めーめーさんのヒミツ
屋敷の前に馬車が着く。
いらっしゃいませ、と頭を下げる使用人たちは、お忍び用の質素なコートで現れた客人に色めきたった。
一緒に馬車から下りたシャドウが一瞬渋い顔をして、エミーに客人の世話を命じる。
固くなる使用人一同に、客人は柔らかな笑顔を向けた。
そして、行儀悪くサロンから飛び出してきた当家ご子息様の慌て様に、皆が明るい笑い声を立てる。
遅れ気味に正門前へ行こうとしたソニックだったが、その様子を見て足を硬直させた。
ツキン、と胸に痛みが差す。少しの甘さを伴った痛み。
静かに静かに下がって、屋敷の別棟へスカートの裾を翻し駆けだした。
開け放たれたままの大扉を抜け、冷え切った廊下を奥まで走ると、屋敷当主の研究室に突き当たる。
中から漏れる機械の音、普段は乱れたりすることのない呼吸を整えてから、ソニックはノックをし、返事を待たずに中へ入った。
目当ての人物は、大きな製図机の前で眉を動かしながらソニックを迎える。
「なんじゃー? 相変わらずせっかちじゃのう」
「ロボトニック伯爵! ブレイズを呼ぶなんて、どういうつもりだ!」
「勝手に来たんじゃ。ついでにマリアのことを教えてやったわい。それよりのぉ、ソニック」
黒い眼鏡を弄りながら、伯爵は青いハリネズミのメイドを見据える。
互いのハラは知りつくしてる。
時期は熟しかけている、ということか。
「アヤツの復活させようとしておる…そうじゃ、イブリースとかいうのはどこに封じられておるのか、お前、知っとるじゃろう?」
「はぁ? その前にエメラルドだろ? おっさんと前皇后が隠したってのは知ってんだぜ?」
二人、意地悪い笑みを交わしあう。
押し寄せてくる寂しい思いを、伯爵を睨むことで堪えていると、意外なことに伯爵の大きな手がソニックの頭のトゲをすう、と撫でた。
この後振りかかるであろう火の粉を払うように。
伯爵がしたためた一通の手紙をポケットに突っ込み、ソニックは別棟を出る。
屋敷の本館へは戻りたくなかった。逃げだす場所が思い当たればそこへ向かうのに、今のソニックにはこの屋敷の敷地内にしかいられる場所がない。
ぶらぶらと今は枯れ葉ばかりの花園の縁を歩き、崩れかけの石垣の前で座り込む。サボっていると叱られても構わない。
今日はこのまま誰にも見つかりたくは無かった。
「こんなところにいたのか」
なのに、何故見つかるのだろう。頬が自嘲に歪む。
俯いたまま気配を探り、最悪を悟る。
「客人がキミに会いたがって…」
「…ソニック!? 本当にソニックなのか!」
歓喜に震える皇女様の声に、ソニックも泣きそうになる。
会いたかったが、二度と会いたくは無かった。
喜ばないでほしい、叱りつけてほしい。
駆け寄った皇女様がソニックに触れ、そっと、優しく抱きしめる。
その胸に顔を埋め、ぽつり、約束を告げた。
わかった、と応えて皇女様はぬくもりを惜しむようにソニックから離れた。シャドウに目配せてから屋敷へ戻ってゆく。
冬近い空からの冷たく乾いた空気が、残る二人をしん、と凍らせる。
シャドウはソニックの過去に踏み込む。それで何かが変わることなどない、そう信じているから。
「ソニック、キミは…皇族の姫だったのか」
「なあ、シャドウ。最初にセックスしたときに、オレが慣れてるような気がしただろ?」
「何を言って…」
「初めてだったのはシャドウだけど、でも、ああすればいいことは知ってた」
「…皇弟と結婚することになっていたからか? そして皇弟がキミを奪う前に死んだ、・・・そういうことか」
「なんでも知ってるんだな、シャドウは。でも、それだけじゃない」
くくっと笑って、ソニックは棒立ちになっているシャドウに捕まるように抱きついた。
楽しそうに、寂しい気持ちを隠して笑う。
「オレが、ブレイズの処女を奪ったからさ。あの人は姉で、恋人だった」
驚きに目を見開いたシャドウの頬に唇を押し当てて、ソニックは屋敷へ、皇女様の元へ逃げる。
その風を捕まえることができず、シャドウは立ち尽くしてしまった。
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ええー!ですか?w
いやもう、だいたい解ってた人、挙手!ノノノ
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