誘惑
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気にならないわけがない 街を歩けば他の男たちの視線が気になる。 冷やかしに口笛を吹く男、鼻の下が伸びきった間抜け面を晒す男。舐めまわすような視線。 でも当の本人はまったく気にしている様子はなく。 颯爽と胸を張って歩く。凛とした彼女。 「でもあの格好は問題だろう」 ゼシカの居ない隙に、野郎だけでの緊急会議。 むさい顔を突きあわせて、男四人で無い知恵を出し合う。 議題は勿論、彼女の現在の装備について。 「目の保養になってるし、いーんじゃね?」 「でもアレは露出が多すぎると思うがすよ、」 「そうだのぅ、嫁入り前の娘がする服装とは思えん」 「いや、嫁入り前とかそーゆー問題でもないと思うんだけど・・・・」 「じゃあ、どーゆー問題だってんだよ、エイト」 「・・・・」 「素直にエロいって言えよ、性少年」 「兄貴に対して失礼なこと言うなでがす!」 「エロの何処が失礼なんだよ」 「兄貴はククールと違って純朴なんでがす」 「・・・・何気にお前の方が失礼じゃねーか?」 「止めんか、今はそんな話をしてる場合じゃなかろう」 「・・・・そうだよ、」 「ほーら見ろよヤンガス、微妙にエイト、傷付いてるぜ?」 「えッ!?」 「・・・・傷付いてなんかいないよ、ヤンガス」 「別にそんなつもりで言ったんでないでがすよ!兄貴は純粋で穢れなく、そういった事柄から遠く離れた所にいるピュアな存在だと言いたかったんでがす!」 「・・・・」 「・・・・だからそれが失礼だっつーの・・・・」 「止めんか!」 どこまでも脱線してくバカ話をトロデは腹の底から怒鳴ることで中断させた。 鋭い眼光で三人を睨み付ける。 「今はゼシカの服装について話しているのであろうが!」 そうして重たい溜息を吐き出した。 「・・・・・・・・問題じゃのう・・・・、あのビスチェは・・・・」 |
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結局のところ、長々と不毛な議論を交わした結果、直接ゼシカに口頭注意をすることになった。 本人が決して不快に思わないよう、(間違ってもセクハラとは思われないよう)、ソフトに、優しく、やんわりと、オブラートに包み込むように、上手くゼシカに伝えるらしい。 ・・・・エイトが。 もちろんエイト自身の激しい抵抗はあったのだが、これはもう決定事項、一同の総意であった為、エイトは無理矢理にゼシカの元へと送り出された。 当然の顔付きのトロデ王に、あたたかい声援を送るヤンガス、にやけた笑みを浮かべるククール等に対して、エイトにしては珍しく本気で殺意を覚えそうになりつつも、重たい足を引き摺りゼシカの元へと向かう。 ちょっぴり泣きそうだった。 「・・・・やぁ、ゼシカ、」 「・・・・不自然な笑顔でどうしたの、エイト?」 ゼシカはエイトの顔を下から覗き込んだ。途端に視線を逸らすエイト。 この覗き込まれる角度は、酷く目のやり場に困るのだ。 「・・・・何でもないよ、」 「うそ。ククールにでもいじめられた?」 その問いはあながち間違ってはいなかったので、エイトは肯定も否定も出来ない。 その困惑したエイトの表情をゼシカは見逃さなかった。 「もー、ククールのヤツ・・・・!ちょっと言って来るわね」 「・・・・違ッ!」 歩き出したゼシカの手首を掴み、引き止めたは良いが身体が固まってしまう。 至近距離で、尚且つ、真正面から見据えたゼシカの肢体の威力に身体が固まる。 所々が透けた薄紫色のビスチェはほとんど彼女の身体を覆っていない。 むしろ、彼女の身体を強調する為だけの布。 なだらかな稜線と白く輝く肌が眩しく輝いて。 不思議そうにエイトを見詰める、綺麗な蜜柑色の瞳。 「どうしたの、エイト?」 顔を背ける。視線を逸らす。 自身の顔面が燃えるように熱かった。 思考が三段跳びの勢いで、エイトの望んでいない方向に跳んでいくのがわかる。その方向は無け無しの理性ですら制御出来ない場所であるのもわかっているので、何とか軌道修正をエイトは試みる。頑張れ、俺の理性。 「・・・・エイト?」 「・・・・あのさぁ!」 エイトは自分の視線を彼女の形良い耳に固定しながら声を絞り脱す。 絶対にその場所以外を見てはいけないと、自分によく言い聞かす。 「ゼシカ、その服なんだけど、」 「何?」 「・・・・あのね・・・・、」 「可愛いでしょ?」 「・・・・あー、うん、」 「こんなのでも守備力はとっても高いのよ」 「・・・・へー・・・・」 「で、何?」 「・・・・あー、あのね・・・・、」 「・・・・さっきから変よ、エイト。如何したの?このビスチェが如何かした?」 エイトの決意などお構いなしに、ゼシカはエイトの視線を捉えようとしてくる。 心の中で仲間に対する悪態呟いてから、エイトは意を決した。 「・・・・あのね、ゼシカ、」 「だから何?」 「その服、脱がない?」 場の空気が、瞬間、凍りつく。 時が止まったかのように、エイトとゼシカはそのままの形で固まった。 しかしセシカが一つ瞬きをするのを見たエイトは、堰を切ったように叫び出す。 「わー!!うそ!違ッ!間違い!違うから!そーゆー意味じゃなくて、何言ってんだ俺!脱ぐってそーゆー意味じゃないから!ただその服装のあまりの露出は如何なものだろうって言いたかっただけで、だから違うから!わー!!!」 未だ固まり続けるゼシカの前で、エイトは必死に両腕を振り回し、ほぼ絶叫に近い声を上げる。 「ごめん!服を脱げって、そんな意味全然なくて、ただホントそのビスチェを着るのを止めたらどうかなって話なだけであって、決してそーゆーアレな意味は・・・・」 「・・・・・・・・如何して?」 「え?」 いつの間に平静に戻ったのか、ゼシカは小首を傾げている。 「如何してこのビスチェはダメなの?」 「・・・・だって、」 「ねぇ、如何して?」 ゼシカは静かにエイトに詰め寄り、訊ねてくる。 見上げるように。 ゼシカの胸がエイトのそれに柔らかく触れた。 「ねぇ?」 「・・・・・・・・だって目のやり場に困るんだよッ!」 明後日の方向を見ながらエイトは叫ぶ。 もう顔どころか全身が熱く、自分の今の様はゆでだこより酷いだろうと、ぼんやり思う。 「その服だと何処を見て良いのかわかんないんだッ!」 もう如何にでもなれと、エイトはちょっぴり涙目で叫び続ける。 「街を歩いている時も外を歩いている時も、一緒の時は例え戦闘中だって気になるんだよッ!」 「・・・・うそ」 「え?」 「・・・・だって戦闘の時、確かにモンスターがアタシに見惚れることはあるけれど、エイトがアタシに見惚れてくれたことなんてないじゃない」 少し不満気に。 ゼシカはエイトに詰め寄った体勢のまま、容良い唇を尖らせた。 しっかり三呼吸してからようやく何を言われたのか理解することが出来たエイトは、しかしよりいっそうの混乱状態に陥った。 「・・・・ッ!しっかり見惚れてるよッ!」 「うそ」 「あー!もー!!」 エイトはバンダナごと頭を掻き毟った。 自分はただゼシカの服装を注意しに来ただけなのに、何でこんな話の流れになった? 何で自分はこんなにゼシカと距離が近い? 互いの鼓動する心臓の音が胸に響く超至近距離。 ほんの少し顔を動かしたら、もしかしたら唇だって触れてしまうかもしれない。 ・・・・本当にどうして? 「あー・・・・、」 そんな混乱状態のエイトを何故か嬉しそうにゼシカは見詰める。 触れ合う互いの胸から熱が行き交う。果たしてどちらの熱がより高いのか。 「・・・・ねぇ、エイト?本当に、本当にアタシに見惚れる時なんてあるの?」 「当たり前だろッ!」 だって、 「ゼシカに見惚れない男なんているわけないだろ!」 「・・・・ふーん」 口調とは裏腹に満足そうにゼシカは笑った。 そうしてエイトの胸元に自分の額を押し付け、そっと呟く。 「・・・・・・・・嬉しい」 「え?」 エイトがその一言を理解するより早く、ゼシカはその身を翻しエイトから離れた。 にっこりと。 ゼシカは頬を紅色に染めて柔らかい笑顔を魅せ、それにエイトは呆けたように見惚れた。 ・・・・何度でも彼女に見惚れてしまうのだ。 その時ゼシカは、もっとお色気のスキルを上げようなんて思っていた。 もっと自分を見て欲しいなんて、見惚れて欲しいなんて。 誘惑。 自分を好きになってと貴方を惑わし、誘う、願う。 私に貴方の心を奪わせて下さい |