――確かにあの人に届くと思ったのに、今度こそ伝えられると思ったのに、 伸ばした腕は虚空を掴み、辺りは闇に包まれた。 「カカシさん…?」 自分の声でイルカは目が覚めた。呼吸を整えて、手元にある時計を引き寄せる。時計の針は夜明けにはやや時間が ある時刻を指していた。うっすらとかいた汗が気持ち悪くて二度寝する気にもなれず、イルカはもぞもぞと布団から 這い出した。 とりあえず顔を洗おうと、イルカは洗面所に直行する。鏡を覗き込むと、朝っぱらから疲れを引きずった自分の表情が 映っていた。 「…また、あの夢か。」 自分がある人物に追いすがる夢だ。やっと追いついたと手を伸ばすと、自分は虚空を掴み、一人取り残される。そして イルカは飛び起きる。それがここ数日続き、イルカはちょっとした睡眠不足に陥っていた。 「…俺は馬鹿だな」 独り言と共に自嘲的な言葉を吐き出す。――わかっているのだ。自分が誰に追いすがろうとしたのかを。 それでも、認めたくなかった。 今日は、アカデミーは休みだ。その代わりにイルカは受付所の仕事の方を手伝うように頼まれていた。どうやら今日は そんなに忙しい日ではないらしく、受付へ任務を受け取りに来る見知った忍びはあまりいなかった。 もう今日の業務も終わろうかという頃、同僚の中忍がイルカに話しかけてきた。 「お前、大丈夫か?最近疲れた顔しか見ていないぞ。」 気の置けない友人の一人でもある彼は、イルカの様子を心配しているようだった。 「ちょっと寝不足なだけだよ、大丈夫だって。」 「旅に出た教え子のことが今更心配になったってか?」 苦笑した様子のイルカを見て、同僚は納得したのかしていないのか、何も言わずに少しからかうように話題をそらして くれた。 「そういや、泉の城、まだ陥落してないらしいぜ。案外手こずってるって話だ。」 彼は、わずかに顔を曇らせたイルカを気遣うように、声を潜めた。 「…ほらお前は、はたけ上忍や猿飛上忍と仲良かっただろう?」 「カカシさんもアスマ先生も里が誇る強い忍びだ。大丈夫に決まってる。」 イルカの声がやや低くなったことに、彼は気づいただろうか。 |