アタシの知っているコリューンは、一風変わったじいさんだったよ。 いつも夢見るような目をしててね。やせっぽちのくせに、えらく力が強かった。 髪も、鬚も、すっかり白くなってた。それをばさばさに伸ばしてて、 そこにかすかに青い色が混じってるもんだから、ちょっと薄汚く見えちゃってたけど。 よく日に焼けてたけど、おでこの真中だけ、傷跡みたいな真っ白なところがあって、 そこがときどき、妙な具合に光って見えたよ。 コリューンは、時々、ふらっとこの町に顔を出してさ。アタシの家にも泊まって行ったよ。 そんなときは、母さん、すごくはしゃいじゃってね。 アタシ達も、うれしかったよ。じいさんはいつも、 面白い話とおいしいお土産をいっぱい持ってきてくれたからね。 じいさんは物静かな人だったけど、エールが入るとすごく陽気になってね。 千鳥足で踊りだしたりしたよ。 その格好が、おかしくて危なっかしくて。いつもヒヤヒヤしながら笑いこけたよ。 いい歳して、胃袋もホビット並でね。驚くほど食べた。 だから、コリューンが来ると、ウチはいつでも一家そろって朝までお祭り騒ぎになったもんさ。 …もっとも、ホビット横丁は年中いつでもお祭りみたいなもんだけどね。 それから、町の広場では、アタシたち子供に、面白い話をして聞かせてくれたもんさ。 どきどきするような冒険の話は、男の子たちには特に大人気でね。 …だけど、それがあのじいさんの…コリューン自身の体験談だって知っていたのは、アタシ一人だった。 じいさんは、自分があの「赤竜殺しのコリューン」だって知られるのを、ひどく嫌がってたからね。 町の大人たちは、じいさんのことを、ただの老いぼれの引退冒険者だって思ってた。 アタシはそれが我慢できなくってね。コリューンのこと、しゃべってやりたくってうずうずしてた。 だけど、話そうとすると、じいさんの哀願するような顔が目の前に浮かんできて …結局、しゃべれなかったよ。 それでも、コリューンに無礼なことを言ったりしたりする奴はほとんどいなかったけどね。 年はとってても強かったし、いつも礼儀正しかったから …それに、リュッタ母さんと親しいってことはみんな知っていたからね。 そんなある日…いつもみたいに、じいさんがうちを訪ねてきたんだ。 その日は、たまたま満月だった。 家中大喜びで、いつもみたいな大宴会が始まったよ。そのときのコリューンは、 いつもとちっとも変わらなかった。 いつもみたいに食べて、飲んで、歌って、踊って…。 だけどね。 夜中過ぎさ、コリューンの話を、みんなで聞いていたとき。 アタシは、眠たくなってテーブルにもたれてうとうとしていた。 そのとき、急にコリューンの様子が変わったのさ。 どう変わったか…といわれても、ハッキリ説明できないんだけど… 急に薄くなったような…光が透けて見えるような…ふうわりした感じになっちゃって。 おでこの白いところが、むやみにまぶしくなった。 アタシがびっくりして目を覚ましたら、コリューンはこんなことを言ってた。 「…だんだん、分かってきてたことを、ようやくはっきりとつかんだよ。 『待つ』ってのはね、つまり、『その時』を呼ぶことだったんだよ。 『その時』を、少しずつ、引き寄せることだったんだ。 …そして…ようやく、『その時』がここまできたんだよ」 それから、すっと立ち上がったコリューンは、妙に軽く頼りなく見えて、 ふわっと浮かんでしまいそうなくらいだったよ。 コリューンは母さんの名を呼んで、抱きしめて…その後、アタシ達の名前も次々に呼んで、 さよならを言ったよ。 そして、ふわりと戸を開けて、そよ風のように出て行ってしまった…。 アタシ達は、しばらくぼうっと見送っていたんだけど…みんないっせいに我に帰ってね。 慌てて、競争で後を追いかけた。 でも、もうどこにもじいさんの姿は見えなかった。 アタシ達は、町じゅう走り回ってコリューンを捜した…だけど、どこにも居なかった。 そしてね、アタシが疲れきって、うちに帰ろうとしていたら、 町の門のところに母さんがじっと立っていた。 アタシが近寄っても、母さん遠くを見つめて振り向きもしないから、何見ているのかと思ったら… 見えたのさ。沈んでいく月の光と、もうすぐあがるお日様の光に照らされて…。 …何を見たのかって? それがね、よくわからないんだ。 薄暗がりの中で、遠かったし、アタシは眠くて朦朧としていた …それでも、ハッキリ見えた、ような気がしたんだ。その時はね。 だけど、あの後、日が経つほど、自信がなくなってきてね…。 母さんは、若がえったコリューンが、真珠色のユニコーンに乗って駆けて行くのを見たと言っている。 でもアタシが見たのは、鮮やかな青いたてがみをしたたくましいユニコーンが、 銀色のたてがみの小さなユニコーンといっしょに走っていくところだったよ。 …そして、コリューンはそれっきり、この町に姿をあらわさなくなったんだ。 なんだかんだ言って、書いちゃいました。コリューンのお話、完結編です。 なぜか一気に書けてしまいました。…ま、ここまでゲームを離れてしまえば、 かなり好き勝手に書けますから…(笑) 題名は、『最後のユニコーン』をもじるつもりだったのですが… 『ホームズ最後の挨拶』の方がぴたりとくるので仕方なく(笑)そちらにしました。 |