1 あの男が嫌いだ。上忍の待機所で何とはなしにアスマにそう告げると、奴は驚く顔をした。特に任務が入っている訳でもない カカシとアスマは、珍しくもゆったりと時間を過ごしていた。 「そうかぁ?オレは結構いい奴だと思うんだが。大概の奴からは人気があるし、火影様の信頼は厚いしな。」 アスマは咥え煙草にしたり顔でそう言うと、途端に面白そうな口調でカカシに尋ねる。 「イルカの何が気に入らないんだか。お前の部下の元先生。ただそれだけの接点だろうが。」 「うーん。なんでだろうねえ。ただ、受付のあの笑顔とか見てるとなんだかムカツク。」 カカシはアスマの吐いた煙を嫌そうに手で払った。 「おいおい…そりゃ随分と勝手な理由だなあ。受付でいつも笑顔で対応してくれるイルカは周囲からの人気も高い。 表面的な態度の人間が好かれる訳無いだろうが。」 アスマのあきれた呟きを無視して、カカシはコーヒーをすすった。まさか昼間から酒を飲む訳にもいかない。口内に 苦みばしった香りが広がり、反射的に顔をしかめる。 何故自分が至ってどこの里にもいそうな平凡な中忍、しかもナルトの恩師ということで会えば挨拶を 交わす程度の間柄である、うみのイルカを気に入らないのかよく分からない。 確かに受付での、のほほんとした笑顔は嫌いだがそれ以外に理由がある訳でもなかった。 難しく考え込んでいるカカシを、アスマは困ったように一瞥した。 「ま、そんなふうにちゃんとした理由も無いのに嫌いだと決めつけんのはやめとけ。もし任務で組むときどうすんだ。」 僅かに意味ありげにそう言うと、アスマはカカシの肩をポンとたたいて、じゃあなと声を掛けると待機所を出て行った。 残されたカカシは冷めてしまったコーヒーを飲み干した。自分は上忍で、彼は中忍。しかも 自分は今下忍達を担当しているし、イルカに至ってはアカデミーの教師である。 同じ任務に就くなど、余程のことが無い限りありえない。 そしてそれきり今日の会話は忘れることにした。 下忍の指導に当たっているはずの自分に任務が入ったのは、それから一週間後のことだった。 |