創業20周年記念誌「すまいる」


 2.住むを実践する

 
ひとこと

 
見積書の見方、読み取り方
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見積書には3つの分野があります。仮設部、本工事部、仕上げ・後処理部の3分野です。

仮設部では、工事中に使用する電気、水道、便所、工事用車両駐車場の確保が必要か否かの判断をし、必要なものに対する予算を計上します。次に現場での安全管理面で仮囲いや養生の有無、次に現場廃棄物処理方法に対する方針、そして、近隣への対応です。これらの見積化には事前調査と現場経験が重要で、ここで間違えると、例えば、些細な事で予算を狂わす事になったり、途中で工事を止めなければならない重大な結果に繋がります。

本工事においては、各仕事分野に分けます。各職人分野と言ってもよいでしょう。例えば木工事には、材木(構造材・造作材・その他の野材)、住宅建材(天井・壁・床材の下地材や仕上材・ドアや窓枠等)、金物類(構造用金物・造作用金物等)、大工手間等々、全てに対し一つ一つ細かく拾い出します。現場における作業工程を把握し、各職種との連携がスムーズ且つ確実な作業に繋げる為の大切な工事が木工事です。そして、各職人の動き、技量、経験、癖等を見極め必要とされる部材や資材、手間の詳細や単価等を算出し拾い出します。これらは、前段の掌握が出来ていないと、間違いの無い見積りと確実な工事を進める事は出来ません。

仕上げ・後処理部は、お請けした工事を施主様に引き渡す前の最終段階の処置と、各職種の技量や思慮不足までを補う為の処置が含まれています。

 

全てに最高の職人を使い、最高の施工を志しても、最高の仕上げが出来ない事は多々あります。弊社には、自慢できる職人も多くいますが、そうでない並みの技量の職人もいます。

仕事の良し悪しは、現存の職人の技量を最大限引き出すと共に、仕上げ過程を把握し最良のものにする為、職人間の連携を途絶えさせない管理業務にあります。当然ながら、その管理業務を行う者(建築施工管理技士)は、高度な目と経験と確認作業、そして、前段で書きました、人を掌握する術がなければなりません。又、それぞれの仕事を自分でもこなす事が出来る技量も、実施の有無は別として要求されます。

これらの対応が出来ない場合に、見積書でよく見られます「一式」ばかりが並ぶ中身の伴わない適当な数字が書かれます。これは、大変いい加減な積算法で、最終的には信頼性を欠きます。又、予算的にも概算ですから膨らんだ予算となります。そして、仕事に対し責任感の乏しい結果となる可能性があります。又、関連していえる事は、これらのお引き受けする工事の全体像が見積書に確実に反映されているかを診て取る技量も要求されます。例えば、細かに書かれた見積りでも、解体工事の範囲や作業費、処分費が書かれていない場合、その部分をどの様に納めるのか、細かな考えが材料や工程表等に反映されていない見積りは、いくら細かなものでも「一式」計算されたいい加減な見積りと変わらないのです。

 

経験豊富な現場管理者や積算担当者は、こう言った全体像の把握が出来ており、より確実な対応が可能となります。又、工務店は、これだけの細かな詳細確認していても、大きな工事や不安のある建物に対する場合、実際の現場では考えられなかった事柄に突き当たることがあります。その為、施主様には多少の予備費と称して数パーセント上乗せして見積りを出し、予算の確保をお願いします。大抵の場合は予測通りの結果となりますが、必要無ければ最終請求段階で差し引く事により、施主様の当初ご予算を狂わさない事になります。この様に工事過程を把握し、無駄と思われる予備費も了承して頂き、それを含めたご予算の承認は、最終的には施主様の希望を壊さない事に繋がります。

只、小さな工事、各職種では数時間や数日で仕上がる工事の場合は、「一式」工事として表示する場合があります。これは、各職人は、1日しっかり作業して日当を頂戴していますが、1〜2時間や午前中で仕事が終わり、1日仕事を犠牲にしなければならない場合の手当てに対し、1時間だから1000円という訳にはいかず、せめて半日分、昼の1時・2時で終わる仕事には1日分の日当は支払ってあげないといけません。それに加え職人は当日の仕事に必要な道具・工具を車に積み込む事から移動の燃料費や車両代、帰宅して道具の返却や工具・道具の整備までがその仕事に関連してきます。又、弊社における職人の現場への到着時間は8時頃が通常で、段取りに左右されない限り、最大夜7時頃迄を作業時間として考えています。

 

余談ですが、集合住宅では、朝9時に現場駐車場への入庫、夕方5時には(後片づけや館内・現場清掃の後に)出庫と決められている事が多く、実質仕事時間は5〜6時間と、仕事に大きく支障をきたしているのが現状です。これらも見積りに大きく反映されてしまいます。

 

次に、見積りの為、施主様のご自宅に行きますと、工事内容の確認をし、その後施主様より「だいたい如何程で出来ますか」とか、「坪単価どの位で出来ますか」の問いかけをされます。この問いかけは大変困るもので、「他社ではこの程度と言ってましたが」の問いかけもあります。原因がはっきりしている修繕の場合は別にして、込み入った内容であったり、新築工事、大規模増築や経年劣化の進んだ住まいの修繕、改装の場合、即答はできません。又、見積りは、特殊工事や規模が大きくなる程、事前調査や状況確認が必要で、それらを元に積み上げた総額を計算して見積りや坪単価が提示されます。先に単価ありきの見積りは大変危険な事をご理解いただきたいのです。

但し、施主様が予定されているご予算に関しては、しっかり工務店に伝える事が大切です。それは、施主様の思いの実現に、どれだけの事が協力し出来るかを話し合いにより解決する術があるからです。又、最初から無理な要望や予算に対しても、色々なアドバイスが出来ます。

 

<ケース1>

弊社では、不動産業者の方の取引は数年前より一切お断りしています。そんな中で、弊社が取引させていただいていた不動産業者の方の例ですが、業者様所有の敷地にマンションとテナント併用の建築を依頼されました。平面図と配置図・立面図があり、先様より事業予算が提示され、その額以下で出来ないかとの問い合わせでした。後に問題が発覚してから、先の業者から提示された概算の様な事業計画書併用の見積書が提示されました。それは、坪単価幾らで請けますというもので、内容は工事の大半が別途工事として書かれていました。建物に対する最低価格とオプション価格が書面化されたものでした。しかし、建築に係わる法的対応の必要資金の一部は提示されていたものの、大半が未調査の為大きな問題を引き起こしたのす。

弊社では、敷地環境調査から始め、それを元に役所との実質的な打ち合わせを行い、敷地全体の簡易測量を実施し、設計を初め、給排水、ガス、電気に関する事前の打ち合わせと、法的問題点の解明に加え、合理的方法での問題対処法までを検討した上で、事業予算書を提出しました。その結果、先の業者より提示された予算ではとても出来ない事が証明され、相手業者は大変驚かれていました。差額は約800万円以上でした。

結論ですが、先の業者に問い合わせたところ、差額は全て別途工事と言われたそうです。その様な大切な話を聞かず、伝えず、確認もなく事業計画として進め、銀行との融資決済まで取られた事で、実行できなかった事業に、会社の信用に大きく傷をつけるだけでなく、今後の銀行との取引に信頼性を欠く結果となったようです。

弊社へはその後数回の打診がありましたが、信頼関係を築く事が困難と考えお断りしました。

 

<ケース2>

弊社では、複数の建設会社への相見積りを前提にした弊社への見積り依頼は基本的にお断りしています。

相見積りによる利点は施主様にも工務店側にもまったくと言っていい程ありません。

特に「一式」見積りで提示されている会社は、受けたい仕事や仕事先に対しては、同じ一式でも請けやすいように対応し、請けたくない場合はその様な一式見積りを提示します。所詮、一式見積りは手間暇がかからず、経験からだいたいの数字を並べている事が多く、明確な内容のものとはいえません。簡単だから目先の仕事に飛びつき、取れるかどうかわからない中で一つでも多く係わり、如何様にも操作されるのです。又、後で見積る同等の業者は、それより少しでも金額を落としておけば受注出来るとでも思っているのでしょう。施主様は複数の見積りを適当な説明を受けるだけで何だかわからないけど納得し、安い方に発注されます。弊社はこの様な茶番に付き合うこと自体、遠慮させていただいております。

 本来見積りをする事は、大変な手間暇がかかります。弊社では、ある大規模改装工事で見積もるのに1か月以上経過した経験があります。それは、施主様のご予算では、非常に危険な状況にある既存の建物の補強改修と、施主様の希望を叶える為の改修に、予算配分をぎりぎりに見極めなければならず、最良の工事にする為には、協力業者に多くの協力を求め、何度も現地で打ち合わせを行い、最終的な見積を作成しなければなりません。そして、既存図面と仕上げ図面とを分かりやすく提示し、施主様の納得を得る事で初めて受注に繋がります。新築工事においては別段でも説明した通り、もっと手間暇と費用がかかります。しかし、契約に至るまでは見積りにどれだけの費用や手間がかかろうとも、費やした費用を頂戴する事はありません。ですからその様な値段に走るお客様ばかりを相手にしていたのでは、本来弊社を頼りにして下さっているお客様に対し、結果的にご迷惑をおかけする事になります。

以前に、弊社が見積もらせていただいた仕事で、ハウスメーカーが出した見積りに対し、あるご紹介で弊社にも依頼があり見積りを提出しました。その後両社の見積金額の大きな違いに、施主様より提示されたハウスメーカーの見積りを確認したところ、弊社の約2倍のものでした。見積りに間違いがあるのではと、依頼内容のチェックをしましたが、工事内容は同じでした。違いは、多分会社が大きい為に必要となる一般経費や現場経費の合算額が諸経費として計上され、場所を変えて書かれていた事と、部資材の個別単価が殆ど定価ベースで書かれていた事です。

   

大切な事は、見積りは表紙の総額だけで無く、個別の根拠を詳細に示す事で、誰が確認しても間違いのない結果が生まれます。そして、見積りには必ずストーリーがあり、積算担当者や施工管理者、設計者の意図がはっきり示されています。詳細な見積りは、それらが確認でき話し合いの根拠となる事で、施主様や職人達との信頼関係が築けるのです。


<2014年4月作成、2014年11月現在確認済>

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