ロミオとジュリエット



     

ロミオとジュリエット』(Romeo and Juliet )は、ギリシア神話の『ピュラモスとティスベ』を下地にした戯曲で、初演は概ね1595年前後である。台詞には過剰なまでの冗談や乱暴な語句が使われ、猥雑な遣り取りが繰り返されている。言葉遊びの要素が多く、悲劇ではなく卑俗的笑劇としての要素が強い。

ロミオとジュリエットの物語は、14世紀のイタリアの都市ヴェローナで、教皇派と皇帝派に分かれて熾烈な争いを繰り広げるキャピュレット家とモンタギュー家にあって、キャピュレット家の一人娘ジュリエット、モンタギュー家の一人息子ロミオが、対立する二家の間で、運命に翻弄され、自らと周囲を悲劇的結末へと導いていく、時代や文化背景を越えた現在にも通じる普遍性が存在する。

 

あらすじ

ロザラインへの片想いに苦しんでいるロミオは、気晴らしにと、友人達とキャピュレット家の仮面舞踏会に忍び込む。ジュリエットを一目見たロミオは激しい恋に落ちるが、互いが敵同士の境遇であることを知る。立ち去りがたいロミオは、夜会の後、キャピュレット家の果樹園に忍び込み、偶然ジュリエットの部屋のバルコニー下で、聞かれているとは知らずにひとり語る彼女の愛の告白を耳にする。運命のいたずらを嘆くジュリエットに、たまらずロミオは彼女の前に姿を現し、思いの丈を打ち明け、結婚の約束まで交わして、翌日の手はずをきめて分かれる。
翌朝ロミオは、庭で薬草採集している修道僧ロレンスを訪ねる。結婚させてくれるように頼むロミオに、ロレンスは二人の結婚が、両家の争いに終止符を打つきっかけになればと考えて、密かに式を行うことにする。

ジュリエットの乳母の手引きで結婚式を済ませたロミオは、その帰り道、キャピュレット家のティボルトと出くわす。ロミオは、たった今血縁関係になったばかりのティボルトとのいさかいを避けようとするが、マーキューシオーは、ロミオの煮え切らない態度に苛立ち、代わりにティボルトの相手となり剣を抜き、止めに入ったロミオの腕の下から刺され、両家の不和を呪いながら、死んで行く。 親友を失ったロミオは、逆上し、ティボルトを刺し殺してしまう。真昼の街中で起きた惨劇は、瞬く間に人々に知れ渡り、ヴェローナの大公エスカラスは、ロミオに市街追放を命じる。

結婚式を終え有頂天になっているジュリエットのもとに、事件の知らせが届く。実はロミオは残忍な男だったのだ、という乳母の言葉に同調していたジュリエットであるが、慕っていた従兄弟のティボルトが死に、敵であるロミオが生き延びたことを喜ぶ。だが、ヴェローナからの追放は、彼らにとって永遠の別れを意味していた。

ロレンス修道士のもとで、ヴェローナからの追放を死よりも辛いと嘆いていたロミオは、彼に諭され死刑を逃れた自らの幸運に気付く。そして、何とかして彼らを再会させるという修道士の言葉を信じ、その夜をジュリエットと過ごし、明朝マンチュアへ発つことを決意する。

悲しむジュリエットを見て、両親はそれが従兄の死のせいと思い、大公の親戚のパリス伯との結婚を三日後に決める。ジュリエットがロレンスに助けを求めにいくと、彼は四十二時間仮死状態になる薬を使った計略を授ける。それはパリス伯との婚礼の前夜に薬を飲み、死者としてキャピュレット家の地下墓地に葬られた後、ロミオを呼び寄せ、二人をマンチュリアに脱出させる。というものだった。

ジュリエットは手はず通り薬を飲み墓地に運ばれる。ところがロミオは彼女が本当に死んだと思いこみ、墓地で服毒自殺を遂げる。ロレンスが墓地にきてみると、ジュリエットは仮死から目覚め、ロミオの死体を見て絶望し、ロミオの短剣で後を追う。ロレンスから一部始終を聞いた両家は、心から悔やみ和解する。

 

 

ここから詳細に内容を吟味してゆこう。

 

モンタギューの甥にしてロミオの友ベンボーリオーがロザラインへの片想いに苦しんでいるロミオを慰めている場面から始める。(第一幕第二場)

 

ベンボーリオー 馬鹿な!そこがそれ、火は火で抑えられ、苦は苦で減ぜられる例しぢゃ。逆に回ると目が眩うたのが治り、死ぬる程の哀しみも別の哀しみがあると忘れらるる。新しい毒を目に染みこませて旧い毒を抜くがよい。

ロミオ それには車前草が最も好かろう。(Your plantain-leaf is excellent for that. )

ベンボーリオー それとは?

ロミオ お前の脛の傷には。

 

せっかくのベンボーリオーの慰めの言葉に、ロミオはなげやりな返答だ。ロミオとジュリエットに登場するPlantain-leaf はヨウシュオオバコ( Plantago major ) である。ジェラードは汁を目に垂らすと熱を取り、炎症を抑えると記している。事実オオバコには外傷、ヘビの咬傷、肌荒れ防止効果があるアラントイン、肝毒性を抑止するアウクビンを含有している。1573年刊行のFIUE HUNDRED  POINTES  OF  GOOD HUSBANDRIE.ではオオバコの葉の形が犬の足の形に似ているところから狂犬病に効果があると記載されている。

              

日本では春になるとぽかぽかと日の当たる斜面に、へばりつくようにヨモギ Artemisia indica var. maximowiczii が若葉を出す。特有の香りがあり、つんだ新芽を茹でて汁物の具、草餅、天ぷらにして食べる。春の訪れを口でも味わうことができる。葉を乾燥させてもぐさ()に、生葉を傷口に擦り込んで止血にも使ってきた。

若い芽や株は、干して煎じて飲むと、健胃、腹痛、下痢、貧血、冷え性などに効果がある。風呂に入れると腰痛を始め、痔に良い。日本では万能薬草として扱われてきた。

意外な使われ方にヨモギの根が作る硝石が挙げられる。ヨモギを何度も醗酵させると純度の高い硝酸カリウムを作り出すことができる。これを使って織田信長は黒色火薬を作った。又硝酸カリウムには歯の象牙細管の封鎖、神経繊維の興奮抑制作用があり歯の知覚過敏症にも効果がある。

 

イギリスでもヨモギ( mugwort )に対する扱いは古く、10世紀のラクヌンガ( Lacnunga; 治療法 )の写本(MS.Harley 585.)の中で九つの薬草の一つとして登場する。Mugwortはヨモギ属全体を示し、主なものにA.vulgaris ( common mugwort ), A. tridentata ( big sagebrush ), A. annua ( sagewort ), A. absinthium ( wormwood ), A. dracunculus ( tarragon ), and A. abrotanum (southernwood) がある。

1930年に編纂された料理書、フォルム・オブ・クーリィの中でハーボレイト( Erbolat Herbolade, 卵のカスタードの中にハーブを入れて焼いたお菓子。)の構成員として登場する。ヨーロッパ中で一番のハーバリストと言われるほどに凝ったレシピである。

 

パセリ、ミント、セイボリー、セージ、タンジイ、馬鞭草( Verbena officinalisヴェルヴェーヌ )、サルヴィア、ヘンルーダ、ハナハッカ、フェンネル、ニガヨモギをミンスして小さく挽き、卵と混ぜる。パンの中にバターを入れ、その中に押し出して焼く。

 

鮮やかな緑色をした料理で、春の訪れが口の中一杯に溢れるに違いないが、美味しいかどうかは保証の限りではない。

 

ロミオとジュリエットに登場するヨモギは、日本のヨモギとは少し様子が異なる。名前もニガヨモギA. absinthium ( wormwood )と少し硬派で苦みがきつい。その苦みをを生かした?使い方を次のシーンで見ることができる。仮面舞踏会が始まる少し前のカピューレットの一室である。(第一幕第三場)。カピューレット夫人とジュリエットの乳母の会話から;

 

 

カピ妻 用とはこうぢゃ。乳母や、ちっとの間退席してたも、内緒の話ぢゃによって。……いやいや、乳母、戻りゃ、一通り聴いておいて貰うた方がよかった。知っての通り、娘の歳

もなう、もうおひ/\年頃ぢゃ。

乳母  はい/\、存じてをりますとも、嬢さまのお歳なら、何時間と言うことまで。

カピ妻 まだ本当の十四にはなりませぬ。

乳母  ならっしゃりませぬとも、この歯を十四本賭けますがな……と言うても、其の十四本が、ほんに/\、もうたった四本しかござりませぬわい。……初穂節(八朔、Lammas-tideまではもう幾日でござりますえ?

カピ妻 二週間とはしたが幾らか。

乳母  はしたがどうあろうと、一年三百六十日の中で、初穂節の夜になれば、丁度お十四にならっしゃります。スーザンと嬢とは……南無あみだぶ……同い齡でござりました。スーザンは神樣のお傍に居りまする、私には過ぎた奴でござりましたが。……それはさうと、只今申しました通り、初穗節の夜になると、恰どお十四にならっしゃります、大丈夫でござります、はい、善う憶えて居りまする。地震があってから恰ど最早十一年目……忘れもしませぬ……一年三百六十日の中で、はい、其日に乳離れをなされました。妾が乳首へ苦艾(wormwoodを塗って鳩小舍の壁際で日向ぼっこりをして……殿樣と貴下はマンチュアにござらしゃりました……いや、まだ/\耄きゃしませぬ。それはさうと、只今も申しました通り、妾の乳の尖所の苦艾(wormwoodを嘗めさっしゃると、苦いので、阿呆どのがむづかって、乳をなァ憎がって! すると鳩小舍が、がた/\/\。わしに出て行けといふにゃ及ばんと思うてゐたのに。

 

Lammas-tide初穂節)は8/1の小麦の収穫祭に当たる。

 

ニガヨモギ(Artemisia abrotanum、菊科、ヨモギ属。別名southernwoon, lad’s love, maid’s ruin, southern wormwood; ワーム( worm ) とは蛇のことで、楽園から追放された蛇が這った跡からこの植物が生えたという伝説に由来する) には防腐効果があり、腸内寄生虫を駆除するといわれていた。1メートルほどの高さになり、全体が細かな白毛で覆われ、葉は羽状複葉で互生する。切れ込みが深く表面は緑白色、裏面は銀緑色。夏に多数の黄色い小さな花を円錐状につける。ローマでは性的能力を高め性欲を掻き立てるためニガヨモギをベッドの下に入れ、女性を誘惑する際には花束の中にその花を散らしたと言われている。白ワインの中にニガヨモギなどのハーブを浸けたチンザノ、ベルモット( G. wermut: ニガヨモギの意 )の他、薬草系リキュールのアプサンがある。一度にたくさん摂取するとアルファ・ツヨシにより嘔吐、神経麻痺が起こり、習慣性が強い。

                   

 


図はジェラードから取った。左はBroad leafed Wormwood, 右はPonticke Wordwood。胃弱、暴飲暴食、ワインと混ぜるとトガリネズミの唾液毒、タツノオトシゴの背鰭の棘の毒、ドクニンジン、ヤドリギの果実の毒(viscotoxin)に効果がある。喉、目、耳の炎症には硝石、蜂蜜と混ぜて使う。性質は熱の2度、乾の3度である、と述べている。

 

乳母が乳首に塗ったのは苦さで勝るPontttticke。飲用に使うのもこの種である。

 

あの奇才、ケネルン・ディグビィ(Kenelm digby1603/7/11—1665/6/11;イギリスの廷臣、外交官、自然哲学者。父、Sir Everardは火薬陰謀事件(1605/11/5)に関与したかどで1606年にセントポール教会の西端で処刑された。)が書き残した料理書、The Closet of Sir Kenelm Digby Knight Opened 1669には、非常にきついと彼自身が指摘したメセグリン(蜂蜜種)の作り方がある。料理書を出版したのは1669年、彼のそばに仕えていた執事であり、彼の死後4年が経っていた。出版費用を捻出するのに時間がかかったようだ。料理書はミード酒のレシピが大部分を占めており、ミード酒に賭ける異常なほどの情熱がうかがえる。その内容は;

 

水を10ガロン、蜂蜜を4ガロン、海岸に生えるニガヨモギSea wormwoodArtemisia maritima )、セージ、ローズマリーを樽の中に入れて3日間冷所で保管する。イーストを入れずに栓をしておく。34ヶ月後に瓶詰めする。

 

Sea wormwoodArtemisia maritima )はwormwoodの一種であり別名old woman。名前通り海岸沿いに自生している。強精、強壮作用があった。

この例でもわかるようにハーブは、気候、緯度、地域に適応すべく自らの体を変えたものが数多く見られる。

 

ニガヨモギのレシピは古く、古代ローマに遡る。口当たりの良いワインの中に潰したニガヨモギ、マスティックガム、ナード、コストメアリィ、ナード、サフランを入れたローマンヴェルモットがある。                   ( Apicius 45世紀)

第一幕第四場より、廻国巡礼に仮装したロミオと先頭に、マーキューシオー、ベンボーリオー、各々思いの仮装、他に五六人、いづれも道化たる仮面を携え、たいまつ持ち、太鼓係等、大勢引き連れて出る。夜会に向かう道中の取るに足らない男の下ネタ会話。が続く。

ロミオ 昨夜予は夢を見た。

マーキュ 俺も見た。

ロミオ そして君の夢は?

マーキュ 空想家は囈言や空言を言ふのが癖ぢゃといふことを。

ロミオ 囈言や空言の中にも動かぬ眞理が籠ってゐる。

マーキュ おゝ、それならば、あの、君は昨夜はマブ媛(夢魔、Queen Mabとお臥やった

な! 彼奴は妄想を産まする産婆ぢゃ、町年寄の指輪に光る瑪瑙玉よりも小さい姿で、芥子粒

の一群に車を牽せて、眠っている人間の鼻柱を横切りをる。(中略)

美人の唇を走れば忽ち接吻の夢となる。・・・・・・その唇を、時とすると、マブめ、腹を立って水

腫に爛れさせおる、息が香菓子で臭いからじゃ。

夢魔(むま)は、キリスト教が生み出した悪魔の一つで、サッカバス ( succubus、女性型 ) は、睡眠中の男性を襲い、誘惑して精を奪い、インキュバス( incubus、男性型 ) は睡眠中の女性を襲い精液を注ぎ込み悪魔の子を妊娠させるとされた。それぞれラテン語の( incubo、上に乗る)、( succubo、下に寝る )に由来する。

  どちらも、襲われる人の理想の姿をした異性像で、服を着けず下半身は裸で夢の中に現れるため、誘惑を拒否することは困難だったと言われている。赤い瞳で肌は褐色をしており、標的となった人間の寝室に蝙蝠になって侵入するとされた。ルネッサンス時代には「インキュバスは実際に女性を妊娠させるのか?」という議論が真面目に行われた。

  

                                 

                      Henry Fuseli ( German: Johann Heinrich Füssli , 1741/2/7-1825/4/17 )

ロバート・メイの料理書にはやたらと精力増強を目的とした食材が多いことに気づく。それは、この時代が生活環境の変化で人々が性に奔放になり、男女双方に性に対する執着が募ったからである。特に都市の若い女性が父親不明の私生児を抱える例が多く、女性が望まぬ子供を孕んだ時の言い訳としてインキュバスが使われた。

 

香菓子は当時ウミヒイラギ( , Sea Hollly,  Eryngium maritimum )を芯にして作るのが流行った。

ウミヒイラギはサムファイアーと同じく海岸に生息するセリ科の植物でありニンジン、パースニップ、ラヴェジ、フェンネルと同じ科に属する。ボイル、ローストすると栗又はパースニップの味がする。呼気を甘くするお菓子として使われ、それ故これをキッシング コンフィット(kissing-comfits、キスのときに食べる糖菓の意)と呼び、アンゼリカと同じように砂糖煮にした。 

 

The Accomlplisht Cookよりウミヒイラギを使ったパイの作り方。

ポテト、アーティチョークの根をボイルして皮を取りナツメグ、ペッパー、シナモン、塩で調味する。パンに入れたペイストのシートに並べる。バター、ポテトを並べ、ウミヒイラギの根、デイツ、骨髄、メイス、レモン、バターを入れて別のペイストで蓋をして焼く。焼けたらヴェルジュ、バター、砂糖を入れる。ローズウオーターと砂糖をかけて糖衣にする。

                                   

 


ウミヒイラギはいかにも怪しげな色と姿から当時、一番の淫靡な催淫剤であると言われていた薬草である。


シェィクスピアの時代は歯をブラシで磨いていたようだが統一された方法はなく、それぞれに工夫した道具で歯の掃除をしていたようだ。当然口から出る息は異常に臭い。親密な相手と話す折は吐き出す息に気を使っていたがそれでも臭いものは臭い。そこで出番となったのがキッシング コンフィット(kissing comfits)だ。消臭効果のあるスパイスと催淫性のあるウミヒイラギをセンター(芯)にして周りを砂糖で固めたコンフィットがもてはやされた。


それではコンフィットの作り方とその携帯はどうしていたのか。


コンフィトのセンターにはコリアンダー、アニス、カルダモン、キャラウエイ、セロリの種。それに松の実、チェリー、アプリコット、ブルーベリー、バーベリー、ラズベリー、オレンジ、レモン、アーモンド、ピスタチオを干して小さなピースに切ったもの。シナモン、クローヴ、ペッパーミント、ジンジャーなどのスパイスを使って作る。


アンゼリカ、アイリスの根は干して粉にする。それをアラビアゴムと砂糖で固め、丸めてコンフィットの芯にした。芯となる材料を低温のオーヴンに入れてしっかりと水分を取って鍋に入れ、煮溶かした砂糖をスレッドステージ(110)にしてコンフィットの芯を入れる。鍋の手を持ってすばやく芯を投げ上げる。芯に砂糖を均等に薄くコートしてデンプンをまぶす。この作業を34回繰り返して低温のオーヴンに広げて入れて乾燥する。翌朝作業を更に45回繰り返してコンフィットがグリーンピースの大きさになるまで続ける。最後はデンプンではなく透明あるいは色をつけた砂糖のシロップをコートする。コンフィットを低温のオーヴンに広げて数時間乾燥する。赤やピンクはコチニール、黄色はサフラン、青はインディゴ、緑はホウレンソウの汁を使って薄いパステルカラーに染める。


お菓子屋ではなく薬局でいろいろな色や香りのコンフィットを手にすることができた。コンフィットは小さなコンフィットボックスに入れて売られており、ベストやハンドバッグに入れて持ち運ぶことができた。ボックスは張子の箱や木で作った箱がほとんどであったが、金や銀で作り輝石や宝石で飾ったものもあった。社会的地位を示すと共に趣味のよさを示すものとして単なる “kissing comfits” の入れ物ではなかった。


ComfitFrcomfitに由来しラテン語のconfectus、前もって作る、準備するの意で、英語のconfection にも繋がる。Comfitsを作るだけがconfectioneryではないが洋菓子職人の語源はcomfitsにある。

臭い口に臭いお菓子を食べると余計に臭くなると思うのだが、ニンニク料理を食べた二人と同じで気にならなかったのかも知れない。

 

つづく

 

歯の手入れ方法歯どのようにしていたのだろう。『レディの愉しみ』から;

 

歯を白く、虫歯が無いように保つには

蜂蜜を1クオート、同量のヴィネガー、半分のホワイトワインを一緒にボイルする。これで時々歯をゆすぐ。

 

きれいに保つには

ローズマリーの葉と枝を焼いて灰にする。指で灰とミョバンを唾と混ぜ、毎朝歯茎を痛めないように歯がきれいになるまで擦る。きれいな水又はホワイトワインでうがいをする。その後タオルで口を渇かす。

(第一幕第五場)カピューレット邸の広間

中では楽人が控え、給仕人共が、布巾を携えて出で来り、取り散らかした盃盤をかたづけている。夜会の準備をしている場面で、杏菓子が運ばれてくる。

 

甲給仕 畳椅子をあっちへ、膳棚も片付けて。よしか、其皿も頼んだ。おいおい、杏菓子(marchpaneを一切れだけ取除いてくりゃ。それからおぬし、親切があるなら、門番にそう言うてスーザンとネルを入らせてくりゃ。

 

Marchpaneとはアーモンドで作ったマジパンのことであり、『レディの愉しみ』にその作り方が詳しく残っている。

 

 

マジパン

茹でたアーモンドを2ポンド用意して篩に入れて火の上で乾かす。それを石のモルタルで潰す。粒が小さくなったら脂が出ないように、細かい砂糖を2ポンド、ローズウオーターを23スプーン入れる。細かいペースト状になったらローリングピンで薄く延ばしてウエファーの上に並べる。縁を少し出して焼く。ローズウオーターと水で砂糖がけをする(ローズウオーターに砂糖を溶かして塗る)。再びオーブンに入れて砂糖が乾いているのを確かめたらオーブンから出す。かわいらしいコンフィットで鳥や小さな動物が縁にかけているように飾る。長いコンフィットを突き刺し、ビスケットやキャラウエイを入れてサーヴする。サーヴする前に金箔を貼る。供宴の席には型でマジパンに模様を付ける。ペーストには当日、文字、飾り結び、紋章、盾、動物、鳥など凝った模様を付ける。

                                       

ウエファーの上にマジパン、果物を入れて焼くお菓子は今日でもドイツでよく見かける。湿気が下のクラストに染みこまないように、そして焼いて柔らかくなったお菓子を扱う時、お菓子が割れないようにエウファーをクラストの下に敷いた。杏の種子は杏仁(キョウニン)と呼ばれ、咳止めや風邪の予防の生薬として用いるが、未成熟な種子や果実には、青酸配糖体(アミグダリン)が含まれる。苦い味のするアミグダリンに毒性は無いが、酵素エムルシン ( emulsion ) に加水分解されるとマンデロニトリルが生成され、さらにマンデロニトリルが分解されるとベンズアルデヒドとシアン化水素(青酸;猛毒であるが時間がたてば解されて無害になる)を発生する。そのためヨーロッパでは杏の仁(ビターアーモンド)はアマレットの香味付け等に使われる他は、食用ではなく医薬として用いられた。

 

一方、スイートアーモンドと呼ばれる、いわゆるアーモンドはヨーロッパでは古くから食べられており、旧約聖書、民数期17310、出エジプト記253334371920,創世記30374311などに記されている。

 

(下)はチューダー朝期(14851603)の型で作ったマジパンである。同様の手法で作るウェディングケーキ(上)がこの時代にはあり、センスの良さが伺える。

                                      

 

劇中に登場した杏菓子は、スイートアーモンドで作ったペーストを丸く形作り、周囲にアーモンドコンフィットを並べたもので、お客様が手に取れるようにピザのように中央から放射状にピースに切ったものであろう。男性が特に好む、手の込んだお菓子であり、これから始まる供宴のすばらしさを予告している。

 

 

第二幕第一場から、カピューレット邸の庭園の石垣に沿へる小径。

ロミオは石垣を譽ぢて庭園へ飛び降りる、友人のベンボーリオーとマーキューシオーがロミオを探して石垣の外から声をかける。

 

マーキューシオー 盲目の息子どの、例のコーフェーチュァの王さんが乞食娘に惚れた時分に( When King Cophetua lov'd the beggar maid! 、見事図星を射当てたといふかの弓取りのキューピッドに何とかあだ名でも附けさっしゃい。・・・・・・聞こえぬな動かぬな。出て来ぬな。

 

マーキューシオーの放言はこの後も続き、これに対して、側にいたベンボーリオーは「聞こえたら、腹を立たうぞ。」と諫めるのだが、「コーフェーチュァの王さんが・・・」の台詞のどこに腹を立てるのだろうか。

昔から『性的魅力にかけたアフリカの王コーフェーチュァは、ある時宮殿の窓からみすぼらしい、着るものに事欠いているうら若い乞食( ペネロフォン:Penelophon )を見かけた。一目見かけるなり恋に落ちたコーフェーチュァは乞食を妻にするか又はそれが叶わねば自殺を選ぼうと通りに走り出た。乞食の群れにコインを投げると、その中にいたペネロフォンに向かって、妻になるように語りかけた。彼女は過去の全てをうち捨てて王女となり共に幸せに暮らし、同じ墓に葬られた。』という言い伝えがあった。ロミオとジュリエット劇に関連した、注目すべき点が2つある。一つは愛のキューピッドに射抜かれたこと。2つめは親戚縁者を振り切って妻になったことである。



                                          図省略

  Sir Edward Coley Burne-Jones, 1st Baronet ( 1833/8/28 1898/6/17 ) (1874)
       原題《
King of Cophetua and the Beggar Maid874》。

 

これから始まる、断ち切れない運命の糸に操られ、悲運の結末を迎えるロミオとジュリエットを暗示している。コーフェーチュァの物語は、この後小説、絵画、バラード、詩、写真、心理学の各方面に影響を与える。大きな身分差のある女性に対する支配欲と性欲。過去とのあらゆる繋がりを断った女性との結婚。ヨーロッパ社会における結婚観を様々な観点から考える上で、多くの問題点を提起する恰好の題材である。結婚は、過去からの因習を踏まえた上で成り立つ儀式であり、これまで歩んできた歴史を如実に物語る現象であると言うことができる。

ベンボーリオーとマーキューシオーは庭園の中へと消えたロミオに向かって、言うこともなく呟く。

 

第一幕第二場から

ベン: こりゃなんでも、木の間に隠れて、夜露と濡れの幕という洒落であらう。恋は盲といふから、闇はちょうどお誂えじゃ。

マーキュ: はて、恋が盲なら的を射当てることは出来まい。今頃はロミオめ、枇杷(medlars)の木蔭にしゃがんで、あゝ、私の恋人が、あの娘共が内密で笑うこのビワ(medlars)の様ならば、何のかのと念じていよう。おゝ、ロミオ: 若しおぬしの戀人が、な、それ、開けっ放しの何《なに》とやらで、そしておぬしが彼女の細長林檎( pop'rin pear:ポパリン・ペア )であつたなら! ロミオ、さらば。野天の床では寒うて寝られぬ、下司床《げすどこ》で寝よう。さ、往こうか?

ベン: では、去ろう。見つけられまいとしている者を捜すのは無駄じゃ。『枇杷《びわ》の木蔭にしゃがんで、あゝ、私の恋人が、あの娘共が内密で笑うこのビワの様ならば、何のかのと 念じていよう。おゝ、ロミオ: 若しおぬしの戀人が、な、それ、開けっ放しの何《なに》とやらで、そしておぬしが彼女の細長林檎《ほそながりんご》であつたなら!』とは何のことだろう?とは思うが、坪内逍遥のシェイクスピアは時代の制約があって、制限された表現の中での翻訳だが、伝えんとするところはよく理解できて心に響く。

セイヨウカリンは上の絵のような形をしていて、食べるには少し腐らせて、真ん中が熟れた状態になるまで待たなくてはならない。女性の性器を意味する、to meddleとは性交の意。一方細長林檎は。男性器を指す。

                                    

 

セイヨウカリン( 西洋花梨:medler, Mespilus germanica )は南西アジアまたは南東ヨーロッパ原産。セイヨウカリン属。温暖で乾燥した土地によく育ち、春に白い花が咲き、果実は直径23cmの梨状果で、秋に赤褐色に熟す。果実は硬く酸味が強いので、食べる前に霜に当てたり長期間貯蔵したりする必要がある。こうすると表面にしわが寄って内部は柔らかく香りもよくなる。古代ギリシアから中世にかけて重要な果物だったが、その後リンゴやセイヨウナシなどが普及すると姿を消す。

 

話は逸れるが、昔のことだけれど『君のは細い!!』という台詞が流行ったことがある。堺正章がシャープペンシルのCMで喋っていたと記憶しているのだが。シャープペンシルの頭をノックして細い芯を出していたのを思い出す。それまでは確かシャープペンシルの上半分をまわして太い芯を出していたように思う。芯がよく折れて困っていたのを、削らなくてもそのまま使える画期的なペンシルだった様に記憶している。

さらさらと字を書いて頭をノックする画期的なペンを使っている友達の下半身を指して堺正章が『君のは細い!!』と茶化したものだ。これは当然XXXのことを暗示しているので僕のは細いとは言えなくて君のは細い!!と言ったところが面白かった。その細長林檎だが、原文では poperine pearとあり、ベルギー由来の洋梨を指すが、1500年後期ではペニスの婉曲表現である。エリザベス朝ではメドラーと一緒に描かれたポパリン・ペアはペニスと陰嚢を指したと言われている。



                                       図省略

                   Joris Hoefnagel, illuminator ( Flemish / Hungarian, 1542 - 1600) and Georg Bocskay, scribe (Hungarian, died 1575 )


セイヨウカリンは熟れる前にその芯がすでに腐っている。娼婦を指すと共に彼らが棲んでいる社会全体のモラルをも暗示しているようだ。

 

第二幕第二場より

ロミオはカピューレット家の庭園にはいり、二階の窓に現れたジュリエットに近づくと。

ひとり語る彼女の愛の告白を耳にする。

 

ジュリエット『名前だけが予の敵ぢゃ。モンタギューでなうても立派な卿。モンタギューが何ぢゃ! 手でも、足でも、腕でも、面でも無い、人の身に附いた物ではない。おゝ、何か他の名前にしや。名が何ぢゃ? 薔薇の花は、他の名で呼んでも、同じやうに善い香がする。ロミオとても其通り、ロミオでなうても、名は棄てゝも、其持前のいみじい、貴い徳は殘らう。……ロミオどの、おのが有でもない名を棄てゝ、其代りに、予の身をも、心をも取って下され。』

薇の花は二幕二場、四幕一場、五幕一場に登場する。ここは薔薇の花が登場する最初の場面であり、唯一香りのする、生命の宿った薔薇である。シェイクスピアが花言葉を意識して戯曲を書いていたのは広く知られているところである。この場面に登場する薔薇は恐らくヨーロッパ原産の、夜に特に匂う「犬」の名の付いた「ドッグローズ」であろう。花言葉は「 喜びと苦しみ」であり、この場に相応しい。ドッグローズ( Rosa canina )Rosa damascene と共に「ヨークの白い薔薇, White Rose of York)の元となった品種でありヨーロッパの薔薇を語るには欠かせない。

                                         図省略



                  Rosa canina                                    Rosa damascena                                        Rosa alba

                    Dog Rose                                       Damask Rose                                   White Rose of York

 

上に学名、下に英国名を書いておいた。ヨークの白薔薇はドッグローズとダマスクローズの自然交配による。又、ダマスクローズはRosa gallicaRosa phoenicia の自然交配で生まれた。ダマスクローズについては後日機会を見つけて詳しく述べようと思う。

 

上で示したダマスクローズはその昔、恐らく11001200年頃まではヨーロッパに存在していたが、その後姿を消した。種の保存に価値を見いだせなかった時代に、交配によって自然消滅したと思われる。従って本来の、一本枝に濃いピンクと白い花をつける、ダマスクローズではない。

 

花言葉のルーツはオスマン帝国にあり、英国で植物学に興味が集まると花を使って、言語外の言葉をつたえようとする動きが開花した。花言葉は二人の夫人がヨーロッパに紹介した。メアリィ・ワートレイ・モンターギュ( Mary Wortley Montagu , 16891762 )は1717年に英国に、オーブリィ・ド・ラ・モトレイ( Aubry de La Mottraye , 16741743 )は1727年にスウェーデンにもたらした。1809年、ジョセフ・ハマー( Joseph Hammer Purgstall ) Dictionnaire du language des fleurs (1809)で花を自らの思いを象徴するものとして初めて取り扱った。

                              

ここではケイト・グリーナウエイ( Kate Greenaway, 1884 )のTHE LANGUAGE OF FLOWERS を使って花言葉を紹介しているが、それにしてもモンターギュ夫人の約100年前にシェイクスピアが花言葉を駆使して戯曲を書いていること、それを理解する観客が既に存在していたことは注目に値する。

 

ロレンス修道僧を訪ねたロミオはその後、ベンボーリオー、マーキューシオー、乳母と出会い、取り留めもない四人の会話が第二幕四場で繰り広げられる。その別れ際、ロミオは『ジュリエットを何とか口実を設けて、今日の午後。懺悔のために家から出るように。行き先はロレンス神父様の僧房で、そこへ行けば罪の赦免ももらえるし、結婚の式も挙げてもらえるはず。』と乳母に訴える。

 

乳母と従僕のピーターはロミオを確かめるために、ロミオの友人二人を加えた場で軽口を叩く。

乳母がロミオに向かって『もし貴方様がロミオ様なら、実はちょっと食い入ってお話し申し上げたいことがございますが。』と言うと、

ベンボーリオー 『この女、今にロミオを夕食に引っ張って行きそうだぞ。』

マーキューシオー 『遣手だ、遣手だ。ほうら出だぞ。』

ロミオ 『何が出たんだ。』

マーキューシオー 『出るには出たが、兎じゃない。四旬節パイ ( lenten pie ) の中に入っている兎の肉、娘ひでりに婆兎、食わねえ先から臭ってくる。』

 〔歌う〕 歳取って臭い雌兎

      レントの肉には我慢もなろが

      いくら何でもカビ兎

      しょせんこれじゃあ食い切れぬ

      食わぬ内から黴びたと聞けば・・・

 

四旬節はレントとも言い、灰の水曜日からイースターまでの40日間を指し期間中は肉と肉製品、乳製品、卵が禁じられていたが、シェイクスピアの時代はご覧の用にパイの中に兎の肉を入れることもあった。マーキューシオーが『四旬節』と言っているのは暗に肉断ち(女の肉を断っている)を指す。それで(娘ひでりじゃ、我慢もなろが)とする訳もある。

 

シェイクスピアと同時代のメイが兎のパイを2種残しているので紹介しておく。

 

野兎を4匹パイに入れて焼く

骨を取りラードする。ペッパーを4オンス、ナツメグを4オンス、塩を8オンスで調味する。粗いライ麦と粉で丸い又は四角いパイを作る。パイの底にバターを入れて野兎を並べる。その上にホールクローヴ、ラードのシート、バターをのせて蓋をして焼く。卵とサフランを塗る。澄ませバターを入れながら焼く。

 

野兎のミンスパイ

野兎の皮を剥ぎ、骨から肉を取る。ベーコン、ビーフの脂といっしょにミンスする。ペッパー、メイス、ナツメグ、クローヴ、塩で調味する。葡萄、グースベリー又はベーベリーを混ぜ、パイに詰めて蓋をして焼く。

又は

ビーフの脂といっしょにミンスして、ミンスしたレーズン1/2ポンド、カラント、クローヴ、メイス、塩、シナモンを混ぜてパイに詰める。クラレットを入れながら焼く。

 

乳母が『If you be he, sir, I desire some conference with you.』と言ったのをベンボーリオーがすかさず『If you be he, sir, I desire some confidence with you.』と捉え言いなおし、マーキューシオーが年取った乳母を指して 『遣手だ、遣手だ。ほうら出だぞ。』と茶化す。Hareには野兎のほかに娼婦の意がある。 

花言葉はシェイクスピア作品のなかで大きな役割を担っている。これから繰り広げられる物語の進行役として、登場人物をより明確に描写する小道具として。シェイクスピアがこれらの植物を使う能力もさることながら、これを受け止める観客の大きな受容能力にも注目したい。

何故今日にも通用する普遍的な芝居がこの時代に、既に広く受け入れられていたのであろうか。

 

中世からつづくバラッドの影響が一つにはあると思う。作者不詳の物語歌である口承伝承されてきたバラッドがいつ頃生まれたかということは特定できないが、 残されたマニュスクリプトの一番古いものから、一応1200年以降ということになっている。(以降バラッドは、1400年後半に始まった印刷術により大きな転換点を迎える。William Caxton1476年にウェストミンスターにイギリス最初の印刷所を開設し、新しいタイプのバラッドが生み出される。 ブロードシート( broadsheet ) と呼ばれる片面刷りの大判紙に歌詞と楽譜を印刷して路上で歌い、売る、という商売が成り立つことになった。様式化された口承歌が、時局の政治、社会的事件を取り上げたブロードサイド・バラッド ( broadside ballad ) は隆盛期を迎える。右絵参照)

                                        

ドロモアの司教トーマス・パーシィ( Thomas Percy, 1729/4/13-1811/9/30 )の 「英国古謡拾遺 ( Reliques of Ancient English Poetry1765 ) に注釈を加え、古いオランダ歌謡集を集めたSvend Grundtvig's Danmarks gamle Folkeviserを参考に編集した、フランシス・ジェイムズ・チャイルド( Francis James Child1825/2/11896/9/11 ) 118298年に蒐集した、伝承バラッドのみを集大成したイングランド、スコットランド、アメリカの305作品、2,500 ページが「The English and Scottish Popular Ballads」と題して世に出た。これはこれまでのバラッドの集大成であり、ほぼ完璧と言えるものである。その中から「レディ・アリス」を紹介しよう。 

 

バラッドを訳して紹介することは、口承バラッドの世界をぶち壊す行為かもしれない。しかし、日本人にとって摩訶不思議な物語の世界に(現実世界の求愛の成功と失敗、殺害、復讐、嫉妬と呪い、忠誠と裏切り、近親相姦、それに非現実な異界に存在する妖精、亡霊、悪魔、人魚、変身が現れる)興味を持っていただければと思い引用した。

 

   Lady Alice 85A                                レディ・アリス

   Lady Alice was sitting in her bower window,   レディ・アリスが私室の窓辺に腰掛けて

   At midnight mending her quoif;         真夜中にナイトキャップを繕っていると;

   And there she saw as fine a corpse        今までに見たこともないきれいな

   As ever she saw in her life.           死体が見えた

   'What bear ye, what bear ye,          「何を担いでいるの、/\

   ye six men tall?                六人の高い背丈の若者よ?

   What bear ye on your shoulders?'        その肩に担いでいるのは何?」

   'We bear the corpse of Giles Collins,       「ジャイルズ・コリンズの死体だよ、

   An old and true lover of yours.'         あなたの昔の恋人の」

   'O, lay him down gently,            「そっと降ろして頂戴、

   ye six men tall,                六人の高い背丈の若者よ、

   All on the grass so green,            真っ青なグラスのその上に、 

   And to-morrow when the sun goes down,     陽が沈んで明日になれば、

   Lady Alice a corpse shall be seen.        レディ・アリスは死体になるでしょう

   'And bury me in Saint Mary's Church,      「聖メアリィ教会に私を埋めて、

   All for my love so true;             わたしの本当の愛の為;

   And make me a garland of marjoram,      そして私にマジョラムとレモンタイムと

   And of lemon thyme, and rue.'          ヘンルーダの花束を作って頂戴」

   Giles Collins was buried all in the east,    ジャイルズ・コリンズは真東に埋められた、

   Lady Alice all in the west;             レディ・アリスは真西に;

   And the roses that grew on Giles Collins's grave,  コリンズの墓から薔薇が生え、

   They reached Lady Alice's breast.         アリスの胸(盛り土の上)に伸びてきた

   The priest of the parish he chanced to pass,     教区の牧師が通り過ぎ、

   And he severed those roses in twain.        薔薇を二つに断ち切った

   Sure never were seen such true lovers before,    こんな本当の恋人達は

   Nor e'er will there be again.            前にも先にも決していない

 

死後の世界と現実とが自由に行き来できる時代には不思議ではない出来事。特に真夜中は異界がこの世を支配する時間帯。若者六人には特別の意味合いがあるのかも知れないが、今では意味を失った。緑の色は魔性の色。恋人が死んだときに、相手が亡くなるのはバラッドの通例。マジョラムの花言葉は「幸福をもたらすもの」、レモンタイムは「燃ゆる思い」、ヘンルーダは「悔恨」である。Breastは「胸」だが「アリスを埋めた盛り土の上」をも指すと思われる。悔恨の土から生える薔薇は赤い野バラ。異界での二人の結びつきさえも、引き裂くのはキリスト世界に棲む牧師。三つのハーブはいずれもヨーロッパ原産の植物である。野バラは「痛手からの回復」。

 

求愛の成功と失敗、殺害、復讐、嫉妬と呪い、忠誠と裏切り、近親相姦、妖精、亡霊、悪魔が登場する。恨み言をいうでもない、諫言を吐くでもない、身の上に降りかかる運命を切々と説く。これからの身の上を指し示す言葉が吐かれる、植物が登場する、事件が起きる、そして結末が語られる。時代、場所がはっきりと示されないが故に時代を超えて訴える真実が存在する。シェイクスピアの戯曲が持っている全てがバラッドにはある。

花言葉は聖書、バラッド等ヨーロッパ社会が積み上げてきた植物に対する文化伝統と、植物を観察することで得られたその植物の性質・特徴を言葉で表現しようとする姿勢から生まれた。

次の場面にもバラッドの手法が使われている?とも取れる。

 

第二幕第四場

ロミオは乳母に、ジュリエットとロレンスの庵室で婚礼が挙げられるように依頼するが、その別れ際、乳母は不吉な言葉を口にする。

 

ロミオ なう、姫に勸めて下され、此晝過に、何とか才覺して懺悔式に來らるゝやう。あのロレンス殿の庵室で、懺悔の式を濟まして婚禮する心なれば。こりゃ骨折賃ぢゃ。

乳母  いえ、めっさうな。一錢も戴きませぬ。

ロミオ まゝ、是非とも。

乳母  では、此晝過に? む、む、其樣にいたしましょ。

乳母行きかくる。

ロミオ あ、これ、お待ち。やがて、あの寺の塀外へ、おぬしに渡す爲に、繩梯子のやうに編み合せたものを家來に持たせて遣りませう。それこそは忍ぶ夜半に嬉しい事の頂點へ此身を運ぶ縁の綱。……さよなら。眞實を盡しておくりゃれ、きっと骨折の報はせう。さらば。姫へ宜しう傳へて下され。

乳母  御機嫌やういらせられませい!……あ、もし/\。

ロミオ 何とかお言やったか?

乳母  御家來は口の堅いお人かいな? 二人ぎりの祕密は洩れぬ、三人目が居らねば、と言ひますぞや。

ロミオ 大丈夫ぢゃ、鋼鐡のやうに堅い男ぢゃ。

乳母  それならば。こちの姫さまはな、それは/\憐しうて……ほんに、ほんに、まだ幼うて、分別もないことを言うてゞあった時分は……お、あのな、パリス樣と言うて、お立派な方がな、どうぞして物にせうと氣を揉まっしゃるのぢゃが、あのよな人に逢ふよりは、予ゃ蟾蜍に逢うたはうが優ぢゃ、と言うてな、あの蟾蜍に。予も折々は腹を立っても見ますのぢゃ、パリスどのゝ方が、ずっと好い男ぢゃと言うてな。すると、眞の事ぢゃ、孃は眞蒼な顏にならっしゃる、圖無い白布のやうに。え、ロミオと萬迭香( Rosemary ) とは、頭字が同じかいな?

ロミオ いかにも。それが、何としたぞ? 兩方ともRぢゃ。

 

乳母が、いきなり「ローズマリー」を持ち出す。薔薇でも良かっただろうに。いきなり死体を持ち出して驚かせるのは、レディ・アリスで示した通りの、バラッドの常套手段。シンプルにサラッと言って、読み手の想像力を膨らませる。何回もシェイクスピアを見ている観客は、どんな調子で、どんな声で、どんな動作で「ローズマリー」の台詞を役者が切り出すのであろうかと、固唾を飲んで待っている。役者と観客の真剣勝負である。

 

萬迭香 ( Rosemary ) には二通りの、全く異なる場面で使われる。葬式と結婚式とである。

ここから長い?ローズマリーの説明が始まるが(シェイクスピア作品の中で大きな役目を受け持っている植物はローズマリーと薔薇)、興味のない方は飛ばすとよい。

ラテン語に由来するRos Mainus Rosemary)はDew of the sea と訳せる。海から生まれたアフロディテはその花を名を身にまとい、ウーラノス(Ouranos、天の神)の精液から生まれたといわれている。アフロディテ神が休息を取っていた間、その外套を被っていたローズマリーの白い花が青に変わったと言い伝えられている。白い花はマリアを連想させる色であるからだろう。ヨーロッパとオーストリアでは、ローズマリーは記憶を良くするという風評が昔からあり、記憶の象徴とされてきた。

葬式で会葬者は墓の中に死の記憶の象徴としてローズマリーを放り込んだ。ハムレットの中でオーフェーリアは言う「ローズマリーがある。それは記憶のため」と。( ハムレット四幕五場 )。働いている小部屋にローズマリーの香りを送り込むとそこにいる人々の記憶をわずかに改善すると現代では言われている。中世においてローズマリーは結婚式に関連付けていた。花嫁はローズマリーの頭飾りを付け、花婿とゲストはローズマリーのつぼみを身に付けていた。花嫁はローズマリーを、花嫁が編むリースに絡ませて身に付け、香水を入れた水の中に入れた。ローズマリーの枝に金箔を貼り色とりどりの絹のリボンを結びつけ、愛と誠実さのシンボルとしてこれを結婚式のゲストに贈った。今日では結婚式の日にローズマリーを植え、それが大きく育てばよい兆しであることを示す。Mrs. Grievesが言う様にローズマリーの枝に金箔を貼り、色々な色の絹のリボンで結び、愛と正義のシンボルとして結婚式のゲストに示した。愛のシンボルとしてのローズマリーの使い方としては若者がローズマリーの蕾を踏み、その蕾に花が付いていればそのカップルが愛に落ちるというものである。ローズマリーを占いに使う例で、いくつかのハーブをポットに植えてその中で大きく育ったハーブに恋人の名を当てはめると言うものである。大きくそして最も早く大きくなったハーブがその答えである。ローズマリーは又、操り人形の中に入れて恋人を魅了したり、病気に対する心の迷いを正すのに用いた。

病室でローズマリーを燃やす古い習慣がある。フランスではジュニパー・ベリー と一緒にローズマリーを燃して空気を清浄にして感染を防ぐ慣わしがあった。ヘンルーダのように裁判所に置いたり、goal feverを防ぐ目的で使われた。ローズマリーの若芽を手にして葬式へ行き会葬者には家を出る前に渡しておき墓穴の棺になげいれた。この儀式は今も一部のウエールズで行われている。

また、ローズマリーと一緒にオレンジにクローヴを突き刺して新年の贈り物として贈った。

枕の中にローズマリーの蕾を入れると悪夢を追い払うと信じられていたし、家の外に置くと魔女を追い払うとされた。どういう訳か、ローズマリーを庭に置くと魔女を追い払うという意味が家の中で家事を取り仕切る主婦がいるところではローズマリーが大きく茂るという内容に変化する。

Roger Hacket 1607年発行の”A Marriage Present “の中で庭の花の中でローズマリーが一番大きく、目だつ家は主人の力のある家であると述べている。それはローズマリーには脳を記憶力を強め頭脳に対する薬効があるからで、それとともにそれが心にも影響を及ぼすからである。この花は男の知性と愛と忠誠心の旗印であると見なされたからである。

Treasury of Botany Gloucestershire及びそのほかの州では、女主人が力を持たない限りローズマリーが大きく育つことはないという大衆の間での言い伝えがあって、神経質な領主は権威を保つためにローズマリーを刈り取らせることがあった。

フランスではお金のかかる香の代わりに宗教儀式にローズマリーを使うことがあった。古いフランスではしたがってローズマリーのことをIncensier という。スペイン人は聖母マリアをエジプトへ運んだブッシュの一つとしてあがめローズマリーをRomers、清教徒の花と呼んでいる。スペインとイタリアでは魔女や邪悪なものから守ってくれると見なしている。シシリーでは若い妖精が蛇の姿をしてローズマリーの枝に横たわっていると信じられている。

ローズマリーは中世、近世を通じて非常に大切なハーブである。詳細に述べておく。

                                    
 


Rosemary ( Rosemarinus officinalis ) 和名はマンネンロウ。多年草、常緑樹であり針葉で香りがよい。地中海沿岸地方原産。Rosemaryという名はRos (dew:しずく )marinus ( sea;海 )に由来する。自生している場所では海からもたらされた水のみで生育できるからである。Rosemarinus officinalisRosmarinus属に入り、この中に2つの種がある。残る一つはRosemarinus eriocalyxで、アフリカ、リベリアのアフリカ北西部に生育している。利点の余りない植物である。18世紀の自然学者Carolus Linnaeus が名づけた。

形状:立性のものと匍匐性のものがあり、立性のものでは1.5m、稀に2m に達する。葉は常に緑色で長さ-4cm、幅-5mmの葉の上が緑色で下に白く短い毛が濃く生えている。花は、北の地域では夏に咲くが、暖かい冬の気候であれば常に咲いている。色はバリエーションに富み、白、桃、紫、青があり、石灰質の土壌では大きく育たないが香りがよい。

栽培:魅力的な姿と乾燥にある程度耐えることから特に地中海性気候の地域では景観のために植えられている。初心者にも植えやすく病虫害にも強い。もろいローム土壌の日当たりのよい乾燥した場所に良く生育する。湿地には弱く、ある種のものは霜に弱い。中性もしくは77.8PHのアルカリ性の良く肥えた場所に生育する。

ローズマリーは切り込んでトピアリーにするのが容易である。ポットに植えた時は伸び放題の見苦しい姿になったものを刈り込むのが良いが、庭に植えたときには大きく育てると非常に魅力的である。若葉を10-15cmの長さに切って植え、幹の葉を取り土に直接植えると大きく育てることが出来る。 

手に入りやすく、庭に植えやすい種類には以下のようなものがある:

利用:料理に:生、乾燥した葉は伝統的な地中海料理には良く使われている。苦味が少しあり、渋くて香りの高い葉はスープに入れて香りを付けたりと、利用する幅が広い。薬草の煎じ薬であるチサンはこれで作る。燃やすと独特のマスタードの香りがする。バーベキューをした時に香るあの匂いである。

ローズマリーは鉄、アルミニウム、VB6に富む。油臭さに関係しているomega-3richoilを安定させる働きがあり、抽出物は食品の保存期間と長くする(抗菌,抗酸化作用、消臭作用がある)。食物を腐敗するE.coli , S.aureusなどの細菌の発育を阻害する働きがある。その働きは食品保存剤よりも優れている。

医学的使用:養毛剤、収斂剤、発汗剤、刺激剤、駆風剤,健胃剤、神経鎮静剤。

ローズマリーに含まれるカルノミン酸は遊離基から脳を守り、発作の危険や、アルツハイマーやLou Gehrig’sのような神経退行症から脳を守ることがわかった。又、抗発癌物質がある。ローズマリーの粉末を二週にわたってラットに与えたところ、ある種の発癌物質が75%減少し乳腺腫の形成を抑えた。又、生物学的活性物質が多く存在する。抗酸化物、例えばカルノミン酸、ロズマリン酸である。生物活性物質、樟脳(ドライのローズマリーの葉には20)、カフェ酸、スルソール酸、betulinic acid, rosmaridiphenol, ロスマノールが含まれている。(炎症抑制,血行改善、育毛効果

副作用:ローズマリーを適当に採取しガイドラインに沿って使用した場合には香辛料のして使用する程度であればその副作用は限られている。しかし、わずかにアレルギー性の皮膚に対する反応が報告されている。 

安全性:医用、治療の為の量では一般的に安全である。毒性に関する研究はラットが対象であり、hepaatoprotective , antimutagenic作用が知られている。てんかんの傾向がある、あるいはてんかんの発作に対するアレルギー反応に注意する必要がある、ローズマリーの精油には子供、大人の区別なく、てんかんはローズマリーの使用と関係があると数世紀にわたって報告されている。ローズマリーの精油は口から入れば毒性がある。ローズマリーの葉をたくさん摂れば昏睡状態、筋肉の痙攣、吐き気、肺水腫など致命的な反応を起こす。妊婦や母乳で子供を育てている方は大量に摂取しないこと。胎児に影響があり、流産の心配がある。 

記憶力を改善する:カルミノシン酸には神経細胞を維持する役割を果たす神経成長因子の生成を高める効果があるため、軽度のアルツハイマー型痴呆患者に対して症状が改善するという報告がある。脳梗塞による壊死を予防するのでアルツハイマー、パーキンソン病への効果も期待される。

ロズマリン酸には花粉症の症状を和らげる作用がある。抗菌作用もあるが、活性酵素生成能もあるので酵素、金属イオンと共存すると細胞毒性を示す可能性がある。

カルミン酸、カルノソールには生体防御機構を活性化させる作用がある、即ち解毒作用を高める。尿量を増やして腎臓の痛みをとる。 

薬容量:小児:小児については使用が認められていないので小児に対する記述はない。大人:1日に46g(干量で)を越えないこと。

お茶:3カップ/日。 ハーブに湯に入れて3-5 分間浸したもの。2カップの湯に6gのハーブを使う。3杯に分けて、食事をしながら飲むこと。

チンク油:15に溶かしたものを、2-4 ml/3 回。

抽出液:1145%アルコールに中に溶かしたものを12ml//3回。

ローズマリーワイン:20gのハーブを1Lのワインに入れて時々振って5日間置く。

外用:精油(6-10%)2滴を半固体の又は液状のオイル1TBSの中に入れる。精油は外用に使い、決して飲んではいけない。痙攣を引き起こすので内用してはいけない。樟脳アレルギーを起こす人には害がある。煎じて浴用に使う;1Lの水の中に50g入れてボイルする。30分間そのままに置いて浴水に加える。 

注意点:病気治療と体を丈夫にする目的で昔から使われてきた。他のハーブ、補助薬品、薬物治療に働きかけて副作用のきっかけを作る活性化物質があるからである。これらの理由からこのハーブの取り扱いには気をつけて植物薬の実際的知識を持った者の下で扱うべきである。通常の薬用量では安全であるがアレルギー反応の例が報告されている。大量の薬には揮発油が含まれており吐き気、痙攣昏睡状態になる、時には肺水腫を起こす。

Doxorubicin:ローズマリー抽出物にはdozorubicin効果がある。

脱毛症:部分的な脱毛症である86人にローズマリーとラベンダー、タイム、セダーウッドの精油と一緒に頭皮をマッサージしたところ(毎日7ヶ月間)精油をつけないでマッサージをした例と比較して明らかに髪がはえた。しかしそれがローズマリーの単独の使用のためなのか、他の精油との併用の効果であるのかは明らかではない。

複数のハーブと組みあわせると育毛効果がある。5アルファリダクターゼ阻害作用、血行促進作用、炎症抑制作用などに起因する。Spiritus Rosmariniとしてヘアーローションとして外用に使う。毛根を刺激し若はげを防止する効果がある。乾燥した葉や花の抽出液をホウシャと混ぜたものはhairwasher としてよく知られている。ふけを防ぐ効果がある。 

癌;実験室および動物実験よりローズマリーの抗酸化作用が明らかに結腸、乳、胃、肺、皮膚の癌細胞に対して有効であると指摘している。人体を含む更なる研究が待たれる。

ローズマリーの油は香りを良くするために塗布剤の中に入れて使われている。ハンガリー水は外用として麻痺した手足の回復を促すように、ハンガリー女王のために始めて考案されたもので、これを続けて使用することで回復したと言われている。生の花の付いたローズマリーの新芽を1 1/2ポンド、ワインのスピリット1ガロンの中に入れる。4日間静止してこれを蒸留して作る。又はハンガリー水は痛風に対して非常に効果があると考えられている。手と足につけて強くすり込むとよい。この処方箋は1235年、エリザベスの手記の中にハンガリー女王としてウィーンに保存されている。

ローズマリーワインは少量摂ると心肺の動悸を抑え、腎臓を刺激して水腫を和らげる。緑色のローズマリーの新芽を刻んで白ワインの中に入れる。23日後に濾すとよい。脳、神経系を刺激するので循環機能の衰えによる頭痛に効果がある。

若い芽、花は浸出してローズマリー茶にする。暖かい状態で摂取すると頭痛,幼児の激しい腹痛、神経症に効果がある。浸出中に蒸気が漏れないように気をつける。この蒸気は神経性鬱を解き放つ。新芽と3倍量の砂糖を一緒に潰すと保存剤と同様の働きがある。ローズマリーの精油は水又は砂糖の上に30滴垂らして抗痙攣剤として使用する。ローズマリーとフキタンポポの葉を一緒に擦って吸い込むと喘息や喉、肺の感染症に効果がある。又、オーデコロンの成分の一つとしても使われている。精油を1/23滴、スピリットを520滴。

最後にバラッドをもう一つ;

54A: The Cherry-Tree Carol          チェリーツリー・キャロル

 

54A.1      JOSEPH was an old man,       ガリラヤで

               and an old man was he,        ジョセフがマリアと結婚した時               When he wedded Mary,        ジョセフは既に老人でした、
               in the land of Galilee.         とっても歳を取っていた
54A.2       Joseph and Mary walked       ジョセフとマリアは果樹園を
               through an orchard good,       歩いて行きました、
               Where was cherries and berries,   そこにはチェリーとベリーがたわわに
               so red as any blood.         血のように真っ赤になっていました
54A.3       Joseph and Mary walked       ジョセフとマリアは果樹園を
               through an orchard green,      歩いて行きました
               Where was berries and cherries,   そこにはベリーとチェリーがたわわに
               as thick as might be seen.      実っておりました
54A.4       O then bespoke Mary,        思わずマリアが話しかけました、
               so meek and so mild:         そっと優しく:
               ‘Pluck me one cherry, Joseph,    「チェリーを一粒摘んで頂戴、ジョセフ
               for I am with child.’         子供がいる私のために」
54A.5       O then bespoke Joseph,        思わずジョセフが言い放った、
               with words most unkind:       思いやりのかけらも無い声で:
               ‘Let him pluck thee a cherry     「お前に子供を孕ませた男に
               that brought thee with child.’     もいで貰えばいいだろう」
54A.6       O then bespoke the babe,       思わず赤子がマリアの腹から
               within his mother’s womb:      話しかけた
               ‘Bow down then the tallest tree,    「たわめ、一番高い木よ、
               for my mother to have some.’      私の母の手が届くように」
54A.7       Then bowed down the highest tree   一番高い木がたわみ
               unto his mother’s hand;        マリアの手に;  
               Then she cried, See, Joseph,      見なさいジョセフ、思い通りに
               I have cherries at command.      チェリーが手に入ったわ
54A.8       O then bespake Joseph:         思わずジョセフが言い放った:
               ‘I have done Mary wrong;       「マリア、私が悪かった;
               But cheer up, my dearest,        元気を出して、
               and be not cast down.’         しょげないで」
54A.9       Then Mary plucked a cherry,      マリアは血のように真っ赤な
               as red as the blood,           チェリーをもいだ、
               Then Mary went home         そしてマリアは重いお腹を
               with her heavy load.           抱えて家に帰って行きました
54A.10     Then Mary took her babe,         マリアは生まれた赤ん坊を、
               and sat him on her knee,         膝にのせて言いました、
               Saying, My dear son, tell me       息子よ、この世はこれから
               what this world will be.         どうなるの
54A.11     ‘O I shall be as dead, mother,      「お母さん、私は、
               as the stones in the wall;         死ぬ運命にあるのです;
               O the stones in the streets, mother,     道路に敷き詰められた(身動きの取れ         shall mourn for me all.          ない)石達が私を嘆くことでしょう
54A.12     ‘Upon Easter-day, mother,        「イースターになれば、お母さん、
               my uprising shall be;           私は甦り;
               O the sun and the moon, mother,      太陽と月が、お母さん、
               shall both rise with me.’           私と共に昇るでしょう」
 
チェリーの花言葉は「小さな恋人、幼い心」、ベリーは「あなたと共に」。

 

つづく






第三幕第一場では;

ベローナの路上でマーキューシオ、ベンボーリオ、ロミオがカピューレット夫人の甥であるチッパルトと出合う。マーキューシオとチッパルトの中に入ったロミオがマーキューシオを止めに入った瞬間、ロミオの腕の下をかいくぐったチッパルトの剣がマーキューシオの命を奪う。

友人の仇を討ったロミオではあったが、第二場、カピューレットの庭園では、乳母から詳細を知らされたジュリエットは;

 

乳母  ああ、かなしや!死なしゃった/\ /\!もう駄目でござります、もう駄目でござります。ああ、かなしや!・・・・・・逝なしゃった、殺されさっしゃった、死なしゃった。

ヂュリ え、それほどに天が無慈悲か!

乳母  天がどうあろうと、ロミオは無慈悲ぢゃ。おおロミオどのが!・・・誰が思いがけようぞ?ロミオどのが!

ヂュリ  何で予に氣を揉すのぢゃ? 其樣な怖しい唸り聲は地獄でなうては聞かれぬ筈ぢゃ。ロミオが自害でもなされたか? これ、唯(あい)と言って見や、その唯といふ一言が、只一目で人を殺す毒龍の目にもまして、怖しい憂目を見する。其樣な羽目とならば、予の身は最早駄目ぢゃ。これ、お死にゃったが實ならば、唯と言や。さうでなくば否と言や。たった一言二言で此身の生死が決るのぢや

 

乳母の言葉にジュリエットはロミオが亡くなったと誤解しているのだが、チッパルトが亡くなったと解って;

ヂュリ や、こりゃ、風向が變うたわ、如何した暴風雨ぢゃ? ロミオが殺されて、そしてチッバルトもお死にゃったか? 大事な從兄も、尚ほ大事なロミオどのも? もしさうならば、大審判日の喇叭手よ、世は最早絶滅ぢゃと宣告せい! あの二人が逝にゃったなら、生きてゐる甲斐はない!

乳母  チッバルトどのはお死にゃって、ロミオどのは追放ぢゃ。下手人のロミオどのは追放にならッしゃったのぢゃ。

 

「毒龍( cockatrice )」、「大審判日の喇叭手(ラッパシュ:dreadful trumpet, sound the general doom )」の二つの言葉が同一人によって語られていることに注目した。この二つの言葉にどの程度の意味合いを込めて語っているのだろうか?

 

毒龍とはコカトリス( cockatrice )を指す。当初は宮廷の晩餐会なのどの折、招いた賓客を驚かすために作られたアントルメである。しかし1400年になると次の料理書にもあるとおり、凝った料理ではあるが、最早初めて見る者の魂を抜くだけの迫力はない取り扱われ様である。

 

フォルム・オブ・クーリィより

175.コテイグレス( Cotagres )

詰め物を用意して作るがその中に松の実と砂糖を入れる。ローストしたオンドリを丸ごと用意して皮をすべて剥ぐ。脚は取っておく。仔豚を用意して真ん中から下に向かって皮を剥き、詰め物を一杯入れてしっかりと縫い合わせる。これをパンの中に入れてよく煮る。二つをボイルしたら金串に刺してよくローストする。卵黄とサフランで色を付け、金箔又は銀箔を貼ってサーヴする。

 

リチャード世編纂の料理書ではCotagresCotagres)と記載されている。Cotaはオンドリのコック、gresは仔豚の意。コカトリスとはイギリス中世の想像上の動物である。オンドリの卵から生まれた、頭はニワトリ、胴体と尾は蛇で、ヘビやヒキガエルがオンドリの卵を温めると孵化し、見たり触ったりすると石になるといわれていた、反キリスト教的悪魔である。



                                     

 

                       Early wood-cut (e.g., in Ulisse Aldrovandi, 11 September 1522-4 May 1605) )
                             Serpentum et Draconu HIstoriae libri duo. Borlgna, 1640 )


ローマ帝国の大プリニウス( Gaius Plinius Secundus, 23 –79/8/25 )が書いた博物誌の中にはバジリスクの名で(コカトリスのメス又はオス)記述がある。「バジリスクはその自ら放つ悪臭で大蛇と対等に戦い、人間は一目睨まれただけで、絶命する。頭には白い斑点がありそれを王冠と誤って解釈しているようだ、又三本の角が生えているという者もいる。アフリカが生息地であると言うのはほとんどの著述者の意見であり、朱鷺又は黒いコウノトリの卵から孵る。その血は、松脂のように濃く、色もそれに似ている、薄めても辰砂の如く鮮やかであると占星術師が大いに褒め称えている。彼らは、自らの血は悪霊に対するお守りであり、病気の治療のためであると神に懇願し首尾を得たが、あれはサターンの血であると言う者もいる。」と述べている。プリニウスはヒキガエルには否定的である。睨まれただけで死に到り、通った跡には人を殺すほどの猛毒が残ったという。ローマ時代から続く物語の下地の上に、元々イギリスにあったコカトリス伝承が合体したのである。

 

 

宮廷のテーブルの上にコカトリスがのったのは、1250年以前の料理書が残っていないのではっきりとは言えないが、1000年当たりからであろう。キリスト教の力が世界中に充ち満ちて、この世に存在するものは何でも、神の下にあるとされた時代である。悪魔も、魔物も神の存在下にあるという時代である。嘗ては恐れられた魔物も、食べやすいようにと、リチャード世の御代ともなると下半身は仔豚にすり替えられた。

しかしこの木版画はどうしたことだろう。堂々とした、龍にも似た翼、サーペントのごとき尾、頭には王冠らしきものまで戴いている。悪魔がプリニウスの時代から甦ったようだ。言い方を換えれば、世俗社会が復活したと言える。教会の影響力を排除した分だけ、キリスト教が持ち込まれた以前の社会が少し顔を出したのである。バジリスクはロミオトジュリエットの他、「十二夜」、「リチャード世」、「アテネのタイモン」、「ルークリース凌辱」に登場する。

 

「最後の審判の日に鳴り響く喇叭の音」とは、ヨハネの黙示録からの引用であるが、「世の中が最後を迎える」程の深刻さはこの言葉の中にはない。黙示録第8章から;

 

8:1小羊が第七の封印を解いた時、半時間ばかり天に静けさがあった。

8:2それからわたしは、神のみまえに立っている七人の御使を見た。そして、七つのラッパが彼らに与えられた。

8:3また、別の御使が出てきて、金の香炉を手に持って祭壇の前に立った。たくさんの香が彼に与えられていたが、これは、すべての聖徒の祈に加えて、御座の前の金の祭壇の上にささげるためのものであった。

8:4香の煙は、御使の手から、聖徒たちの祈と共に神のみまえに立ちのぼった。

8:5御使はその香炉をとり、これに祭壇の火を満たして、地に投げつけた。すると、多くの雷鳴と、もろもろの声と、稲妻と、地震とが起った。

8:6そこで、七つのラッパを持っている七人の御使が、それを吹く用意をした。

8:7第一の御使が、ラッパを吹き鳴らした。すると、血のまじった雹と火とがあらわれて、地上に降ってきた。そして、地の三分の一が焼け、木の三分の一が焼け、また、すべての青草も焼けてしまった。

8:8第二の御使が、ラッパを吹き鳴らした。すると、火の燃えさ嘗ている大きな山のようなものが、海に投げ込まれた。そして、海の三分の一は血となり、

8:9海の中の造られた生き物の三分の一は死に、舟の三分の一がこわされてしまった。

8:10第三の御使が、ラッパを吹き鳴らした。すると、たいまつのように燃えている大きな星が、空から落ちてきた。そしてそれは、川の三分の一とその水源との上に落ちた。

8:11この星の名は「苦よもぎ」と言い、水の三分の一が「苦よもぎ」のように苦くなった。水が苦くなったので、そのために多くの人が死んだ。

8:12第四の御使が、ラッパを吹き鳴らした。すると、太陽の三分の一と、月の三分の一と、星の三分の一とが打たれて、これらのものの三分の一は暗くなり、昼の三分の一は明るくなくなり、夜も同じようになった。

8:13また、わたしが見ていると、一羽のわしが中空を飛び、大きな声でこう言うのを聞いた、「ああ、わざわいだ、わざわいだ、地に住む人々は、わざわいだ。なお三人の御使がラッパを吹き鳴らそうとしている」。

 

ジュリエットが言うように、ラッパが吹き鳴らされる度に、創造されてできたこの世は破壊する。しかし、シェイクスピアが居た世は最後の審判が下されるはずの日から1600年以上を経ている。嘗てはキリストでさえ、自分が生きてる間に最後の日が来ると言っていたのだが。1000年経ってもその日は訪れなかった。今か今かと、一番苦しい目をしたのは、12001300年当たりの人達だ。2日後には、ひょっとしたら2時間後にはラッパが鳴らされるかも知れないと考えていた。1600年にもなるとそんな気分は吹き飛んでいた、はずだ。ところが、このジュリエットの言葉は、思わず出た言葉だけに、まだその日が来るのではないかとの心理も伺え無くもない。

神の力が削がれたはずなのに、まさかの言葉だ。

時代は動いている。だからこそ嘗ては許されなかった行為も今は許される。嘗ては右の頬を打たれれば、左の頬を出せと言う時もあったが、国教になると間もなくキリスト教は変質し始めた。右図は聖ジョンがキリスト役を務め、右手に黙示録を持ち(口に剣をくわえるは黙示を示す)、左手で白馬の手綱を持ち、十字軍を従えて進撃をする、戦争鼓舞の図である。


                                         図省略       

                 The Rider on a White Horse - Queen Mary Apocalypse (early 14th C), f.37 - BL Royal MS 19 B XV.jpg

 

戦いに明け暮れた中世前期或いはそれ以前の様に、キリスト教は全幅の信頼、信奉を寄せるにはおぼつかないが、何者にもすがる物が無いときには知らず知らずのうちに手を合わせているといった存在になった。嘗ての、ヨーロッパ社会を全面で支えてきただけの力がなくなったと同時に、ヨーロッパ社会に住む人達も教会を頼りにしなくなったということだろう。しかし、死ぬのは怖い。死を受け入れて生きてゆくのは尚のこと辛い。辛いときの神頼み。僅かに残った信仰心?だけが教会を支えていると言える。1999年人類滅亡のノストラダムスの予言が外れる以前から黙示の中身は空文であった。Romeo3の最後に取り上げた、バラッドの中のラザロの辛辣な台詞、「お前に子供を孕ませた男にもいで貰えばいいだろう」はそのことを何よりも雄弁に語っている。マリアの処女懐胎など、普通の生活をしている庶民にとっては可笑しくも、面白くもない話なのだ。

 

第四幕第一場

ロレンスの庵室ではジュリエットの為に修道士ロレンスが曼荼羅華の入った薬瓶を手渡し、「42時間経てば気持ちの良い眠りから醒むるように、自然と起きさっしゃろう。」と言うのだが。「墓の中に臥てゐる時分、まだロミオがお來やらぬうちに、若し目が覺めたら何とせう? さア、それが怖しい! 其窖で呼吸が塞ってはしまやせぬか? 其穢い穴の中へは清い空氣は些程も通はぬゆゑ、ロミオどのが來する頃には予ゃ死んでしまうてゐねばなるまい。若し生きてゐるやうなら……時も時、處も處、墓も墓、年を經た埋葬所、何百年の其間の先祖の骨が填充ってあり、まだ此間埋めたばかりの彼のチッバルトも血まぶれの墓衣のまゝで、定めて腐りかけてゐるであらうし、また眞夜中の幾時かは幽靈も出るといふ……えゝ、どうしょう、目が覺めたら?……厭らしい其臭と、聞けば必然狂亂になるといふあの曼陀羅華を根びくやうな、凄い氣味のわるい聲を聞いたら……おゝ、早まって覺めた時分に、其樣な怖しい、畏いものに取卷かれたら、氣が違はいでをられうか?」 と、仮死の状態で墓の中で目覚めたときの心配をしている。

下手な説明よりも見ていただいた方がよくわかるだろう。右図はパリで描かれたタキュイナム・サチタティスでマンダラケの収穫図である。左上に、地中から顔を出しているのがマンダラケ。植物ではあるが、人間の形をしている。収穫するには、まづマンダラケに綱を結びつけ、その端を腹を空かせた犬に括り付ける。犬の食べ物を放り投げるとマンダラケの収穫が終了する。その際気を付け無ければならないことは、地面からマンダラケを引き抜く際に、マンダラケが甲高い悲鳴を上げ、それを聞くと気が狂うので図のように、耳を押さえて急いでその場を逃げなければならない。耳を塞いでいない(塞げない)犬は無論その場で絶命する。

                                             

曼荼羅華( mandrake )地中海地域から中国にかけて自生する、コイナス属又はナス科マンドラゴラ属に属する植物である。Mandragora officinarum L.M. autumnalis Spreng.M. caulescens Clarke3種は根に数種のアルカロイドを含み、鎮痛薬、鎮静剤、瀉下薬として使用されたが、毒性が強く、幻覚、幻聴、嘔吐、瞳孔拡大を伴い、時に死に至る。キンポウゲ科、ケシ科、ナス科、ヒガンバナ科、マメ科、メギ科、ユリ科、トウダイグサ科、ウマノスズクサ科などと同様、数種のアルカロイドを含む。根は人型のようになり、細かく根を張るため抜く際に力が要り、大きな音がする。この音がマンダラケの叫び声として、その毒性が叫びを聞いた者は死ぬといった逸話を生んだ。又マンダラケの幻覚を見たものが叫び声を上げ死に至ることに由来するとも言われている。華岡清州で知られているチョウセンアサガオDatura metelアトロピンを含有するナス科のダチュラ,マンダラ(曼陀羅華)とは別種である

 

創世記30章に登場する「恋なすび」はマンダラケを指す。

30:14さてルベンは麦刈りの日に野に出て、野で恋なすびを見つけ、それを母レアのもとに持ってきた。ラケルはレアに言った、「あなたの子の恋なすびをどうぞわたしにください」。 30:15レアはラケルに言った、「あなたがわたしの夫を取ったのは小さな事でしょうか。その上、あなたはまたわたしの子の恋なすびをも取ろうとするのですか」。ラケルは言った、「それではあなたの子の恋なすびに換えて、今夜彼をあなたと共に寝させましょう」。 30:16夕方になって、ヤコブが野から帰ってきたので、レアは彼を出迎えて言った、「わたしの子の恋なすびをもって、わたしがあなたを雇ったのですから、あなたはわたしの所に、はいらなければなりません」。ヤコブはその夜レアと共に寝た。 30:17神はレアの願いを聞かれたので、彼女はみごもって五番目の子をヤコブに産んだ。 30:18そこでレアは、「わたしがつかえめを夫に与えたから、神がわたしにその価を賜わったのです」と言って、名をイッサカルと名づけた。 30:19レアはまた、みごもって六番目の子をヤコブに産んだ。

 

マンダラケの伝承話は古く、精力剤、媚薬、または不老不死の薬として使われた。

 

第五幕第一~三場

ベローナからマンチュアに追放されたロミオはロミオの下人バルターザーからジュリエットがお廟屋へ入った音信を得る。ロレンス修道士からの書状を手に入れていないロミオは薬種屋へと向かう。ロレンス修道師の庵室を訪れたヂョン僧はロミオからの返答を聞き出そうとするロレンス修道士に「書面を預かり、同伴しようと同門の修道僧を訪ねたところを町の検疫役人に見つかり外出を止められていた。」と言う。ロミオからの返答を得られなかったロレンスは廟所に急ぐがそこには二人の骸が横たわっていた。

 

ロミオとジュリエットが生きていた1300年代の中期はヨーロッパ全土で、そしてシェイクスピアが活躍していた15911593年はロンドンでペストが流行していた。ロレンス修道師が書状を託した同門のヂョン僧はペストが感染した家を訪問したかどで外出を止められていたのである。

ロミオがジュリエットに合わなければ、マーキューシオーがチィバルトと喧嘩をしなければ、ヂョンが書状を手渡していれば・・・・と数々の偶然が運悪く重なって、悲劇が起きた。

 

 

                                                                                            完

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