5 「何だ、あの武器は。」 低い位置で一つにくくられた黒髪に僅かな既視感を感じるものの、その疑問は男が持つ武器で霧散する。 カカシが驚くのももっともな話で、男が持つ武器は変わった形をしていた。直径数十センチメートルの 円形をした薄めの金属の土台に、斧の刃の部分のような形の切っ先が土台半分程度にわたって埋め込まれている。 「ああ、ありゃ乾坤圏だな。忍びには向かねえ武器だが、持って振り回したり、投擲武器として使える。ただ欠点はリーチが 短いことだな。」 カカシの隣で武器の解説をするアスマの表情は不安そうだった。彼は男の正体に気づいたのだ。 たとえチャクラの質を変えていても、こんな武器を使いこなすのはイルカしかいない。 「どうせなら衣装だけじゃなく武器も無難なものにすればいいのに、悪目立ちしやがって。さすが、最凶武器三人衆だっただけあるぜ。」 せめて苦界浄土でも周防に借りてくればいいものを。 「あ〜それじゃかえって目立つよな…」 「何ぶつくさ言ってんの、アスマ?」 「いや、何でもねえよ。…ほらあの男、挑戦状叩きつけられてるぜ。」 「あの挑戦者、暗部で見たことがあるな。」 たしか若手暗部の中で有望株と言われていた。男と同じく暗部服に身を包んでいるが、暗部面から覗く髪は赤みの強い茶色だ。 同じ舞台に立つ二人の忍びの闘いは、審判役の忍びの合図で始まった。 挑戦者の忍刀を男が乾坤圏で受け止めるたび、金属音が鳴り、火花が落ちる。 「…強いね。」 力で押す挑戦者の太刀を軽く受け流す動きには全く隙がない。 挑戦者に焦りが見え始めた頃、男が行動を起こした。片方の乾坤圏を投げつけたのだ。孤を描いて飛んだそれを挑戦者が避ける。 反撃として突き出した忍刀を軽くかわして、男は挑戦者との距離を一気に縮めた。挑戦者が身をひねる前に、残った乾坤圏で 心臓を覆う陶器の胸当てを破壊する。 最初に投げつけた乾坤圏がカーブして戻ってくるのをキャッチし、男が地面へ降り立つと、成り行きを見守っていた外野から歓声が上がった。 「里にこんな実力者がいるなんてね。」 興奮気味のカカシに対して、アスマの心は複雑だ。 (男の正体をこいつが知ったら…やっぱりマズイよな…) だが、しばらくして、カカシが重大なことに気づく。 「このままいけば、あの男と紅、決勝であたっちゃうんじゃないの?」 「……」 ――アスマは、胃が急激に痛みを持ち始めたのを感じた。 |