ある日のこと、用があって、住職がお寺の鐘をついた。犬はいそいそと湖に飛び込んだ。すると、対岸のもう一方のお寺の住職も急ぎの用事を思い付いて鐘をついた。これを聞いて犬はもう一方のお寺に向かって泳いで引き返した。先に鐘をついた住職は犬がやってこないのに業を煮やして鐘を激しく鳴らした。びっくりして、賢い犬はもと来た方に泳いでとってかえした。後からついた住職も犬がやってこないのをいぶかってもっともっと激しく鐘をつく、犬はそちらにとってかえすを繰り返し、とうとう疲れ果てて湖に溺れて死んでしまった。
これは、その昔の話しである。湖をはさんで、その湖岸に二つのお寺があった。この二つのお寺の住職は、一匹の賢い犬を可愛がって使い走りに使っていた。用がある時はお寺の鐘をゴーンとつく、すると、鐘の音を聞いて犬は、この湖を泳いでわたって住職のもとにたどりつくのだった。
何か、こんな事が世の中にあるように思いませんか。これは現代のある中小企業でのお話である。部長がある係長を可愛がっていた。ある日のこと、部長は係長をよびつけて、ある企画を考えるようにかなり細かい点まで指示して言い付けた。係長はその案を直接の上司である課長にも相談に行った。課長は、その案に反対で対案を出して係長に向かって反論した。しかたなく、部長に課長が反対している事を伝えに行った。部長は、課長に直接会って議論するわけでもなく、課長の案を一蹴した。企画は部長の案で実行された。おもしろくないのは課長である。課長の係長いじめが始まった。係長が溺れ死んだのは当然の成りゆきであった。
この話しが語っているのは「命令系統は一つに」という事でしょう。部長は課長に直接、命令を伝えるべきでした。実行部隊が係長であれば、課長と係長の両方を同時に呼び寄せて命令を伝えるべきです。
よくある話しですが、ワンマン社長が平社員に直接命令を伝えれば現場は混乱します。
犬の不幸