「…おい、もうすぐ『黒い夜』だな。」 「ああ。やっぱりお前も行くのか?」 「当然だろ?このために今月の任務必死に頑張って稼いできたんだ。」 「そうだよな、これは里外の戦忍には味わえないからな〜」 木ノ葉の里で、そんな会話の交わされる夜が近づいていた。 1 「イルカ、すまんが黒夜へ行ってくれんか。」 「…俺がですか?」 「お主なら監視役にぴったりじゃろう。監視とはいえ適度に羽目を外してもよいぞ。」 「はぁ。…俺、あそこで派手に負けてからは行ってないんですよね。」 気の乗らない返事を返したイルカに苦笑して、火影は煙管から煙を深く吸い込んだ。 そして書類片手に執務室を出て行く後姿に、念を押すように呼びかける。 「まぁ、とにかく頼んだぞ。」 「御意。」 イルカは律儀に振り向き、火影に一礼して姿を消した。 黒夜とは、木ノ葉の里の内勤の忍で、ある程度名が知られている中忍以上の階級の者が出入りを許される一夜限りのカジノだ。 不定期に開催され、一回ごとに場所を変えて行われる黒夜は、明らかではないが里管轄のとある部署が主催しているという。 「黒夜の監視役ぅ?」 「うっさい!火影様のご命令だ、文句あっか!」 黒夜は里内の忍びのみが参加できる仕組みとなっているが、行われるのは所詮賭け事。イカサマや金銭トラブルなどはざらにある。 そんなトラブルに対処するのが監視役というわけだ。 「それにしてもまだやってたのか…」 「ああ。俺たちが中忍になった時からあるからな。もっと昔からあるって話だし。」 三代目の愛弟子が里で勇名を轟かせていた頃は、ナゼか黒夜を自粛しようという意見があったようなのだが、真相は闇の中だ。 縁側でイルカの向かいに座って酒を酌み交わしていた周防は、口に運びかけた杯を止めて思い出したように笑った。 「そういえば、初めて黒夜に行った時、イルカは派手に負けたんだったな。」 途端にイルカの顔がむぅ、と顰められた。 「思い出させないでくれ…」 中忍になりたての頃、スリーマンセルの悪友共々黒夜に乗り込んだのだ。最初はツキが回り(いわゆるビギナーズラックだ)、カードでかなりの大金を稼いだのだが、 その後あれよあれよという間に負けを喫し、火影に借金する羽目になった。その借金を返すために、後日イビキのところで新薬実験に協力することになった というおまけつきである。 それ以来イルカは黒夜には出向いていない。 「まぁ、あれから火影様の外遊の際にはお供で賭場に行って、それなりに鍛えはしたから大丈夫だろ。別に運は悪いほうじゃないし。」 「ふーん、運ねえ。じゃ、監視ついでに遊んでこいよ。…これで景気づけといきますか。」 周防はいそいそと新しい酒瓶の封を開ける。芳醇な酒の香りが辺りに漂った。イルカは杯を受けながら、感嘆の声を上げた。 「これ、滅多に手に入らない高級酒じゃないか。どうしたんだ。」 「…仕事がらみでな。」 「ふうん?」 イルカは知らなかった。この高級酒は、周防がカカシをイビキに売り飛ばして得た酒であることを。 |