奥穂高岳の旅−「奥穂南稜」登攀 その1
2004年8月12(木)〜16日(月)      同行者:NK,UT
まえがき

山仲間のN君の急な呼びかけに応えて、旧知のUさんと3人での山行を計画した。N君の希望から、今回は岩登り(と言っても、簡単な)を主目的とした。
全員で事前にトレーニング出来ない状況での山行には違和感を覚えたが、案の定、厳しい天罰が下りました。

私自身もついうっかりして大チョンボしてしまい、大いに反省させられる結果となりました。幸いにも、命にかかわる事態まで発展しませんでしたが、「山をなめたらあかんぞ!」と言う、穂高の神さんの声が聞こえてきそうでした。今後心を引き締めて登るべしと、言い聞かせる自分でした。

全くもって、反省、これ反省の山行でした。まあ唯一の救いは、何時もと違い日程がゆっくりだったので、後半はゆったりと過ごせた事でしょう。
目的が全てしかも快適に達成出来なかったので、爽快な岩登りを求める動きが今後加速しそうで心配ですね。(いつも癖になっていると、何処からか陰の声が聞こえますが...)



早朝の上高地BT
記録
2004/8/某日

今年6月、京都で会った際にN君は、念願のマッターホルンに登ったと言っていた。その彼より電話あり。

N:「今年の夏にUさんを誘って岩登りに行こうと思っているのだが、来ない?」
H:「何処を登る予定ですか?」
N:「僕は良く分からないから、2人で相談して決めてほしい。」
H:「えーっ!(そんなの、有りかョー?)」

今年の夏山は、例によって山仲間と沢登り合宿を予定していましたが、他ならぬ親友のお誘いです。折角ですからお付き合いする他はありません。
頭をひねって、比較的簡単(と思われた!)穂高岳の2つの岩稜を目指す計画を立てました。
奥穂南稜とジャンダルム飛騨尾根です。


岳沢テント場より奥穂高岳
正面の谷が滝沢、左が扇沢、その間の尾根が奥穂南稜
その真ん中のルンゼを詰める。
2004/8/12(木) DAY 01

 :00大阪難波OCAT集合21:30上高地行き「さわやか信州号」乗車---バス中泊

 

今朝、UとNの両君より前後して電話が有った。

U:「バスの切符は何処で買うのですか?」
H:「既に私が予約済みなので、当日現地で交換する予定です。」

彼には予め説明しておいたのだが、当日になると不安になったのだろうか?

N:「あのなー、一昨日腰が抜けて登山は無理の様です。BC(ベースキャンプ:岳沢テント場)まで行って、テントキーパーしています。」
H:「えーっ!」と、絶句!

エベレストのサミッターも、帰国後の不摂生が祟ったようです。
行く前から風雲の兆しが有り、嫌な予感がします。只でも準備に今一つ乗り気になれない山行計画でしたから


偵察でルンゼの滝を登るN君

大阪側メンバー(BergenとUさん)はOCATバスターミナルで集合。待つことしばしで、満載のザックを担いでUさんが来た。
係員の案内で乗車券を交換する。このバスは手前の沢渡で乗り換えねばならないが、上高地を基地の登山には非常に便利だ。さっさと眠剤を飲み、ビールを飲んで眠りに就く。明日は短い行程だが、前夜の睡眠は深いに限る。

上高地で全員集合
8/13(金) DAY 02

6:00上高地 到着6:30出発9:00岳沢ヒュッテ朝食10:00テント場11:00〜13:00偵察17:00夕食、宴会(幕営)

さて空は晴れ渡り、今日は登山日和のようです。東京からの「さわやか信州号」は少し遅れてましたが、N君と久しぶりに再会です。

上高地はまだ夜が開けて間が無いので、行き交う人の群れもわずかです。バスの収納庫からザックを降ろしてもらったら、Uさんのザックの背面が真っ黒になっていました!

何かのオイルがべっとりと付着したようです。バス会社に抗議する様言いましたが、気弱なUさんは動こうとしません。初っ端から不運に見舞われています。河童橋を渡って岳沢に向かいます。穂高連峰も朝日を浴びて輝いています。今日はテント場までの荷揚げと奥穂南稜の偵察行ですから、ゆったりしています。気分的にも楽です。先ほどのトラウマも何処かに飛んで行っています。

今回は登攀具(安全ベルト、クレッターシューズ、ロープ、ヘルメット、確保器、カラビナなど岩登りに必要な道具類)があってどうしても重荷になるので、ゆっくりと登ります。それでもUさんは遅れ勝ちになりました。

登るに従い樹林帯もまばらとなり、視界が開けてきます。西穂高の稜線や吊尾根のパノラマが見えてきます。振り返ると、霞沢岳の大きな山容が目に入ります。その前の急峻な鋭鋒は六百山です。97年の正月に登った記憶が蘇ります

あの時は素晴らしい快晴に恵まれ、白銀の穂高連峰や遠くに常念、大天井岳などが良く眺められました。それにしても時間の経つのは早いものです。

霞沢岳(右)と六百山(左)

鞍岳(左)と焼岳(右)

岳沢ヒュッテでのN君

まもなく対岸に岳沢ヒュッテの赤い屋根が見えてきました。3段の石垣の最上部が快適なテラスになっています。

皆さんしばし休憩している間にテント設営に向かいました。

戻ってくると、Uさんが到着。ムキムキマンの彼も少しお疲れ気味のようです。何せ急な話で、十分トレーニング出来なかったようです。

時間は早いですが諸般の事情を考え、此処で朝食を摂ります。Uさんの「うどん」を先行して食べますが、何と言うか?液状の麺つゆを担ぎ上げているでは有りませんか?通りで重いはずです。

取り敢えずビールで乾杯です。久方ぶりの邂逅に話は弾みます。N君の腰の状態は悪くはないようですが、大事を取ってテントキーパーに専念すると言います。おもむろにテント場に移動します。テント内を整備(といっても荷物を投げ込み、余分の荷物をツエルトで包めるだけ)し、登攀具を持っていざ南稜の偵察行です。N君も同行します。


ビールで乾杯するUさん

登攀ルート(点線)とトリコニー(▽)

最初は急な涸れ沢の、ガラガラのガラ場の登りです。まもなく、滝沢の万年雪の雪渓に到着です。雪渓からルンゼの取り付きのシュルンド(雪渓と山の斜面との間の掘れた空間。渡る際に転落事故が多い。)を心配していましたが、どうも全く問題なさそうです。

滝沢の右岸に取り付いてからお互いにロープで結び合い(アンザイレン)ます。ここから互いに確保しながら、1人ずつ登ります。ルートは、山肌に刻まれた急峻なルンゼです。途中2個所に滝が有りますが、何れも階段状になっており、難なく越えます。解説書にあるように、途中でルンゼは3つに分かれており、ブッシュの少ない一番すっきりしたルートを行くには左のルンゼが良い様です。

これで偵察は終わり。振り返ると乗鞍岳の大きな山容が広がります。足元にも御花畑が広がっています。下りは慎重に降ります。滝の下りは殊に緊張します。

振り返ると偵察したルートが良く分かります。中央の薄緑色のルンゼがそうです。上部で3つに分かれています。

明日はあの左を登り、その上部の岩壁の基部を右に横断し、それから本来のリッジ通しに登るのでしょう。

その形よりトリコニー(昔の登山靴―底が革だったのでー底に打った金属の鋲)と名付けられた3つの岩峰(▽)が威圧的にそびえているのが、テント場から良く見えます。

テント場に戻ると、宴会の開始です。明日の成功を確信しながら、夜は更けて行きます。

装備を着けたBergen

滝沢雪渓でのN(左)とU(右)の各君
テン場で寛ぐBergen(左)とN君(右)
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