創業20周年記念誌「すまいる」

 

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「あとがき」

本書は、仕事の合間の少ない時間の中で制作し、ことばや文章表現、文章校正、製本に至るまで自主制作で、専門家の手助けは入っていません。


伝えたい事が伝えられないもどかしさは、自身の不勉強から生まれた事なので今更仕方なく、本書を出す事にもかなり抵抗がありましたが、創業二十周年を前に、どうしても書き記したかった事柄でもありました。結局、二十周年には間に合わず、書き出して4年後の満二十二周年の完成配布となる予定です。


多分、読みづらく退屈なものではと想像しますが、私の住まい創りに関る人生の中で、何時も自問自答してきた事柄を、そして、お客様には中々伝える事が出来なかった事柄や、住まい造りの大切なこだわりを精一杯書き記したつもりです。


拙い文章ではありますが、ご一読頂ければ幸いです。また、本箱の目立たない片隅にでも置いて頂ければこの上ない喜びです。


尚、本書作成にあたり、ご協力を賜わりました方々には大変な思いをさせてしまい、深謝申し上げると共に、心より御礼申し上げます。

 

最後になりましたが、ここで、私が数年前に知った衝撃的な話をご紹介したいと思います。

それは、国学院大学人間開発部初等教育学科教授の柴田保之さんの研究とその取り組みです。専門研究は、重度・重複障害児の教育に関する実践研究。自作教材を介して障害の重い子供の自発的な言語の存在に気付かされ、障害児教育の根本的な問い直しを続けておられる方です。
(ご紹介にあたって、柴田先生の書籍、「みんな言葉を持っていた。障害の重い人達の心の世界」より部分抜粋し、ほぼそのまま書き代えさせて頂いています。)


この本は、これまで障害が重い為に、言葉の獲得以前の発達段階にあると考えられたり、簡単な言葉しか発したり理解する事が出来ないと考えられてきた方々が、実際には豊かな言葉の世界を有しているという事実を、広く世の中に訴える為に書いたものです。それは決して例外的な出来事ではありません。私の経験に照らす限り、そうした方々の殆どすべてに当てはまる事実です。彼らに真摯に付き合ってきた人ほど、その事実は受け入れがたい事でしょう。しかし、この真実を無かった事にするわけにはいかないのです。おそらく、私達は、私達の障害に関する常識を、根本から問い直されていると言っても過言ではないでしょう。そして、もし、この事実を広く世の中が受け止めるようになったら、障害児者に対する福祉も教育も、その姿を一変せざるを得ないでしょう。


対象となる人達は、教育の世界では、重度・重複障害と呼ばれ、医療や福祉の世界では重症心身障害と呼ばれます。例えば、未熟児で生まれ、重い脳性麻痺と未熟児網膜症という二つの障害を持ち、視覚障害も重複する等、大変重い障害を抱えて、普通に会話や行動する事などは殆ど出来ない方達です。こうした方達は、日常生活全般にわたって手厚い介助を必要とするだけでなく、殆どの人が通常の状態では、「はい」と「いいえ」というような基本的な意思疎通を図る事にも困難が生じてしまいます。ですから、場合によっては人格の有無を問われる事さえあるのです。

 

第一章では、そうした方々が綴った詩が紹介されています。

第二章では、そのような秘められた言葉の世界がどのようにして現れ、表現されるまでに至ったかが紹介されています。

第三章では、そうした方の言葉の世界の存在に目を開かされていった歩みに関して紹介しています。

第四章では、言葉を引き出す具体的な方法が紹介されています。

 

ここには、当たり前に言葉を理解している事が受け入れられて、初めて人間として認められたと感じたという事が、異口同音に語られます。人間としての尊重が、言葉を越えた世界で成立するというのは大切な考え方ですが、言葉があるのにそれがまるで存在しないかのように扱われてしまう事が、人間の尊厳を著しく傷つける事になるのは当然の事なのでしょう。私自身、長い間その事に気付けなかったのですから、自らの罪深さを痛感せずにはいられません。

  

(虹が出た日)

ぼくはおばさんと車椅子に乗って出かけた

母でない人と出かけたのは初めてだ

ぼくが草や花が好きなことに気付いて声をかける

「君はみどりの好きな子ですか。私も大好き」

おばさんの声は弾んでいた

「いいえ、ぼくは母さんの好きな草や花が好きなんです」

心の中でつぶやいた

おばさんは知らないだろうな

花の中に母が笑い 草の中に母が泣いていることを

ゆっくり頭を上げると 虹が出ていた

 

(無題)

決して諦めないで願いがかなえられることができて

本当によかったです

最高に幸せです

望めば必ず扉は開かれるということが証明されました

失われた過去は、戻って来ませんが、

望みに溢れた未来があることが素晴らしいです

苦難、それは希望への水路です

決して諦めてはいけないということを教えてくれます

手の中に美しい諦念を握りしめて生きていこうと思う

美しい諦念は真実そのものです

苦しみの中で光り輝いています

手の中にある真実は幸いそのものです

望めばいつでも手に入りますが 誰もこのことは知りません

なぜなら人間は常に楽な道の方を好むからです

生きるということは苦難と仲良くしていくことなのです

 

(無題)

気持ちのとてもきれいな人になりたい

私はいつも世の中の本当の夢を追いかけて

緑の願いとかとんでもない夢を追いかけている

それをなかなか言えなくて 未来をやっと見つけたばかり

なぜ理解されないか

それは仕方のないことだ

なぜならぼくはなかなか体が言うことを聞いてくれず 

勝手なことをして

いつも僕とは違う僕を体が演じてしまうから

じっと一人真っ暗闇の中を生きてきた

やっと小さな明かりが見えてきて未来が少し開けてきた

未来はまだまだ遠いけど

僕は小さい明かりを頼りに生きていく

  

柴田先生の執筆書は他にも多くあります。インターネットでも紹介されていますので関心のある方は是非ご覧ください。

名前の検索のみで多くの研究に関する書き込み文が出てきます。

因みに、先生の奥様もそうした研究への手助けをされ、大きな成果を上げられているそうです。

未だお会いしていない先生のお話を一度聴かせていただきたく思っています。

私は、この様な先生の地道な研究への取り組みを尊敬し、心から応援したいと思いました。そして、もっと多くの方に広報したくなりました。

これまで理解の足らなかった自分を恥じると共に、相互に思いやりを持って、バリアのない社会環境づくりを目指したいものです。

 

平成26年6月末日

あすか建築工房  島田 司




参考文献

柴田保之「みんな言葉を持っていた」
伊藤智佳子「障害者自立支援法が障害者の「自立」生活に及ぼす影響」


<2014年4月作成、2014年11月現在確認済>
 
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