30年ぶりの「北尾根」
(人生の再訪!闘志は君を待っている!)

京都での大学生活中にいろいろな部活に手を出したが、最後まで続けて現在の趣味に至っているのが山登りである。

これについては以前に「談話室」にも、また2年前にも大阪の某団体新聞に「趣味とは何なんや?」との題目で投稿した。後者の中で「(下手でも)末永くこつこつと続けられるのが趣味であろう」と書いた。少し長いが引用してみる。


趣味とは何だ?

高齢化社会の到来を迎えて、しきりに老後の暮らし方を考えろ!といわれる人も多かろう。曰く、「一生の趣味を持て!暇をつぶす生き方を考えろ!自活出来る生活パターンを目指せ!等々」それでは趣味とは一体全体何なのか?人生52年目を迎えるにあたって考えてみたいと思う。

趣味とは、ある英国人(生憎とその名前を忘れたが)の言では、「それで1冊の本が書ける程の奥行きを持ったもの」という記載があったように記憶している。「釣魚大全」を著わしたウオルター卿や日本アルプスの名前の由来となった著書で有名なウエストンなど、貴族の国  英国はさすがである。しかし日出る国といえどもこの国では、その定義に従うととても恥ずかしくて「趣味は何々です」などと口に出せないのが正直な気持ちである。
まあ「下手の横好き」と言われよう

とも、天才はさておき凡人にとっては、自己満足して(嫌がらずに)こつこつと末永く続けられる楽しみが趣味であろうかと思います。

それではおまえの趣味は何だと言われたら「山登りですな〜」と言わざるを得ない。何せほぼ毎週末は山に出かけていくことが多い。それも雪山、岩登りから沢登り更には最近始めた山スキーと、ジャンルも広範囲に渡っている。中学より始め、大学の山岳部を経て社会人になっても(多くのOBが山登りから足を洗うにも拘わらず)なかなか飽きずに続けられるのは、理解ある妻と仲間の賜物だと思います。


これが趣味である為にも、勤務先の院内報の編集者を脅迫して「山登りのすすめ」なる怪文を無理矢理連載させてもらっているのであります。その他にも掲載の機会を窺い、これで何とか英国紳士並みにと思っております。

ヨーロッパ山行がモンブランの登頂を目的としたため、6月の中旬に予行演習(同行者の技量チェック)に北アルプスの前穂高岳に登りました。

皆さん御存知のように、上高地の河童橋から見た穂高連峰の景色はなかなか有名ですが(図1)、その頂きの中央に見えるのが奥穂高岳で、吊尾根という下方になだらかにカーブした尾根を辿って右に位置するのが前穂高岳です。ほとんどの場合西穂高岳や明神岳などの辺縁の山には皆さん気づかれませんが,前穂高岳は著明な頂きとして見られます。

上高地から梓川を3時間遡ると横尾になり、そこから槍ヶ岳に行く道と分かれて3時間で着きます。カールの底の別天地です。奥穂、前穂、北穂の峰と吊尾根、北尾根に囲まれています。此処から北尾根の五,六のコル(五峰と六峰の間の鞍部)まで雪渓を登ると北尾根の取り付き点です。(図3)

何故、人気が高いのか?それは登ってみれば直ぐにわかります。高度感があり達成感が高い割には、岩場のグレード(難しさ)が低いのです。

本来は夏のクライミングの場所ですが、積雪期にも初歩の岩稜混じりの雪稜が人気を呼びます。慣れたリーダーとザイル(ロープ)を結んで安全確保をしてもらう限りは、初心者でも楽しいクライミングが楽しめます。

何を隠そう大学の山岳部時代にこの古典的ルートを一度登ったことがありました。
その際は岳沢でBC(ベースキャンプ)を張って多方面に部隊を出すという贅沢な(?) 山行が可能な時代でした。(現在では山岳部の維持さえまかりならない、寂しい時代で、これは名門大学山岳部―例えば関西ではD大学―でも例外ではない!) 確かこの時には、同級生ともう一人の部員の3人で登ったようです。

北尾根自体の核心部は三峰の登りで、此処が唯一アンザイレンが必要とされるところです。

途中までザイルなしで登った私は途中で身動きが取れなくなり,同級生の差し出してくれたザイルで何とか事なきを得、その後の登りは何ら不安なく無事に(前穂高岳まで)登頂することが出来ました。

今から思い返せば、ただ単にリスクのある部位での思い切りが不十分だったために行動できなかったのでしょう。しかしそのことが(自分でも感じないかもしれないが意識下に)一種のトラウマになっていたのかもしれません。
深層心理で,前穂北尾根は再挑戦の対象になっていたのでした。

昔出来なかったことが何事も年が経てばひょんなことで出来ることもある。(大概はこれの逆が多いが)これはなかなか楽しいことです。いつも挑戦の気持ちを忘れないようにしたいと思うものです。

P.S.

しかし一方、なんでも便利にしてしまうことは子供の教育の面からも良くないことです。親は自分のした苦労以上のものを子供に課して、自分を超えさせるべきではないでしょうか?

そういう理念に反対の親が多すぎることが気にかかります。すなわち「自分がしたような苦労を子供にはさせたくない」といった、子供の教育に盲目の親が多すぎます。これは次代を任せる日本の若い世代については大変なことです。自分が可愛い世代に日本の将来は任せられない!             (おわり)

これが一番の最短ルートですが、今回我々が登ったのはその前穂高岳から北東に伸びる稜線、その段を描くように連なるスカイラインの優美な姿より「北尾根」の名前がつけられ、昔より穂高岳の岩登り入門で人気の高いルートです。(図2)この尾根は岳沢の裏側の涸沢がベースになります。
通常、前穂高岳の登路は、上高地の正面に見える沢(「岳沢」といいます)を岳沢ヒュッテまで3時間ほど登り、その裏から始まる急登(これを開拓者の名前から「重太郎新道」と呼びます)を更に3時間半、合計6時間半かかります。
今回の予行演習 山行では総勢7人が2組に分かれて、お互いにザイルパ-ティを組みました。我々は4人組の方でしたが、皆それなりに慣れているため、特に苦労もせずに三峰の基部に達することが出来ました。いよいよ核心部の三峰の登りです(図3)。学生時代の思い出が頭を過ぎります。
しかし何ということでしょうか!?

リーダーの良さがあるのは勿論ですが、余りに多い固定、残置ザイルのため、まったく緊張を感じずに核心部を終えてしまいました。幸か,不幸か?私の青春時代の拘りは敢え無く消滅してしまいました。前穂山頂(図4)では晴れ晴れとした顔です。