煙城瓜雅基爾
僕は夢の中に目覚める。夢の中の自分は遥かなグアヤキルの街をひとりさまよい、どこへ行くつもりなのかも分らない。切断された一枚の地図を手に、道を尋ねようとする。「この地図はどうして下半分が切り取られているのですか? 飛行機が降下する時に、確かに窓からこの街の下半分が見えたのだから、この地図にも載っているはずなのに・・・・・」。行く手を遮られたその人は、首を傾げ、差し出された地図を眺め、ペラペラと何やらラテンの言葉を話している。やがて街にたむろする靴磨きの少年たちが集まって来る・・・・・。
グアヤキルは夢河のほとりにある小さな都市である。(訳註 : エクアドルのグアヤス川のほとりにある。グアヤスに「夢」という意味があるのかは不明)三百年前、スペインの独裁者が槍兵を率いてこの街を包囲し、降伏するよりはむしろ死をと、最後の酋長グアヤは妻のキルとともに自刃した。
呪いをかけられたかのように、建設と崩壊の間で、この街は百年余りの時を息も絶え絶えに生き延びてきた。
街全体の外観からすぐに分ることだが、二、三十年前のある日、大事件が起こったかのように、この都市はあらゆる進歩と建設を凍結してしまったのだ。
青年たちは祖父の時代の、とっくに廃棄されるべきだったバイクに乗り、ぼんやりと街を通り過ぎる。
インディオの婦人が、眠り込んだ幼児を胸元に抱き、どなりながら膝元に名も分らぬ雑草の山を並べている。子供の顔は日光を浴びて真っ赤だ。
何十年も補修されたことのない大通りは、陽光に照らされ、油汚れが光を反射している。すでに名前も忘れ去られた日本車が、ランプや窓を欠き、ナンバープレートさえもきれいさっぱりなくして、それでも懸命に街を疾走している。
集まって来た少年たちの多くは、仕事にありつけない靴磨きで、誰もが商売道具の入ったぴかぴかの箱を提げ、無邪気に笑っている。どうやらその磨きこまれた道具箱は、お父さんの代から受け継いだもののようだ。
そんなにたくさんの子供が来るので、すぐに抱く考えはこうだ。「今日は休日なのだろうか? 子供たちは今日は学校へ行かなくてもよいのだろうか?」
子供たちは口々にわめいているが、その話はかえって聞き取りやすい。その地図は切り取られたんじゃない。ただ・・・・・、ただそこまでしか印刷されていないんだ、と口をそろえる。飛行機から見えたそれ以外の低い家並みは、この都市が凍結されてから、外の地方から移住してきた幽霊人口のものなのだと、僕に理解させようと懸命になっている。それは存在しない、存在するべきではない人口なのだ。グアヤキルの栄光は、あるいは執政者の目から見れば、僕が手にしているこの地図止まりなのである。
グアヤキルの栄光が再現された暁には、地図に印刷されていないその他の半分の街は、また消失することになるのだといわんばかりだ。あるいはきれいさっぱり破壊されて平地に戻されるのだといわんばかりだ。
「だから僕らは存在しない人間、存在しない子供なんだ・・・・・」
僕は悲しくなって、彼らに訴えたくなる。飛行機からは確かに、この地図の下半分のところにたくさんの家が見えたのだと。
子供たちはハハハと笑い始める。なぜ僕がこんなに執拗に目にした家並みを本物であると決めつけるのか、その訳が分らないからだ。そして僕もまた心の中で自分自身に告げる。我が街でも、計画にない違法建築は地図の中に書き込まれることはなく、何号公園予定地、あるいは何々建設予定地と呼ばれているではないか。
「あの家並みに対するこだわりなんて忘れちゃいなよ・・・・・」。子供たちはみな笑いながら、そんな風に僕をからかう。
「それより、僕たちと一緒に写真を取りに行こうよ・・・・・」。僕はまたくよくよと悩み始める。なぜなら、この薄暗い都市には、学校に行けない子供たちが山ほどたむろしているのだ・・・・・。
この都市を鏡に写してみれば、息が絶えようとしている老婦人のように見えるだろう。しかし僕には自信がある。その血管の中には、子供のように若い血が、ほんの少しではあるが流れていると・・・・・。
それは何という唐突な出来事だっただろう!
それは何とむごい記録だろう!
Vivien's note :
学校へ行けない子供たちに心を痛める陳昇。世界にはそんな子供たちがどれほどいるのでしようか。Vivien も読んでるだけで切なくなります。この子供たちにはどれだけの可能性があるのだろうかと? もし勉強すれば生まれてくる可能性、そしてその機会を得ることなく埋もれてしまう可能性・・・・・。
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