Destiny 3



  



「私が教えましょうか?」

「は?」

 理解できていないリョーマの表情は柳生にはとて可愛らしく映った。思わず笑みが零れ

てしまうほど。そして、もう一度同じ言葉を繰り返す。リョーマが理解できるようにゆっ

くりと。

「私がリョーマ君に漢字を教えましょうか? 他にも苦手教科があるのならそれも一緒に。

なので、立海に来ませんか?」

 どう考えても「はい、そうですか」で済むはずがないのに柳生は平然と言ってのける。

開いた口が塞がらないとは正にこのこと。リョーマは驚き過ぎて、柳生の顔をマジマジと

見つめてしまう。

「そんな顔してると、襲われるぜよ」

「襲われる? 何でっスか? 俺男ですけど?」

「仁王君……」

 柳生のメガネのレンズが妖しく煌めく。その瞬間、仁王は背筋に冷たい汗が一滴流れた

という。

「プ、プリッ」

 いつものように平然と流そうとするが、今回は少しやり過ぎたらしく動揺が隠しきれて

いなかった。取りあえず静かになった仁王に柳生は重い溜め息を吐いた。

「ということでリョーマ君。仁王君のことは記憶から抹消して下さって結構ですから、先

程の返事を頂けないでしょうか?」

「……勝手に決められないっスよ」

「そういえばそうですね。私としたことが少し焦っていたようです。すみません。では、

今からご両親に会いに行っても宜しいでしょうか?」

「……会うの?」

「ええ。誠心誠意を込めて交渉させて頂きますよ」

「……こうしょう? 俺まだ何も……」

「勉強終わったらテニスしませんか?」

「……」

「私もレギュラーですから、強いと思いますよ?」

「……」

 リョーマが柳生の誘いに傾いていくのが顕著に分かる。言葉にぴくぴくと反応している

のだから。きっと本人は一生懸命平静を装っているのだろうが……。

 最後の一押しとばかりに柳生はリョーマのテニスバックの側に転がっている空き缶に目

を付けた。

「私に勝ったら一ヶ月間毎日ファンタ1本ではどうですか?」

「……っ」



(あ〜。落ちたのう……。わしが狙っとったのに。まぁ、まだまだチャンスはあるしのう。

今のところ柳生が一歩リードってとこじゃな)

 展開からリョーマが柳生に陥落したことを推測する仁王。しかし、どうやら諦める気持

ちは一切ないようだ。けれどそれも当然かもしれない。リョーマが柳生の提案を受け入れ

るということは、青学ではなく立海に入学するということだ。二人っきりにしてやる親切

心はない。仁王もリョーマの家について行って、邪魔しながら楽しめばいいのだ。柳生は

これからもパートナーに苦労させられるようだ。



「そこまで言うなら仕方ないっスね。母さんたちを説得出来たら、家庭教師の話と立海に

入るって話OKしてあげます♪」

 仕方ないと言いながらも表情は嬉しそうなのは気のせいではないだろう。

「そうですか。ありがとうございます。ではリョーマ君の家に行きましょうか」

 有言実行を地で行く柳生は即座にリョーマの自宅となる場所へ行こうと促す。が、

「あ〜……。スイマセン、今からは無理っス」

「今からはということでしたら、いつならいらっしゃるのでしょう?」

「ん〜、たぶん夕方くらいなら大丈夫じゃないっスか? たぶんですけど」

「夕方ですか……」

 それまでの時間をどう潰そうと考え出した柳生に対して、仁王はこういう時に限って頭

の回転は速い。普段も遅いわけではないのだが、普段の速さに比べると信じられないくら

い速度が上がるのだった。

「じゃあ、立海に来んしゃい♪」

「立海に?」

「そうじゃ。立海に入るんじゃろ? だったらどんな環境なのか見ておくのもいいんじゃ

ないかのう」

「そうですね。仁王君にしてはいい考えです。私もそれがいいと思いますがどうしますか

?」

「う〜ん。興味はあるっス。でも……」

「「でも?」」

「ばあさんの連絡先知らないっス」

「大丈夫です。内のレギュラーの一人に事情を話せば、取り計らってくれますから。それ

以外に何か気になることはありますか?」

「あとは、ないっス」

「では、行くか?」

「行きましょう」

「っス♪」







 こうしてこの後、柳生の巧みな交渉によりリョーマは無事立海に入学することとなった。

一度見学と称して遊びに行っただけで、リョーマは立海レギュラーたちのお気に入りとな

った。しかもそのうえ、テニスの腕もレギュラーに対抗出来るもの。可愛がらない方がど

こか可笑しいだろう。入学を待ちわびるレギュラーたちにこれからリョーマはどう振り回

されるのだろうか? 静かで平穏な中学生活が送れないということは確率的に100パー

セント。それでも楽しいものになることは間違いなしであろう。

















 

   ◆◆コメント◆◆        お付き合いもなにないのに終わってしまった(・_・;)        いいのだろうか??        今後、柳生は裏でイロイロ手を回して、        他のレギュラーたちとで醜い争いを繰り広げる予定です。        とりあえず、餌付けはしたので、今のところ柳生さんに一番懐いています。        これからも餌付けはされます。それはもうほぼ全員から(笑)        あと、恐らく他校からもvv                 2005.12.03 如月水瀬