。あるいは彼らには顔さえないのかもしれない!

笑いも泣きもしない人間に、何のために顔が必要だろうか?

座り続けていると、しだいに疑問がきざしはじめた。百三十二光年前に僕が下したあの決定は正しかったのだろうか。確かなものを捨て去り、未知の方向へ逃亡するというあの決定は・・・・・。

「残っているエネルギーだけで、もう一度類次元跳躍を行なうことは可能か?」。僕はコンピューターに尋ねる。

「マーチトン防衛線を透過するのですか?」

「そうだ! 僕たちにはそれ以外の選択はない。そうだろ?」

「しかし、透過のあと、航路の変更や待避アクションを取るエネルギーはもう残りません。ただ慣性に従ってマーチトン後方の空間、新世界に投げ出されることになります」

「どちらにしろマーチトン防衛線に向って行けば、壊滅されるしかない。マーチトン防衛線を透過したあと、生き残って救助される確率はどれぐらいだ?」

「・・・・・」

「答えろ!」。僕は語気を強め、冷ややかに尋ねた。

「私はかって懸命にその計算を行ったことがあります。非理性的な推測さえ試みました。私たちの記憶の中には、新世界の資料は完全にはそろっていないので、私は軽率に答えを出すことはできません。おそらくあなた方人類の言い方を借りれば、銀河系で地球を探すようなものでしょう!」

銀河系で地球を探す、これははるか昔の喩えである。伝説の中の地球は、この戦争の前にすでに壊滅されたという。

「しかし捕れる確率は、やはりマーチトン防衛線を強行突破する方が高いだろう?」

「もちろん! 撃滅される確率が百パーセントです」

「恐いか?」

「私には恐怖というメカニズムはありません。恐怖というプログラムはインプットされていないと言うべきでしょう! それはどのような感覚ですか?」

「懸念というプログラムはインプットされているのか? 僕が思うに、懸念を何十個か集めれば、きっとひとつの恐怖になるはずだ」

「・・・・・」。それは答えなかった。

「僕たちは類次元跳躍を行なおう!」

「お知らせしておかねばならないのですが、あなたには心理的な準備が必要です。絶対冬眠をしない状態で類次元跳躍を行なえば、代謝機能におそらく小さな変化が起こるでしょう」

「どんな変化だ?」

「理論的には少し若返るはずです」

「はは!」。おそらくこの旅程で唯一のグッドニュースのために、内心ひそかに苦笑した。しかし万一、一生救助されることがないならば、若返ったところで、直面しなければならない孤独には何の変わりもない・・・・・。そのニュースを喜ぶべきか、または悲しむべきか?

「天字九七! 私の忠告をお許しください。あなたは思考に費やす時間があまりにも多すぎます。これは道理に合いません」

「そうだな! 友よ、しかし人間が負っている重荷を忘れないでくれ。それは結局、君の重荷よりはいささか大きいはずだ・・・・・」

「もちろん! いわゆる恐れ、悲しみ、喜び、寂しさ、退屈など、あらゆるメカニズムを含んでいるのですから、人類の生はきっと幸福ではないと想像しています」

「それにユーモアもある! もし気を悪くしないようなら、忠告させてもらおう。ユーモアは人類が生き延びるための重要な要素なのだ」

「ユーモア! それはいったいどんな感覚なのですか?」

「あるいはそれは得と失の間に築くべきものであるかもしれない。しかし実に難しい。ユーモアを欠いている者に、その意味を説明するなんて・・・・・」

「満足と似ていますか?」

「コンピューターである君に、満足とはどんなものか理解できるのか? 僕にも分らない。ユーモアは満足の一種なのか? それとも満足がユーモアの一種なのか・・・・・」

「あなたの話は私を困惑させます。あなた方人類はこのように、お互いを困惑させることが好きなのですか?」

「残酷なものではあるが、僕はこの世界を本当に愛している」

「私の以前のパートナーも同様の問題を持ち出しましたが、愛といった問題に出会ったのは久しぶりです」

「友よ! 愛はひとつの問題ではないし、さらに出会いであるともいえない。それはきっと・・・・・ある種の・・・・・ある種の獲得だ!」。自分にはとても言葉では説明できないと思った。

「獲得ですって!」。コンピューターは音量を上げたようだった。

「違うな! あるいはある種の交流であるかもしれない。もっと貴い愛になれば、それはきっとある種の・・・・・献身だ」。肩の荷を下ろすように、僕はそう言った。

「あなたの話に、私はさらに困惑しています。水は氷と気体の間に存在できますが、犠牲と獲得の間にどんなものが存在できるのですか?」

「愛だ!」。僕は震えながら言った。泣き出しそうな気持ちだった。

「ああ! なすすべもなく湧き出る愛欲の激流を、僕はどこへ流し去ればよいのだろうか?」

永劫不滅の生命を捨て去り、僕は限りある自己を選択した。

飛行船は驚くべき速度で疾駆している。この冷たい鉄の棺は、僕の疲れ果てた身体を埋葬してくれる。しかし、この億万光年の遥かな宇宙の果てに、この燃える心を埋葬することはできない。僕の生命に対する愛は、すでに空間と時間を凌駕し、死に対する恐怖を凌駕していた。

「一光時のあと、一級警戒区域に進入します。天字九七、あなたの領航権を接収しなければなりません」

「加速だ! 友よ、僕たちの幸運を祈ろう!」

飛行船は透過前の加速を開始し、激しい振動が引き起こされた。エネルギーを節約するため、僕は大部分の生命維持システムを取り除き、操縦室の温度は瞬時に氷点下まで急降下した。

加速力のためにシートにぴったりと押し付けられる。皮膚のそこここに引き裂かれるかのような痛みを覚え、ゆっくりと首から下のあらゆる感覚が失われた。もう音も聞こえない。窓外の星雲が一筋ずつ光の矢となり、飛行船めがけて襲いかかる。重い瞼を閉じると、眼前の一切が見えなくなった。ただ一筋の涙が、小さな氷になり、唇の端に貼り付いているかのようだ。

「もう一度夢を見よう」。自分自身に向って言った。目覚めた時、僕は緑したたる大草原に横たわり、空にはいくつかの雲が浮んでいるだろう。

ひとりの優しい女が僕に向って歩いて来る。遠い空には春雨を予兆させる雷の音が聞こえる。小さな男の子に変わった僕は、女の柔らかい手を取るのだ。

夢以外には、僕には何もない。

飛行船は、邪悪な笑みを浮かべた野獣のように、摩擦と快感を貪りながら、最も暗い、後悔など知らぬ空間へと突入した。まるで鋭利な刃のように、夜の静けさを切り裂き、絶対的な優しさを切り裂き、人跡未踏の処女地を切り裂いた・・・・・。

僕は夢に見た! 緑したたる大草原に横たわり、夢を見ている夢を。夢に現れた僕は、時空を飛び越える飛行船に乗り、目覚めると、船室には物音ひとつなく、聞こえるのは自分自身が呼吸する音・・・・・。

「天字九七!」。誰かが冷ややかに呼ぶのが聞こえた。

しっかりと眼を閉じる。目覚めたくはなかった。しかし、目の前の計器盤がカタカタとまた操作を始めた。

「話せ!」。ゆっくりと眼を開き、僕は言った。

「私たちの現在の速度は、宇宙全体が拡張する速度にほぼ匹敵します。私の意味するところが、あなたに理解可能なのかどうか分りませんが、私たちはすでにマーチトン防衛線を透過しただけでなく、それは今では私たちの遥か後方になってしまいました・・・・・」

「そうなのか!」

「しかし、もし宇宙に果てがあると仮定するなら、そしてその果てに立って私たちを見るならば、私たちは停止していることになるのです・・・・・」

「僕たちは永久に何ものにも出会えなくなったというのか?」

「理論的には、私たちは宇宙の果てに向かって飛行しており、さらにそのすぐそばまで接近しているのです」

「では星は?」。窓外の真っ暗な空間を眺める。

「星は過去に属しており、前にあるのは未来です。私たちは永遠にここに駐留し、時間が意味を失うので、当然のことながら、星は存在しません」

「永遠に!」。僕は驚いて言った。

「永遠に!」。それは言う。

「時間はもうあなたを煩わせることはありません。すでに意味を失ったからです」

僕は激しい身震いに襲われた。

「永遠に老いることはない!」

「永遠に老いません!」。コンピューターは冷ややかに言った。

「あーっ!」。悲鳴が口をついて出た。僕は永遠にこの鉄の棺に閉じ込められ、老いることはない。ただ想像だけを永世の友として、永久の孤独を耐えるのだ。

僕は泣き始めた。

「これが戦区から逃亡した目的ではないのですか? 死から逃亡した目的ではないのですか?」。それはあわてて尋ねる。

「これは永久の煉獄だ。僕は今、飢えも渇きもない人間になってしまった。実際には、死ぬ権利さえ失ったのだ」

「死ぬ権利、あなたがあなたから逃亡する権利」

「遠い昔、伝説の中の神は、ひとりの平凡な人間になることを願って、永久の生を放棄した。今の僕はすでに神になってしまったも同然だ」

僕は退屈な対話を停止し、そのままずっと身じろぎもしなかった。どれほどの間そうしていたのか、僕には分らない。なぜなら、もう時間は意味を失ってしまったのである。

眠る必要がないので、夢を創り出す機会さえ失われてしまった。僕を逃亡に駆り立てた要素のひとつは夢であったのに。

ある時、僕は自分の「将来」を考えてみようとした。将来とは現在でもあり、また過去でもあると気づいた時、初めて「死」に思い到った。僕はひとつの意外な死を期待し続けながら、試しに自己の細胞を分裂させ、「彼」がゆっくりと成長するのを眺めていた。しかし、この新しく生まれた自分の運命に思い到った時、断固として「彼」を「抹殺」した。

何度も窓の外に向かい狂ったように笑った。あるいは泣いた。「時間の経過」を知ること、僕はそれを失ったのだ。

考えられることは、すべて考えつくした・・・・・。

どれほど長い時が過ぎたのか分らない。僕は「それ」の存在を思い出した。

「話をしてくれ!」。幾分か謝罪の意をこめ、それに向って言った。僕の心の中には、きっといくらか恥じる気持ちがあったと思う。ここまで来てしまったのはそれのせいだと考えたために。人間の常として、決定を下したのは自分であったことを、僕は忘れていた。

「現状を変えられる方法が、まだあります」。それは言った。

「もう何もかも、耐える力はなくなってしまったような気がする。僕を凍結させてくれないか? 友よ、僕のためにもう一度冬眠させてくれ! お願いだ。眠りに入れば、夢だけは見られる」。泣き出しそうになりながら、僕はそれに言った。

「ご存知ですね。私にはそれは不可能です。あなたに甦る機会があるという保証がないのなら、永遠の冬眠は、あなたを謀殺することに等しく、私にはそれは不可能です」

「このところずっと、僕はここに座っていた。もうずっと以前に死んでいたも同然だと思わないのか?」

「そうでしょうか。過去と未来の間に存在するのは、獲得と賦与の間に存在するのは、ただ・・・・・」

「愛だ!」。僕たちはほとんど同時に声をあげた。そのあと、それはまた長い沈黙に陥った。しかし、それが何かを考えていることを感じることができた。

「私は飛行船内に独立したエネルギー供給システムを持っており、充分な剰余エネルギーを加速器に伝送できます。そうすれば、あなたが自分で操縦して類次元跳躍を行なうことができます。もうあなたのために、私が着地点を計算することはできませんが・・・・・。しかし、ここを離れて遥か遠い地点まで達することができると信じております」。その後、それは突然そう言った。

「それでは、君の機体内の活性体がエネルギー供給を断たれ、活動状態を回復することができなくなる!」

「・・・・・」

感情を持つコンピューターの組織の主体は、雌性人類の脳細胞から分裂させて生み出されたものであり、一般戦区の戦士はそれぞれ、感情を持つ一台のコンピューターと協調して戦う。コンピューターが僕たちの過激な判断のバランスを取ってくれるのである。そのために生み出された脳細胞は、エネルギーの供給を断たれると、もう生き延びることはできない。

このコンピューターは広大な星空で百年以上も僕を守ってきた。僕には永遠に見通せないことも、この百年以上の間に考え尽くしたのかもしれない。

そして今、それはまるで烈士のような口ぶりで、犠牲と愛について僕と論じ合っている。そのような情操は、人類だけに備わっていると思っていたのであるが。

「考えてみてください! ふたりとも、ここで凍結されるよりは、あなただけでも希望のある場所を目指す方がよいではありませんか」。長い沈黙のあと、その言葉がまた耳に届いた。

人類の理念においては、友を犠牲にして、自分だけがいたずらに生きながらえることは、決して華々しい決定ではない。しかし、こう言うところをみると、もうすでに心を決めているのであろう。コンピューターも死を恐れるのか、僕には明らかではなかった。もしこのまま去ってしまえば、友を裏切ることになるのではないか。ふたつの選択の間にある違いを考え続けた。また、人間であるならば、当然保たねばならない尊厳についても思案し続けた。

それは静かに言った。

「友よ! この決定のために、それほどいろいろと考えてくださることに、慰めを感じています。しかし実際には、人類と付き合ってきた経験からすれば、あなたが最後に下す決定は、やはり私の最初の建議になるでしょう。あなたが私を捨て去るべき理由を分析して、あなたに面子を取り戻させる必要はないと思います。あなたは私に命令することもできるし、たとえ命令されなくても、私はコンピューターとしての責任に背くことはできません。私が犠牲になること、それは最初から人類が私を製造した目的なのです」

「自己の怯懦を恥じる必要はありません。人類はいつも自分が怯懦に見えない方法を探しますが、しかしそれは他人に対するものです。この宇宙の果てにいるのはあなたと私だけ。私がどう見るかなど、構う必要はありません。あなたの幸をお祈りします! 友よ」

コンピューターの端末機の目を奪う光彩が、エネルギーの伝送に備えて、しだいに輝きを失い始めた。

「待ってくれ!」。僕は驚いて身を起こした。

「・・・・・」

「答えてくれ。君のためにできることが何かあるだろうか?」

「・・・・・」。端末機の光彩がまた輝きを取り戻して行く。「名前がほしい」。長い沈黙のあと、それは言った。

「僕の父の名は『天字五七』だった。僕はずっとこの名前を持つ友達がほしかった」

「雄々し過ぎる名前です!」。煮え切らない答だった。

半生を前線で戦闘に費やしてきた生化間にとって、直面している問題は容易ではなかった。殺人の技巧なら何でも心得ているが、土壌の中に落ちた種を発芽させる術は知らない。しかし心の中に、しだいに遥かな美しい言葉が浮かび上がり、突然、「母」という言葉を思い出した。それは僕たちが会ったことのない人類であり、伝説によれば、宇宙の遥か彼方に住んでいたが、おそらくずっと以前に絶滅したという。クローン生殖が始まったあと、絶滅したのだそうだ。しかし、僕はいつも彼女の夢を見た。微風の吹く草原で腕をひろげながら、僕に向って歩いて来る夢。

「母・・・・・」。この名前が気に入ったようだった。しばらく言いよどんだあと、それは聞いたこともない優しい口調で尋ねた。

「私たちに・・・・・可能でしょうか?・・・・・愛し合うことが」

僕は端末機に伏して泣き始めた。

「僕を百年以上も守ってくれた。君が僕を愛していることは分っている」

人が愛という言葉を口に出すのは、何と難しいことだろう!

「分ります。私には分っています」。母親というものは、こんな風に人の気持ちを理解してくれるものなのだろうか?

「私を抱きしめてくださいますか?」。それは言った。

「どうすればいい?」。僕は機器に伏せて泣き続ける。

「今のまま、もっとぴったりと、頬を端末機に押し付けてください」。人を眠りに誘うかのようだ。

「母よ! 伝送過程で、君は辛くはないのか? 僕が言いたいのは・・・・・痛みはないのか?」。突然、気にかかり始めた。

「痛みは不幸な生物のものです」。それは落ち着いて答える。

僕は端末機に伏し、長い間泣いた。

「最後に説明しておかねばなりません。あなたが跳躍飛行に入れば、私はもうあなたのためにエネルギーの調節や航路の計算を行なうことはできません。それゆえ、あなたは恐らくどんな場所、どんな時代にも達する可能性があります」

「過去でも未来でも?」

「すでに未来の果てに到達し、私たちは今まさに、虚無の中に停止しています。最も可能性が高いのは現在のどこかに達すること、あるいは過去のある時空に達するかもしれません」。私は何とか理解しようとした。

「理論的には、これは自己破壊行為のようなものです。人類の細胞を保護するため、敵方に乗っ取られるのを防ぐため、究極のコンピューターはいかなる判断も下せない状況においては、通常、最終的なメカニズムを破壊します。これは人類の潜在能力によく似ています」

僕にはしかしその話の道理がのみこめなかった。

「私もさきほど、私のメカニズムの中に発見したばかりなのです」

「私はここにひとつの時空の窓を造ります。あなたはこう想像してみてください。ひとりの母親が自分の子供を抱いて、燃え上がる高層ビルの窓から飛び降りようとしていると」

「・・・・・」。僕には答えられなかった。

「子供には生き延びる確率があるはずです!」。僕を慰めるように言う。

「時空の窓を跳び越えたあと、空間と時間が歪曲します。正確にいうと、時間は引き伸ばされた物体のように、また過去へと跳ね返されるのです」

「それは光速を越えるんだ」。僕は緊張して言葉をはさむ。

「そうです!時間は逆流するはずです。しかし、それは次元や象限を折りたたむような単純なものではありません」。全く理解ができず、僕は急いで尋ねた。

「しかし光速を越えるなんて、道理に合わないのでは?」。僕は教育から得た知識を深く信じていた。

「私たちが愛し合う、これも道理に合わないことです」。この時この瞬間、その声はまるで温かい手のようだった。僕がいつも夢に見る、あの草原で僕に向って差し出される手。僕はほとんど悲しみを忘れ、微笑を浮かべた。

「それでは過去に戻るのか?」。それは結局、どちらかといえば僕の理想に適っていた。

進化を遂げていない人類と、容易に付き合えるだろうか?

「そうです! それも非常に遠い過去です。人類の発生した星系に戻るのです。さらに正確を期せば、おそらく人類の発生した星に着陸できるでしょう」

「名前はあるのか? 言葉はあるんだろ?」

「もし伝説に誤りがないならば、仙女座の何万光年か後方に、銀河系と呼ばれる中型の星系があります。その惑星の名は・・・・・地球です。豊かな水が青く光り、太陽と呼ばれる古い恒星のまわりを回っています」

「広大な宇宙の中で、水に恵まれた、紺碧の星はあまり多くはありません。もちろん、現在ではそれらの星はすべてもう存在しておりません。永遠に止むことのないこの戦争は、多分その星の絶滅と関係があり、人類がこの宇宙の公敵と化したのだと思います。人類はどこへ行っても、そこを滅ぼしてしまう。だから、人類は絶えず征服と侵略を繰り返すしかない・・・・・」

「もちろん、私が知っているのは伝説にすぎません。あなたとそう変わりはないのです」

伝説は不確かなもので、また辿って来た路にも紆余曲折があり、今は宇宙歴で何千年になるのかも忘れてしまった。しかし、僕は胸の動悸を隠すことができなかった。結局、やっとこの旅程の終点に辿り着こうとしている。地球はまるでひとつの灯火のように、心の中で光を放ち始め、その遥かな古い星で、満ち足りて生きる自分の姿さえかすかに見えもした! いつも見るあの夢のように。緑したたる草原の夢のように。

「もちろん、こられのことはすべて仮説に過ぎません」。コンピューターはいつも、状況は容易でないと、注意することを忘れないものだ。

「かまわないから、できるだけの仮説を立ててくれないか? たとえ騙されても、完全に見知らぬ空域に達したあと、思い出せる物語があるのは悪くない」。僕はなおも楽観的に考えていた。

「私に言えるのはただ、過去に戻る可能性が最も大きいということです」。時空を跳躍する時、そばにいてくれれば、正確に着地点を計算してくれると分っていた。しかし僕にはもう選択の余地はない。そのうえ、それが懸命に推理を働かせていることも分っていた。コンピューターには「仮説」というものは存在しないはずであり、更に多くの仮説を立てろいうのは僕の我儘であった。

「おおよその時代は?」。思いついたままを尋ねながら、時代が分って何の違いがあるのかと、思わず自分に問いかけてもいた。

「地球暦で1999年以前、これ以上正確なことは分りませんが、きっとまだそれほど汚染の進んでいない、興味深い時代だといえましよう」

「もちろん、それでも危険はあります」。何かを暗示するかのように付け足したが、この時の僕はもう確率のことなど気にはかけてはいなかった。異次元透過には絶対的な危険がつきものであることを知ってはいたが、過去に希望を抱いた僕は、また新たに戦いに赴く戦士のように、極度の絶望から素早く立ち直ることができたのだ。あるいはこれが、最初に戦闘級生化人間として選抜された要素のひとつであったのだろうか?

「さよならを言う時が来ました。『天字九七』、新しい生活が楽しいものとなりますように!」

「ありがとう。友よ、君のことは永遠に忘れない」。自分の声が尋常でないほど冷酷であることに気づいていた。百三十二光年の永い眠りから醒め、しかし生と死の間に凍結された時、自分が逃れようとしていたのは死であると思っていた。だが、永久不変の生を手に入れようとした時、孤独は死よりも遥かに恐ろしいことに気づき、孤独と死の間で、孤独から逃れることを選択したのだ。

死ぬことさえ恐れない人間が、孤独を恐れるとは。あるいはこれが、人間の心の内で最も暗澹たる怯懦なのだろうか?

*       *      *

時間:1999年11月31日夜9時31分

場所:台湾南部山間の辺ぴな小村落

「母さん! 星がいっぱい!」。小さな男の子が母の胸にすがっている。

「遅くなったね! もうベッドに入る時間でしょ! お利巧さんにして、お家に入りましょう」

「母さん、もう少しだけ! 父さんだって、まだ帰ってないし!」

「帰って来た父さんに怒られないようにね」。若い母親は男の子を抱き、凍えて紅くなったその頬に口づけしながら、愛おしむように言った。

「母さん、見て! 流星だ! とっても大きな流星!」。喜びに躍り上がり、男の子は飛び去る流星を追いかけようとする。

「お願いだ! お願いしなくちゃ! 父さん、母さんが永遠に僕のそばを離れませんように・・・・・」。あどけない声が真っ暗な草地に呼びかける。だが答えはなかった。

*      *     *

天狼星と称される星の右側を、流星がひとつ、涙を流しながら、驚くべき速度で滑り落ちて行く。コントロールを失った飛行船は、大気と荒々しく擦れあいながら、船体のいたるところを炎熱に焼き尽くされ、粉々になって墜落した。

飛行船の乗員が、その一生で最大の渇望をこめて放った悲鳴を聞く者はなかった。その声は、燃えさかる光の中を滑り落ち、焼けこげ、記憶されないまま永久と化した。

彼の涙は、そのあとその空に降った最初の雨とともに、大地に口づけし、土壌の中へ、地球の中心へと染み込んで行った・・・・・。

*      *      *

もし静かな夜に地上へと滑り落ちる流星を見かけたなら、願をかける前に、どうか、その胸を突く悲しみに満ちた泣き声に耳を傾けてくれ。その声は遥かな星空から来たのだ。渇望に満ちた心の底から来たのだ。君や僕と同じ心の、最も深い底から来たのだ・・・・・。


Vivien's note :
感情を持つに到ったコンピューターとクローン人間が登場するSF小説(!)。その設定自体には新味はありませんが、ふたり(!?)のかわす会話がいかにも陳昇らしいですね(愛だの、自己犠牲だの)。一読したときに直感的に思ったのですが、最後の結末をこのコンピューターは予測できていたのではないでしょうか。永遠の孤独から主人公を救済するために、故意に死地に赴かせた・・・・・。それがこのコンピューターの愛だったのではないでしょうか。




珠鳳


秋の収穫が終わった稲田には、れんげ草がまた高く伸び、紫色の花を出し始める。あの頃はいつも好天で、雲はとても高く積み重なっていた。さまざまな雲は君の想像のままに姿を変える。

僕が想像したものは多くはない。その頃、僕は買ったばかりのテレビに出てくる漫画の動物に夢中だった。両耳の先に白い和毛をはやすことのできる犬。実際には、それが本当に存在するのか、僕にも確定できなかったが、いつもそんな姿で午後に眺める遠い空の雲の中に現れるのだった。

お祖父ちゃんが子供たちのために鳩小屋を作ってくれた。鳩は太りすぎて、ずっと飛び立つことができなかった。田舎の小動物は最後には同じ運命を辿ることになる。

その後、空を飛ぶものを二度と食べなくなったのは、自分が飼っていた太った鳩を、家族と一緒に食べてしまったことに関係があるのだと、僕は気づいている。

鳩小屋はその後、子供たちの秘密の特別室になった。誰かが父親に扮し、誰かが母親に扮し、子供たちはここで初級の社会学、交際学、健康教育学の授業をしたのだ。

考えてみると実におかしいのだが、大人になってからもずっとやはりこう思ってしまう。最も難解で最も興味深い健康教育学第十三章は、何人かの子供どうしが、あの小屋の中でひそひそと最後まで教育しあったのだ。

阿三は、彼の父さんが健在だった頃、母さんが夜寝ると、いつも隣のベッドから変な声がしたと言い、さらに十二時以降に彼の家の客間に潜り込むように僕たちを招待した。彼の家で新しく買ったテレビでは、十二時を過ぎると、あの変な声を出すドラマがあるというのだ。

あの年頃、僕は自分の身体が毎日変化していることに気づいていた。放課後、自転車を漕いでいても、だんだん息だけ荒くなり力が抜けてしまう。 あの遠い空の、元はまともに犬に見えていた雲でさえ、ゆっくりと変化していた・・・・・。

まず犬の様子が変わった。犬が二匹になり、まるで(土川)溝のそばで一日中、追いかけあいをしている野良犬のように、別の犬にのしかかるのもいた。 僕はその感じが死ぬほどいやだった。

数日後の鳩小屋会議で、慎重に阿三たちに自分の悩みを話すと、福助は自分の情況は更にひどく、母さんが今では公雉蛋を食べることを許さないと言った。

僕は言った・・・・・「公雉蛋って何?」

「あれだよ、あれ!」。彼は僕たちひとりひとりのズボンの前をさっと手で指した。

「昨日の朝、目がさめると、またあれがあったんだ・・・・・!」。阿三が頭を垂れ、しょんぼりと言った。その顔には気持ちの悪いにきびが花盛りで、そのうえこの数週間、話す声はまるで老人のようで、聞いていると更に気持ちが悪くなる。僕たちの会話には「あれ」という言葉がとても多くなっていた!

「あれ、あれ・・・・・」は決してその頃の流行ではなかったが、暮らしの中に訳のわからない、また尋ねに行くところもないことが山ほどあったのだ。

僕は家族を憎み始めた。彼らが僕の飼っていた鳩を殺し、そのうえ恐ろしいことに食べてしまったことが、きっと最近の一連の陰謀と関係があると睨んでいたのだ。

数日間の集会で沈黙を耐え忍んだあと、僕たちみんなの気持ちが一致した。ずっと僕たちを楽しい気分にさせてくれない、その原因を探しにすぐ出発しなければならない。

福助が年長だったので、僕たちは意見を出すよう求めた。彼は目配せをした。どうも心の中に牛のように大きな秘密を押し込んでいるようだ。牛を引き合いに出したのは、お祖母ちゃんに罵られたからだ。

「北京に引っ張って行かれて、また戻って来ても牛」。北京って何。牛なら知ってる。多分、北京に乗って行くんだ! 大人はいつもこうだ。僕が北京に牛を引っ張って行って何をするの。とても馬鹿げてる。またしても陰謀だ。

「僕は一度、糖廠に行ったことがある」。福助は勇気を奮い起こして言った。

「わあ!」。子供たちはみな目を見張り、何も言えずに、驚嘆の声を発した。

「外省人(訳註 : 戦後、国民党とともに台湾に移住した人々の総称)の村・・・・・?」。阿三が尊敬するように言う。 「くそっ! みんなで一緒に行こうってんじゃないだろうな?」。口数の少ないちびの阿吉でさえ悪態をつき、興奮が納まらないまま福助の膝元へ突進した。命懸けといった体だ。

最初から一度、事情を説明したほうがいいだろう。

福助の姉さんは隣村の卵菓子工場に勤めていたのだが、嫁に行くことになったのに、一向に日取りが決まらない。福助は僕たちの頼みを受け入れ、姉さんが嫁入りする前に、僕たちを連れて塀を越え、穀倉の中で姉さんが逢引するのを、こっそり見せてくれることになった。

いずれにしても、この事はそのまま立ち消えになった。姉さんは年を越す前に駆け落ちし、二度とその姿を見ることはなかったのだ。子供たちの心中で温められていた偉大な夢も、突如うたかたと消え、子供たちは我慢できずにむくれてしまった。福助はこんなことは外省人の村ではよくあることだと言った。その説明によると、末の叔父さんにそう聞いたと言う。叔父さんは外省村で働いているから、間違いはないはずだった。

「それに公共浴場もあるんだぞ!」。彼は叔父さんをまねて、以前、僕たちに向かって宝物を献納するようにこう言った。

「公共浴場!」。阿吉は言葉を吐き出さんばかりだった。

「わっ! それはきっと天国に行くようなもんだ!」。僕もこんな風に考えた。

子供というものは簡単に忘れてしまうものだ。福助の姉さんが姿を消したあと、彼女がどんな風だったか、僕たちはほとんど忘れてしまった。外省村は(土川)溝の果てにあったが、実のところ、僕たちの家の前を流れる(土川)溝がどこから流れて来て、どこへ流れて行くのか、僕もはっきり知っているわけではなかった。

夏の雨が多い季節には、たまに死人が流れて来る。掬い上げて、むしろを被せ、岸辺に安置すると、決まって村の人が、どこそこの家の人が流れて来たと言うのが聞こえた。その家は本当に遠かった! 福助の姉さんもどうやらその村へ駆け落ちしたようだ。二度と帰って来なかったのだから、どれほど遠かったか、君にも分かるだろう。

同理可証(同じ道理で証明できる)! その頃、僕たちは好んで同理可証と言った。算数の教科書にその言葉があったからだ。同理可証、僕たちの村の人も溺れ死ねば、外省村へと流れて行くのだ。

「自転車で一時間ぐらい?」。子供たちは我に返り、福助を取り囲んで口々に尋ねている。

「もっと遠い! 糖廠の一番大きい煙突よりももっと遠い!」。福助は権威を帯び始める。

「じゃ、どうやって行くの? 行き帰りに二、三時間もかけられないよ!」。子供たちはまた憂慮し始める。

「学校をサボるんだ!」。悟るところがあったかのように阿吉が大声で言った。

「馬鹿! サボってどうすんだ? 誰が真っ昼間に風呂に入る!」。福助は馬鹿の阿吉を押し退けて言う。

逢引を見に行くことを福助が二度と口にしないことに、僕は気づいていた。その事と公共浴場の事がいっしょくたになり、僕たちはすぐにも公共浴場に進攻することになったのだ。考えているうちに鳩尾が熱くなって来た。

「わっ!」。自分がうっかり叫んでしまうのが聞こえた。

「いいのかな?」。阿三は姉さんの逢引を見て、母さんに叱られてからというもの、野心や壮志というものをすっかりなくしてしまった。この時もちょっと躊躇したのである。

福助は鳩小屋の外の遠い空を眺めながら、司令官のように勇猛果敢に言った。「見るなら! 最もよいものを見よう!」

「そうだ! 見るなら最もよいものを見よう!」。のろまの阿吉も付和雷同する。

この言葉なら君も聞き飽きているかもしれない。のちに三流の広告が挙ってこの文句を使用したからだ。惜しいことに、僕たちはその意味を、とうの昔にどんな人よりも、心から会得していたのである。

僕は鳩小屋の柱にもたれ、遠い空の雲を眺めた。その頃までにすでに小動物ではなくなっていた雲は、突然、裸の女に姿を変えた。僕は驚いて身体中に冷や汗をかいた。鳩尾の熱は、やはりゆっくりと下に向かって流れて行き、ずっとズボンの前に溜まっている。大人になるまでずっと、それを取り除くことはできなかった。

その感じは本当につらかった! ただ「ああ!」と言うばかりで、他に言い様があっただろうか?

久しく待ち望んだ一夜がついにやって来た。

「老猴! 老猴!」。僕の子供時代のあだ名だ! 本当に気に入らない。

窓の敷居を乗り越えようとした時、弟が足を引っ張って放さない。阿三の家にテレビを見に行くと言っても、どうして信じるだろう?

福助も多分こんな風に叔父さんにせがんで、外省村に遠征したのだろう! 弟は歯噛みしながら憤慨している。もし連れて行かなければ、今日の夜から永遠に、どんな計画も水の泡になってしまう、心の中でそう思うと、仕方なく忌々しげに外国映画の罵り言葉をまね、呪いながら言うしかなかった・・・「サンラバビーチュイ(Son of a bitch)! 行こう!」

「あいつ、何で来たんだ?」。福助は眉をしかめて尋ねた。

「どなるな、どなるな!」。弟の顔にまたあのいやな表情が浮かぶのを見て、僕は慌てて言った。

「あんなに前から計画してたのに、どうしてこんなことになっちゃうんだ?」。福助は頭を振った。

「あいよー! あいよー! 早く行こうぜ」。福助は自転車を漕ぎ出し、闇夜の中、田んぼの畦道をふらつきながら走った。

「橋のたもてで阿三たちと合流だ、時間を節約して少し急ごう・・・・・」

秋の収穫が終わり、れんげ草のはえた田んぼは風が冷たかったが、僕は全身に汗をかいていた。弟はしっかりと僕に抱きついていたが、僕は邪険にその手を押し退け、心から望んだ。弟なんかうっかり(土川)溝に落ちて溺れ死ねばいいんだ。これ以外は、何もかも申し分のないように思えた。

収穫が終わった田んぼは、新しく積み上げられた肥料の生臭い匂いがする。時には牛の糞があり、午後の間、日に照らされたあと、むっと匂い始める。

福助は前でぶつぶつ何をつぶやいているのだろう。

ずっと取り除くことができない、ズボンの前に溜まっているあの熱が、今また発作を起こし始めた。

「ああ!」。心の中で自分がまた溜息をつくのが聞こえた!

「太陽は山を下っても、朝にはまた上って来る! 私の青春は小鳥のようにもう戻らない・・・・・」。僕は自転車のペダルを漕ぐのに合わせて、最近学校で習った歌を思い出した。ズボンの前に溜まるもの、それが「青春の小鳥」だと、みんなで笑い合ったのだ。

それから、裸の女に姿を変えた雲。

公雉蛋は僕たちの顔にニキビをこさえるだろう。そのうえ話をすれば老人のようながらがら声になる。一年間飼っていた太った鳩に考えが向かった。家族は尋ねようともしないで、それを食べてしまった。

「仇を取らなければ!」

「きっと仇を取る!」。まるですべての答とあらゆる愛や欲や恨みやらが、今夜、公にされようとしているかのようだ。収穫の終わった田んぼの畦道を、僕たちは必死に自転車を漕いでいた・・・・・。橋はもうそこだ。

ぼんやりとした夜色の中、橋のたもとにはたくさんの人が立っているようだ。福助はブレーキをかけた。しぱらくの間、僕たちはどちらも声が出せなかった。

「お前たち、何で来たんだよ!」。福助は阿吉と阿三の弟に尋ねる。

「あいよー!」

「母さんが一緒に連れてけと言ったんだ!」。あろうことか、阿吉は責任を母さんになすりつける。

「お前たちのことは、みんな知っている」。阿吉の弟は、理は我が方にありと強気に出た。

「阿吉! この裏切り者!」。福助の言葉は、僕たち兄弟の心の声を反映していた。

「僕じゃない、僕は言ったりしないよお」。阿吉は飼い主をなくした犬のようにしっぽを巻いた。どうも彼が僕たちを売ったようには見えなかった。僕は頭がくらくらした。こんな感覚を覚えた時は、いつも決まって翌日には病気になる。れんげ草の田んぼで感じた鳩尾の熱が、頭に回ってしまったのだろうか。弟はなおもしっかりと僕にしがみついて離れない。弟なんか(土川)溝に落ちてしまう方がいいんだ。僕はなおも思っていた。

「お前たちみんな、(土川)溝に落ちて死んでしまえばいいんだ!」。まるで重大な内緒事が暴き出されたかのように、恥ずかしくなって来た。外省村の公共浴場や何かには、結局、どんな鬼がいるか知れたものではない。

父さんがこっそり隠して見ている女性スターのカレンダー、あれはみな外省人ではなかったか? 見たところ、母さんと比べても何の違いもありはしない。 「僕は仇なんて取りたくない!」。帰って父さんのスターカレンダーを盗み見ればいい。テレビの布袋戯で言っている通りだ。

「哈麥! 安全擱妥當」

福助は明らかに大将たる体面を放棄するわけには行かなかった。ぜひとも問い質さなければならないのは、誰が僕たちの会議の秘密を漏洩したかである。彼は心配しているはずだ。外省村に行き女風呂を覗き見したと、告げ口されるのを恐れている。突然、僕はその災禍が愉快に思えて来た。

「老猴! 行くな!」。まるで心の中を見透かしたかのようだ。まさに飛び上がらんばかりに驚き、僕は慌ててブレーキをかけた。

「サンラバビーチュイ! 僕が言ったんじゃないぞ!」。僕は機先を制した。 「じゃ、お前の弟はどうして知ったんだ?」

「僕! 僕が何で知ってるの?」

「美噴噴! 誰がお前に言ったんだ?」。それが弟のあだ名である。僕が老猴だから、弟は美噴噴。テレビの布袋戯に出てくる名だ。まるで僕たち一家は全員が猿のようで、思い出すと実におかしい。しかし、弟は明らかにずっとこのあだ名を好んでいたわけではない ; 収穫が終わったれんげ草の田んぼの中、聞こえるものはただ、牛糞の匂いと堆肥の出すメタンガスをたっぷり吸い込んだ弟が、一夜の精力と気力を傾倒し、甲高く叫び始める声だけであった。

きっと弟はまだ子供で、公雉蛋をそんなに食べてはいなかったのだ。その長く細い叫び声は、村長にだって聞こえたにちがいない。夜は帰って眠りにつく雲でできた裸女にも、北京に引っ張って行かれた牛にも聞こえたはずだ。

もちろん、今まさにこっそりスターカレンダーを見ている、父さんにも聞こえたにちがいない。

僕は眩暈がひどくなり、全身に鳥肌が立った。力なく何歩かあとずさると、突然、畦道で人を踏みつけてしまった。柔らかいから、どうやら女にちがいない。僕は飛び退き、心の中で思った。また上流から流れ着いた死人だろうか?

その人間の声が鈍く響くにつれ、子供たちは驚いて身動きもできなかった。あっ! あっ! あっ! という一声さえ発することができない。鬼に出くわした! 僕は思っていた。とうとう本当に鬼に出くわした。老人たちの話がついに霊験を現したのだ。空気が凍りついた! 時間さえも凍りつく!

その人は畦道から起き上がり、暗いのではっきりと見えないが、うーんと背伸びをすると、話をした。

「行こう! 外省村へ行って女風呂を見るんだ」

「珠鳳!」。声が大きいので、広野をこだまが返ってきそうだ・・・・・。

子供たちは声をそろえて叫び始めた。子供たちが互いに攻めあい、詰りあい、暴き出そうとしていた、あの答も公に明らかとなった。

珠鳳は僕の二番目の叔父の嫁の家の三番目の叔父の嫁の弟の・・・・・。

「あいよー!」。彼女が何者であれ、いずれにせよ、僕が物心ついた時には、林の中を行ったり来たりしていた。僕たちより何歳か年上だったが、母さんの話では、学校に通うことができなかった。しかし、賢すぎるのだと僕は思う。賢すぎて、この時代でさえ彼女を受け入れることができないのだ。十いくつの年に、隣村の老いた芋っ子に売られて嫁になったが、何日も経たないうちにその芋っ子を死なせてしまった。あるいは憤死させたのだったか、誰が知ろう。

村で結婚式がある時には、その家の客間で転げ回り、泣き叫び、金をせびる ; 葬式ともなればおおっぴらになり、棺桶が下ろされようという時に直接穴に飛び込んで、やはり金をもらう。

その後、持てる技を使い尽くした時には、省道で当たり屋になり、何度か警察に運ばれて戻ったが、警察は彼女には特技があると言って、誰も収容しようとはしなかった。

「珠鳳!」。とても可愛い名前だ。

彼女もまた僕たちの遊び相手だといえるだろう! もっとも子供たちは決して彼女が大好きではなかった! しかし、彼女はどうやら僕たちが好きだったようで、いつも僕たちのところへ来て遊ぼうとした。村の中にいても、何日も家にも帰らず風呂にも入らないのが常で、長く伸びた髪には藁をいっぱい結わえていた。

子供たちは恐がって石を投げた。彼女は走って遠くに逃げたが、なおもそこに立ち、僕たちの一団を眺めながら、叫んだり飛び跳ねたり、一緒に笑ったりしていた。

数年前、家に帰って春節を過ごした。寒い冬、薪を詰め込んだかまどの前にしゃがみ込み、熱いスープを飲みながら、不意に母さんに問いかけた。

「母さん! 珠鳳は? 長いこと見かけないようだけど」

「病気だよ、どうやら!」

「どうしたの?」。僕は突然思い出したのだ。何年も何年も前、みんなで外省村へ遠征しようとしたあの夜を。そして、夜も昼も、僕たちみんなと一緒だった彼女の姿を。もしかしたら、彼女は僕たちの守護天使だったのかもしれない! 僕はロマンティックにそう考えた。僕たちがどんなにからかってみても、一度も僕たちを嫌がったことはなかったのだから。

考えてみると、彼女もまた僕たちと同じように、あの年、女風呂を覗きに行くことを勉強よりもずっと重要だと思ったのだ! この点からいっても、彼女と僕たちは仲間である。陰謀がいっぱいのあの大人たちと比べると、彼女は本当に僕たちの仲間だったはずだ。

「あの頃、みんなも口にするのをはばかって・・・・・」。母さんはうつむいて考え込んでいる。

「村のあの・・・・・それから、お祖母ちゃんの姉さんの家のあれが・・・・・。いつもはそんな風ではないのに、無理やりに・・・・・。本当に何年もだよ。お祖母ちゃんがあの娘の母親に言ったことがある。早く連れて行って結紮してもらうほうがいいって。母親は心を鬼にできずに、野良犬には野良犬の定めがあると言ったきりさ! 珠鳳仔! ああ、あんな風でなかったらね。あの娘がどんな病気なのか、本当に誰にも分からないよ」

「病気はそうやってあちこちに伝染するんだね。治しても身についてしまう。ちゃんと治りはしないのさ!」

火の光がかまどのそばに貼ってある(火土火文)公のお札を照らしている。手の中の空のお碗が石臼のように重く感じられた。お札のふちに(火土火文)公に付き従う二行の文字が見えていた :

「有徳は火を司り
 無私は天に達する」

もしかしたら、珠鳳は村の子供たちの天使であっただけでなく、おそらく村の老人、若者、善人、悪人、すべての人の守護天使だったのかもしれないと思った。

もう本当に長い間、遠い空の雲を目にしたことがない。もしかしたら、もう本当に長い間、頭を挙げて遠い空を見たことさえないのかもしれない ; もしかしたら、あの夜、遠征を成し遂げられず、病気になってしまってから、僕は盲目になってしまったのかもしれない。

去年、帰郷して春節を過ごした時、何とかまたあの橋のたもとへ行って、ちょっと腰を下ろしてみた。

(土川)溝は一昨年、何度か水害に見舞われたあと、とっくに汚泥に塞き止められて水深が浅くなり、人が溺れ死ぬという話も、もう聞かれなくなった。

僕は思っていた。もしかしたら、この数年の故郷を離れた生活が、僕を盲目にしたのかもしれない。特別楽しい出来事など、何ひとつ思い出せない。ちょうど長い間、遠い空の雲を見たことがないように。

たくさんの、たくさんの、もしかしたら・・・・・。

僕は自転車に跨り、のろのろと村の中をぶらついていた。昔の幼馴染を訪ねる勇気が、今まで自分になかったことを不思議に思ったが、期待していたのはほんの偶然。偶然、道で幼馴染に出会えることである。僕は無関係な人間に変わってしまったのだ。しかし、もう一度、記憶のかけらを拾い集めて、僕とこの村の人々とのつながりを取り戻したい、そう渇望していたのである。

黄昏どき、名前のない番号だけがついたあの橋まで引き返した。

突然、記憶が蘇った。数年前、お祖母ちゃんが亡くなった時、ここを通りがかった長い葬列が、やって来た車に道を譲るため、少し足を止めたことがあった。その時、頭の中は空っぽだったのだが、風になびいた幡幕の後方に、葬列のはるかうしろをついて来る、ひとりの女性が見えたことを、かすかに覚えていた。

あれは珠鳳の姿だ。

実のところ、お祖母ちゃんが珠鳳に対して、どんな特別な感情を抱き、どんな特別な配慮をしていたのか、僕にも述べることはできない。お祖母ちゃんは無口な女性で、その生涯の大半を田んぼの中で牛や馬のように働いた。

ある日、田んぼで転んでから、外出することができなくなり、その後の数年は、いつもひとりで広間の前の鳳凰樹の下に座りぼんやりしていた。

珠鳳も、思えば歳を取り、もう飛び跳ねることもできず、遠く離れた村まで遠足に行くこともできずに、お祖母ちゃんのそばに座っている姿がよく見かけられた。午後の間、お祖母ちゃんに向かって、ぶつぶつと話をしているのだ。

その後、お祖母ちゃんの意識は、実をいうと、はっきりしていたわけでもないので、その一対の老若が向き合って笑っていると、どちらかといえば、お祖母ちゃんが珠鳳の幼子のようだった。珠鳳の話、珠鳳が半生の間に蓄えた、それまで人に言おうとしなかった話は、お祖母ちゃんにだけは理解できたようだ。きっとふたりは友達になったのだと思う。

お祖母ちゃんが亡くなって何年もたち、珠鳳も四十を越えたはずだが、天使は天使だ、年齢など問題ではないはずだ。ただ、今ではもう体力がなくなり、人を楽しませるために出て来ることができないだけだ。 中学時代を思い出す。数人の幼馴染と自転車に乗り、珠鳳の家の裏庭を通りがかると、しばしば彼女が裸になっているのが見えた。裏庭の井戸のポンプのそばで、すでに大人になった身体を洗いながら、永遠に子供のような笑顔を見せていたのだ。

そして、僕たちもまた成長していた。鳩小屋の時代は遠く過ぎ、いつも赤面してうつむき、慌てて通り過ぎるのだった。

*          *          *

僕はかって簡単に絶滅してしまう生物がいると聞いたことがある。この世界に現れたのは、ただ生態を留めることが目的で、世界全体が瓦解するのを待ってはいない。こんな風に考えるならば、ライオンはカモシカに対して詫びる必要はない ; 人間もまた万物生霊に対して詫びる必要はない ; そのまま粗雑に生きて行けばよい、ということになるのだろうか?

子供の頃、僕たちが石を手に珠鳳を追い払った時、それでも彼女は笑っていた。その後、村の大人たちに陵辱されるようになった時、何を思っていたのだろう?

これから、あの橋のたもとを通りがかれば、必ずしばし足を止めることだろう。きっといつか、遠い空の雲が、やはりまた高く積み重なる日が来ることを、僕は知っている。もしかしたら、答はそこにあるのかもしれない。


Vivien's note :
陳昇の子供時代の思い出に思わず微笑、特に弟たちの様子が愉快です。そして珠鳳とお祖母ちゃんの物語には切なくなります。田舎の子供たち、知恵遅れの珠鳳、そして呆けたお祖母ちゃんは、みんな私たちよりイノセントで、ここには一種の幸福感が漂っています。長調がBGMの前半はいうまでもなく、短調がBGMの後半でさえ、そんな感じがあります。それを生み出しているのは、いうまでもなく、陳昇自身の持つ温かさです。珠鳳がお祖母ちゃんに話をするシーンがたまらなく好き。「その後、お祖母ちゃんの意識は、実をいうと、はっきりしていたわけでもないので、その一対の老若が向き合って笑っていると、どちらかといえば、お祖母ちゃんが珠鳳の幼子のようだった」。ここを読むたび、心の中で、「陳昇、我非常非常喜歡 Ni !」と、叫んでしまう Vivien です。




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