昔、「あいつ」…己の身勝手な愛ゆえに、青い竜を恨んだ男…が、
竜を苦しめるために湖に流した毒は、ただの毒ではなかったんだケロ。 竜族に特に強く働くように作られた、強い魔力を帯びた特別な毒だったんだケロ。 だから、幼かった竜のティシアは、最初に、青竜の虚をついて神殿に流れ込んできた、 ほんのわずかな毒に強い影響を受けてしまったんだケロ。 体調をくずし、幻覚におびえて、訳も分からずに大声で泣きたてている幼い我が子に、 青い竜、ジェイヴァはどんなに心を痛めたことだケロ。 「父さんは、大急ぎであたしを湖の外に逃がしたんだって。 あいつの目を逃れて、安全に逃げられるように、あたしのことかえるに変えて、 逃がしてくれたんだって。 あんなぼんやりがえるにしちゃったのも…あたしが一人ぼっちで少しでも怖い思いしないで すむようにって…。 それに、父さんを捜して1人で神殿に戻って来ちゃったりしないように…って。 記憶を消したのは、そのためだったんだって…」 …それでも、完全には消えなかった記憶のかけらが、悪夢になって残ったわけだケロ。 「かえるにするのは、ほんのちょっとの間のつもりだったって。毒を消すまで避難させといて、 その後連れ戻して元に戻すつもりだったって。 でも、あの毒は父さんの思っていたような普通の毒じゃなかった。 …ずっと強くて、魔法までかかってたの。 たくさんの毒に取り付かれて、父さんは動けなくなっちゃったって。 そして毒がだんだん体の中に染み込んで、毒のせいで、だんだん血とか骨とか、 体まで毒に変わっちゃったんだって…」 ティシアはそこまで話して、突然黙り込んだケロ。それからしばらく、 目を閉じて、頭をたれたまま動かなかったケロ。 ぼくが、眠ったんじゃないかと思い始めたとき、ようやく顔を上げて、 暗く潤んだ目を見開いたケロ。 「…それから、父さん、言ったの。 ……また暴れ出す前に、あたしにとどめを刺してくれって…。 あたし、思った。イヤだ、出来ないって…。襲ってくる竜とは戦えるけど、 倒れてる父さんを殺すなんて…」 ティシアは、ぶるっと体を震わせたケロ。声がまたかすれたケロ。 「だけど。…だけど、そんなこと、言えなかった。 自分が自分でなくなるのが、どんなに恐ろしいか、よく分かるもん…。 自分が自分でなくなって、誰のことも分からなくなって、 とんでもない怪物になっちゃうぐらいなら…あたしだって、死んだ方がまし。 それに、あの毒…匂いを嗅いだだけで、あんなに苦しくなっちゃうのに …あんな風に体じゅう毒になっちゃって…それを、我慢して生きて、なんて言えないよ…」 …それから、ティシアは 「それに…それに、あたし、父さんとマーロ君があんな顔して戦うの、もう見たくなかった…」 ささやくようにそう付け加えた後、深く息を吸い込んで、はっきりした声で、 「だから…うなずいて、分かったよって。」 と、いきなりティシアは、なんだか、ちょっと恥ずかしそうな…情けない表情を浮かべたケロ。 「けど…体が震えて、どうしても止まんなくなったの。 足がくがくして、手もぶるぶる震えて…短剣を、しっかり握っていられなくて… こんなんじゃだめだって思っても、どうにもなんなくて…」 ぼくは、心臓がばくばくと胸の内側を叩くのを感じながら、ティシアの声に聞き入ったケロ。 「…その時、誰かが、短剣を握ってるあたしの指を、上から、しっかりと押さえてくれたの。…見たら、マーロ君の手だった。 一緒にやってくれる、って…。あたし1人でやらなくても、いいって…。 言われたとたん、なんだかすごくここが楽になって」 ティシアは、泣きそうな目になって、胸の真ん中あたりを押さえたケロ。 ぼくは、なんだか胸がきゅっとなったケロ。 「みっともないほど涙が出てきて…。 声が出なくて、『ありがとう』ってだけ…」 ティシアは、また深く息を吸ったケロ。それから、早口になって、 「あたし達、父さんに短剣を突き立てたの。そしたら…」 と、突然言葉を切ったティシアは、大きな瞬きをしたケロ。 暗かった目に、生き生きとした輝きが戻ってきたケロ。 声の調子も、いつもの弾みのある話し方に戻っていたケロ。 「そのとき、光が来たの。 ものすごく明るい光がぱあっと来たの。 とってもまぶしくって。何も見えなくなって。 目を押さえたとき、急に気持ちいい水が吹いて来て、息が楽になったの」 …水の中でなければ、気持ちのいい風が吹いてきた、というところだケロね。 「それで、また目が見えるようになったとき、父さんが不思議そうに頭を持ち上げてて。 うろこが、きれいな青い色になってて。 立ち上がったときは、もうすっかり元気になってたの!」 ティシアは、座ったまま、ベッドの上で勢いよく跳ねたケロ。ぼくは吹っ飛ばされて、 ベッドの真中に投げ出されたケロ。 「な、何が起きたんだケロ?」 ひっくり帰ったまま、そう訪ねると、ティシアはぼくの手をとって助け起こしながら、 考え込んだケロ。 「あたしにも、何が起きたのか、よく分からないけど… なんでも、真の思いやりとか愛情とかがあれば、青い竜の一族はよみがえりうるん…だって。 でも、父さんもどうやったかよく分かんなかったみたいだし…」 と、ぱっとティシアは笑顔に戻ると、ぼくを宙に放り上げて、 腕を伸ばして、落ちてくるところを抱きとめたケロ。 「まあ、何が起きたんだっていいじゃない! 父さんは元気になって、湖は元通りきれい。これ以上に、すごいことってある!? あたし達、奇跡が起こせたのよ!」 ぼくは、目を回しながら言ったケロ。 「おめでとうケロ! 本当に、よかったケロ」 でも、胸の奥のほうが、ちょっぴりぎゅっと重たくなるのは、どうしようもなかったケロ。 「ありがとう!」 ティシアはそう言ったあと、ちょと真面目な顔になったケロ。 「話を聞いてくれて、ありがとう。 あたし、冒険が終わっても、かえるクンに聞いてもらうまで、ずっと落ち着かなかったんだ。 聞いてもらって、やっと、今度の冒険が全部終わったような気がする」 ティシアはまた、晴れ晴れと笑ったケロ。ぼくの胸の奥がもう一度きゅっとなったケロ。 でも今度は、重くなくて…ティシアの高く伸ばした腕よりも、 もっとずっと高く登っていくようだったケロ。 「おかえり、ティシア」 「ただいま!」 青竜編のラストシナリオのお話です。 最終シナリオの出来事を全部詰め込んだので、いささかまとまりにかけますが…。エピソードを ばっさり切るのもしのびなく、また、どれかを選ぶには迷いがありすぎて、結局こうなりました。 マーロファンの皆様には、申し訳ありませんが… 私の場合、ティシアに最期までついてくる役に、マーロに白羽の矢がたったのは…実は、 単なる、ゲーム上の戦略からでした。 ロッドは絵本を作りたいのと、リンとの漫才チックなイベント会話が見たいのと で、はずせませんでした。 盗賊、ドワーフ戦士と来たら、技能のバランスから魔法使い系が欲しい …そして、うっとうしい雑魚戦をさっさと終わらせるのに最適な魔法使いと言えば、魔術師をおいて 他にはありません。てなわけで、マーロが最終パーティー入りをしたのです。 だから、私としては、最期までついてくる役は、ロッドとマーロ、どっちでもよかったんですが… 「ホビット」や「指輪物語」読みの私としては、誇り高きドワーフ族のロッドが、 歳の離れた人間の女の子と…たとえ正体が竜であろうと…甘味っぽい関係になるのは、 願い下げにしたいところ。 …と、まあ、なんだかロマンのかけらもない理由でマーロを選んだわけで…糖分抜きなのはご容赦ください。 (…まあ、このサイトは元から渋茶、せいぜい微糖が精一杯ですが) むしろ、かえるクンや竜をお相手にしているときの方がノッてしまう性質です…。(苦笑) |