私の作品のテーマは「時間と記憶」である。時間と記憶は私を取り囲んだ社会や、 自然環境によって形成され, 私の日常生活は私の身近な人々や自然に形作られる。
毎日の人々との生活や出来事の中で生まれる感情、喜び、感動、愛情、競争、怒り や悲しみといった経験を通して記憶はどんどん積み重なってゆく。 それらの経験や時間(過去、現在、未来)への思いが私に残ったもの、自分の「記憶」 を絵として形にしている。
私の記憶を形にする過程において、織るという行為はとても大事な行為である。 なぜ、私が記憶というテーマを、絵に仕上げるだけ、もしくはコンピューターで処理 するわけでもなく、「織る」ことを重点するかといえば、時間のかかる制作過程におい て使用する、様々な種類の素材や色に、織物にしかできない新たな魅力を生み出す ことができるからである。沢山の素材によって、時間と記憶は、目で見えて触感する ことのできるタペストリーへと姿を変える。
いろいろな種類の紙やメタル加工された新しい繊維も私を魅了する。古い素材と 新しい素材が織り重なったとき、その織物から 興味深い光や影が見慣れたはずの ものから生まれてくるのだ。 タペストリーをもっと興味深いものにするために、 私は自分自身の技法も使用するが、主に使用しているのは昔からあるつづれ織り、 ゴブラン織りの技法である。
この歴史の長いシンプルな織り方には本来タペストリーの美しさを表現する力が備わ っており、それはまた、現代のタペストリーの美しさをも表現する力を持っている。 潜在された力が歴史のある技法にはあり、そういった理由で、私は自分の作品作りに この技法を用いるのだ。
20世紀の始めから日本の文化はヨーロッパやアメリカからの文化の輸入に影響され、 昔から受け継がれていた日本の芸術や様々な工芸の技術は一時、究極に色あせてい った。私たちが古くからある日本の芸術の記憶を忘れるということは私たちの文化まで 崩してゆくことになるかもしれない。 子から子へ長く受け継がれた文化を大切にする ことが私たちの文化を残すことになる。それは、変化することを拒むことではなく、この 国際化された時代に、日本と他の文化を調和する道が、かつて私たちの祖先が中国文 化をうまく取り入れながら、それを日本文化に仕上げたように存在するはずなのだ。
私は日本人である私を意識しながら、織り続け、描き続けて「時間と記憶」に触れられる 形を制作している。 |
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