乾杯     ちょっとHな詩

ある乳がんの患者さんの夫の詩です。ご紹介します。

あたたかい布団の中で
手を握る。
まだ やってくれている洗い物などで
冷たくなっている手を
あたためてあげる
彼女のやわらかさが、表面の冷たさと うらはらに
芯のあたたかさとともに
じーんと伝わってくる

突然足先を
私の甲のあたりに
つんとつついて からめてくる
ほんの ちょいの ふれあいだが
心地よさが 全身をかけめぐる
歓喜のおたけびが 耳のあたりを
つんざく
でも 布団の中は静寂

Sexを要求するのが愛情なのか
Sexを要求しないのが愛情なのか
微妙な心のあやが
男の心を惑わせる

数日前
私 潰れちゃうと
耳元でつぶやいた
その余韻が
私の熱愛を冷ましているのかも
じっと耐えれている

でも 癌が進んでいけば
体を大切に考えて 要求しない方の
パーセンテージが大きくなっていくのが
自然だ

60歳という年齢が
若い頃のあのつきあげるような性欲が
なくなったのが幸いだ
若い夫が、体の欲求に負けて
浮気するのが、またお金で
春を求める気持ちが、苦い思い出として
理解できる

今、私は妻との愛情のやりとりに
どっぷりと つかりきれるのが
幸せだ
性欲という貪欲な
利己主義に それほど惑わされずに

60歳という年齢に乾杯!
妻の病気はつらいけど
病気を通して しっかりと 彼女を
受けとめられて
がっちりと彼女の心と
四つに組めて
他に何もない世界を
かいま見られて
深い愛情の世界を
噛み締められて
これ以上の幸せがあるものか

皮肉にも 妻の病気が
私の目を開いてくれた 私を素直にしてくれた

病気でなくて
日常の中で気付くべきだったかも
しれない。
でも、それができないのが
強欲な利己的な小人の常

もっと早く
二人とも若くて元気な時に
気付くべきだったかも
しれない。
でも、それができないのが
強欲な利己的な小人の常

でもでもね
気付かずに終える一生より
気付いた私は
数倍 豊かな一生なのだよね

気付かせてくれた
     彼女に乾杯
気付かせてくれた
     彼女の病気にも
     ちょっとつらいけど
     いやうんとつらいけど
       乾杯だ!