赤竜編・目次にもどる


「やったぁ!」
 リュッタが勝ちどきを上げて跳ね上がった。
「終わったね…」
 僕はうなずいて、若木に寄りかかった。

 とたんに、若木が音もなくぼそっと折れた。見ると、抜いたばかりのはずの若木がすっかり葉を落としてひからび、 手の中でぼろぼろと崩れていく。倒れた悪鬼の脇に落ちていたドングリも、すっかり灰色に変色していて、 リュッタが拾い上げると粉々になって風に散った。
 僕らは驚いて顔を見合わせ…それから、慌てて僕の腕を見た。
 しばらく上げたり下げたりしながら見つめたが、腕には何の異常もなく、普通に動く。僕らは今度はほっとして顔を見合わせた。

「さあ、帰ろうか」
「うん! おいら、お腹ペコペコだよ!」
「僕も。…それに、くたくただ」
「コリューン、早く、早く! 村でごちそうしてもらおうよ!」

 村に凱旋した僕らは、大歓迎を受けた。あっちからもこっちからも招待され、うかうかしていれば、 あと一月は招待漬けになりそうな位だった。
 けど僕は、数々の招待を丁重に断って、早々に村を後にした。

 夏至が近づいていたからだ。僕はどうしても、夏至の日までにユニコーンのいた泉に行きたかった。 夏至の夜には、世界中で色々な不思議が起こるという。ならば、きっとユニコーンにも再会出来るにちがいないと思ったのだ。
 リュッタは、最後まで出発に反対した。今回に限って、戦いの疲れがなかなかとれない僕のことを、心配していたらしい。 …招待されたごちそうを断るのが不満だったことも、あるのだろうが…。


 そのリュッタを引きずるように出発して、もう4日になる。なのに、リュッタは、まだあきらめずに、 僕を引き返させようと頑張っていた。

「コリューン、今日も昨日より、辛そうに見えるよ。腕だってあちこち、何だか変な色になってきてるし…。 あわてなくてもさ、ユニコーンに会うのは、また来年の夏至だっていいじゃないか、戻ろうよ」
 だが、リュッタの説得は、僕の決心を固くするだけだった。
「だから、大丈夫だってば!」

 本当だ、ホントに大丈夫。大したことはない。

 …だけど、もしも、万に一つ…大丈夫でなくなってしまったら。このチャンスを逃して…次のチャンスに巡り会うまでに、 僕が動けなくなってしまったら…。

 ユニコーンに再会出来ないまま、僕がどうにかなってしまうかもしれない…そう考えることさえ、僕には耐えられないことだった。

「行こう、リュッタ。まだ休憩には早いよ。…疲れたんなら、おぶってってやろうか?」
「何言ってるんだよ、コリューン! あ、まってよ、コリューンったら!!」


 コリューンとリュッタが、コロナを出てからの後日談です。
 オリジナル要素が強いので、こちらに書き下ろしました。書こうか書くまいか、悩んだんですが…。
 実は、一度、戦闘シーンをじっくり書いてみたかったんです。投稿図書館では、「短く簡潔に」を心がけているつもりですが、 戦闘シーンはどうしても長くなるので書きづらいですから。

 ちなみに、ここに出てくる悪鬼は、北欧のサーガを参考にしました。怪物を倒そうとして返り討ちにあった乱暴者が、 自分も怪物として復活し、サーガの主人公に倒されますが、主人公はその時に呪われて、それ以降悲劇的な生涯を歩むこと になるのです。

 コリューンがどうなるかは、続編で…。


前のページに戻る


赤竜編・目次にもどる
ページトップにもどる