王子製紙の創業者、藤原銀二郎さんの言葉で「智恵なき努力は牛馬の努力」というのがあります。牛や馬だって馬鹿にしてはいけません。ちゃんと、努力いたします。でも、これは主人が命じたことを黙々と忠実にやるだけの努力です。大きな方向が間違っていても一生懸命遂行しようと努力をするのです。どうしたら良い効果をあげることができるか、能率があがるかを考えようとはしません。藤原さんは人間の努力はこれではいけないと言われているのです。   健康に関しても、多くの方が努力をされています。でも、よく見つめてみると、この「智恵なき努力」をされているのではないかという光景によくお目にかかります。そんな方は普通、極端な考え方をされる方々です。その一方の旗頭は「おまかせタイプ」です。私は医学の事は何もわからないからすべて、フランス料理のおまかせコースよろしく、頼り切って何も勉強しようとされないタイプです。ちょっと困るのは、ビーフステーキの焼具合はどうしましょう、デザートは何にしましょう、お飲み物は何にしましょうかとお聞きしても、すべておまかせしますと答えられる方です。一生懸命、食べる努力はされますが、誰が食べるのか主体性がないことになりますので、こんな方は冒頭に述べた牛馬になられたのではないかというような錯覚を覚えます。一体、誰の病気で、誰の人生なのでしょう。   もう一つの旗頭は「まとはずれタイプ」です。こんな方は本当によく勉強されます。でも、その勉強の方向が何か違っているのです。どこからか、情報を得てはありとあらゆる民間薬や、眉に唾をつけたくなるような治療法を試していらっしゃるタイプです。   そんな方々にならないように、提供しているのが我々徳洲会のスタッフの医療講演であると、私は自負しています。医学というのは本当はそんなにむづかしい学問ではないのです。言っている内容は至極単純なのですが、なにしろ医学用語がむづかしい。体の中のいろいろな出来事を、その原因や現象でどんどん分類していったがために、どんどん新しい医学用語が作られていったのにすぎないのですが、何しろ分類法だから聞いたこともないような言葉がどんどん出てくるという事になります。   それで医者や医療関係者が言うことはむつかしいという事になり、前述の「おまかせタイプ」が登場するのでしょう。ここが、一般大衆への健康教育の間違いだと思います。医療の本質がわかっているちょっと賢い人ならば絶対こんな医学用語はかみ砕いて説明ができるものなのです。そんなものなのです医学とは。わからない医学講演は講演者が絶対悪いのです。   ということになれば、医療講演の進むべき道は決まってきます。私の独断と偏見に満ちた良い医療講演の判定法を挙げてみます。医療講演はまず第一に分かりやすくなければなりません。第二に、家に帰って直ぐに実行できるもの。あるいは病院に行って相談すれば何とか利用できるもの。などなど具体的でなければ講演は成功とは言えません。第三に楽しくなければなりません。また、人間らしく生きることに対して肯定的でなければなりません。ほっとする話しぶりや、ほのぼのとしたものが伝わってくるような講演は最高です。   さあ、地域医療協議会の皆さま、こんな眼でみられたとしたら、数々の医療講演の評価はいかがだったでしょう。これだけは自信をもって言えます。私どもの病院の数々の医療講演に参加された皆さまは、上に述べました二つのタイプではないこと、いやそれ以上の姿勢で主体的に自分の人生を切り開かれて生きていらっしゃる方々であり、私どもがこの病院の将来のために、積極的な御意見や責任あふれる御意見を期待してもよい方々だと感じています。そんな所で、どうか我々の病院を支援下さい。皆さまのため,地域にに密着した医療を実践するために頑張ります。
( 名古屋徳洲会総合病院地域医療部:  インテルメディアー公開医療講座一周年記念誌 第1集より)           
智恵なき努力をしないための 医療講演を