心筋梗塞
Myocardial infarction



<所見ポイント>
a)壁運動異常の程度と範囲
 壁運動の異常の程度は大きく次の3段階で表現される
hypokinesis:収縮期に内方運動は認めるが健常部の壁運動に比し低下している部位
akinesis  :収縮期壁厚増加がなく内方運動も認めない部位(図1)(周囲の壁運動に引っ張られあたかも内方運動しているかの如くに観察される場合もあるので注意を要する)


dyskinesis :収縮期壁厚増加がなく外方運動を認める部位
 超音波法では冠動脈閉塞、あるいは狭窄部位を直接描出する事は困難である(特に成人)が、冠動脈が各枝ごとに栄養支配する領域はほぼ決まっているため、逆に壁運動異常範囲を把握することにより病変冠動脈を推定することが可能である(図2)。

b)心室瘤の有無
 心室瘤が存在すると心ポンプ機能を阻害するとともに血栓を生じやすく、また不整脈も発生しやすくなるため心室瘤切除術の適応となる(図3,4)。


c)心腔内血栓の有無
 梗塞による心内膜の器質的変化及び壁運動の低下にともなう血液の欝滞により心腔内血栓を生じやすくなる。この血栓は当然末梢血管や脳血管への塞栓源となり得る(図5)。

ただし探触子に近い心尖部では血栓様アーチファクトを生じやすいので多断面での確認が必要である(図6)。

d)乳頭筋機能不全の有無
 乳頭筋付着部を含む梗塞では乳頭筋機能不全を呈し僧帽弁閉鎖不全を伴うことがある。
e)僧帽弁閉鎖不全の有無
 乳頭筋機能不全や左室腔の拡大により僧帽弁接合面が狭くなり閉鎖不全を呈することがある(図7)。

f)僧帽弁Mモード上のb-b'ステップの有無
 左室の拡張障害がにより左室拡張末期圧が高くなってくると出現してくる(図8)。

g)左室流入血流によるA/R比の評価
 f)同様に拡張障害が強くなるに従いA/R比も高くなる(図9)。

ただしA/R比は加齢によっても高くなる傾向にあるためA/R比の評価には年齢の要素も考慮する必要がある(図10)。ただし高度の拡張障害ではA/R比の正常化現象を来すことがあるので注意する必要がある。
h)胆石、大動脈解離の有無
 虚血性心疾患が疑われて検査にくる患者の中には、胆石や大動脈の解離からの痛みで虚血性心疾患が疑われ検査にくる場合もあるので、虚血を疑わす所見が得られない場合などでは胆石や大動脈解離の有無にも注意する必要がある(図11)。

 

<補足説明5>