誘惑
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「やぁ、ゼシカ」 「なぁに、ククール」 やけに機嫌が良さそうなゼシカの隣に、さり気なくククールは近付いた。 口許が緩みっぱなしのゼシカは本当に幸せそうで、さすがに少し苛立つ。 「何だか御機嫌じゃないか。良い事でもあったのかい?」 「そう?」 「さっきまでエイトが居ただろう。アイツと何かあった?」 「別に」 ククールの発言を否定しながらも、それでもゼシカは嬉し気に微笑んだ。 その笑顔に対しククールも同じ笑顔を返してやる。しかしながらゼシカはククールの笑みなんてまったく気にしていないようで、一人で紅色の頬を押さえたりしていた。 控えめにいって、むかつく。 正直にいって、はらわたが煮え繰り返る。 「・・・・それにしても、」 ククールは左腕をそっとゼシカの細い腰に廻した。 「素敵な衣装だね」 瞬間、離れそうになったゼシカの身体を、逃げられないように右腕で強く押さえ付けた。 戸惑った顔でククールを見返してくるゼシカに、とっておきの笑顔を捧げる。 「誘ってんだろ?」 「・・・・何を言って・・・・」 強張ったゼシカの表情には気付かないフリをして、静かに顔を近付けた。 ゼシカの蜜柑色の瞳の中心が不安と驚きで陽炎のように揺らめく。 ククールはその美しさに、確かに見惚れた。 「・・・・離して、」 硬い声を発し、ククールの腕の中でゼシカはもがき続ける。 しかしククールはまったく気にせず、暴れるゼシカの頤を軽く固定した。 そしてただ薄い笑みを浮かべ、顔を、唇を寄せて・・・・。 「・・・・・何すんのよッ!!」 鋭い破裂音が辺りに響いた。 かなり盛大な音だったので、結構遠くまで響いたかなと、他人事のようにククールは思う。 左の頬が痛い。かなり痛い。そして、熱い。 ゼシカの掌の形で赤くなり、心臓が血液を送るのと同じリズムでじんじん痛む。 どうやらゼシカは手加減はしてくれなかったらしい。 「一体何考えてるのッ!?スケベ!!」 「・・・・・・・・スケベときましたか、」 左頬を擦りながらククールは、いてて、と呟く。 「変態!エロ男!色情魔!」 「・・・・言いたいほうだいアリガトウ」 「動く煩悩!!」 「・・・・それは動く石像みたいで嫌だなぁ、」 「・・・・ッ!だから何なのッ!!」 顔を真っ赤に染めてゼシカは怒鳴る。 それはまったくもって当然の怒りなので、内心でククールは苦笑を押さえられない。ゼシカはこう見えてかなり潔癖な性質であることをククールは既に知っている。 「ゼシカがあんまり魅力的だから、」 何を当然なコトを訊くのだろう、ククールはそんな表情でとぼけてみせた。 「バカな事言わないでッ!」 「バカじゃないよ」 両腕を広げ、何処ぞの劇団員よろしく、芝居がかった身振りで語りだした。 熱っぽく、出来るだけ遠い目線で、歌うように高く、低く。 「剥き出しな肩口のまろい曲線、触り心地の良さそうな一の腕、泡沫より繊細な鎖骨、豊穣の胸、細く優美な腰、犯罪的な太もも・・・・・」 恍惚の表情を浮かべ、天を仰ぐ。 「ビスチェに隠された、完璧な身体」 ゼシカは背筋を駆け上がっていく悪寒に震え、両腕で自らの身体を抱いた。 「・・・・お願いだから気持ち悪いコト言わないでくれるッ・・・・!」 「気持ち悪いだなんて、」 小首を傾げ、ゼシカを見詰めるその表情は、・・・・かなり良い笑顔だ。 「全部本当の事だろう?」 何故か生理的に受付けないモノを感じて、ゼシカの全身に鳥肌が立つ。 ククールはそんなゼシカの様子を無視し、強引に左手を掴んだ。 そしてゼシカが逃れるより早く、そっと手の甲に唇を付ける。 「・・・・麗しき、絶対なる美」 「キャーッ!!」 耐え切れなくなったゼシカは、力いっぱい左手を引き抜き、ククールから離れるよう後退った。そのまま両耳を塞ぎ、これ以上聞きたくないと頭を振り続ける。 「愛の天使」 「キャー!キャー!キャー――ッ!!」 メダパニでもかけられたようにゼシカは混乱の態を見せた。 耳を塞いだ状態で兔がそうする如く、悲鳴を上げながら何度もその場で飛び跳ねる。 「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・・!だからもう黙ってッ・・・・!!」 ゼシカは半ベソをかいていた。 何か言いたげに少しだけ開かれた艶やかな唇。透明な涙で覆われた潤んだ瞳でククールを見詰める様は酷く艶があった。 それはククールの胸を、良心を、・・・・理性を揺るがすのには十分な光景で。 しかし、ククールはそんな動揺は微塵も見せないよう、顔の表情筋に力を込めた。 「黙りません」 「耐えられないのッ!」 「まだ言います」 「お願いだからッ!」 「無理」 ゼシカの絶望に染まる顔を見ながら、もう一度だけ駄目押しに、無理、と囁く。 良い感じに混乱しているゼシカに、ククールは出来るだけ優しい笑みを浮かべた。 「・・・・ゼシカがそのビスチェを着ている限り、」 俺は言い続けるよ? だってゼシカにそのビスチェはあんまり似合うから。 あんまりあんまり素敵だから。 「俺はゼシカの素晴らしさを、ずっとずっと歌い続けるよ?」 砂が水を吸い込むように、焦点が合っていなかったゼシカの瞳が収束していく。 「・・・・・・・・理解出来ましたか、ゼシカちゃん」 |
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「・・・・ッたく、」 舌打ちをしながら、ククールは頭を掻いた。 「エイトのバカヤローが・・・・」 意気消沈しながら仲間の前で『俺には無理だった・・・』と項垂れたエイトを思う。 口下手にも程があると、ククールは呆れるよりむしろ一発殴りたい心境だった。 「ちゃんと止めさせろよ、あの服は・・・・」 熱をもった自分の頬をそっと撫ぜる。 痛みよりも脱力感の方を強く感じるのは仕方がないのかもしれない。 「他の野郎にこれ以上ゼシカのあの姿を見せるなんて耐えられねぇつーの・・・・」 深い、溜息を吐く。 |
山田錦さまから頂いてしまいましたっ!!
すごくこのお話が好きでして、もう一度読ませて下さいとおねだりしてしまいました(笑)
そしたら快くアドレスを教えて下さいまして、さらには「お好きにどうぞ」とかっ!!??
もう、本当信じられませんでした(笑)
そして、こうして私一人にはもったいなさすぎなのでお宝としてアップさせて頂きました。
本当に、ほんっとぉぉぉーーーにありがとうございますっっっ!!!
宝物が増えてもう、うっはうはですよっ!!
皆様もどうかこの 主←ゼシ←クク な関係に悶えて下さいっ!