すっかり辺りを夕闇が覆ってしまった頃、ナルトとサスケが眠るイルカの家に、もし子供たちが起きた
時の伝言用の忍犬を残して、二人は慰霊碑からさほど遠くないところにある共同墓地へやって来た。 「慰霊碑へはお参りに行かなくて良いんですか?」 「今日は多分あちらは賑やかでしょう?」 墓地からでも、慰霊碑に捧げられた灯火がたくさん光っているのが見える。おそらく、いつもは来ない 人ですら今日はお参りに来ているのだろう。そもそも慰霊碑には殉職した忍びの名前のみが刻まれている だけだ。 イルカは花束を彼の両親が眠っているという墓の前に供えた。しばらくの間二人は無言で黙祷する。 黙祷を終えた後、イルカは静かに言葉を紡ぐ。 「今日は付き合ってくださってありがとうございました。」 「言ったデショ。オレはイルカ先生と一緒ならどこでも行きますってね。」 カカシの飄々とした態度と冗談めかした言葉に、相変わらずだなあと苦笑する。この人柄に随分と救われ ていることもわかっている。イルカは墓前にしゃがんだまま、同じく隣にしゃがんでいるカカシの肩に頭 を預けた。 「今日、サクラを送っていく時に尋ねたんです。」 『サクラ、今日俺のところに遊びに来て大丈夫だったのか?ご家族で積もる話もあったんじゃないのか?』 『それは今日が十二年前の、里を九尾が襲った災いの日にあたるからよね、先生?』 無言で肯定すると、サクラはやっぱり、と小さく呟いた。 『確かにこれだけ大きく語り継がれてる訳だから、今日皆が一日悲劇について思い出すのはわかるわ。だけどね。 私たちはまだ生まれてなかったり、小さすぎて覚えてなかったりするじゃない。だから大人の人みたいに悲しみ も憎しみも、そんなに感じられるわけじゃないのよ。』 『…そうか。』 もしかして先生怒った?心配そうに尋ねてくるサクラに首を振って否定する。 『私にとって、両親のいないナルトの誕生日を祝ってあげるほうが大事なことなの!』 拗ねたような、照れたような口調はきっとこの年齢の女子独特のものだろう。イルカはサクラの髪をさらさらと 撫でた。もちろん女の子に対してはナルトにする時のそれとは異なり、髪型が崩れないようにやさしく。 サクラにありがとう、と呟くと、彼女はなんで先生がお礼を言うの、と笑った。 「サクラもサスケも、ナルトが九尾の器であることも、俺があの日両親を喪ったことも知りません。だから俺も 救われる。だけど……」 だからこそ気づいてしまった。言いかけた言葉をカカシが継ぐ。 「結局オレたちは、あの惨事を忘れたくないだけなんデショ?」 流す涙は大切な人を喪った自分への憐れみ、愛しい人の顔や声を忘れていくことへの恐怖からだった。 思考に沈み、どこか危うげなイルカにカカシは眉を顰め、しっかりと抱きしめる。 「だけどね、イルカ先生。それでいいんですよ。誰に対してのナミダでも、何かの糧になるならそれだけで何かが 変わるから。だから思い出すのは時々でもいいと思いませんか?」 そして頬に唇を寄せる。それは何かの儀式のようで。 「オレの今も未来もこの腕の中にあるんで。」 オレ自身もたくさん失ってきたし、あいつらほどには長さも柔軟さも無い未来だけど、これだけは手放す気はさらさら 無い。 「だから過去の思い出にばっかり浸ってるのは許しません。アンタはオレを見てればいい。」 オレと共にある未来を、どうか描いていて? いたずらっぽく微笑むカカシにイルカは、馬鹿、と小さく呟いて、カカシに口付けた。本当は嬉しさと気恥ずかしさで 泣きそうだったのだけれど、精一杯の微笑みで。 今更、何言ってるんですか。アナタ以外との未来なんて考えたこともありませんでしたよ。 |