「……ここ…は?」
自分の部屋のベッドではなかった。視界に入るのは見慣れた天井ではなく石で出来たもの。
まだ覚醒しきっていない頭でゆっくりと考える。
そうして思い出す。
意識を失う前の記憶を……。
「っ……そうだ! あの人は!? …………?」
起き上がろうとして両手とも温もりに包まれていることに気付いた。
視線を動かし正体を確認する。右手側には良く知った二人、跡部と千石が一緒に、痛みはないけれ
どしっかりリョーマの手を握ったままベッドにもたれ掛かり眠っている。二人の性格を考えると絶対
に別々の手を取るだろう。手は2つあるのだから。
では、左手は誰の温もりなのだろうか?
彼等ではないと分かっても嫌悪感はない。それどころかとても温かくて安心出来る。そんな感じが
左手から全身に伝わっている。視線を向けると濃紺色の柔らかそうな髪は見えるがその人物の顔を見
ることは出来なかった。手の感触から性別は男だと分かるが、やはり知らない。忍足たちでもない。
誰だろう?と疑問が巡る。じっと見つめるも体勢が変わらないので目に入る情報は相変わらず髪の色
だけだったが、視線に気付いたのか身動ぎした。そして、
「…ん……。眠ってしまったのか……」
繋がっていないもう片方の手で乱れてしまった髪を整えながら視線をベッドの住人に向け、視線が
合うと目を見開いた。
「あ、あの……ここ……うわっ!? 何?」
「どこか痛いところはない?」
「だ、大丈夫っス」
「身体はだるくない?」
「す、少しだけ」
「他には?」
「のど……」
「痛いの!?」
「違う。のど渇いたっス」
「あぁ、そっか。そうだね。三日も眠り続けてたからね。ちょっと待ってね」
目の前の青年は触れそうなほど顔を近付け矢継ぎ早に質問し、体調を確認するとリョーマの要望を
叶えるために枕元に置かれているサイドテーブルの上の水差しからコップに水を注ぐと、再び元の位
置に戻って来る。
「ありがとうございます」
差し出されたコップを受け取り、お礼を言うと、のどを潤すためにゆっくりと飲む。そして十分な
時間、と言ってもものの数分だがを使って飲み終えると視線は青年に注がれる。
「初めまして……かな? 僕は幸村精市。この世界の一応王位継承権第一位の王子。そしてリョーマ、
君の兄だよ」
「あ、アンタが俺の……」
「ずっと会いたかった。出来るなら一緒に暮らしたかった。本音を言えば王位なんてどうでも良かっ
た。大事な人たちと幸せに暮らすただそれだけで良かった。なのにそれすらもままならない。突然兄
だなんて言われても戸惑うだけだと分かっている。けれど、けれど本当に良かった」
ふわりとした笑みが綺麗だなと思っている間にリョーマは幸村に抱き締められていた。無論リョー
マはベッドに横たわったままなので覆い被さるような体勢だった。ギュッと抱き締められているが苦
しさなどない。確かにこの腕に昔抱き締められたことがある。身体が彼の温もりを覚えている。警戒
は必要ない。安心して何もかも預けられる。
リョーマは心地良さにゆっくりと瞳を閉じた。
「セイ…兄……」
「!? ……リョーマ。ゆっくりお休み。今はまだその時ではないから」
無意識の小さな言葉はしっかり幸村に届いていた。
漸く引き離された兄妹が元の場所に戻り巡り会った。
しかし穏やかな時はまだ束の間。
二人を知る者にとっては少しでも長くこの平穏な時間が続けばいいと願う。
狂わされた歯車は正常な回転に戻ることが出来るのだろうか……
◆◆コメント◆◆
漸く再会(再開も/笑)!!
といっても、リョーマにとってはほぼ初対面ですがね。
何せ別れたのは赤ん坊の時……のはず??
(←すいません。もう設定がうろ覚え……)
取り合えず、抱っこされたことくらいはあるだろうと
その辺の記憶を少し……。
しかし、最後の章だというのに跡部とキヨの活躍が
まだないっていうのはどうなんでしょうか?
今回も一応登場してますが、寝てるだけだし(笑)
まぁ、ちゃっかり手は握ってますが♪
それではまた次回!!
2006.11.25 如月 水瀬