*訳-辻勝人氏(ECC)*/ページ協力-平田さん
ジョージ・ドナルドの新作は、輪を描くような完成度を見せている。と同時に、 エディンバラ芸術大学の学生時代から始まった40年以上に及ぶ芸術活動に、 また新たな出発点を切り開いた。後に指導員となり、芸術実践の中心として 「人間体験」を据えることとなったドナルドだが、彼の描く人物は、夢を見て、恐怖 におののき、奇想を描き、記憶を呼び起こし、そして情熱をかたむけながらも、 人物自体が冷静沈着とした視点となり、地球上を駆け巡り体験した複雑怪奇で 騒々しいこの現世を視覚的に愉しませてくれる。さまざまなオブジェの並列配置、 マッスの塗り、それに絵の具と他の素材の見事な定着ぶりは、ドナルドの作品に 思わず手を触れたくなるような魅惑的質感を与えており、視る者はつい芸術家の 内に秘められた世界に迷い込んでしまう。時に大きく描かれ、そして小さくまとめ られながら、創造されたイメ−ジの中に緊張、説得力を感じ、そして、溢れん ばかりに喜ぶ。 この魔術が我々の共通体験となった瞬間だ。 指導者として傑出した名声を積み上げたのち最近退職したドナルドは、今や 芸術家としてフルに時間を使い、自分のイメージ伝達を果たしている。 これまで自分の芸術の基本となってきたテーマ、技巧、こだわりを思慮深く、幅広く、 そして時に深淵に見つめ直しているのだ。これは、ヤヌスのような二つの異なった 顔をもつ体験瞬間である。輪を描くように作品の世界に浸り、必要なものを選び 吟味し、じっくり見つめなおす。そして心が躍りだし、この新しい芸術活動の出発点 へ向かうのだ。そこは、世界とアトリエが織りなす新鮮で目もくらむような大発見が 待っている円形劇場のような世界である。
(ジェラルディン プリンス)
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