栄養学の専門家でない私にまさかダイエットの依頼原稿が来ようとは。
一瞬とまどいを覚えましたが、乳がんの専門家としてはこれは黙っては
いられないとの正義感が、一瞬よぎったのが運のつき、何時の間にか原稿を
引き受けていました。でも、早まったかと、ちょっぴり後悔しているのです。
その理由はこのエッセイの最後のあたりに登場。

 教科書風に言いますと、日本の乳がんの罹患率は、戦後年々増えて1996年に既に女性のがんの中で一位になっていたのですが、その増加の最大の理由は食生活の変化だと言われています。戦後の脂肪摂取量の増加が乳がん罹患率を増やしているのだという説明です。また、脂肪摂取量の多い国は乳がんの死亡率が高いというデータもあります。

また、乳がんの年齢分布をみますと、欧米の場合、40歳台後半と60歳台前半の2つにピークが観察されますが、日本の場合はこの60歳台前半のピークが見られないという報告が以前は多くみられました。ところがこの60歳台前半のピークが最近増えてきたのです。このピークの増加に肥満が関与しているという説明もあるのです。

 肥満が何故、乳がんを増やすかという機序の説明としては、肥満の方は当然、脂肪組織が多いわけですが、その脂肪の中で男性ホルモン(アンドロジェン)が女性ホルモンに転換されやすくなるという説明があります。女性といえど、副腎で男性ホルモンは産生されているのです。何しろ、乳がんは女性ホルモンを与えると大きくなる性質をもっているものが多いのですから。どんどん女性ホルモンが増えて女性らしくなっていくのは有難いことですが、乳がんまで大きくしてしまうという恐い事が起こっているというのです。

……………とここまで書いて、少し戸惑いを覚えています。だって、乳がんの患者様が癌になったのは、実は肥満が原因だったかもしれないなんて言うと、病気で唯でさえも落ち込んでいらっしゃるのに、追い討ちをかけてしまって、ああ私はだめな女と落ち込みに拍車をかけることになるのではと危惧するからです。

 そんな貴方には、「例外ない法則はない」という言葉を申し添えましょう。私は仕事がら、本当にたくさんの乳がんの患者様とお付き合いしていますが、肥満なんかでない方、むしろ痩せ気味の方で乳癌の方もたくさんいらっしゃるのです。医学の疫学の世界では絶対という事はありません。例え貴方が少し肥満気味でも私は例外だ、他の原因でなったんだと居直ってくれた方が、むしろ私は嬉しいのですが、くよくよする方が、肥満よりはよっぽど予後を悪くするのだと私は信じています。でも、肥満は美しく、スマートでありたいという女性の永遠のテーマの敵ですし、その他の成人病の原因にもなりますから、ちょっぴりは気を配ってくださいね。

 付け加えて言いますと、私自身もダイエットには多大の関心を持って、いろいろ自分でも実行したりしていますが、戦術的には(短期間半年以内)成功しても、戦略的には(2〜3年のスパン)ではもとの木阿弥で失敗しています。この企画の中で無理のない、出来る事なら楽しく、長続きのするダイエット法が公開されることを切に期待しています。

        

ダイエット考