Brother 1


  

 2月の後半になると、バレンタインのディスプレイだったものが桃の節句である雛祭りのものに変

わる。コンビニなどではチョコレートがひなあられに変わっていた。

 部活帰りにいつものように桃城の自転車の後ろに乗せてもらい帰宅途中、小腹が空いたということ

で食べ物を調達するためにコンビニに寄ったのだった。

 そして目にしたのがソレだった。





(もうこんな時期なんだ……。今年はどうしよう?)

「何だ越前。お前ひなあられなんか買うのかよ」

 自分の買い物をさっさと済ませた桃城がひなあられを見ながら悩んでいるリョーマにからかい混じ

りで声をかける。

「違うっスよ。これ見て、もう3月なんだなって思っただけです」

「3月に何かあんのか?」

「桃先輩には全く関係ないっス。それより、買い終わったんなら早く出ましょ。俺もう腹ペコです」

「お前の分なんてねーぞ」

「前に英語の宿題代わりにやったの誰でしたっけ?」

「うっ……」

「ごちそうさまっス♪」

「お前少しは遠慮しろよな……」

 そんなこんなでいつものように桃城にたかりながら帰宅した。











「ねぇ、母さん」

「珍しいわねリョーマから声掛けてくるなんて。で、何?」

 滅多にないリョーマからの会話に倫子は嬉しそうに返す。

「今年は一緒に過ごせるのかな?」

「そういえばもうすぐあのコの誕生日ね。でも、あのコも忙しいからどうなるかわからないわね」

「部長なんかやるから……」

 ここにいない相手に頬をプクッと膨らませて文句を溢す息子は思わず抱き締めたくなるほど可愛か

った。

 実際本能のままに行動した南次郎はリョーマに殴られている。

 暫く二人を楽しそうに眺めていた倫子だが、リョーマの気がおさまってきた頃合いを見定めて、先

ほどの会話を続ける。





「でもね」

「?」

 倫子の声に反応して殴る手を止める。手が止まったの見て再び言葉を続けた。

「リョーマがお願いしたら、きっと何を置いても飛んでくると思うわよ。あのコにとって何よりも大

事なものはあなたですもの」

「……そうかな?」

「そうよ」

 リョーマの不安げな問いに倫子は即答する。これが南次郎ならば全く信用出来ないが、何故か倫子

だと信用出来てしまう。やはり普段の行いの違いだろう。

「明日帰りにセイ兄(にい)のトコ行ってきていい?」

「いいけど気を付けて行ってくるのよ。そうねぇ、なんだったら泊まって来なさい! 次の日は金曜

だけど一日くらい休んでも何も変わらないしね。学校には連絡しておいてあげるから、ゆっくりして

きなさい。久し振りに兄弟水入らずで」

「ありがと母さん!」











「アレ? 今日ハンバーガー食いに行かねーのか?」

 一分もかからず着替えを済ますと、すぐさま部室から飛び出そうとしているリョーマに桃城が声を

掛ける。

「ごめん桃先輩! 今日は大事な用が出来たからまた今度よろしくっス!! じゃあ急いでますんで、

お先っス」

 それはもう慌ただしく飛び出していったのだった。

「なんだぁ越前のヤツ?」

「どことなく嬉しそうにだったな」

「気になるにゃ〜」

「後つけてみる?」

「不二! 越前にだってプライバシーはあるんだぞ」

「そんなこと言っても、君だって気にならないはずないでしょ」

「……朝練の前にグランド走りたいか?」

「仕方ない、大人しくしといてあげるよ。今はね」

 もうすぐ暖かな春だというのにテニス部の部室にだけはブリザードが吹き荒れていたという。








      −N E X T−



   ◆◆コメント◆◆       一話で終わらせるはずが、何故か続いてます(-.-;)       たぶん管理人の幸村に対する愛でしょう!!(爆)       詳しいコメントはこの話が終了したときに書かせて頂きますね。       それでは、後編(←ちょっと不安ですが……)でまたお会いいたしましょう♪       2005.3.10 如月 水瀬